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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


調査コードネーム:ジャンケンジャンケン☆ポン!
執筆ライター  :階アトリ
調査組織名   :界鏡現象〜異界〜
募集予定人数  :1〜8人

------<オープニング>--------------------------------------

 八束ケミカル本社ビル屋上。
 屋上緑化で作られた小さな人工林の中には、小さな赤い鳥居があり、これまた小さな稲荷社があるのだが、参拝する人間は稀だ。普段は、サボりの社員が昼寝をしているか、一部の社員の昼休みの憩いの場になるかくらいで、人口密度は極めて低い場所である。
 が、本日はとある「祭」により、屋上には人がひしめいていた。天気は秋晴れ。風も爽やか、絶好の祭日和である。
「ニューヨークに、行きたいかーっ!?」
 社の主、稲荷ノ・椿(いなりの・つばき)が、特設ステージの上で拳を振り上げた。
 優勝商品ってニューヨークなのか? いや、違うだろ言いたかっただけだろ。ここはノってあげたほうがいいんじゃない?
 どよどよとテンション下がりつつ、おー! と、ステージ下でも中途半端に拳が上がる。参加者に気を使わせるとは、駄目な主催者だ。
「只今より、椿稲荷神社主宰ジャンケン大会を開催する! 用意はいいかーっ!?」
 グルグル肩を回す椿の足元には一升瓶が転がっている。当然のように、中は空。アルコールの回りきったハイさで、イベントが開始した。
「ジャーン、ケーン、ポーン!」
 椿が高々と掲げたのはチョキ。パーを出したものはその場に座った。
「よっしゃ。ほな、勝ち残った者は、も一回! ジャーン、ケーン、ポーン!」
 椿との勝負が数回繰り返され、どんどん人数が絞られてゆく。
 祭と称して今日行われているのは、稲荷狐自らの発案による、ジャンケン大会である。
 大会といっても、賞品はささやかだったりして……参加賞は健康食品の試供品セット(八束ケミカル自社製品)。三位にはお米券30000円分(二名)。ニ位には商品券50000円分。
 優勝商品は、椿稲荷による金運アップの授与、「宝クジか万馬券かパチスロが大当たりするかもしれないYO!」権である。
 多分、優勝賞品が一番微妙……。


 最終的に勝ち残った数人が、ステージに上がった。決勝トーナメントの始まり、である。

------<一回戦その一>------------------------------

 籤引きにより対戦が決まった二人が、前に出た。椿が早速マイクを向ける。
「ほな、お名前と年齢とご職業をどうぞー!」
「菱・賢(ひし・まさる)。16歳。高校生、兼、僧兵だ!」
 短髪に学ランの少年が威勢良く答え、
「八束・山星(はちづか・やまぼし)。齢350。会社重役」
 和服のオッサンは覇気のない表情で答えた。
 その、余裕とも取れる態度に、賢の片眉が心持ち上がる。
「重役ってことは、てめぇ、ひょっとして金持ちか?」
「あー。そやな、ワシ、貧乏なほうではないで。うん。むしろ金持ちかもしれん。っていうか一般的な尺度からいくと多分金持ち?」
 台詞が長い。みるみる内に、ピキン、と賢の目に敵愾心が宿った。金持ちという人種は、彼の大嫌いなものの一つである。
「畜生! 金持ちなんて大嫌いだ! 尋常に勝負しやがれ!」
「おっと、菱選手やる気満々です! では、始めてください!」
 椿の宣言を合図に、ジャーンケーン、と会場中からかけ声。ポン、で出された手は――――
 賢、パー。山星、グー。
「一回戦一回目、勝者、菱選手ー!!」
 高々と、賢は拳を振り上げた。


 賢が言い渡した敗者への罰ゲームは、お人形と着せ替え服を買ってくることである。プレゼントかと聞かれたら、はっきり自分のものだと言うのが条件だ。
「…………買うて来たで」
 数十分後、山星はカラフルな包みを抱えて帰ってきた。玩具屋でよほど注目を浴びたのか、顔が赤い。
 確認のために包みを解くと、中身はしっかり、瞳キラキラのリカちゃん人形と、リボンとフリルいっぱいのお洋服だった。
「ええトシになっても、恥ずかしいことってあるもんなんやな……」
 などと本人は呟いているが、それはいいトシだからこそ恥ずかしいのである。


