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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


闇夜に輝く幻

-オープニング-

 空には月が輝いていた。
 それを、軽蔑するかのように睨み付けると、生徒会長繭神は、手の中にある石を見つめた。
「まだ足らない」
 そう言うと、繭神は周囲を見回した。
 月夜に照らされた、校庭で、行き交う生徒の体に、ポワンと光りの粒が浮かび上がっているのだ。
「おい、お前これと同じモノを持っているな」
 強引に呼び止めると、胸ぐらを掴み、差し出せと言わんばかりに詰め寄った。
「え? 生徒会長? な、なんですか。ボクは何も持ってませんよ」
 余りの剣幕に弱々しく告げる男子生徒。
 すると、淡い光りは繭神の勢いに驚くかのように、ぶわっと舞い上がった。
 白とも青ともつかぬ光りは、一瞬大きく輝くと、すぐにその光りを鈍らせる。

「これ、何かしら」
 女生徒の1人が、手のひらの上に光りを乗せ不思議そうに呟いた。
「綺麗ね」
 隣にいた友人も、それを見つめうっとりとした表情をしている。
 そんな彼女達から少し離れた所に、初瀬日和と羽角悠宇はいた。
「すごい、ねえ、光りが舞い降りてくるみたい」
 悠宇に告げると、日和は片手を空に向けた。
 手のひらの上で、淡い光りは音もなく消えていく。まるで、雪が手のひらの体温で溶けてなくなる感じと似ている。
 空から降ってくる訳ではなく、どこからか風にのってやってくるのだ。
「すごく、綺麗」
 そう言うと、日和は、悠宇に訴えるような視線を向けた。
 日和の視線の前で、悠宇は瞳を優しく染め、問いかけるように首を傾げた。
「こんな中で一曲弾けたら素敵だと思わない?」
「……弾きたいんだろ?」
 悠宇の言葉に日和は大きく頷いた。
「とっくに下校時間過ぎてるし、真っ暗で危ないんだけど……俺も日和のチェロ聞きたいしな」
 いたずらっ子のように唇の端を歪めて笑うと、校庭の脇に置かれているベンチを指した。
「あそこでなら弾けるんじゃないか?」
 悠宇の言葉に頷くと、日和はチェロのケースを抱えて移動した。

