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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


写真の力

〜 幻影学園奇譚・学園祭イベント写真展示より 〜

■受付嬢のおもてなし
 今日は学生生活において貴重な日。そう、学園祭の日だ。
 今年は例年より学園祭に強く力をいれており、生徒はもちろんのこと、教師達も夜遅くまで残って学園祭の準備をしてきた。
 エリス・シュナイダーの所属する写真部もその例にもれず、部員達が撮影してきた数多くの写真を吟味し、毎年不足するテーマ展示物は、夏休みの時間を利用して撮影取材へも出ていたのだ。
 夏の校外学習と期末テストを挟む、過酷なスケジュールではあったが、その過密スケジュールが逆に部員達の結束が高まらせ、開催の2日前には展示の準備がすっかりと整えられたのだった。
 
 写真部の展示室は部室の隣にある視聴覚室だった。メイン会場となる校舎からは少し離れていたが、その分目的がはっきりしている人間が訪れやすい場所とも言えるだろう。
 学園の掲示板中に貼ったチラシ宣伝の効果か、昼休みを過ぎた午後2時頃から、多くの生徒達が展示物を観に訪れてきていた。
 訪問客のピーク時に受付担当となってしまったエリスは、右往左往しながら訪問者への対応をしていた。
「あのー……すみません」
「はい、なんでしょう?」
「お茶とお菓子が頂けるとおききしたのですが、受付はこちらでしょうか?」
「あ、はい。ちょっと待ってくださいね」
 そう、今年は訪問のサービスとして、飲食物の提供を行うことになったのだ。といっても、ほとんどエリスの趣味でつけられたサービスのため、配られるのは彼女が担当している時間だけの期間限定ものだ。チラシには特に表記していなかったのだが、訪問客は必ず入り口にてお茶の注文をしてきていた。
 美しい風景写真を眺めながらお茶が飲める、さらにクッキーのおまけ付きという嬉しいサービスに、訪問者達はのんびりとコップ片手に、美味しいお茶と見事な写真達を堪能していた。
「さて、と……あと30分で交代ですね」
 エリスが担当する受付時間は約1時間。スケジュールでは丁度受付担当時間が終わる頃に、演劇部の舞台劇が開催される。
 急いで交代の手続きをし、会場まで走っていけばなんとか開幕には間に合うだろう。
「今のうちに出来る限り交代の準備だけでもすませておきましょう」
 そう呟き、エリスはとりあえず身の回りの整理からはじめるのであった。

■衝撃の一枚
 松山・華蓮(まつやま・かれん)も最初はお茶とお菓子にひかれてやってきた者のひとりだった。
 お茶の入った紙コップを片手にのんびりと写真を見て回る。ふと、何気なく1枚の写真を眺めていると、後ろから男子生徒が声をかけてきた。
「その写真、なかなか良い作品ですよね。白銀を掻き分けて走る勇猛な姿はなかなかのものではありませんか」
 華蓮の前にある一枚の写真。それは雪国を走る列車の写真だった。雪をかき分けて駅に滑り込む列車と舞い上がる細やかな雪が見事にとらえられている。
「さすがは長年の伝統を誇る部ですね」
 そう言いながら、彼ーシオン・レ・ハイは一口お茶をすする。
「他にも、あちらの花のテーマ写真も綺麗だと思うのですが、どれか気に入ったものはありましたか?」
「そうやな……うちはあんま写真とか言われても分からねんけど……確かにこの写真は格好ええな」
 同じようにお茶を飲もうとして、中身が空に気付き、華蓮は小さく舌打ちをした。
「なあ、お代わりは出来るんやろか?」
「出来るみたいですよ。私もこれは2杯目ですから」
「へー……そんなら、うちも貰ってくるとするわ。ありがとなー」
 くるりときびすを返すと、華蓮は足取り軽やかに受付へと向かっていった。
 
■お願い
「なんや、もう店じまいか?」
 受付に置かれた段ボールに気付き、華蓮は残念そうにため息を吐いた。
「あ……申し訳ございません。今片付けますね」
 苦笑いを浮かべながらエリスは段ボールを足下に置いた。華蓮のコップを見ると、素早く背後に置いてあった大きめの白いポットを手に取り、新しいカップに暖かい紅茶を注いだ。
「はい、どうぞ」
「ありがと♪ あ、菓子も追加でよろしくな」
「はい、少々お待ち下さい」
 そんな会話を交わしている間にも、数は減りはじめたものの写真部への訪問客は途絶えることはなく、2人の様子を横目に見ながら展示室の方へと歩いていた。
「なんや……うちお邪魔かなぁ?」
「そんなことありませんよ。ここに居らして下さる方は皆様大切なお客さまです。堂々としていらして下さい」
 にこやかな笑顔をしながらエリスはクッキー袋を差し出した。
「そやな、もちょっと楽しませてもらうで」
「はい、ごゆっくりお楽しみ下さいね」
 時計は午後2時55分を指していた。
 あと5分程で3時の時報が報される。
 だが、まだ交代するはずである次の担当者の姿は見当たらなかった。
 一瞬浮かんだエリスの焦りの表情を華蓮は見逃さず、小首を傾げながら訪ねる。
「なあ……何か焦ってるようやけど、どないしたん?」
「えっ……いえ、何でもありません」
「ええって、うちに遠慮することないよ。一飯の恩っちゅーやつや、うちに出来ることなら手伝ってやるで」
「……そう、ですか……あの実は、3時から始まる舞台劇を観に行きたいのですが……まだ次の担当の方が来られなくて……」
「ああ、あの劇な。昨日もゲリラでちょっとやってたみたいやけど、結構おもろかったで。でも……3時ならそろそろ行かんと見られんのとちゃうか? ……そや、ちょっとの間ならうちがかわりに受付やっててもええで」
「えっ……!?」
「そのかわり、ここにある菓子とお茶は食べ放題、お土産もオッケーという条件つきや」
 華蓮は片目をつむりながら悪戯っぽい笑顔を見せた。少年っぽい顔立ちの彼女がすると実に様になる。その姿に一瞬見とれていたが、すぐに気を取り直してエリスは分かりました、と返事をした。
「あー……でもうちだけやったら受付しきれそうにないな……ん、そや」
 華蓮は大きく手を振りながらシオンを呼んだ。
「どうかしましたか?」
 何も知らずに駆け寄ったシオンを可憐は半ば強引に受付に座らせる。
「ちょっとの間だけ受付係よろしく!」
「ええっ!?」
「何やそろそろ交代の時間なのに、次の担当の人が来ないらしいんよ。このままだと可愛そうやから、うちらも協力してあげようってことになったんや」
「10分程でまた戻ってまいりますし、すぐに交代が来ると思いますので……よろしくお願いします」
 その時。3時の時報ととともに舞台劇開催のアナウンスが流れた。それでは、と一礼し、エリスは駆け足ぎみに体育館へと向かっていった。
「いってらっしゃーい」
 にこやかに手を振り見送る可憐。
 ぽかんと半口を開けたシオンの前にそっとクッキーの袋が差し出される。
「受付いうても入室してくれる人は勝手に名前書いてくれるし、担当者が来るまでの辛抱や」
 紅茶の用意はどうするのだろう、と心の中で思いつつも、シオンは特に口に出すことなく素直に袋を受け取った。
 
