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ファイル-2 神隠し。
電話が鳴り止まない、という光景自体、この司令室では珍しい事であった。受話器を置いた瞬間に再び鳴る、電子音。
「…………」
呼び出されたはいいものの、司令塔である槻哉がこの状態では、話の進めようが無い。
斎月も早畝もナガレも、槻哉が電話対応に追われているのを、黙って見守るしか出来ずにいた。
「…商売繁盛？」
「そーゆう問題じゃないだろ…。こりゃ、電話機増やさないとダメかもな」
へろり、と槻哉に力の無い人差し指を指しながら、早畝が言葉を漏らすと、ナガレがそれに突っ込みをいれる。
斎月は黙ったままで、咥えた煙草に火をつけて、テーブルの上に置かれていた資料に目を落としていた。
「……はい、これから調査いたしますので、そのままお待ちください」
その言葉を最後に、電話の呼び出し音は一応の落ち着きを取り戻す。見かねていた彼の秘書が、内線を切り替えたらしい。
「ふぅ…。三人とも、待たせてすまなかったね」
「…事件はこれだな？」
槻哉の表情は半ば疲れているようであったが、彼は三人に微笑みながら、言葉を投げかけてきた。すると斎月がいち早く反応を返す。
「…そう、今回はこの事件を担当してもらう。さっきからの電話は被害者のご家族からなんだよ。警察の怠慢さも、程々にしてもらいたいね…」
槻哉の言葉は、何処と無く冷たいものであった。その言葉尻からも読み取れるように、『今回も』警察尻拭い的な、事件であるらしい。
「カミカクシ？」
早畝は斎月が持ったままの資料を覗き込みながら、首をかしげる。昔はよく起こっていた事件らしいのだが、近年では稀なほうであり、早畝はそれを知らないようであった。
「前触れも無く突然、行方不明になってしまう事を言うんだよ。その後、その人たちが発見されない事が多いから『神隠し』と言われているんだ。昔話なんかにも、出てくるんだよ」
「犯人は天狗、とか言う奴だろ」
ナガレはいつものように早畝の肩口から資料を覗き込んでいた。この中で一番永く生きている彼にとっては、気になる事件の一つのようだ。
「まさか今時、その『天狗』なわけじゃねぇだろ？ 場所が場所だしよ」
「そうだね、この都会の真ん中では、それは有り得ない存在だろうね。…どうやら誰かが故意的に、次元の歪みを作り出しているようなんだ」
槻哉がそう言うと、まわりの空気がピン、と張り詰めたように思えた。
「…また厄介な事件だな…」
「それを解決していくのが、僕らの仕事だろう？」
斎月が独り言のような言葉を漏らすと、それに反応したのは槻哉だった。そして皆が視線を合わせて、こくりと頷く。
「今回も、よろしく頼むよ」
「了解」
三人は資料を手に、調査に出向くための準備を始めた。
早畝やナガレと別れ、単独行動を取った斎月は、資料にある犯行現場へと足を向けるべく、一歩を踏み出した。
（…やれやれ、どうしてこう、厄介な事件ばかり俺らに回ってくるかな…）
そんな事を思いながらいつもの調子で歩いていると、背後から小さな声がしたように思え、肩越しに振り返る。
「…ゆつき、ちゃん…」
「……、百華！？」
斎月が視線を落としたその場には、見覚えのある少女が、自分を見上げていた。前回、事件に協力してくれた最年少の少女、百華である。
「…どうしたんだ、こんなところで…」
「ゆつきちゃん、会いに来た、の」
斎月は慌てて腰を下ろし、彼女の目線に合わせながら、小さな頭に自分の手のひらをそっと置く。
百華は小さな声で、ぼそぼそ、と言葉を繋げていた。
「俺に会いにきたって…どうやって？ …あー、猫とかに、聞いたのか」
そう言う斎月に、百華は言葉なく、こくり、と頷いてみせる。相変わらず、その表情には明るさがない。前回のまま、感情を取り戻すことなく、現在に至っているようだ。
「……………」
「うん？ どうした」
百華は黙ったまま、斎月を見上げてくる。
その彼女を軽々と抱き上げ、斎月は笑いながら聞き返した。
「……嫌な感じ、するの…だから、ねこと、いぬに聞いたの」
彼女の腕の中には、あのピンクのうさぎのぬいぐるみが、しっかり抱きしめられていた。それを見ながら、斎月は百華の言葉を、聞き入れる。
百華には、普通の人間には持ち合わせない、察知の力が備わっている。それはかなり優秀で、前回もこの力で随分と斎月は助けられたのだ。
「百華は…それを俺に伝えるために、ここまで来たのか？」
