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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


瞬きを繰り返す、その色の

 学園祭。
 何時の時も、祭の時は楽しくて。
 後になると、残りの時間が寂しくなる。

 僅かでも楽しむ為に参加している筈なのに――何故か、祭の終わりを思ってしまうのは。

「……不思議なものだと思うのよ」
 終わってしまうって知ってるのに。
 終わりが来て、当然だと思うのに。
 なのに、隣に立つ男は、きょとんとしていて。
 藤井・葛は、自らの美点であるとは本人は些かも気付いていない、艶のある黒髪を掻き揚げた。
 髪はさらさらと音を立て、涼しげな顔へとかかり。
 漸く、藍原・和馬もきょとんとした表情から、微笑へと表情を変えた。
 まるで不思議な事を初めて聞いたと言うように。
「んー? ……そりゃ随分と切ない感傷だ」
「……そんなもんなのかしら?」
「祭の毒気に当てられてる、とも言うな……悪くはないが」
「?」
 今度は葛がきょとんとする番だった。
 悪くはないと和馬は言うけれど、どうして悪くないのかが葛には理解できない。
 まるっきり、お手上げ状態だ。

 よって、葛は学園祭の雰囲気に再び身を沈めることにした。
 廊下を歩く度にかかる声。
 チケットを貰ったり、校内放送で誰かを呼ぶ生徒会役員の声や――先生の声。

 いつもの時間なら、人でごった返した教室に詰め込まれ授業を受けて居る時間。
 それだけに一層、終わりを思ってしまう事になるのかもしれない。
 ……と、葛は思うことにしてみた。

 否、考えた方が良いのかも知れない、と思ってみた。

 隣に歩いている相棒の顔を覗き込む。
 先ほどの葛の問いかけに対して別に思うことも無かったのだろう、実に涼しげな顔をして、「あそこの店はどうだ?」等と聞いている。
 黒の学ランをボタンをきっちりはめずに歩いている姿はだらしないように見えるはずなのに、そう見えないのは体格が良い所為なのか。
 聞かれる店に対して首を振り続ける葛に、怒る事も無く和馬は歩き続け、葛も早歩きになることなく付いていく。

 すると。

 人の声を避け、二人で歩いている内にアクセサリーショップへの前へと辿り着いていた。
 確か、本日――16日にやる出し物の中でも中くらいの規模を誇っている出し物だったように葛は記憶している。

「……入ってみない?」
「お前、こんなのに興味あったっけか?」
「それは放っておいて。どうなの? 入るの? 入らないの?」
「……俺は別に。お前が入りたいって言うならそれで構わない」
「じゃ、決まり」

 猫が踊りだすように歩く葛の後ろを和馬は追う。
 店内は、こじんまりとした雰囲気だが、色とりどりのビーズやガラスが綺麗に整頓されており、きらきらと室内でその存在感を示していた。

 楽しそうに、葛は此処の出し物をやっている生徒へと話し掛けている。
 が、いきなり振り返ると。

「……ねえ?」
「あん?」

 どうも居心地が悪く和馬はぼりぼりと顔を掻く。
 気恥ずかしいのではない。
 居、居心地が悪いのだ……喩えるなら彼女の買い物につき合わされ、男子が入っちゃ行けない所に連れ込まれた感じ……つまりは居場所が無いと言うか。
 が、和馬はそれを表情に出さない術を身につけていたので葛の呼び声にも、いつものように応じる事が出来た。

「御揃いで何か、作らない?」
「何で、また……?」
「記念に、かな……。終わってしまう事に対しても」
「いいけど……何にするんだ? 指輪か?」
 まあ、他のだとペアにするにしても俺がつけられないな、と和馬が笑うのを見て、葛も微笑う。
「そうね。指輪……良いかも。どの色をベースにする?」
「俺はこう言うの詳しくないからな……お前の好きな奴でいい……って、何だよ、その顔は」
「別に? 詳しくないのに指輪って言葉は出るんだって思っただけ」
「……はは」

 冷や汗が背筋を伝いそうになりながら和馬はふと、目を引く色彩を見つけた。

 翠、だ。

 くすんだ翠とはまた違う、鮮やかな翠。
 瞬きを繰り返すその向こうに見える、色。

「……済まないが、これ、入れてもらって良いか?」

 大き目の翠のビーズを掴み、和馬はそう聞くと、
「良いですよ、お好みの色で作れますから♪」
 と、あかるげな声が返ってきて。
 葛を見ると、何か言いたげな顔を、また、している。
 一言だけ、和馬は呟く事にした。
 …多分、それだけで葛はわかるだろうから。

「…葛の瞳の色」
「え?」
「翠、だろう?」
「あ……そう。そう、……翠だね」

 自分の瞳の色は触っているだけでは見えない。
 葛は、解ってはいても触ってしまう自分を止められなかった。
 瞳の色になぞらえて作ってくれるとは思わなかったから余計に。

 指のサイズを二人とも測ってもらい、ベースになる色や先ほどの大き目のビーズなど選んで待つこと暫し。
 程なくして、指輪が出来上がる。

「へぇ……」

 どちらがあげた声だったのか。
 二人は出来上がった指輪を互いの指にはめると、微かな笑い声を立てた。

 本当の指輪ではない。
 けれど、きらきら輝く指輪は確かに輝きを放つのだ。
 宝石であれビーズであれ、同様に。

 瞬きを繰り返す度に、陽の色に、灯りの色に、輝きを放つ瞳と同じように。

 二人は料金を払うと、今度は何処に行こうか……そう、話しながら学園祭の人波へと紛れていく。
 指に、お揃いの――"翠"を共に持ちながら。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

【1312 / 藤井・葛 (ふじい・かずら) / 女性 / 1−B】
【1533 / 藍原・和馬 (あいはら・かずま) / 男性 / 3−A】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、初めまして。
今回こちらのパーティノベルを担当させていただきましたライターの秋月 奏です。

とても楽しそうなパーティノベルの発注有難うございました(^^)
実を言いますと、副発注者一名のツインと言うのは需要が無いかも……と
怯えながらの窓開けでしたので、ご発注頂けた時は本当に嬉しく、また有難かったです。
有難うございます♪

>藤井・葛さま

今回、本当に発注有難うございました。
前回、残間様との異界コラボにおきましては葛さんに出会えて
当方の猫や少女も喜んでおりまして…こうして私の方でも
出逢えました事、大変嬉しく思います(^^)
素敵なPC様でしたので雰囲気など、壊していないと良いな思いつつ……
僅かばかり砂糖が多すぎでしたら申し訳ありません(><)。

>藍原・和馬さま

初めまして、藍原様。
葛さんと、本当に綺麗に重なっている発注文でしたので、出来うる限り
仄かな甘さ、仄かな甘さ〜!!と、自らに叫びながら描かせていただきました。
学生のお二人でしたので、そう言うどこか仄かなものを漂わせる事が
出来ていたら良いのですが(^^)
素敵なPCさんで凄く楽しんで書かせて頂きました♪


それではまた、何処かにてお会いできることを祈りつつ……。