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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


アクセサリーはキューピット?

今日は学園祭四日目。
格闘祭で賑わう構内で、唯一静かな空間があった。

それは―――校舎の屋上。

そこでひっそりと開かれていたのは、橘・瑞生が店主を務めるアクセサリーショップ。
露店風になっているそれは、普通の屋台よりもどことなく気軽な感じを醸し出している。

そんな屋上に―――二人の男女がやってきた。

――ガチャリ。ギギィ…。

年季が入っているドアを開くと、少し錆びている蝶番が五月蝿く軋む音を立てる。
しかし一歩外に出れば、暖かい日の光と気持ちのいい風が二人を歓迎してくれた。

「…んーっ…気持ちいー…」
風に流されるがままに長い髪を靡かせながら、手荷物片手に気持ち良さそうにぐーっと伸びをしたのは、初瀬・日和。
「確かに。此処にはあんまり下の騒ぎは届かないんだな」
まるで結構離れたところで起こっているかのように聞こえてくる喧騒。
それを聞きながら、羽角・悠宇はどこか感心したように呟いた。

「屋上は連日の大騒ぎから離れて静かだし、青空や風も気持ちいいし…此処でならちょっと一休みできそう。
 店主は従姉の瑞生姉さんだから気楽だし…」

ふわりと頬を撫でる風に嬉しそうに目を細める日和を見て、悠宇もくすっと小さく笑う。
「お前ちょっと人に酔ってたもんな」
「…それは言わないでよ…」
恥ずかしいのかむっとする日和に悪い悪いと苦笑気味に謝りつつ、悠宇は店の方を見る。

瑞生のやっているアクセサリーショップは、大繁盛とまではいかないものの、決して人が少ないわけではないようだ。
今も昼食の時間にも関わらず、4人組の女生徒がきゃあきゃあと姦しく騒ぎながら、アクセサリーを買っているところだった。

「有難うございました」

アクセサリーの入った袋を大事に抱える女生徒にかかる瑞生の声。
その女生徒4人組とすれ違いながら、日和と悠宇は商品を整理し直し始めた瑞生の元へと歩き出す。
ほとんど目の前までたどり着いたのだが、整理に夢中なせいか瑞生は二人に全く気づかない。

「――――瑞生姉さん?」

日和が控えめに声をかけると、瑞生はぴくりと反応して顔を上げた。

――――――見事な接客用の笑顔を浮かべて。

「こんな所までようこそ、いらっしゃい。
 キミ達のお眼鏡にかなうような品はあるかな?」

にっこり笑顔で接客のマニュアルにありそうな台詞を言う瑞生に思わずぽかんとする二人。
すると、ようやく気づいたらしい瑞生が、苦笑を浮かべた。

「…って、ひよちゃん達か」
「『ひよちゃん達か』って…もしかしなくても瑞生さん、声かけたの日和だって気づかなかったのか?」
「気づいてたらあんな接客用のスマイルなんて振りまかないわよ」
呆れたように言う悠宇に、瑞生がひょうひょうと返す。
そんな二人を見て、日和が苦笑気味に口を挟んだ。
「まぁ、瑞生姉さんもお仕事に集中してたんだし、仕方ないよ」
「そーゆーこと」
さっすがひよちゃんはよくわかってる、と笑う瑞生に悠宇は苦笑し、日和は小さく噴出した。
そこで日和は手に持っていた袋の存在を思い出し、持ち上げると瑞生に差し出す。

「これは?」
「これ、差し入れなの」
「『店番で身動き取れない筈だから』って日和が言うからさ」
俺達からのおごり、と悠宇が笑うと、瑞生は嬉しそうに笑って袋を受け取った。

「そうなの?ありがとう♪」
「中身はクレープと焼きそばパン、それとミネラルウォーターだけど、大丈夫だよね?」
「えぇ、全然オッケーよv
 来店してくれた上に差し入れまでしてくれるなんて、ホント嬉しいわv」
すっかりゴキゲンな瑞生に苦笑した二人だったが、並んでいる商品に目を惹かれて揃ってしゃがみ込む。

幾つか数は減っているとは言え、その品揃えは豊富。
シルバーにビーズ、木製の髪飾りなど、その種類は多岐に渡り。
知識がない物が見ても一目で手がかかっていると分かるほどのきれいなそれ。
品揃えもよく、商品自体の品質もとてもよかった。