そう聞き返すと、百華はこくりと頷く。
「そっか…じゃあ、今回も、百華は俺についてきてくれるか？」
「……うん」
斎月の言葉に、百華は素直にそう頷きながら応えてくる。もとより、そのつもりだったのだろう。それでなくては、彼女の家から離れたこの場まで一人で来るなど、考えも付かない。
「よし。今度こそお前に怪我なんかさせねーからな」
斎月はその言葉を、誓いのように。
百華をしっかりと抱きなおしながら、犯行現場へと再び足を向けた。
「…そこにいる皆がな、一瞬にして、ぱっと消えちまうんだ。今回の事件でその『神隠し』をやってる悪い奴と、その歪みを、探し出すってのが、俺の仕事だ。
…難しかったか？」
百華を腕に乗せながら、事件の説明を彼女に聞かせる斎月。
粗方を話し終えて、百華の表情を伺いながら、そう問いかけると彼女は、全部を理解したわけではないのだろうが、こくりと頷いていた。
「あのね」
百華は静かに、口を開いた。
そして前を見据え…その小さな人差し指を視線の先へと伸ばしてみせる。
此処はもう、犯行現場である、川縁の遊歩道だった。百華が植物や、動物達の言葉を聴き、導いてくれたのである。ここは住宅街にも近いためか、犬の散歩コースだったり、ランニングのコースだったりと割と人通りの多い場所である。日が暮れてしまえばその人も、殆ど通らなくなるのだが。
百華の指した指の向こうは、川を跨ぐ、橋があった。
「あの辺りか…？ 百華、どんな感じがする？」
「…嫌な、感じ。真っ黒な…。
鳥が、近づくな、って言ってる」
頭上を仰げば。
烏が鳴きながら、通り過ぎていくところであった。
時はもう、空がオレンジ色で覆われている、時刻。このまま日が暮れてしまえば、危険性が高くなってしまう。
そんなことを思っている矢先に。
「ゆつきちゃん、あれ」
「……っ」
一人の女性が、橋の向こう側から、こちらへと、歩いてこようとしていた。そして、その先には。
まるで、待ち受けていたといわんばかりに、ぐにゃり、と歪み曲がる景色があった。女性には見えていないのか、怯むことなく、先へと進んでいる。
「……おいっ！ それ以上進むな…ッ！！」
斎月が慌てて、駆け出しながら、女性に声を掛ける。すると彼女はワンテンポ遅れがちに顔をあげ…
「……え…？」
「！！」
斎月たちの目の前で、空気に溶け込むかのように、姿が消えていった。
飲み込まれてしまったのだ。
「……こんな…こんな簡単に、人を飲み込んじまうのかよ…今日だけで、何人の人がいなくなってんだ…？」
「……………」
斎月は目の前での光景に、苛立ちを感じ始めていた。
未然に防ぐことすら、出来なかったなんて。その歪みはなんでもない、ごく普通の生活の中に、潜んでいたかのようであった。
百華は表情を変えることなく、斎月を眺めていたのだが。
「………？」
そっと、自分の頭の上に、触れるものを感じて、斎月は顔を上げた。
それは、百華の手のひらだった。そろり、そろりと、斎月の頭を数回撫でてやると、また手を元に位置に戻す。
斎月は、その小さな少女に慰められたのだ。
「……まいったなぁ…いい年したオトナが」
困ったように笑いながら、百華を見る斎月。彼女の表情に、動きはない。それでも、百華の心の奥の『優しさ』に正直に感謝せずには、いられなかった。嬉しい、と思えたから。
「さんきゅ、百華。頑張って二人で、解決しような」
斎月がにこっと笑いながらそう言うと、百華はまた頷きで返事を表して見せた。
そして二人は、歪みの元へと、歩みを進める。途中、百華を置いて行こうかとも思ったが、それもまた危険な気がしたので、しっかりと斎月の腕の中で、納めておく。何があっても、彼女を護れるようにと。
「……………」
ごく普通に、歩いて。
気が付けば、二人は、歪みの中に、招き入れられていた。もっと、違和感でもあるのかと思えば、何も感じることなく、すんなりと入ることが出来て、少しだけ気が抜けたように感じた。
「……なんだ、これ…」
その空間は、見るからに『異様』だった。
何処までも広く、終わりのないようなその空間の中で。
おそらくは、今まで取り込まれてしまった人たちが、それぞれの場で、楽しそうに笑っていた。
何かを追って、少年のように走り回るサラリーマン風の男性。大の字で寝転がっている老人。嬉し涙を流している女性…と、それこそ様々な、形で。
一見してみれば、それは平和な光景なのかもしれない。
それでも、斎月の目には、異常としか見えなかった。その、悲しみや苦のない表情を見ていると、『それ』に恐怖さえ感じてしまう。