------<一回戦そのニ>------------------------------

「お名前と年齢とご職業をどうぞー!」
 次に出てきた二人に、またまた椿はマイクを向けた。
「海原・みなも(うなばら・みなも)です。中学生で、今13歳です」
 古風なデザインのセーラー服を着た少女が、折り目正しく会釈をする。青いロングヘアが華奢な肩の上でさらりと揺れる、清楚なたたずまいが可憐だ。
「八束・銀子(はちづか・ぎんこ)。齢は253歳。主婦ですわ」
 続いて、和服の女が頭を垂れた。
「海原選手、意気込みのほどは?」
「え? あ、はい、お米券や商品券がもらえたら家計が助かりますし……頑張ります。いえ、その、うちが貧乏と言うわけではないんですが」
 いきなりの質問に、みなもは緊張した声で答え、頬に薄く朱を昇らせる。家族思いのいい子じゃないか、と年寄りめいた感激をする者が、舞台の下にちらほら。うんうん、と椿も頷いている。……イベントの主旨が変わっていないか?
「是非持って帰って欲しい! ほな、始めてください!」
 またまた、椿の合図に合わせ、ジャーンケーン、と会場中から掛け声。ポン、でそれぞれが出した手は――――
 みなも、チョキ。銀子、パー。
「一回戦二回目、勝者、海原選手ー!」
「やったー!」
 満面の笑顔で、みなもはチョキの手を掲げた。Vサインである。


 申し訳なさそうに、みなもが提案した罰ゲームは、某劇団の猫のミュージカルの衣装を着て撮影をする、というものだった。
「あら。そんなことでよろしいの?」
 縞模様の全身タイツに、猫顔メイクまでして出てきた銀子は、ノリノリだった。
 衣装はどこから出てきたのかというと、みなもの姉から提供されたものだと言う。その提供者からの指令で、何故かみなもも猫衣装とメイクを施されてステージに出てきた。カメラを向けられ、二人は並んでポーズをとる。
「お姉さまったら……」
 みなもは少し目に涙を溜めているが、銀子は楽しそうだった。あまり、敗者への罰ゲームにはなっていないようだ。

------<一回戦その三>------------------------------

「ほな、サクサクいくで! お名前と年齢とご職業をどうぞー!」
 次の二人も女性だった。
「シュライン・エマ(しゅらいん・えま)。エマが姓よ。26歳。翻訳家であり、幽霊作家であり、かつ、草間興信所事務員、というところかしら」
 まず、すらりと長身の女性が名乗った。マイクを通し、スピーカー越しでも、凛とした声であることがわかった。長い黒髪は邪魔にならないよう、無造作にまとめてあるが、その艶やかさのおかげでけして地味にはなっていない。切れ長の目に、クールな色味のアイシャドウの映える、大人の女だ。
「伊吹・孝子(いぶき・たかこ)。17。あなたの街の呪い屋さん」
 対するのは、ブレザー制服の少女だった。むっつりとマイクに向かって名乗ると、プイとそっぽを向いてしまった。シュラインも孝子も、お互いこんなに早く再び会ってしまうとは、夢にも思っていなかった。もっとも、わだかまりを持っているのは孝子だけのようだが。
「エマ選手、自信の程は?」
 椿がシュラインにマイクを戻した。
「当たったらラッキーって事で、どこまで勝ち進めるかやってみるわ」
 祭りで楽しんで、ついでに、事務所にいいものを持って帰りたいな、なんて、ついつい考えてしまうシュラインだった。
「お米券か商品券が貰えると有り難いわね」
「金券ですか! あの、ところで優勝賞品はいかがですか?」
「いまいち信憑性に不安が残らなくもないけど、持って帰ったら意外と喜ばれるかも……?」
 さらりと、シュラインは言った。一般的に見て、シュラインの意見は非常に冷静、かつ的確であろう。金券は目に見えるが、金運は目に見えない。そして、椿稲荷の霊験は、実際かなり疑わしいのだった。
「あー……、えー……、そないなことおっしゃらへんで、是非とも優勝目指してくださーい」
 冷や汗を垂らしつつ、椿は腕を振り上げた。
「ほな! 構えて!」
 ジャーン、ケーン、と会場中から声があがる。ポン。それぞれが出した手は――――
 シュライン、グー。孝子、チョキ。
「一回戦三回目! 勝者、エマ選手ー!」
 にっこりと、シュラインは形の良い唇に笑みを浮かべた。
「せ、生活かかってたのに……!」
 がっくりと、孝子がステージに膝をついた。


