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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


2年C組へようこそ!【新作お茶発表会とお茶会】


 学園祭も残すところあと二日となった16日の木曜日。
この日は主に「格闘祭」と称され、学園内の各所にて格闘技大会が行われていた。
しかし、かといって全てのイベントがそうであるわけではない。
ここ、2年C組では…冠城・琉人主催による、『新作お茶発表会&お茶会』が開催されていた。
「高校生なのにお茶とは渋い」となかなかどうして大盛況…だったのだが、
なにやら微妙にその方向が傾いている様子で………



「やあ、今日は皆でお茶を持ち寄って試飲会と言う事らしいね?」
「来てくれましたか西王寺先輩っ!ささっ、どうぞこちらへ!」
「さすが”お茶の死者”…いや、”お茶の使者”の冠城君…一味違ったお茶会に…ささやかながら、乾杯」
 一番乗りの西王寺・莱眞は、古伊万里の超最高級品湯のみを持参して、高く掲げて微笑みかける。
そして案内された即席座敷…には座らず、いつの間にか用意していた和風の椅子に腰を下ろした。
「失礼します…こちらお茶会の会場と伺いましたが…」
「はっ!茶道部のCASLL先輩…どうぞようこそいらっしゃいました!」
「お茶好きの冠城君だけに、企画するような気がしていましたよ」
 和服姿で現れたCASLL・TOは茶道部の部室からお茶の道具を一式持参しており、
それを即席和室に手際よく並べると、きっちりとその場に正座して琉人に顔を向ける。
「お茶会とはここだな?…失礼する…」
「おや、雪森さん…こちらですよ」
 しかし、続いて戸口に現れた人物に気付き、そちらに視線を向けて微笑み手招きしつつ声をかける。
CASLLのクラスメイトである雪森・スイである。
見た目は男子生徒用の服装をしているのだが、実はれっきとした女性なのだ。
ただ、後輩のほとんどからは男子生徒と思われているらしいが…。
「誘いを受けて伺った…こういう席ははじめてなのだが…よろしく」
「いえっ!こちらこそ宜しくお願いします!広がるお茶の輪って感じで大歓迎です!」
 琉人はスイをCASLLの隣に案内して、わたわたとお茶の準備にかかる。
しかしどこかそわそわしている雰囲気がしないでもなく。
「冠城君?ちょっと落ち着いたらどうかな?」
「えっ?いえ、私はぜんぜん、落ち着いてますよ?」
「ならば問うが、それはお茶の葉ではなく青海苔ではないのか?」
「…はっ!?これはお好み焼き屋台用の素材ッ!いつの間に!」
 慌ててお茶の袋…もとい、青海苔の袋を閉じてビニール袋に詰め込む。
あはははっとその場を誤魔化すような笑いを向けて頭をかいていた琉人だったが…
「あの…こんにちわ…お茶会に参加させていただきたいんですが…」
「!!」
 少し遠慮がちにドアから覗き込んだ人物を見つけると、とたんにシャキッと背筋が伸びる。
「と、冬華さん!よくぞいらして下さいました…ど、どうぞこちらへ」
「冠城さん、今日はお誘いどうもありがとうございました」
 ぺこりとお辞儀をして微笑んだのは氷女社・冬華。
他の参加者達にも丁寧に頭を下げると、空いている座席、スイの隣へ腰を下ろした。
すかさずさらにその隣へと滑り込む琉人。
何故なら冬華の反対側の隣には、椅子に腰掛けた莱眞がにこやかに微笑んでいたからだ。
「さ、さて!そろそろ時間も来ましたし…始めさせていただきます」
「宜しくお願いします」
 一応、お茶会の礼儀として丁寧に挨拶を交わしはするが、
そう堅苦しいものではないのが今回のお茶会である。
あくまで気軽に楽しいティータイム、と言うイベントなのだ。