「………なんなんだ…この空間は…」
「――ようこそ、『幸せの世界』へ」
斎月が辺りを見回しながらそう言っていると、背後からそんな言葉をかけられた。
気配など、感じられなかった。
そう思いながら、振り向けば。
そこにはピエロのような仮面をつけた男…おそらくは、声と背丈からして、斎月より年下の…少年であろう者が、こちらに頭を下げていた。
「お前が……この空間を作ったんだな…？」
「そのとおりです。そして…あなた方二人も、此処に招かれた、新しい我等の仲間。…歓迎いたします」
その口調は、しっかりとしたもの。
それが余計に、気味悪さを増幅させている。
「此処では、貴方の望みをかなえます。見たい夢をお見せします。欲しい物を手にすることも可能です。…全てが、望むままに。
……さて貴方は、何をご所望ですか？」
仮面の少年は、身振り手振りを大げさに見せながら、斎月にそういって見せた。
斎月は眉根を寄せて、少年を見下す。
「それで…この空間で、『偽りの幸せ』を見せられた者たちは、幸せのままに、死んでいくのか？」
「……おやおや…これは…」
斎月の言葉に、少年はくくっと笑った。
「貴方は…『敵』なのですね？」
「………？」
笑いながら、少年はそう言った。そして…
「…皆さん、敵です。敵が現れました！！」
と、両手を挙げながら、大声を張り上げる。
すると今まで周囲で笑顔を作っていた者たちが、一斉に斎月たちに視線を向ける。目を見開いたまま。
「ゆつきちゃん…逃げて…危ない…」
「百華？」
百華は何かを察したのか、斎月にそう言った。
それに聞き返していると、わぁ、という声と共に、その場に居たものたち全員が、斎月たちに襲い掛かってきたのだ。
「………！！」
斎月は反射的に、地を蹴った。そして百華を抱きかかえたまま、その多くの人々から、逃れるために。
「殺せ…殺せ！」
「敵は殺せ！！ 私達の邪魔をする敵は死ね！！」
そんな恐ろしい言葉を。
次から次へと発しながら、まるで狂ったかのように、追い回してくる、人々。
被害者達であることは間違いないために、斎月は手出しも出来ずに、ただ走り続けていた。
走っても進んでも、目に見えるのは、同じ景色。
斎月はそれを見ながら、あの少年は幻惑の類を使う能力者だと、思いついた。
しかし、何のために…？
「…世の中に疲れた、大人達のためですよ」
走り続けている斎月の目の前に現れる、先ほどの少年。くくくっと笑いながらそれだけを言うと、また姿を消した。
「……ゆつきちゃん…助けて、あの人…」
「！？」
腕の中の百華は、焦りを見せることなく、斎月にそんな言葉をかけた。
そうして、その言葉の意味を百華に聞こうと思った瞬間……。
ぐん、と足元を、強く引かれた気がした。そしてその次に襲うのは、重く鈍い、痛み。
視線をやれば、左の脹脛に、刃物が突き刺さっていた。
斎月は体勢を整えることも出来ずに、百華を腕に抱えたまま、地面へと転がされてしまう。それでも、百華だけは護ろうと、腕を回して頭を打たないように、抱き込んでやっていた。
「…くそっ…」
足から、どくんどくんと波打った痛みが込み上げてくる。
「ゆつきちゃん」
「……百華、大丈夫か？」
腕の中で声がして、斎月が視線を向けると、百華はその腕の中から逃れたがっているように、思えた。
「百華…動くな…ッ」
「大丈夫…モモ、痛く、ないから」
そう言うと、百華は自分の力で斎月の腕の中から、出てきた。
「百華…駄目だ…！ 逃げろ！！」
目前に、狂った被害者達が、迫っていた。皆、刃物を持ったり、バットを持ったりと、その武器は様々なもので。
本当に、斎月たちを、殺しにかかってくるのだ。あの者たちは。
「百華っ怪我するだけじゃすまねーんだぞ！！ 俺のことはいいから、逃げろ！！」
斎月は百華を怒鳴りつけた。それでも彼女は、斎月を庇う姿勢を、解こうとはしない。
「……くそ…っ」
足に力が入らなかった。
上半身を起こすだけで、精一杯だ。目の前の百華を庇うことすら、出来ない。
斎月は自分への苛立ちで、いっぱいになった。ぎり…と歯を食いしばると、力の入れすぎでそこから血が滲み出るほどに。
殺人鬼と化した者達が、目の前にいる。
「……るな…っ」
斎月は体を震わせながら、言葉を漏らす。
「……百華に、触るなぁッ！！！」
「！！」
力の限りを、その叫びに変えた、瞬間に。
斎月の体から、ぶわ…と音を立てながら、光のようなものが生み出された。