 シュラインが提案した罰ゲームは、兎跳びでステージを三周か、歩道で元気に自分で歌いながらラジオ体操をするか、どちらか一つを選択。
 だったのだが。
「両方やるわよ。ここで引き下がったら二重の意味で負けじゃないのよ!」
 孝子はそう宣言し、そして、本当に実行した。意地っ張りである。
 兎跳びでステージを三周した後、孝子はステージを降りて行った。屋上から下を覗けば、ビルの前の歩道で、やけっぱちで脚を開き、勢い良く腕を振り上げる彼女の姿を見ることができたと言う……。
 スポーツの秋にぴったりの罰ゲームであった。

------<一回戦その四>------------------------------

「はいー、ほな一回戦ラスト! お名前と年齢とご職業をどうぞー!」
 前に出たのは、またもや女性二人である。
「あたしはウラ・フレンツヒェン(うら・ふれんつひぇん)」
 まず名乗ったのは、独特な服装の少女だった。
 白いドレスシャツの上に、黒いワンピースを着ている。ワンピースの上半身は、細いウエストのラインを強調するようにぴったりとしているのだが、スカート部分は、それとは全く逆に、丸く膨らんでいる。丈は膝上。ニーソックスに包まれた脚は、ふわふわに膨らんだスカートの裾との対比で、余計に細く見える。
 レースとフリルのたっぷりとついた、まるでお人形の着るような、いわゆるゴシックロリータな服だった。
「14歳よ。そして、魔術師見習にして助手」
 スカートの裾を摘んで、ウラは軽く会釈する。きっちり切り揃えられた長い黒髪が、頭の動きに合わせ肩の上を流れた。
 白い顔は、東洋系とも西洋系とも取れる不思議な整い方をしていて、それが服装と相俟り、ウラを人形めいた少女に見せている。
「性別は、女。見ての通り。ククッ」
 というか何故彼女はこの場にいるのか。引き寄せられる何かがあったのか。面白そうな所には神出鬼没であることは確かかもしれない。
「クヒッ…ヒヒヒッ」
 ウラは彼女特有の、喉が引き攣れたような笑いを漏らした。黙っていれば可愛いのに……とは、多分この場に居る全員が思ったことであろう。
 次にマイクを向けられたのは、ショートカットのヘアスタイルに、ジーンズにシャツという、ゴスロリとは対極にあるようなシンプルないでたちの女性だった。が、インパクトは負けず劣らずである。
「八重咲・マミ(やえざき・まみ)、22歳! ロックバンド「スティルインラヴ」のメンバー!」
 マイクを通さなくても、屋上中に響き渡らせることが可能ではないだろうか。見事な声量だった。
「目標は、当然優勝! ここ2ヶ月、サ○エさんのジャンケンには無敗ッ!! 応援よろしくッ!!」
 マミのテンションに引きずられ、周囲は一瞬ロックコンサート会場のような様相を呈する。しかも、いつの間にかマミがマイクを持っている。
「はいっ。八重咲選手は気合充分ですね! フレンツヒェン選手、どないですか、何か抱負はありますか?」
 慌てて取り戻したマイクを、椿はウラに向けた。
「世界はあたしを中心に回っているのよ」
 フフン、とウラは笑った。不遜とも取れる笑みだ。自然、椿も司会者として盛り上がる。
「おっと、これは自信満々! もちろん目指すは優勝ですか!?」
 が、ウラは頭を振り、艶やかな唇を開いた。
「コメチケットが欲しい。家計が助かるわ」
「せ、世界の中心におらはる割には、意外とマメなお人なんやね」
 椿はズコーと擬音を背負ってコケそうな勢いである。
「もちろん、優勝したら、それはそれで嬉しい♪」
 首を傾げ、ちょこんと肩を竦めて言ったウラと、グルグルと肩慣らしの体操などしているマミとの間に、火花が散った。
「ほな、正々堂々、やってもらいましょう!」
 椿の音頭に合わせ、ジャーン、ケーン、と会場から声が上がる。ポン、で二人が出した手は――――
 ウラが、チョキ。マミが、グー。
「一回戦四回目! 勝者、八重咲選手ー!」
「負け……? あたしが……!?」
 ウラはチョキの手を震わせている。
「よーっし!!」
 ガッツポーズのマミの声は、本当にマイクなしで屋上中に響いた。