「では僭越ながら私が抹茶をたてさせていただきましょう…あくまで気楽なお茶会ですので、
皆さんは雑談してくださっていて構いませんから…」
「CASLL、そんな事ができるんだな…」
「茶道部ですから…雪森さんもやってみますか?」
「いや、見ているだけで私はいい」
「やあ!そこのクール・ビューティ…良ければこの俺が手取り足取り教えてあげるよ?」
「――む…お前は確か…」
「西王寺莱眞です」
 莱眞は身を乗り出してスイの手を取ると、そっと口付けるフリをして挨拶をする。
実のところ、スイの事を男子生徒だと思っていた冬華は顔を真っ赤にして両手で頬を覆った。
「お前の事はよく知っている…女子達の間でも有名だからな」
「光栄ですね…おぼえてくれているなんて」
 CASLLがにこにこと楽しそうにお茶を点てている横で、莱眞のいつもの行動が開始される。
スイもスイでそういう事に対する経験と言うか、そもそも”女性扱い”を受ける事があまり無いせいで、
素直に莱眞の話に乗っかってしまっているのだが…。
「か、冠城さん…私、どうしたらいいでしょうか…」
「冬華さん?!どうかしましたか?」
 いつの間にか自分の制服の袖を掴んで、背中に隠れるようにしている冬華に気付き、
琉人はドッキリしつつも慌てて声をかける。
すると頬を赤く染めたままで、そっと上目遣いに琉人を見上げ…
「西王寺先輩にそんな趣味があったなんて…知らなかったものですから…」
「……はい?」
「お二人にどういう態度で接したら良いのかしら…ああ、でも恋に性別なんて関係ないですよね…
で、でも…西王寺先輩と言えば女性が好きで有名でしたのに…どうしましょう…」
「……と、冬華さん…もしや何か勘違いを…」
「―――できましたよ」
 二組がそんなやり取りをしているうちにCASLLは手際よくお茶を点て終わり、
それぞれの前に静かにお茶をまわす。
白みがかった緑の水面に、まるで何かが舞っているかのように小さな気泡がぶつかり、消える。
漂ってくる香りとその雰囲気に、それまでの会話は自然に止まり、それぞれが目の前に置かれた陶器を手に取った。
「さあ、どうぞおあがり下さい」
「それではいただきます…CASLL先輩の御点前は素晴らしいんですよ」
「これは初めて飲む…」
「抹茶と言って少し苦味があるけれど美味しいから、ね」
 静かにゆっくりと抹茶の味を楽しむ。
少し苦味がある中にもまろやかな味で、滑らかな舌触りがそのまま喉を通っていく。
まるでここが高級旅館の和室の高級畳の上であるかのような錯覚すら覚えるほどの味わいだった。
「あまり味がしないのだな」
 ふと呟いたのはスイ。
味がしないという事は無いはずなのだけれど、と顔を見合わせ合うほかの面々。
この時に抱いた疑問は、この後展開される”新作お茶発表会”で解決される事となるのだった。



「では…僭越ながら、私、冠城が進行をさせていただきます」
「元々キミが主催なんだから当然じゃないか…頼んだよ、お茶の使者さん」
「そ、それもそうですね…さあ、それじゃあまずは…」
「やはりトリは冠城さんにやっていただくとして、右手から順に行きましょうか」
 琉人の右手から順と言うと、莱眞、CASLL、スイ、冬華、琉人の順になる。
それならば、と莱眞は持参したバックからごそごそと様々な品を取り出して目の前のテーブルに乗せていく。
「俺の特性ブレンドは…全て美しさの為に…」
 誰の美しさ?とツッコミたいのをぐっと抑えて琉人が見たテーブル上のラインナップ。
オリーブ、大豆、鉈豆、ローズヒップ、ゴマ、アガリクス、ゴーヤ、ウコン、サメの生肝油…etc、etc…
「さ、西王寺先輩…こ…これは?」
「素晴らしいだろう?全て健康に良いと言われる食品だよ…先日、テレビで観たんだ」