それは半円のように広がり、襲い掛かってくる者たちを、其処から先へと進めずに、せき止めている。中には勢い余り、その半円に、弾かれた者も、いる。
「…………」
「…………」
百華は何が起こったか解らずに、暫らく呆けていた。
そして、斎月本人も、呆けていたが、すぐに現実に戻り、自分の手のひらを見た。
「………俺の力の…応用、か…？」
ぼそ…と呟くと、百華が振り向いて、斎月の傍で腰を下ろす。
「ゆつきちゃん、凄い…」
「……凄いなぁ…」
自分のことであるのに、他人事のように、そう百華に返す、斎月。
斎月が持ち合わせる能力は、『空気支配』。今までそれを、攻撃だけにしか使ってこなかった。『そう』としか、使い道がないのだろう、と思っていたからだ。
しかし、今のこの状況は…。
「ナガレのシールドと、同じみたいだな…」
そう、斎月は百華を護りたい、と言う一心で、攻撃主体だった空気支配の力を、応用に変え、独自のシールドを生み出したのだ。それも、一瞬だけではなく、こうして今もそれが持続出来るように。
「……凄い力をお持ちで」
自分の未知なる力に感心していると、何処からともなく少年の声が再び響いた。
顔を上げれば、シールド内に、その姿がある。
「………お前…ッ」
咄嗟に、傍の百華を、抱き込んだ。
「…驚きました。人間の中にも、力を持つ方がいるとは…」
少年の声が、心なしか、先ほどより弱々しく感じる。
「人の望みは…尽きることのない…欲望です。僕はそれを叶える力を持っている…。だからずっと叶え続けなくてはならない…。この先もずっと…」
「……………」
そう、語り始めた少年の言葉は、酷く悲しいものに変わっていた。
「お前…解ってるんだな…？自分がしていることは、どういう事か…」
「解っていますよ…でも、こうしないといけないのです、僕は。偽りだと解っていても、一時の幸せであったとしても…夢を、与えていかなくてはならないのです」
…何故？とは、聞けずにいた。
聞いてはいけないような気がした。
だから斎月は黙ったままでいた。
「人間の世界にまぎれて…僕は色んな人々を見てきました。この世界の人々は、夢を見ることを忘れている…でもそれは仕方のないこと…。それでも僕は…手を差し伸べてしまった。その代償に…未来永劫終わることなく、人々に夢と希望を与えていかなくてはならなくなったのです」
「お前は、『誰』だ？」
「……おそらくは、貴方には聞き取れないと思います。人間の言葉ではないし…それを伝えるのは、禁じられていますから」
そんな少年に、いつの間にか斎月の腕から離れていた百華が、歩み寄っていった。
「百華…っ」
「……モモ、叶えてあげられる」
少年を見上げながら、百華は静かに口を開く。
「あなたが、叶えられない願い、モモが叶えてあげる。…だから、モモに、何かください」
百華の口から漏れた言葉には、斎月は聞き覚えがあった。彼女のもう一つの、能力だ。
相手の願いを叶える代わりに、その相手から『何か』を受け取らなくてはならない。『代償』を貰わなければ、その力は、発動しない仕組みになっているようなのだ。
「君も…力を持ち合わせているのかい…？」
少年がそう問いかけると、百華は言葉なく頷いた。
「僕のような存在であっても、叶えられるのだろうか…？」
「…お願いを」
百華は少年を促すかのように、そう言った。その言葉には彼の問いの答えも、含まれていた。モモになら、出来ると。
「そうか…では…君には、この空間を壊してもらおうかな…。そして、その代償は…僕の命だ」
「！！」
斎月は、その言葉に衝撃を受けた。薄々わかってはいたものの、本当にそう言ってくるとは思わなかったのだ。
「もう解っていると思いますが…僕の命は、貴方にお任せしましょう。僕は、自分で自分を殺すことが、出来ないのでね」
「……やっぱり、そうなるのかよ…」
少年の言葉を聴いた斎月は、眉根を寄せながらそう吐き捨てた。汚れ役を、押し付けられたようなものだ。
「貴方は空気を操れるのでしょう。それで、僕を、消し去ってください。…大丈夫、これは殺人にはなりません」
「解ってるけどよ…っ」
「この者たちを、助けたいのでしょう？」
少年が腕を上げると、その先にはいつの間にか眠っている、人の群れ。それを突きつけられては、斎月もどうしようもなかった。
「偶然でも、貴方達に出会えてよかった。これでようやく、僕は眠ることが出来ます…」
「…そうかよ…」