「屈辱だわッ。でも約束したことだからやるわよ。さあ、何でも言ってごらんなさい!」
 目端を染め、強がるウラにマミが提案した罰ゲームは、足ツボマッサージだった。
 椅子に座って、足の裏をマッサージ師さんに押される、アレである。そう、体に不健康な部分があればものすごく痛いという、アレ。
 アームレストつきの椅子が、舞台に出てきた。ウラが座ると、スカートのパニエで椅子の上がふかふかだ。
「ほら、押してみなさいよ」
 先の丸いエナメル靴を脱ぎ、ウラは足を差し出す。
「い、痛くないわよ……!」
 と言いつつ、涙目なのは気のせいか。
 痛みはともかく、健康増進には役立つのだから、とても良心的な罰ゲーム……だと言えるかもしれない。

------<ニ回戦その一>------------------------------

「はい、盛り上がって参りました! 二回戦開始です!」
 一回戦の勝者二人が前に出た。
「勝負は勝負だ。真剣に行くぜ」
 まず、賢が高らかに宣言した。
「はい。お互い、真剣勝負ですね」
 元通りセーラー服に着替えたみなもが、ぺこりと礼をする。
「ほな、行きましょか! 因みに、二回戦の敗者は三位に決定です!」
 じゃーん、けーん。
 ポン、で二人が出した手は――――
 賢がチョキ。みなもがパー。
「二回戦一回目、勝者、菱選手ー!」
「よしっ!」
 パン、と賢は拳で掌を打った。決勝戦進出である。
「ここまでかな。でも、お米券ゲットです」
 みなもは少し残念そうに息を吐いて、胸の前で指先を握った。


 さて、罰ゲームだが。
「ええ、慣れてます。慣れてますよ……」
 モジモジ君ばりの全身タイツで、みなもは舞台に立った。本人も呟いているが、確かに先ほどの猫衣装と、大差ないといえば大差ない。 

------<ニ回戦そのニ>------------------------------

「ほな、もう一人のファイナリストもチャッチャと決めましょ! どうぞー!」
 一回戦の勝者の残り二人が前に出る。
「お手柔らかにお願い致します」
 にこ、と笑うシュラインに、
「こちらこそ!」
 拳を握るマミ。こちらこそ、と言いつつ、ちっとも“お手柔らか”そうに見えないのは気のせいだろうか。
「こちらも、敗者は三位に決定です!! では!」
 じゃーん、けーん。
 ポン、で二人が出した手は――――
 シュラインがグー。マミがパー。
「二回戦二回目、勝者、八重咲選手ー!」
「やった、決勝進出ー!」
 マミはガッツポーズで飛び跳ねた。
「ま、楽しんだわね」
 負けたが、シュラインの表情は晴れやかだ。お米券。食費が浮く。万年貧乏の興信所所長は、恐らくとても喜ぶだろう。


 罰ゲームとしてシュラインに差し出されたのは、丸めたアルミホイルだった。
「噛むの?」
 言われるままにそれを口に入れて、シュラインは奥歯でしっかり噛んだ。舞台下からは、キャーやめて、とか、あれイヤだよね、とか、悲鳴じみたどよめきが上がった。提案したマミ自身も寒そうに肩を撫でている。
 が、シュラインは首を傾げる。言うほどの不快感はなかった。自分の感覚と周囲の反応とにギャップがある。
 そういえば、とシュラインは思い出した。金属で埋めた歯でアルミホイルを噛むと、微電流が流れて神経に伝わり、痛むのだ……と何かの本で読んだ気がする。だから、虫歯の治療跡のない歯はアルミホイルを噛んでも痛くならないのだ。
 そして、シュラインの歯はとても健康なのだった。これは、あまり罰ゲームにならない。ここで痛そうな顔をして場を盛り上げるべきなのかもしれないが、無理だ。
 堂々と罰ゲームを受ける覚悟はして来ていたが、演技の用意まではしていなかった。
「ごめんなさいね」
 バツが悪そうに、シュラインは苦笑した。
 