 莱眞はテキパキとそれらをブレンドしたお茶を、琉人達の目の前で手際よく煎れていく。
普段は紅茶を入れるのが趣味だったりして、その辺の手際は良いのだが…
「さあ…そして最後に必要なのはやっぱり…コレだ…」
 別の場所からどこからとも無く取り出したのは一輪の赤い薔薇。
普段は綺麗なその薔薇も、今のこの周辺の食品を見ると毒々しいとさえ思える怪しさをかもし出している。
そんな不安もなんのその。莱眞は満足そうな笑みを浮かべ、ティーポットを手にすると…
「さあ…この例えるものの無い素敵な香りと色のスペシャルブレンド…美と健康莱眞MAXスペシャルティーをどうぞ」
 満面の笑みにキラキラとした輝き、そして薔薇の花をしょって振り返ったのだった。
ちなみに、彼が手にしているお茶、”美と健康莱眞MAX”は「ビューティーヘルシーライマックス」と読む。
香りも色もさることながらそのネーミングもどこかぶっ飛んだ”ソレ”を前に…琉人達は引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
「さあ召し上がれ?熱いといけないから氷も入れておいたよ」
 莱眞は持参したカップに人数分キッチリ注ぎわけると、全員の前に置く。
見た目からしてどす黒く、一見すればコーヒーに見えない事も無いソレはお世辞にもお茶とは思えない。
しかし、莱眞のキラキラとした微笑を観てしまうと…
「わ、わかりました!!ではいただきましょう!」
「冠城さん…?」
「では私もいただきましょう…意外と美味しいかもしれませんし…」
 意外と、と言う部分を思いっきり小声で言うCASLL。
そして琉人と二人、互いに顔色を伺うと…意を決して一気にそれを飲み干した。
「どうだい?なかなか美味だったかな?」
「………え、ええ…お、美味しい…美味しかったです…」
「健康的な…あ、味ですね…」
 言葉にならない思いという言葉がこれほどまでにしっくりくる味は無い。
しかし琉人とCASLL、二人の必死の笑顔を見て、莱眞は満足そうに何度も頷く。
不幸なのは冬華とスイ。その二人の表情があまりにも自然に思えたのらしく、
本当に「美味しいのかも」と感じ、少しではあるが口にしてしまったのだった。
「…こ、この味は…っ…」
「ああ!?冬華さんなんてことをっ!!!」
「か、冠城さん…わ、私…私…」
「私が飲みますっ!私が飲みますからっ!!!」
 すでに幾分か青ざめた顔をしている琉人であるが、冬華からカップを奪うとぐいっと自ら流し込む。
もはや飲むのではなく、流し込むという言葉がしっくり来る勢いだった。
「ゆ、雪森さん…は…?」
「うむ…これはなかなか美味だな」
「は?!」
「私の好みの味をしている。良ければもう一杯いただきたい」
「いくらでも…キミの美しさの為になれば俺もブレンドした甲斐があったというものだよ?」
 スイは莱眞からお変わりをもらうと、しれっとした顔でソレを飲む。
むしろ、本気で満足そうな表情すら浮かべているのが、琉人達には信じられない。
「冠城さん…」
「なんでしょう冬華さん…」
「これって、愛って言うんですよね…例え同性だったとしても…素敵です…」
 冬華は莱眞とスイがそこまで親しい関係だったなんて、と少し感動すらしているらしい。
かなり勘違いしているままなのだが、琉人には訂正する気力は残っていなかった。
「か、冠城君…気を取り直して…あ、いや…次に行ってみようか…次は…って私だね…」
「お願いします…CASLL先輩っ…」
 頼めるのは貴方しかいませんとばかりに視線を向けてくる琉人ではあるが、
その期待はほんの数分後、見事に砕け散る事になる。
「実は今日は新しい試みをしてみようと思ってね」
「新境地というわけですね?」
「そう。お茶とジュースのコラボレーションを」