興味津々な二人の様子に楽しそうな笑みを浮かべ、瑞生は二人に声をかけた。

「お礼にうんと勉強させてもらうから、なんでも好きなの選んでいいわよ?」
「「え?」」
「ほらほら、キミ達が気に入るのはどんなアクセサリーかな?」
ふふふ、と楽しげに笑う瑞生に、二人は慌てて首を振る。
「そ、そんな、悪いですよ!」
「そうだよ、ただで貰っちゃうなんて…!」
「いいのいいの。
 年上の好意は素直に受け取っておくものよ?」
ね、と軽くウィンクして微笑む瑞生に、二人は困ったように顔を見合わせる。
しかしこのまま断り続けるのも失礼だと思ったのか、二人とも申し訳なさそうに肩を竦めつつも、おずおずと「それじゃあ…お言葉に甘えて…」と声を揃えた。
それに満足そうな笑みを浮かべた瑞生は、「そうと決まれば早速見なさい」と二人を促す。
こくりと頷く二人を見てから、瑞生は食べかすを落とさないようにと少し下がってから、昼食代わりの差し入れを食べ始める。
それを見た日和と悠宇は苦笑を浮かべるが、大人しく並べられた商品に目を向けた。

並んだ商品をまじまじと興味深げに眺めつつ、悠宇がぽつりと口を開く。

「屋上に露店って何か怪しげだと思ってたんだけど、結構品揃えいいなぁ。細工も綺麗だし」
「『怪しげ』って言うのはちょっと余計だけどね」
「あ、ごめん」
瑞生の言葉に小さく肩を竦めると、悠宇は再度アクセサリーに視線を落とす。

今現在彼の目が最も引き寄せられているのは―――シルバーアクセサリー。

様々な輝きを持った石が1つ1つにはめられているそれは酷く悠宇の興味を煽ったらしく、彼はその中のひとつを手にとってはまじまじと眺め、置いてから別のものを手にとって眺める、と言うのを繰り返している。
その顔は、とても楽しそうで。

「シルバーに石をはめ込んだインディアンっぽいのなんか好きなんだよなー。
 自分でも挑戦してるんだけど、これが結構難しくて」

苦笑交じりの呟きに、日和は横目で見ながらくすりと笑う。


―――悠宇、シルバー好きだって言ってたし、やっぱり嬉しそう。


まるで子供のように喜ぶ悠宇を見ていると、連れてきた甲斐があるというものだ。
今彼が手に持っているシルバーにトルコ石をあしらったネックレスなんて、特に悠宇に似合っていると日和は思う。
シンプルながらもどこか力強さを感じるそれは、日和にとっても好ましい物だった。

そしてそれを見ていると、日和の中で1つの願望がむくむくと首をもたげてくる。
少し迷ったものの、やっぱり諦めることはできなくて。

悠宇にばれないように注意しながら、焼きそばパンを食べている瑞生の服の袖を軽く引っ張った。
それに気づいた瑞生が不思議そうな顔で日和を見、『どうしたの』と声を上げかけたが、日和にしーっ、と合図されて口を噤む。
日和はちらちらと悠宇を見ながら瑞生に耳を寄せて貰い、最後にもう一度だけ悠宇が此方に気づいていないことを確認してから、小さな声で囁いた。

「…その、悠宇とお揃いになるようなモチーフのアクセサリー…こっそり包んでもらっても、いい…?」

「……え?」
その言葉に一瞬きょとんとする瑞生だったが、顔を真っ赤にして俯く日和に、思わす口をほころばせる。
それをどうとったのか、日和はかなり声を抑えつつも必死に口を開く。

「そ、そのっ…露骨すぎないお揃いって、憧れだから…っ」

―――憧れ。
それは誰でも持っているものであり、決して可笑しいものでも悪い物でもない。
その憧れは人それぞれその時々それぞれであり、今の日和の憧れが、それなのだ。

しどろもどろながらも一生懸命は為す日和にくすりと笑った瑞生は、楽しそうに口を開く。

「大丈夫。ひよちゃんにはこっそり悠宇クンのと同じモチーフのアクセサリを包んであげるわね?」

そう言ってウィンクすると、日和は嬉しそうに顔を緩ませ、こくこくと頷いた。
「ほら、悠宇クンが決めるまで、他の物でも見てたら?」
「あ、うん…」
瑞生の促しにこくりと頷くと日和は並んだ商品に視線を戻し、こっそりと悠宇の様子を横目で伺ってみる。