------<決勝戦>------------------------------

 さて、舞台の上はえらいことになっている。
 着せ替え人形セットを抱いて呆然としている男、猫コスプレの女、運動を終えて汗だくの少女、全身タイツの少女…………。そして、優雅に肘掛け椅子に座り、足裏マッサージを受け続けている、ゴスロリ少女。その表情には大層な余裕がある。慣れてきて、足ツボ刺激が快適になってきたらしい。
 これだけ見ると、言われなければ何のイベントをしているのかわからない。
「では、ジャンケン大会ファイナル!」
 敗者で唯一普通の格好をしているシュラインが、司会者の隣でパチパチと拍手した。
 決勝戦は、賢V.S.マミ。
「負けねえぜ!」
 熱くなって暑くなったのか、羽織っていた学ランを脱ぎ捨た。
「何を! 私だって負けないよ!」
 対抗しているのか何なのか、マミもシャツを脱いで、下に着ていた黒いカットソーのみになる。少年マンガなら、二人の周囲に炎が燃え盛るシーンであろう。
「熱い! たかがジャンケン、されどジャンケン! 勘と運の勝負です! では、決勝戦!」
 ジャーン、ケーン。
 舞台の上からも下からも、声が上がる。
 ポン、で二人が出した手は――――。
 賢が、グー。そして、マミが、チョキ。
「優勝、菱選手ー!!」
「やったぜ!」
 晴れた秋空に向かって、賢は拳を掲げた。
「く……っ」
 満塁ホームランでサヨナラ負けしたピッチャーのように、がっくりと、マミは膝をつく。
「今弁慶とは俺のことだ、憶えておけ」
 マイクを向けられた賢の声が、優勝の辞として高々と響き渡った。
 
------<祭の後>------------------------------

 決勝を終え、舞台の上には祭りの終わりムードが漂っていた。
「楽しかったですね」
「そうね。賞品ももらったし」 
 みなもとシュラインは、お米券の入った熨斗袋を胸に満足げだ。
「賞品なんかより、優勝が欲しかった……にゃん」
 イベント終わりまで語尾に「にゃん」をつけるという罰ゲームを実行し、マミは恥ずかしそうに頬を赤らめた。その手には二位賞品の商品券の入った熨斗袋があるが、言葉通り、不満げだ。
「そういや、俺、お米券欲しかったんだよな。育ち盛りだし」
 ノリと勢いで思わず優勝してしまった賢だが、初心を思い出して微妙な表情になる。
「いやいや。馬券でも買うてみ、当たるかもしれへんで。したら、米とか買い放題やん?」
 賢の肩に、椿がポンと手を置いた。
「俺未成年だから買えねーし」
 据わった目で、賢は椿を見た。大体、賢は「金運コイコイ」などと怪しげな呪文を唱えられただけである。それに、公営とはいえ賭博で利益を得るなど、仏の道を行く者としては堕落以外の何物でもない。
「お米券……」
 溜息で、賢は肩を落とした。
「クヒヒッ」
 肘掛け椅子に座っているウラは、舞台上の悲喜こもごもを見守りながら機嫌良く笑っている。その隣には、孝子がいた。手には、コンビニのビニール袋が下げられている。中身は大量のプリンだ。
 決勝戦が熱く繰り広げられる背後で、実は密かに二人は勝負していた。負けた悔しさのあまり、リベンジ戦をふっかけたのは孝子だったが、見事に敗北し、ウラによって罰ゲームを言い渡されていたのだ。
 コンビニで、自腹でプリンを、舞台に居る人数分購入。うっとりと「大好物なんです」という宣言つきで。
 律儀に走って実行してきた孝子は、先ほどよりも更に汗だくになっていた。
 ということで、一人一コずつ、プリンをつつきつつの閉幕となった。
 椿が再びマイクを取る。
「はーい、ほな、泣いたり笑ろたり色々ありましたが、八束稲荷大明神主催によるジャンケン大会、ここに閉会致します!」
 舞台の後には、鎮守の森と朱の鳥居。
「皆々様には、真に、お疲れさんでしたー!」
 鳥居を背に立ち、椿は深々と頭を下げた。
 屋上を秋風が吹き渡る。晴れた空の下、ジャンケン大会の幕は、舞台の上と下からの拍手によって引かれたのだった。

