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<東京怪談・PCゲームノベル>


★鶴来理沙の剣術道場

●ようこそいらっしゃいました! 〜オープニング〜

 はじめまして。
 当道場は剣神リサイアの巫女、鶴来理沙(つるぎ・りさ)の剣術道場になります。
(――――つまりこの私が道場主です!)
 場所はあやかし荘の大部屋を間借りして開いています。が、とある結界の力を用いて道場内に色んな修行の場を出現させたり、古の武術を伝える師範がいたりと、ふつーの道場ではないのです。
 武の道を極めたい人、必殺技の修行をされたい人、なんとなく和みたい人などは、ぜひ当道場の門をお叩きください。ビンボーですががんばりますので!
 あ、それと補足がひとつ。
 ただいま門下生希望者は、随時熱烈大歓迎☆

 それでは、本日も良き修行の一日を!!


●本日の修行、開始です!

 殺し屋(?)の 五降臨 時雨(ごこうりん・しぐれ) は軽く一礼をした。
「‥‥‥‥‥よろしく、ね‥‥」
 道場の中央でむきあった相手は本日の師範代、 村雨汐(むらさめ・しお) だ。彼女もシノビ装束に着替えた姿に剣を取ると、笑顔で答えた。
「はい、練習メニューは先刻より聞いています。テーマは『こじんまりとした暗殺剣ぱーと2』でよろしいですね」
「‥‥‥‥‥‥‥‥うん」
「では気を引き締めてまいりましょう」
 その宣言どおり、汐の表情は真剣なものへと変わった。
 静謐に満ちた道場で互いに剣を構えあうふたり――――

   どたどたどたどた・・・っっ!!!!

 静謐は無粋な騒音によって粉みじんに破壊されてしまった。
 雰囲気もなにもあったものじゃない。
 騒音の原因は、道場の端っこで盛大に倒れている 鶴来理沙 と、その頭にちょこんと乗り可愛く尻尾をふっているチワワ――例によって時雨の連れ込んだ謎チワワだ。
 ‥‥これって本当のホントに謎なんですけど、チワワ‥‥。
「‥‥‥‥‥‥‥‥なにをやってる、の?」
「は、はうぅ〜。チワワさんのお世話です‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥チワワの世話‥‥で、転ぶんだ。理沙‥‥」
「好きで転んでるわけじゃぜんぜんないですー!!」
 腕をブンブン振りながら必死の抗議をおこなう理沙だが、これっぽっちもさっぱり説得力に欠ける。逆にこんな状況の説明として彼女のふるまいに説得力があったらそれはそれで問題大ありといえるのだ。
「こじんまりというより、時雨さんの問題はパワーの制御だと思いますね。繰り返すとおり、時雨さんは自分のあり余る力のコントロールに課題があるといえますので、そこを重点に修行してまいりましょう」
 理沙を無視して、汐はゆっくりと構えた剣を水平に動かした。
 動きは徐々に遅くなり、次第にゆっくりと、ゆっくりと、止まっているかのように思われるほどの動きになった。
 汐の周囲の時間が止まってしまったかのような錯覚。
 しかし、よく観察すると彼女は、知覚が難しいレベルでじりじりと動き続けている。
「――――これは力や速さを鍛える練習法とは対極にあるもので、動きのこまやかさや正確さ‥‥つまり力のコントロールの重点を置いた修練法の一つです。逆練法という自己鍛錬の一種であり剣の動きをゆるやかに遅めるのですが、静止してもならない‥‥という修練法です」
「‥‥‥‥‥‥‥‥止まっているみたいだけど、止まっていけない? ひどく疲れそう‥‥」
「ええ、静止の剣に近づくほど膨大な集中力を要しますので」
 でも、だからこそ今の時雨さんの段階でしたら最適な修練方法ではないでしょうか、と言って汐は剣の動きを解いた。
 神速の動きを極める時雨にとっても、これは新鮮な練習だろう。時雨は剣を構えなおすと、汐の静止しているような動きをまねる。
 実際、やってみると想像以上に困難な修練だ。静止状態に近づけば近づくほど反比例した動きのこまやかさを要求される。神経の激しい磨り減りを感じる。
「これを続けることで‥‥その向こうにいつか、きっと、見えてくるものがあるはずですから」
 こうして、時雨の一日は静止剣の練習に費やされるのだった。