――――シルバーアクセサリに集中していて、全く気づいていないようだ。

安心したような…でも、なんだか残念なような不思議な気持ち。
そんな複雑な心境を抱きながらも、日和はビーズアクセに目を向けるのだった。

**

「(――よし、これにしよう)」

悠宇が心の中でそう呟きながら選んだのは、先ほど日和が悠宇に似合うだろうと考えていたシルバー製のネックレスだった。
鳥の片翼をモチーフにしているらしく、その細工は非常に細かくて精密だ。
シルバー独特の輝きや翼の根元の方で、翼のモチーフより一回り小さく、角が丸い三角形の形に切り取ったトルコ石がはめこまれた変わったアクセサリー。
きっと真っ白で光沢がほとんどなければ、本物と間違えてしまいそうなくらい程に精巧だ。

これを買おうとしっかりと心に決めた悠宇は―――今度は、こっそりと隣に視線を向けた。

その先には、先ほどの会話で安心したのかどのアクセサリーを買おうかと眺めている、日和の姿。
日和の視線の先には、ビーズの指輪。
どこか羨ましそうな色を含んでいるのには気づかなかったが、悠宇はそれを見てふーん、と声を上げた。
ふと前に顔を向けると―――なんだか楽しそうにこちらを見ている、瑞生の姿。
自分と目が合うとおや、とでも言いたげな表情を浮かべた瑞生に少々首を傾げるが、悠宇は日和がこちらに気づかないうちにと瑞生に小声で声をかける。

「…あのさ、瑞生さん」
「なぁに?」
悠宇の雰囲気を察してくれたのか小声で返す瑞生に感謝しつつ、悠宇はおずおずと問いかけた。

「……日和の指のサイズって、もしかして知らない?」

「――え?ひよちゃんの指のサイズ?」
悠宇の唐突な質問に間抜けな声を返す瑞生に、悠宇は慌てて小声で言い訳を口にする。

「いやさ、なんとなく興味があって…」
「…興味、ねぇ…」
「……な、なんだよ…別になんにも企んでないぞ?」
「ふーん…」
にやにやと楽しそうに笑う瑞生を悠宇が恨めしげに睨み付けると、怖い怖い、と笑った瑞生が、楽しそうに口を開いた。
「悠宇クン」
「な、なんだよ」
瑞生の声に不審げに眉を寄せた悠宇だったが、瑞生の笑顔に大人しく続きを待つ。
すると瑞生はそっと人差し指を持ち上げ、口元に添えて微笑んだ。

「そんな大事なことは人に頼らず、自力で確認しなさい?」

―――それが出来ないから聞いてるのに。
悠宇は心の中でそうツッコミを入れたが、瑞生がそれを聞いているはずもなく。
どうやら手伝ってくれる気はないらしい彼女の様子にはぁ、と溜息を吐いた悠宇は、日和を見た。

―――――すると。
       天からの恵みか運命の女神が微笑んだのか。

日和が、試しにとビーズの指輪を指にはめてみているところだったのだ。
悠宇ははっとして日和を見るが、日和は気づいていないらしく『サイズは丁度いいけど…』と呟きながらそっと下に置く。

この機会を逃す手はない。
そのビーズの指輪のサイズを大体他のと対比しながら確認していくと、悠宇は日和の大体の指のサイズをカンで割り出し、ふぅっと一息吐いた。
これなら日和本人に聞かなくても大丈夫そうだ。
一安心とばかりに顔を上げると、瑞生がなにやら楽しげににやにやとこちらを見て笑っているところだった。

―――一瞬にして顔に血が上る。

顔を真っ赤にした悠宇は慌てて日和に気づかれないうちにビーズの指輪を手に取り、その上に先ほど買おうと決めたアクセサリーのネックレスを大急ぎで乗せる。
それを大急ぎでばっと瑞生に差し出して、

「これ下さいっ!!!」

と恥ずかしさを誤魔化すように声を張り上げる。
驚いて此方を見る日和の視線から顔を逸らすが、今度は必死に笑いを堪えている瑞生が目に入った。

「そ、そんな笑わなくたっていいじゃないか…」

なんだか情けない気分になりつつ声を絞り出すと、我慢できないとばかりに瑞生が大声で笑い出す。
一体何があったのかと首を傾げる日和になんでもないと言ってから、とにかく別々に包んでくれと瑞生に目線で頼むのだった。

…シルバーアクセの下にあるビーズの指輪に気づかれなかったのは、不幸中の幸いかもしれない。
更にありがたいことに、二つの袋に分けて受け取るという作業の間中、日和は何にしようかな…とビーズのアクセサリを見ていたので、袋が二つあることに気づかれずに済んだのだった。