■写真にこめられた力
 ほどなくして、写真部の生徒が訪れ、2人は無事受け付け係から解放された。
「有難うございました。お礼にお2人を1枚づつ、特別に撮りましょう」
 そう言って彼はポラロイドの用意を始めた。
「ばっちり可愛く撮るんやで?」
「僕は人物撮影が得意なんです、任せて下さい」
 そう言いながら彼は腰を下ろし、しっかりとカメラを構えて被写体を捕らえた。
「はい、いきますよー」
 
 パシャリ
 
 まばゆいフラッシュの光が部屋中に輝いた。
 取り出された黒いままのフィルムを差出しながら、彼は言う。
「しばらく手で暖めてからシールをめくってくださいね」
「何分ぐらい暖めておけばいいですか?」
「1分程で大丈夫ですよ」
「なんや楽しみやなー……どんな風に撮れたかワクワクしてきた」
「僕達もそういう楽しみがあって、写真部をしているんですよ。カメラのフィルムに収めると被写体がまた違った姿を見せるんです」
 カメラが映すものは実際にあるものをそのまま映すのではない。その瞬間の空気・被写体の心・そしてカメラマンの気持ちまでも映し込むのだ。
「あそこに飾られているものは全部、僕達の魂がこもった1枚といったところでしょうね」
「だからこそ、あんなにも素晴らしいのですね」
「……うち、この写真大切にするな」
「はい、そうして頂けると僕もすごくうれしいです」
 ガラリと扉が開き、演劇を見終わったエリスが帰ってきた。
「あ……部長」
「エリス君おつかれさま。後は僕がやっておくから」
「あれ……でも部長は今日の担当ではなかったと記憶しているのですが……」
「んー。今日はもう見るもの終わったしなぁ。それに、2枚も良い撮影が出来たから満足してるんだ」
「へぇ……本当やな。ばっちり綺麗に撮れてるで」
 校庭が見える窓辺を背景に、屈託のない笑顔を浮かべる華蓮の姿。ぽっかりと浮かぶ月とその逆光を受けながらもしっかりと映る華蓮の笑顔。まさに被写体と背景の一瞬の輝きをおさめた一枚だ。
「……あれ?」
「どうかしました?」
「なーんか……この写真おかしくないか?」
「そうですか? 綺麗に撮れてると思いますけど……」
 首を傾げて考え込むも、不思議とその疑問への解答は思い浮かばなかった。
「ま、いいや、綺麗に撮れたから良しとするかな」
「ああ、そうだ。エリス君も並びなよ。3人一緒に撮ってあげるよ」
「えっ……宜しいのですか?」
「せっかくの学園祭だからね。それに、せっかく知り合いになれたんだから記念の1枚ぐらいあってもいいんじゃないかな」
 ほら並んで、と彼はエリスを2人の隣に並ばせた。
「さて、いくよー……はい、笑顔つくってー」

 パシャリ。
 
 その1枚は学園祭の間、展示室に飾られることになった。
 丸い満月をバックに笑顔を見せる3人の笑顔は、どの展示物よりも輝いていた。
 
 おわり
  
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/    PC名   /性別/クラス】
 1178/エリス・シュナイダー/女性/不定
 3356/シオン・レ・ハイ  /男性/3年C組
 4016/ 松山・華蓮    /女性/不定
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■         ライター通信          ■
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 お待たせいたしました。
 この度はパーティノベルでのご依頼大変ありがとうございました。
 
 参考に頂きました写真部の展示物はどれもすばらしく、大きなパネルでの一枚で展示されていたら、その迫力にびっくりしてしまうでしょうね。
 ポラロイドに映された不思議については、すでに納品された他作品から気付いているとは思いますが、時間軸と話の都合上、参加されている段階では気付けないようになっています。どうぞご了承下さい。
 
 それではまた、別の物語でお会いできるのを楽しみにしております。
 
  文章執筆:谷口舞