 CASLLはニコニコと微笑みながら風呂敷からなにやら怪しげなものを取り出した。
「火曜日にいただいたMJと言うものなのですが…」
 彼もまたお茶を入れる手際はとても良い。とても良いのだが…
普通に淹れたお茶に、MJと言う名のジュースを注いでまるでヘドロのような物体が生み出される。
ちなみにこのMJ。「まずい、ジュース」の略らしいのだが、その事は誰も知らない。
「あいにく、量的に一人分しかないみたいですね…冠城君」
「は、はい?!」
「やはりお茶好きのきみに飲んでいただきたいと思うんだけれど」
 CASLLはヘドロとしか思えないお茶を湯のみに注いで琉人へ差し出す。
悪気は無いのだ。莱眞にしてもCASLLにしても、悪気があるわけでは無いのだ。
「………わ、わかりましたっ!主催者です!皆さんのお茶を全て飲ませていただきますっ!」
 琉人は両手で湯飲みを奪うように受け取ると、液体は見ない方向で、臭いも嗅がない方向で、
つまりほとんど息を止めて目をつぶった状態で一気に飲んで行く。
その男らしい姿に、冬華がポッと頬を染めた瞬間は、残念ながら琉人は気付きはしなかったのだが。
「冠城君、味はどうかな?」
「え、ええまあ…舌にねっとりとまとわりつく感触がなんともたまらず、
それでいて苦味とも辛味とも甘味ともつかないこの味が口の中に広がって…」
 丁寧に感想を冷静に述べているように見えるが、実はほぼ意識は無い。
無意識にただ無表情に淡々と告げているだけと言うほどの衝撃を琉人は味わったのだった。
「それは良かった。なかなかのお味と言う事ですね」
「冠城さん…」
「西王寺、CASLLの次は、私だな」
「雪森さん!きっと貴女なら美味しいお茶を持ってきて下さってることでしょう!」
 琉人はこれまた期待に満ちた顔でスイの動きを見つめるのだが…。
「私がこの世界で最も感動した食べ物かこれだ」
 そう言って取り出したのは、誰もがお馴染みの、特にうどんやそばを食す時や、
ちょっとお茶漬けや豚汁にかけると美味しいあの赤い物体…そう、七味唐辛子である。
「普通に食べても美味いものなのだから…お茶に入れても美味いだろう」
 他者からのツッコミを一切寄せ付けない雰囲気で、スイは湯のみにお茶を淹れる。
そしてその上から、これでもかと言うほどの…一瓶使い切る勢いの量の七味をふりかける。
薄緑色だったはずの湯のみが、いつしか真っ赤…茶色へと変色してしまっていた。
 スイは自分用の湯のみを手に取ると、ずずっと静かにすする。
「……うむ、やはり美味い」
 そして、実に満足そうに笑みを浮かべて頷いたのだった。
「雪森さん、それ、美味しいんですか…」
「ああ。やはり七味と言うものは何にでも勝る…素晴らしい味わいだ」
「た、確かに少しピリッとする程度なら美味しいとは思います、が…」
「私の家主が言っていたんだが、この七味にはな…『かぷさいしん』という物質が含まれているのだ」
「はあ…」
「それは『だいえっとこうか』がある素晴らしい物質なのだ…
美味いだけでなく、人の身体にも良いとはまったく素晴らしい食べ物があったものだ」
 果たしてその言葉の意味をわかっているのかどうかは定かではないのだが、
自らの知識を自信ありげに語り、湯飲みに入っていたお茶を一気に飲み干してしまう。
「美味いな…さあ、皆も遠慮せずに飲んでくれ」
「えっ?!いえ、私はその…結構ですから…」
「遠慮する事はない…ちゃんと人数分はあるはずだからな…西王寺、どうだ」
「そうだね…レディからのお誘いを断る事はしない主義だから、ね」
 湯飲みを差し出された莱眞は、スイの手ごと握ってそれを受け取る。
じっと黙って見つめ合う空気はなんとも言えない。
琉人もCASLLもハラハラしながら見守っているし、冬華は違う意味でハラハラしている。
