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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


つかめ! その手に……
●プールは燃えているか?
 9月16日――神聖都学園の学園祭4日目。5日間に渡って行われるこの学園祭、日によってメインテーマが設定されており、4日目の今日は『格闘祭』ということになっていた。
 すなわち今日の出し物は、自然と格闘絡みの物が多めになっている訳である。例えば生身の肉体同士がぶつかり合うとか、ロボットバトルだとかといった物だ。
 今日の混雑具合を見てみると、道場や校庭に人が結構集まっているように感じられる。後はまあ似たり寄ったり、どこも同じくらいに人が居るという感じだろうか。
 そんな似たり寄ったりの中、頭1つ分だけ抜け出しているように思えるのはプールだろうか。少しずつではあるが、人が多く流れてきている。
「あー、賑わってるなー」
 プールの近くへ来たやや長めの茶髪の男子生徒――小麦色の肌で、少年というより青年といった方が近しい雰囲気だ――が、爪先立ちになって中を覗き込むようにして言った。爪先立ちになるから、元々高い背が余計に高く感じられる。
「あの……ちょ、ちょっと待ってくだ……」
 そんな男子生徒、湖影龍之助の後方からおどおどとした口調の別の男子生徒の声が聞こえてきた。
「あ、三下さん。こっちっス」
 くるっと振り向き、笑顔で手を振る龍之助。そこには逆方向に流れる人の波を何とか擦り抜けながら、こちらへやってくる可愛らしい顔立ちの男子生徒――三下忠の姿があった。
「ああ、やっと追い付い……たっ?」
 ようやく龍之助のそばまで来たかと思うと、躓いてしまう三下。足元に躓くような物体や段差などは全くない。ある意味器用であるといえよう。
「おっと」
 躓き前のめりになってしまう三下の身体を、すかさず両手で支える龍之助。がしっと三下の両方をつかんでいた。
「三下さん、大丈夫っスか?」
 龍之助が三下の顔を覗き込むようにして尋ねた。ちなみに『さん』付けで呼んでいるが、三下が17歳なのに対し龍之助は19歳。龍之助の方が年上である。なお……計算が合わないのは、龍之助がダブってまだ高校3年生をやっているからだ。それはさておき。
「あ、はい。おかげで何とか」
 安堵の表情で答える三下の顔を、龍之助がじーっと見つめる。
(くぅ……三下さん、その表情いいですねぇ……☆)
 なんてことを思いながら、自然と三下を引き寄せる龍之助の両腕。無意識の行動である。
「あっ、あのっ?」
 驚く三下。その声に、はっと我に返る龍之助。そして、ぽんぽんと三下の両肩を軽く叩く。
「いやー……怪我なくて安心したっス、ほんと」
 龍之助はそう笑顔で言った。
「あ……心配させてごめんなさい」
 それに対し、軽くぺこんと頭を下げる三下。知ってか知らずか、龍之助のツボを突くような行動を取る辺り、恐るべし三下。
「ここ、プールですよね。何をやってるんですか?」
 三下が龍之助に尋ねる。すると、よくぞ聞いてくれたとばかりに龍之助が説明を開始した。
「ここも一種の格闘です、三下さん。捕まえるんです、水棲生物♪ 何でも神聖都学園通りの商店街が主催してるそうっスよ」
「え、水棲生物との格闘……?」
 嫌な想像でも浮かんだか、三下の表情が曇った。が、慌てて龍之助が否定する。
「違います、違います! 巨大たこ大暴れとか、ジョーズと死闘とか、そんなのじゃなくて、もっとほのぼの度が高めので……」
 当たり前だ。商店街が主催なのに、巨大たことか運んでくるはずがない。まあ、絶対にないと言い切れない所がちと怖いのだが……今回は違う。
「じゃあ何をしてるんですか?」
「これです、これ」
 と言って、三下に立て看板を指し示す龍之助。そこには『水棲生物掴み獲り大会』と達筆な毛筆の字で記されていた。横にはちゃんと、『主催:神聖都学園通り商店街 協力:水泳部』とも書かれている。
「へーえ、つかみ獲りなんですか」
「らしいっス。とにかく、もっと混み合う前に覗いてみましょーか」
 興味を抱いた三下の腕を引っ張るようにして、龍之助は中へと入っていった。