                                        END


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【3070/菱・賢(ひし・まさる)/16歳/男性/高校生兼僧兵】
【1252/海原・みなも(うなばら・みなも)/13歳/女性/中学生】
【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま/26歳/女性/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【3427/ウラ・フレンツヒェン(うら・ふれんつひぇん)/14歳/女性/魔術師見習にして助手】
【2869/八重咲・マミ(やえざき・まみ)/22歳/女性/ロックバンド】

+NPC
【稲荷ノ・椿(いなりの・つばき)/500歳/男性/稲荷のお使い白狐】
【八束・銀子(はちづか・ぎんこ)/253歳/女性/重役婦人・妖狐】
【八束・山星(はちづか・やまぼし)/350歳/男性/会社重役・妖狐】
【伊吹・孝子(いぶき・たかこ)/17歳/女性/邪法使い】
(全て   http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=1080  より。)

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          ライター通信         
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 こんにちは、お世話になっております。もしくは、初めまして。お届けさせていただきました、階アトリと申します。

 PL様のプレイングに助けられてストーリーが進んで行くのが、ゲームノベルを書かせて頂く上での醍醐味です。
 では、いつもより、もっともっと多くの部分をプレイングに頼らせていただいてみたらどうなるだろう、と思って考えたのが、今回のこのノベルでした。
 正味、私が考えた部分は、自分のNPCの行動だけです。
 勝っても負けても楽しめるようにと心がけましたが、力及ばずな部分がございましたら申し訳ありません。

 トーナメントの対戦組み合わせは、お申し込み時期順になっております。
 お申し込み三番目までの方々には、一回戦でNPCと対戦していただきました。うちのNPCが勝ってもしょうがないだろう、ということで、全て、PCさんは手順を一つ消費するだけで二回戦進出という形にさせていただいております。
 罰ゲームについては、大体は書いてくださった順で実行しましたが、一部、こちらの判断で決めさせていただいたものもあります。

>菱・賢さま
 毎回、元気に動いてもらうことを心がけているのですが、如何でしたでしょうか。
 今回、設定にある「すぐ脱ぐ」を少しだけ実行させていただきました。……楽しかったです。

>海原・みなもさま
 順番に罰ゲームをあてていったら、素晴らしくピッタリと「全身タイツ」があたりました(笑)。
 衣装提供のお姉様は客席から見守っておられたのでしょうか……?

>シュライン・エマさま
 変なテンションのお祭りの、ツッコミ役になっていただきました。
 そして……なんとなく、シュラインさんは歯がきれいなイメージがありまして。勝手にすみません。

>ウラ・フレンツヒェンさま
 初めまして。
 足ツボマッサージ、ウラさんはすぐに慣れて余裕の表情になってしまいそう、と思ったもので、あのような展開になりました。
 PCバストアップを参考にゴスロリ服を描写させていただいたのですが、イメージにそぐわないところがありましたら申し訳ありません。

>八重咲・マミさま
 初めまして。
 ボーカルもなさる、という設定なので、きっと腹式呼吸でお腹から声を出せる人なのだろうな……というイメージを持ち、書かせて頂きました。
 プレイングを読ませていただき、キャラクターが出ていて楽しかった部分を、自己紹介の台詞としてほぼそのまま使わせて頂いてしまいました。



 おかしなお祭り企画に乗ってくださり、本当にありがとうございました。そしてお疲れ様でした。
 私自身がとても楽しませて頂いてしまいました。
 ご参加くださった皆様にもお楽しみいただけることを祈っております。