莱眞は静かに受け取った湯飲みを口につけると、飲んだ瞬間、一瞬微妙にひるんだ様子だったが、
しかしその後は表情一つ変えずにゆっくりと静かに、一滴残らず飲む。
「西王寺先輩…凄い…」
 顔色一つ変えずに飲むことも凄いが、飲み終わった後…
相変わらずの薔薇を背負ったまま微笑を崩さずに、スイの手を取り「美味しかったよ」と湯のみを返した事だろう。
そう、莱眞の女性への愛は相手が誰であっても揺ぎ無く完璧なのだ。
たとえ七味唐辛子を丸ごと一本注ぎ込んだお茶を渡されても、相手が男だったらキレているところだが、
それが女性ならにこやかな微笑みで飲んでしまうことなど容易い事なのだ。
 まさか莱眞が飲んだと言うのに、他の男たちが飲まないわけにはいかないだろう。
「さあ、冠城、CASLL…遠慮するな」
「あははは…あははは…い、いただきます…」
「ありがとうございます…雪森さん…」
 なんとか表情を笑顔にして湯飲みを受け取ったものの、
一口飲んだ時点で琉人は顔が爆発し、CASLLは口から魂が抜け出て…
二人の時間がしばし止まったのだった。
「さあ、このクールビューティの美味しいお茶の次は何が出てくるのかな?」
「え、えっと…次は私なんですけど…」
「美しいお嬢さん。キミのその白い肌、あまりにも透き通っていてまるでガラス細工のようだね?
できればこの俺をそこに映してくれると嬉しいな?」
「あ−!ごほっごほっ!それじゃあ冬華さんお願いできますか?」
「はい!」
 すかさず莱眞との間に割り込む琉人に微笑を向けて、冬華は立ち上がる。
冬華が用意したのは、冬華秘伝のスペシャルフレーバーティー。
カモマイルとスペアミント、そしてドライフルーツのブレンドで香りはほんのり甘く、
そして喉越しは爽やかな仕上がりとなっている。
 普段もよくお茶を淹れる事がある上に、時折、琉人に美味しいお茶の淹れ方を教わっているらしく、
これまた手際の良さを生かしてそう時間もかからずに、用意していたティーカップに注ぎ入れた。
室内にこれまでとは180度違った甘くかぐわしい匂いが広がって行く。
「オリジナルブレンドですから…美味しいかどうかはわからないんですけど」
 冬華は少し恥ずかしそうにしながら、それぞれの前にカップを置いていく。
遠慮がちに言うものの、はっきり言って匂いだけでもこれまでと違う事は誰にでもわかる。
ゆらゆらと微風に揺れる湯気まで美味しい、そんな気分だった。
「さあ、どうぞ…」
「い、いただきますっ!!」
「ああ…まるで天国のよう…」
 琉人は心底嬉しそうにしてカップを取り、CASLLは薄っすらと涙すら浮かべつつ飲んでいる。
地獄に仏、砂漠にオアシス、そんな言葉が二人の脳裏に過ぎったかどうかは定かではない。
「このお茶にはリラックスと食欲増進の効果があるんですよ…」
「冬華さん…貴女はお茶の天才です…」
「そんな事無いです…冠城さんの方が色々と詳しいですし!」
「いいえ、貴女はお茶の女神ですよ…」
「CASLL先輩まで!私、ただいつものようにお茶を淹れただけですから」
「……お茶の女神…いい響きだね…まさにキミに相応しい」
「だ、ダメです…西王寺先輩…そんな事を言っちゃ…」
「氷女社、個人的には味が薄すぎると思うのだが?」
「それなら少しお砂糖を足してみると良いかもしれません…って、雪森先輩!それ七味ですよ?!」
 しれっとした顔で砂糖代わりに七味をふりかけるスイ。
この瞬間、皆の中にあった予感は確信に変わった。
スイはとてつもない味オンチなのだ。莱眞の用意したあの莱眞MAX(ライマックス)を飲んだのも、
全て味覚オンチだったから実際「美味しい」と感じていたのだ。しかもどうやら極度の辛党で。
「……冬華さんが居て下さって良かったです…」
「冠城さんってば、大袈裟ですよ…」
「いいえ!本当にありがとうございます…お誘いして良かった…」