●プールは(1人だけ)萌えているか?
 さて、中に入るとプールにはすでに多くの生徒や客たちが入っていた。といっても芋を洗うような密度ではないし、泳いでいる訳でもない。
 プールには膝の辺りまで水が張られていた。そして水の中には、人々の足の間を縫うようにして泳ぐ様々な魚の姿が見受けられた。よくよく見れば、魚以外の生物も居るようだ。
「魚だけじゃないから水棲生物なんですね」
 感心したようにつぶやく三下。まあ魚だけだったら、『魚掴み獲り』とでも立て看板には書いているだろう。
「たぶん海水っス。目についたの、海の魚ですから」
 龍之助もよく観察していた。海の魚が居たのだから淡水ではない、当然の結論である。
「水着も貸し出してくれるらしいです」
 と、三下に言う龍之助。更衣室の前で、きっと水泳部員だろう、スクール水着の貸出を行っていたのだ。服が濡れるのが嫌なら、これを使うのも手である。
「だから、水着の人も多いんだ……」
 なるほどといった様子の三下。確かにプールに居る者たちの中には、スクール水着の者たちも男女問わずそれなりに居る。ズボンを膝上まで捲り上げている者たちに混じってだ。
「貸出の在庫あるか、聞いてみます?」
 龍之助は三下とともに、貸出場所へ向かった。
「すみません、水着借りれますか?」
「あ、男子2人ですか……」
 龍之助が尋ねると、相手は困った表情を見せた。
「すみません、女子のスクール水着しか今は残ってなくて」
 バッドタイミング。残念ながら、男子のスクール水着は在庫切れらしい。
 龍之助はじーっと隣の三下を見た。当然三下もその視線に気付き、龍之助に問いかける。
「……どうかしたんですか?」
「スクール水着……三下さん……着ます?」
「そっ、それはっ!」
 龍之助の爆弾発言を聞くや否や、ふるふると頭を振る三下。当然の反応といえば当然の反応。
 もっとも三下が女子のスクール水着を着ても、ほとんど違和感はないだろうが……実現したら、間違いなく龍之助は血の海に沈むことだろう。己の滝のような鼻血で出来た海の中に。本人は本望かもしれないけれども。
「あはは、冗談っス」
 苦笑いを浮かべ、龍之助が三下に言った。……本当に冗談かは定かではない。
「でも水着借りれないんじゃどうしよう。濡れると僕困りますし……」
 思案する三下。自分がプールに入ったらどうなるか、自覚した発言であった。制服のまま入ると、1分もしないうちに全身ずぶ濡れになることだろう。間違いない。
「あー、いいっス! 三下さんはプールサイドに居てください。俺、2人分入ってくるっス」
 龍之助はそう言うが早いか、ブレザータイプの制服のズボンをももの辺りまで捲り上げ、そのままプールへ入っていった。
「見てて下さい、美味そうなのしっかり捕まえるっスよ」
 プールの中央の方へ少し進んでから、龍之助はプールサイドの三下の方へ向かって振り向いた。非常に爽やかな微笑みを浮かべて。
「頑張ってくださーい」
 ぶんぶんと手を振り、龍之助に応援の声を送る三下。
「はーい、頑張るっス♪」
 三下の応援を受けて元気100倍、アン……もとい龍之助。嬉々として、泳いでいる魚を狙い始める。
 そして10分近く経った頃だろうか。龍之助が両手各々に魚をつかんで戻ってきた。
「三下さん、大漁! 黒鯛ゲットです!」
 何と龍之助、黒鯛を2匹捕まえてきたのだ。1匹捕まえるのも凄いのに、2匹も捕まえるとは……たいした運動神経と運である。
「凄いっ! よく捕まえましたね〜! どうやって捕まえたんですか?」
 拍手で迎える三下。龍之助は三下が用意してくれたバケツに黒鯛を入れ、満面の笑みを浮かべていた。
「こう、がーっと来て、さっと入れて、ぎゅっとつかんだんっス」
 龍之助が身振りを交え説明するが、よく分からない。どこぞのミスターを思わせるような説明であった。
「後で一緒に食べましょ、三下さん」
「はいっ」
 龍之助の言葉に、三下がこくっと頷いた。
「じゃあ俺、もうちょっと何か居ないか見てきますね」
 龍之助はそう言うと、再びプールの中央部分へと戻っていった。三下が手を振って見送っていた。

●宝石を手に入れた
 さらに20分ほど経った頃――龍之助が両手で何かを掬った状態で、三下の居るプールサイドの方まで戻ってきた。
「三下さん、見てください! ニ●っスよ、●モ!」
「えっ、ニ●? ほんとに●モですか?」
 龍之助が差し出した両手の中を、三下が覗き込んだ。
「あ、ほんとだ! 映画そっくりですね! 綺麗だな〜……」
 実物を見たためか、三下の声が弾んでいる。そんな三下の様子を見ながら、龍之助は満足げな笑顔を浮かべていた。
 龍之助の手の中に居たのは、クマノミという魚であった。もっとも『クマノミ』と呼ぶよりは、『ニ●』と呼んだ方が一般的には分かりやすいのかもしれないが。
 ちなみに、一部伏せ字になっていることは気にしてはいけない。というか、気にするな。閑話休題。
「これ、三下さんにお土産です」
「えっ? いいんですかっ? 捕まえたのは湖影さんなのに……」
「いいんです。三下さんに喜んでもらえたら……それだけで嬉しいっス」
 にこっと微笑み、龍之助が三下に言った。それが龍之助の素直な気持ちであった。ややあって、三下がぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございます。大事に飼いますね」
 顔を上げ、にっこりと笑顔を向ける三下。
(ああ……その笑顔いいっス、三下さん……)
 龍之助の心の中は、いい物を見させてもらったという感情で満たされていた。
「そういえば、そろそろお腹空きませんか?」
 不意の三下の言葉に、龍之助が我に返った。
「あ、お腹っ? はいっ、空いたっスね。食べましょう、食べましょう。向こうで料理部の人が調理してくれるらしいっスよ」
 と言い、クマノミをバケツに入れてから龍之助はプールサイドへ上がった。
 三下と2人で食べる黒鯛は、どんな調理法であれさぞかし美味しいことだろう――。

【了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                 / 性別 / クラス 】
【 0218 / 湖影・龍之助(こかげ・りゅうのすけ)
                  / 男 / 3−? 】