斎月はそう言いながら、静かに右腕を上げた。そして、握りこぶしを作り上げた後、ゆっくりとそれを開き…少年に向かい、空気の矢を、放った。
そして百華は、それを見届けた後、発動した力で、この空間を、消して見せるのだった。
「百華…疲れたか？」
斎月は黙ったままの百華に、穏やかに笑いながら、そう声を掛けた。
すると彼女はちいさく、首を振る。
「そっか…でも、凄いことに巻き込んじまって、ごめんな」
百華は斎月のそんな言葉に、またゆっくりと首を振った。
「…何持ってるんだ？」
うさぎのぬいぐるみとは別に百華の手の中にあるものに気が付き、斎月が指をさす。
すると、百華はその手をあげて、持っているものを見せた。
「…それ…」
百華が手にしていたもの。それは少年が被っていた、仮面だった。斎月の能力で、所々が欠けてボロボロになってしまったのだが、百華があの空間を壊し、脱出する再に、持ってきたらしい。
「どうするんだ？」
「……あの人、居たあかし…きっと、わすれちゃ、いけないから…」
結局、あの少年が何者であったのかは、ハッキリとは解らなかった。悪しき存在では、無かったのだろうと思う。しかし、どこかで道を踏み外し…禁忌を犯してしまった…。自分達には解らない、ものを。
斎月の足の怪我は、いつの間にか、跡形も無く消え去っていた。残ったのは、切り裂かれたジーンズのみ。
おそらくは、あの少年が、治してくれていたのだろう。
「色んなヤツが、いるんだなぁ…もう、何でも来いって感じだ」
斎月が独り言のようにそう言うと、百華は少しだけ不思議そうな顔をしていた。
「さてと。被害者たちの無事も全部確認できたし、帰るか！」
「……うん」
すっと、立ち上がりながらそう言う斎月に、百華は静かに答えながら、彼の服を握り締めた。…無意識に。
斎月はその小さな手を取り、自分の手のひらの中に納めて、歩き出した。百華の歩幅に、合わせて。
そして、そのまま無事に百華を家へと送り届けた後は遠回りと寄り道を重ねて、司令室へと戻るのであった。
【報告書。
１０月１２日 ファイル名『神隠し』
正体不明の仮面をつけていたという少年が引き起こした事件は、斎月と協力者、橘 百華嬢の手により、無事解決した。
犯人に『夢を見せられていた』という多くの被害者達は、救出された後は全員が記憶を消されていることが解り、事件が公に出ることは無いままに、終わる。
つかみ所の無い犯人の詳細は、どんなに手を尽くしてもそれ以上のことを探ることは出来なかった。
橘嬢は前回怪我をさせてしまったこともあり、心配をしていたのだが、今回は無傷で彼女を帰したようで、斎月への始末書提出の命は見送られた。
後日、再び謝礼を送ることとする。
以上。
―――槻哉・ラルフォード】
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登場人物
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【整理番号 ： ＰＣ名 ： 性別 ： 年齢 ： 職業】
【３４８９ ： 橘・百華 ： 女性 ： ７歳 ： 小学生】
【ＮＰＣ ： 斎月】
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ライター通信
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ライターの桐岬です。今回は『ファイル-2』へのご参加、ありがとうございました。
個別と言う事で、PCさんのプレイング次第で犯人像を少しずつ変更しています。
橘・百華さま
再びのご参加有難うございました。遅刻してしまい、本当に申し訳ないと思っています。
百華ちゃんに再びお会いできて、嬉しかったです。斎月かナガレか、とありましたがどうしても斎月が百華ちゃんと一緒がいいと駄々をこねましたので（笑）、今回も斎月を投入させていただきました。
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
ご感想など、お聞かせくださると嬉しいです。今後の参考にさせていただきます。
今回は本当に有難うございました。そしてお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
誤字脱字が有りました場合、申し訳有りません。
桐岬 美沖。
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