「私も、冠城さんに誘ってもらえて嬉しかったです…」
「よ、良かったら…私の事は…琉人って呼んで下さっても構いませんよ…」
「そんな…やっぱり、それはその…でも…えっと…私…」
「さあ、次はキミの晩だよ冠城君!」
 今度はいい雰囲気だった琉人と冬華の間に莱眞が手にしていた扇子を開いてそれを阻止する。
はっと我に返った琉人は、恥ずかしそうに頭をかきながら立ち上がり。
「で、では…最後になりました…私、お茶の使者による新茶を発表させていただきます!」
 琉人はそう言うと、少し陰になった部分に用意しておいたお茶道具を引き出し、そこで新茶を淹れ始める。
お茶好きの、お茶の使者の異名を取る琉人が作るお茶なのだ。
これも冬華に続き、失敗は有り得ないだろうと期待は高まっていく。
 皆が黙って見つめる中、琉人が自信満々にお盆に乗せ、皆の前に差し出してきたのは…
「これが私の自信作!!緑茶∞(インフィニティ)ですっ!!」
 和風な湯のみの中で、七色に輝く怪しげな液体だった。
黒っぽかったり、ヘドロだったり真っ赤だったりと言うのはなんとなく想像もできよう。
しかしこの「七色」は、全くと言っていいほど味の想像も飲んだ後の展開も予想はつかなかった。
虹が湖に映っている…などという可愛げのある状況ではない。
文字通り、お茶自体が七色に妖しく発光しているのだ。
「………こ、これは…」
「冠城君…一体何のつもりで…」
「美味しいですよ。そして身体にもとっても良いんです」
 ニコニコと笑っている琉人の表情はどうやら本気で、冗談やギャグ、オチでは無さそうだった。
むしろ紙吹雪でもばら撒きながら太鼓を叩き、「オチで〜す!」と言ってくれたらどんなに良かったか。
「あの…冠城さん…これのレシピ…は…?」
「はい!自信があります!まず、緑茶ですね、それから(ピー)と(ピーーー)が少々」
 胸を張って答えた琉人の発言には、検疫にひっかかりそうなモノと自主規制が必要な単語が入る。
その時点でその場にいる全員の脳裏から「飲み物」であるという事実は消え去ったのだった。
「さすがにこれは…私も嫌だぞ…冠城」
 あのスイでさえ、見た目だけで拒絶反応を起こすほどのシロモノだ。
「残念だけど冠城君、私はちょっと用を思い出したから先に失礼させてもらうよ?」
「CASLL先輩!でしたらお土産にこの緑茶∞を…」
「いや!もう今日はたくさんいただいたから充分だよ…」
 CASLLはじわりじわりと後退しつつ、自分の荷物を手早くまとめる。
そして琉人が差し出す「緑茶」を丁寧に断り…。
「それじゃあ今日は本当に楽しかったよ…また良ければ茶道部に遊びに来てくれ」
 シュタッと片手を挙げて挨拶すると、逃げるように教室を出て行ったのだった。
「残念ですねえ…って、あれ?西王寺先輩?」
「えっと…雪森先輩を連れて出て行っちゃいました…」
「い、いつの間に!!せめてお土産を―――!!」
「あのお二人…もしかして付き合ってるのかしら…莱眞さんの女性好きはカモフラージュ…?」
 冬華は相変わらず勘違いしたままのようだが、もうそれを訂正する人は居ない。
何故なら琉人はお茶の葉を手にして二人を追いかけて行ってしまったからだ。
誰も居なくなった教室で、冬華は目の前にある「緑茶∞」をそっと覗き込む。
 琉人が作ったお茶なのだ。もしかしたら見た目に反して美味しいのかもしれない。
しかし、相手は七色の虹茶である。光っているのである。
緑茶と言うものの、青だったり紫だったりするのである。
 勇気を出して、湯飲みを両手で持ち…口の手前まで冬華はそれを運んでみるものの―――
「………ごめんなさい冠城さんっ…私…やっぱり無理ですっ…」
「ええ?!」
 思わず駆け出して教室を飛び出した冬華と入れ違いに琉人が戻ってくる。