                             ○

 一方、苦労しながらチワワの相手をしていた理沙だが、かすかな気配を感じとった。
 素早く入り口へ顔を向ける。
「やっほ」
 そこにいたのは退魔士―― 神崎 こずえ(かんざき・こずえ) だった。でも、理沙は困惑の表情を浮かべた。
 口調こそいつものこずえだったが、雰囲気からいつもの活発さに比べてどこか違和感を感じ取っていたのだ。
「こずえさん‥‥こんにちは」
「こんにちは。その表情だと感づかれちゃったかな。あはは、巧く隠したつもりだったんだけどね」
 心配そうに近づいてきた理沙に、こずえは道場の柱に背を預けて静かに呟く。
「――――この間、あたしに闇の種を埋めた妖魔をやっと倒す事ができてね。まあ、色々苦戦させられたんだけど」
 そうですか、とだけ答える理沙にこずえは渋い表情で苦笑を浮かべる。
「‥‥その時気付いたのよ。あたしは今まで自分の銃をイメージして実体化させてたけど、それ以外の使い道もあるんだって事にね。そう、他の道もあるんだってさ‥‥」
 困ったように見守っている理沙に、こずえはひらひらと手を振って、吹っ切ったような明るい表情をむけて言った。
「で、剣術とは関係ないないけど、今日はそれを試してみたいの。自在空間の中なら、力が暴走しても平気だし、定期的に通ってる研究所よりも自由にやれるからね。具体的には闇の種の力を身体の中に行き渡らせて、運動力を高めてみようって思ってる」
「はい! 精一杯お手伝いしますっ!」
 理沙もぱっと顔を輝かせた。自分の背負ったものに対して、それまでのものをひっくるめて受け止めることで前向きになった人との出会いは、いつも心地のいいものだ。
 ――――えっと。
 ――――今、何か思い出しかけたような‥‥?
 ま、いいか。
「さっそく希望にそった修練のメニューを考えてきますので、少々お待ちを!」
「あ、それから組み手をしてみたいな。恋愛観の話もできるぐらい仲良くなってるみたいだし、村雨さんに相手してもらいたいんだけど‥‥いいかな?」
「もちろんです!」
 チワワを頭にのせて、理沙は道場の奥へと走り去った。


 修練後、全員は中庭の温泉で疲れを落としていた。
「やっぱりこずえさんにも大切なのは、意識の集中とコントロール‥‥精神を統べる修練ですね」
 汐がお湯につかりながら今日の修練を振り返っている背後には、一角の崩れた道場が見える。
 こずえの力は、発動させると一時的に爆発的な能力を得られるが、そのため彼女が制御に失敗した時は大きなリスクも伴うのだ。
 お湯をちゃぷちゃぷとさせていたこずえがあっけらかんと謝った。
「いやー、ごめんね。危険だって直感的には分かったんだけどさ。う〜ん、具体的には五感全部に異常を感じて、で、そのまま体がどこか深いところへ引き込まれる感じかな。言葉にすると難しいな‥‥。意識が残ったまま泥酔したような症状になっちゃうのよね」
「もう、今日はその一歩手前だったんですから、無茶は厳禁! 気をつけてくださいね!」
 被害が及んだ道場よりもこずえの体を心配した汐の発言だが、理沙はちょっぴり青ざめながら引きつった笑いで頷いた。頭の中では修理費のそろばんを弾いている最中かもしれない。
「こ、今度からはもっと強化した結界の中で、やれば、平気だと思い‥‥ます、し‥‥」
 はあ、と溜息をついた理沙は運の悪い今日一日を振り返る。躾のされていないチワワに腕の中で粗相をされてしまったり‥‥元凶はあのチワワめか!?
「ねえ、そんなに拳なんか握りしめてどうしたのよ? 理沙」
「あ、いえなんでも! そろそろあがりましょうっ!」
 三人が道場の奥にある 先に温泉から上がっていた時雨が畳敷きの休憩室で準備された夕食と一緒に待っていた。
 嬉しそうに席につく三人を時雨は待ったをかけた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥夕食は、漫才を披露した人から、だよ?」
「な、なんですかそれは! この私に、お笑いをやれと‥‥!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥うん、そう‥‥」
 えー、と一人騒ぎ立てる汐だが。
「いいんじゃないかな。面白そうだし」
「私もいつもそんな感じなのであきらめてますから。むしろお笑い仲間に引きづりこみたいですねっ!」
 いーやー!! と汐の絶叫がこだまする秋も深い剣術道場の夜であった。





【本日の修行、おしまい!】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1564/五降臨 時雨(ごこうりん・しぐれ)/男性/25歳/殺し屋(?)】
【3206/神崎 こずえ(かんざき・こずえ) /女性/16歳/退魔師】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 ゲームノベル『鶴来理沙の剣術道場』にご参加いただきありがとうございました。
 スローペースの執筆で大変ご迷惑をお掛けしてます。かなりスランプ気味のような昨今、頑張って脱出したいと思いますので。

 剣術道場はゲームノベルとなります。行動結果次第では、シナリオ表示での説明にも変化があるかもしれません。気軽に楽しく参加できるよう今後も工夫していけたらと思いますので、希望する修行やこんなのあったらいいなぁというイベントがあれば、雛川までご意見をお寄せください。

 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。