コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


あめ・アメ・飴?

「おー、やってる。やってるのじゃ」
 学園祭真っ只中の幻影学園の校庭は、さながら祭りの縁日のように人と、活気で溢れている。
 その中を本郷・源は手に持った串刺しおでんをパクつきながら嬉しそうに歩いていた。
 祭りとなると、心が浮き立つ。気持ちがワクワクする。
 これは、きっと日本人のDNAに深く刻み込まれているのだ、
 などと源は考えない。
 難しいことなど一切抜き!
 ただ、お祭りの賑やかさを思いっきり楽しむ、それが彼女である。
「むぐうぐ‥(ごくん)ふむ、まあまあじゃな、だが味が濃いわりに煮付け方が足りん」
 おでんを飲み込むと彼女はふう、と息をつく。    
 こういうおでんは祭りや縁日で食べるには悪くない。 
 だが、専門家の彼女に言わせればまだまだである。  
 それは、彼女にとっては、実はちょっと嬉しかった。 
「やっぱりおでんは、わしが一番じゃ♪」
 なかなかのご機嫌気分で彼女は歩いていく。思いっきり楽しまなければ‥祭りはこれからなのだから。

 校庭の出店をひやかしながら歩くうち、ふと源の足がある店で止まった。
 優しく、甘く、食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐるのだ。
「ほお? うまそうじゃのお」
 姫リンゴ、リンゴ、ミカン、ブドウ、イチゴ、バナナ、モモ、パイナップル、カキ、メロン、スイカ、パパイア、マンゴーはては、アボガド、ドリアンまで。
 その店には新鮮な生フルーツがあれも、これも、それも、どれもと並んでいた。
 季節感はどうした、旬が違うぞ、などと突っ込んではいけない。
 魅惑的なフルーツたちの甘い誘い声の誘惑に耐えられる娘はそう居ない。源は多分に漏れず耐えられない方だった。
 幸い、財布はそれほど軽くは無い。可愛いパンダのがま口をパチンと開く。
「出店に生フルーツとは珍しいのお? どれ、一つ」
「待ってよ」
 手を伸ばしかけた源の手を、隣に居た少女がパシッと弾く。
「何をするのじゃ! 失礼な奴じゃの!」 
「ちゃんと見たほうがいいよ。ここの、ノ・レ・ン」
「えっ? ‥あ」
 源は視線をほんの少し、上に上げてみた。すると解る。少女の言った意味が‥
『何でもござれ フルーツ飴屋』
「ここは、フルーツ飴屋じゃったのか?」
「そっ! あっちのおばちゃんにちゃんと注文してからね」
 指差された先をなるほどと見て見れば、並べられたフルーツの向こう、溶けた砂糖をかき混ぜるおばちゃんの姿。
 フルーツの香り、混じる砂糖の溶ける匂い。
 トントン、フルーツを切る音、ピチ、パチ、飴の爆ぜる匂い。‥じゅるっ ?
「な、何、今の音?」
 少女の声に、源はニカッと笑って口元を拭う。
「こんなステキな店があるなら、ぜひ完全制覇を目指さねば。おばちゃん、りんご飴と、姫りんごとミカン飴おくれなのじゃ!」
「あいよ!」
 手馴れた手つきでフルーツに飴を絡めたおばちゃんは、早速、3つの飴を源に渡した。
「はい、どうぞ!」
「いただきま〜す! ‥ごちそうさまなのじゃ!」 
 その間、僅かに数十秒。スローモーションで見たいほどにあっという間、飴はすべて源の口の中へと滑り込んで溶けた。
「次は‥モモに、ブドウに‥パイナップルに‥」
「ちょ、ちょっと、本当に全部、食べつくす気〜? ずるい、アタシだって食べたいんだから! おばちゃん! バナナ飴と、イチゴ飴と、パパイア飴頂戴」
 小柄で元気な目をした少女は、源に張り合うように注文を出していく。
「わしに張り合っても無駄、無駄・無駄〜なのじゃ♪ 次は、メロンと、マンゴー行って見みよーなのじゃ」
「甘党の女子高生嘗めちゃだめなのよ〜 次はパパイアと、リンゴ、あとマンゴスチンお願いね〜」
 見事な、見事な、そして楽しい二人の食べっぷりに、周囲にはいつの間にかギャラリーまで出来ている。
 二人の間に積み重なる割り箸、割りばし、わりばし‥
「ドリアン飴、とスイカ飴、お先に頂き♪」
 少女はそう言うと、源にウインクする。
 口に入れて‥笑う、まるで勝利宣言のような自信満々の笑みに源は、うぬぬ、と拳を握り締めた。
(「美味しいかはともかく、負けられぬ、負けられぬのじゃあ!」)
 いつの間に勝負になったのかは解らないが、源の負けず嫌いの炎がメラメラと燃え上がる。
「ええい、生ぬるいわ! おばちゃん、ちょっとそこを貸しおくれなのじゃ」
 出店の裏に素早くもぐりこむと、源はスチャッ! 右手に包丁を構えた。左手には巨大な‥スイカ
「‥ハッ!」
 精神統一をしていたかと思うと、源はスイカを左手で軽く支えると、くるくるくるくる、まるでリンゴの皮をむくように剥き始めた。
 重いはずのスイカなのにまるでリンゴのように軽々と、厚い筈の皮なのに大根の皮のようにするすると、スイカの皮は剥けて赤い巨大な球体が表れてくる。
「‥‥はっ!」
 完全に服を脱いだ赤い球体を、まるでボールのように源は空に放り投げた。
 素早く割り箸を数本掴むと高く空に掲げる。
「‥‥‥ハアッ!!」
 グサッ!
 スイカは見事、その真ん中を貫かれまるで、聖火の炎のように源の腕の上で輝く。
「オーーッ!」
 パチパチパチパチ。
 周囲から拍手が上がった。少女も、店のおばちゃんまでもが拍手に加わる。
「凄いねえ、あんた」
「ビックリした♪ 凄かったよ」
「いや〜、それほどでもあるのじゃが‥っと、これをスイカ飴に‥っと」
 照れたように頭を掻きながら源は、スイカにトロトロに溶けた飴を絡めていく。
 それはまるで光か、輝く太陽のようで、とても美しかった。
「出来た! いただきま〜〜す なのじゃ」
「あっ‥」
 少女は手を差し伸べかけるが‥制止の声など食べ物の前の源に、通じるわけも無く‥
 ガブッ!
 すでに、巨大スイカ飴は源の口へと入っていった。
「う〜ん、このカリッとした食感に、瑞々しい果実、飴の甘さと固さ。実の水分と柔らかさのコントラストが‥」 
「あれ? 美味しかった?」
「‥いや‥不味い」
 ズルッ‥