その手にはお茶の葉が残っているのを見る限り、どうやら莱眞たちには逃げられたらしい。
「うーん…美味しいんですけどねえ…?」
 琉人はぽりぽりと後頭部を掻くと、残っていた緑茶∞をぐいっと飲み干した。
こうして、冠城琉人主催の新茶発表会とお茶会は無事…?に幕を閉じたのだった。



数時間後―――

「救護班!救護班、2年C組へ急げ!保健室の用意は出来てるか!?」
 バタバタと生徒会の救護班が廊下を駆け抜けていく。
「何かあったのかしら?」
「2年C組か。私たちがさっきまで居た場所だな」
「冠城君、もしや何かしたのか…」
「レディ達はここに残って。俺が見てこよう」
「いいえ、行きます」
 他のイベントを覗き終わり、廊下で屯っていた莱眞達4人は、突然の騒動に慌てて教室へ向かう。
4人が到着すると、タンカに乗せられて運ばれて行く琉人の姿が見えた。
「なにがあったんですか?!」
「いやあ…冠城クンだっけ?教室で痙攣して倒れてたんだって」
「えっ…」
「毒物でも飲んだんじゃないかって話なんだけどねえ…」
 苦笑いしながら話す生徒会員の話を聞いて、全員の顔が一気に青くなる。
飲まなくて良かった、と心底ほっとしている4人の目の前を運ばれていく琉人は…
通り過ぎざま、震える手を伸ばし呟いたのだった。

「お…お茶の道は一日にして成らず…」





〜〜〜完〜〜〜



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■        登場人物                  ■
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2年A組
【2053/氷女杜・冬華(ひめもり・とうか)/女性】
2年C組
【2209/冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)/男性】
3年A組
【2441/西王寺・莱眞(さいおうじ・らいま)/男性】
3年C組
【3304/雪森・スイ(ゆきもり・すい)/女性】
【3453/CASLL・TO(キャスル・テイオウ)/男性】

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■            ライター通信            ■
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 こんにちわ。この度はパーティノベル参加、ありがとうございました!
学園祭のお茶会イベントと言う事で、色々と楽しく書かせていただきました。
何より、皆さんのお茶のレシピと申しますか…一筋縄ではいかないお茶に、
プレイングを拝見して笑わせていただきながら書かせていただきました。
皆さんに楽しんでいただけると幸いです。
 学園でのやり取りを書いているとまるで自分も参加したような気分になって、
氷女社様のお茶を飲んでみたいな〜と思いつつ、
でも西王寺様や冠城様のは絶対に嫌だ、と思いつつ、
個人的に雪森様の唐辛子ならチャレンジできるかもと無謀な事も思いつつ、
CASLL様のMJってどんな味だ?!と想像しつつ…
本当に楽しませていただきました。
 もうちょっとお茶爆弾炸裂の勢いで書こうかなとも思っていたのですが、
さすがにそこまでやると学園祭の域を逸脱してしまいそうになったので(笑)
冠城さんのお茶のレシピの如く、自主規制させていただきました。
 また機会がありましたらお声をかけて下さると嬉しいです。
この度は誠にありがとうございました。

:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>