***


結局日和は色鮮やかなビーズのブレスレットを貰うことにした。
そして、こっそり悠宇と同じモチーフ…いや、正確には『対になっている』ペンダントも包んでもらった。
悠宇のとは逆向きの片翼で、宝石は淡い碧色の綺麗な石がはめこまれているものだ。
包んでもらうときは悠宇が何故か挙動不審気味だったので、気づかれずに済んだのがありがたかった。

「それじゃあ瑞生姉さん、有難うね」
「えぇ、じゃあね」
「あんまり無理しすぎないようにな?」
「肝に銘じておくわ」

挨拶をして歩き出す二人を微笑みながら手を振って見送る瑞生。
二人の背中が小さくなっていくのを見送りながら、瑞生はぽつりと呟いた。


「――――あの二人、なんだか見てるこっちが恥ずかしいわよねぇ…」


まぁ、面白いからいいけど、と笑う瑞生の声は、幸か不幸か、二人には届いていなかった。
…と言うか、聞こえない方がよかったかもしれないけど。

**

屋上のドアに向かって二人は黙々と歩いていく。
悠宇が前を歩き、日和が後ろをついていくという構図だ。

…が。何故か、無性に気まずい。

悠宇はどう切り出そうが困っているし、日和もどう話題を振っていいかわからない。
どうしようと日和が頭の中でぐるぐる考えていると、不意に悠宇が立ち止まる。

「―――日和」

「…え?」
どうしたのだろうとつられて立ち止まった日和の名を呼ぶ悠宇に疑問を返す。

――――と。


「――――――これ、やる」


ぽいっ、と、急に何かが投げられたのだ。
「え?きゃっ、あわっ」
飛んでくる飛来物を慌ててキャッチすると、それはかさりと音を立てた。
驚いて手の中にある元飛来物を見ると、それは瑞生のジュエリーショップで使っていた包みで。

「これ…?」
「サイズきっちり合ってるかどうかわかんないけどな…」

何時の間に背を向けたのか、こちらに背中を見せたまま呟く悠宇。
首をかしげながらかさかさと包みを開き――――目を見開いた。


それは――――ビーズの指輪。


全体的に淡い青色のビーズを使ってあり、所々にワンポイントらしくオレンジ色のビーズがあしらわれていた。
青にオレンジがよく映えて、まるで青空に浮かぶ太陽のようだ。

そっと指に嵌めてみると―――サイズもほぼピッタリ。
手を軽く振ってみても、落ちる様子はない。


「…いらなかったら、捨ててもいいからな」


ぶっきらぼうに悠宇がそういうが、若干耳が赤い。
それを見てくすりと笑った日和は、嬉しそうに目を細めてビーズの指輪を嵌めた手を口元に引き寄せた。


「――――ううん、大事にするから」


「……そうか」
そう言うと同時に、二人はゆっくり歩き出す。
…が、二人揃って顔が真っ赤。

――――この顔の熱が引くまで、暫くかかりそうだ。

そんな二人の顔の熱が引いたのは、それから十数分経った頃だったらしい。


――――――数日後。


日和の首元に光る自分のものとよく似たシルバーアクセサリーを見て首を傾げる悠宇と、嬉しそうに微笑みながら指に嵌めたビーズの指輪を触る日和。
そして、そんな二人を見て楽しそうに口元を緩める瑞生の姿が見かけられたとか。


終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●

【3524/初瀬・日和/女/2−B】
【3525/羽角・悠宇/男/2−A】
【3593/橘・瑞生/女/ヒミツ】

○○ライター通信○○
大変お待たせいたしまして申し訳御座いません(汗)
なにはともあれ、ご発注、どうも有難う御座いました。

ほのぼのとひっそりギャグを目指して書いてみましたが…ほのぼの、してます?(をい)
アクセサリーのデザインなど勝手に決めてしまいましたが、如何でしたでしょうか?
初々しい二人にそれを見守りつつ時々手を貸す瑞生様、というイメージで書かせていただきました。
瑞生様の口調があってるかどうかちょっと心配ですが…大丈夫でしょうか?(汗)
相手にばれないようにこっそり瑞生様に相談するお二人は書いてて楽しかったです。
そして渡すシーンも、勝手に妄想してしまいましたが…如何でしたでしょう?
悠宇様は照れるとなんとなくぶっきらぼうになるイメージがありますので…個人的趣味ですみません(爆)

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。