「う〜、飴の食べすぎでおなかがくるしいのじゃあ、おぬしも人がわるいのではないか? 不味いなら不味いと言ってくれれば‥」
「だって、不味さの不幸は分けあいたいし‥♪ ね」
 少女の言葉に、源は苦笑する。自分も逆の立場だったら‥そうしたかもしれない。
「でもさ、今日は美味しかったし、楽しかったよ」
 ニッコリと嬉しそうに笑う少女に、源もうんうん、と頷く。
「やっぱりお祭りは、一人より二人の方がいいのじゃろうな」 
 いくら美味しい飴でも、一人で食べてはやっぱり味気ない。美味しいと、時には不味いと言い合うものが居た方が‥
 それは正直な気持ちだった。
「あ、そろそろアタシいかないと‥ じゃあね♪ 食べ過ぎてお腹こわさないようにね」
「そちらこそ、なのじゃ。ああ、そうそう、ワシはいつもはあやかし荘というところの側でおでん屋をやっておる、今度ぜひ、おいでくださいなのじゃ」
「うん、また会おうねえ〜」
 手を振りながら駆けて行く少女は、帰り際ポケットからデジカメを取り出すと‥ぱしゃ! 
 源の写真を撮って走って行った。足が早い。もう見えない。
「賑やかなお嬢じゃのお、でも‥確かどこかで‥まあ、いいか‥こっちはお土産にっと」
 手に提げた白い袋の中の、フルーツ飴アラカルトをちらり、見てからまた出店を覗き、祭りへと戻って行ったのだった。

 お土産と、お土産話。
 それを喜んでくれる、友の顔を楽しみに‥  
  

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物                  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【1108/本郷・源/ 女性 / オーナー 小学生 獣人】



□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

夢村まどかです。
いつもご贔屓ありがとうございます。
学園祭、楽しんでいただけましたでしょうか。
パーティノベルですが、シングルとなりましたので、ゲストに登場頂きました。
誰かは‥ご想像ください。

フルーツ飴の食べすぎにはくれぐれもご注意を。
今回は本当にありがとうございました。