-あらぬ疑い-

 日和はベンチに座ると、チェロのケースを大事そうに開いた。
 日和の隣には悠宇が座っている。
 ふと、視線を上げ、悠宇を見た。
 真剣な顔つきで自分を見ている視線に気付いたのだ。すると、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「俺、日和が奏でる音って、すんげえ好きだな」
 真顔で告げるものだから、日和の方が頬を染めると、照れ隠しも伴い、ケースを閉じたり開いたりと奇怪な行動を起こしていた。
「突然そんなこと言わないでよ」
 弱々しく文句など言ってみる。
 淡い月が輝き、闇夜には蛍のような輝きを放つ光が浮遊している。だからだろうか、なんだかいつもと違い、ロマンチックな気分になる。
 ふと、日和は手のひらを上げた。
「蛍みたいよね。でも……」
 そう言うと、手の平に落ちてきた光りの粒を握りしめた。
「溶けるように消えてなくなっちゃう」
 そして、そっと手を開く。
 そこへ、何粒かの光りがまた落ちてきた。
 なぜか、消えてしまうのがもったいなく、日和はそれを握りしめた。
「お前も……か」
 が、突然闇から現れたかと思うと、男は日和の手首を掴み、引っ張り上げた。
「痛いっ」
 小さく叫ぶと、非難がましく目の前の男性を見つめた。
「放して、繭神君っ」
 そう、日和の目の前にいるのは、この学園の生徒会長繭神なのだ。
 その生徒会長が、なぜ日和の腕を掴み上げているのか皆目検討が付かない。
 日和の隣にいた悠宇は、日和の小さなうめきを聞くや否や、繭神の胸ぐらを掴み上げた。
「おまっ……何やってんだよ。放せよ」
 憤慨すると、悠宇は繭神の胸ぐらを掴んだまま、後ろへと押しやった。
 少しよろけながら後ずさると同時に、日和の腕を放した。
 日和は非難がましく繭神を見つめると、軽く睨み付けた。
「文句を言いたそうな顔だな」
 しれっと言い切る繭神に、反発しようと口を開きかけたが、目の前に悠宇の体が割り込んできた為、口を閉じた。
「お前、日和になんの恨みがあるんだよ」
「恨み? 彼女が持っているモノを渡してもらおう」
 冷ややかな視線を2人に向けると、乱れた制服を整えながら、苛立ちを含ませた声を紡いだ。
「持っている……モノ?」
 悠宇は日和を見た。
 日和も自分自身を見つめた。
「……これ?」
 日和は、チェロのケースを自分の前に置いた。
「……イヤ」
 繭神は不愉快そうに眉間に皺を寄せた。
「これと同じモノだ」
 そう言うと、繭神は、胸ポケットから、小さな石を取り出した。
 それは、何かのかけらのようにも見えるモノで、手のひらにすっぽり治まる大きさをしていた。
 繭神は、それを親指と人差し指でつまんで2人に見せた。それは、闇夜に輝く月の光をうけ、淡く輝いていた。
「……きれい」
 思わず呟いいてしまう。そんな日和に悠宇は軽く溜息を吐いていた。
「……持ってないわよ」
 慌てて1つ咳払いすると、日和はきっぱりと言い切った。
「だが、お前の手の中が光るのを見た」
 そこで、日和と悠宇は顔を見合わせた。
「それってさ」
 悠宇は周囲に視線を向けた。
 それにつられるように、繭神も疑いの眼差しを日和に向けながらも、周囲に素早く視線を移した。
「……?」
 淡く輝く光の粒が、彼らの周り、そして校庭一帯に浮遊しているのだ。
「なんだ、これは」
 掠れた声で呟くと、問いつめるように2人を見た。
「さあ、俺らが知ってるわけないだろ? なあ」
 最後は日和に問いかけたものである。悠宇の言葉をうけ、日和も大きく頷いた。
「……まさか」
 小さく呟くと、繭神は疑ったことを謝りもせず、校舎へと走っていった。
「なんだ、あれ」
 思わず肩を竦める悠宇の後ろで、日和はぷうっと頬を膨らませた。
「生徒会長のくせに、なんなのよあの態度」
 そう言うと、訴えるように悠宇を見た。
「せっかく気分よかったのに。繭神君のお陰で台無しだわ」
 そう告げると、もう一度頬を膨らませた。
「なんだか、このまま帰るのもしゃくだもの。繭神君のこと見張ってみるわ」
 きっぱりと悠宇に言い切ると、日和は繭神が走って行った方向に視線を向けた。
「おい、日和」
 頭の中に指をつっこむと、髪をかきむしった。
「とに、デートはぶちこわされるわ、日和はやっかい事に首を突っ込もうとするわ……なんなんだよ」
 と、ぼやきながらも、日和からチェロケースを奪い取った。
「重たいモノは俺が持つ」
「悠宇……」
 ぶっきらぼうないい方だが、自分のことを大切に思ってくれているのがヒシヒシと感じられ、日和は照れくさそうに微笑んだ。
 時々、自分でも信じられない程強気な行動をする時がある。なぜだろうか――きっと、いつも悠宇は隣で守っていてくれるからだろう――だから、気が大きくなったりするのだ。
 悠宇がいるから、自分は守られているという安心感に包まれるのだ――。
「いいか、深追いするなよ」
 しっかり釘を差す悠宇に、日和は微笑みながら頷いた。

-垣間見た真実-
 
 校舎裏、そこに繭神はいた。
 淡い光りの粒が、そこだけ密集するように浮遊していた。
 それを、手で払いながら、周囲に鋭い眼光を走らせた。
「消えた……か」
 何に対して言っているのだろうか、彼の後を尾行していた日和と悠宇は、彼から死角になる位置で動きを止めていた。
 いつも冷静沈着な繭神らしからぬ、動転ぶりに、2人は顔を見合わせた。
「あいつ、絶対何か隠しているよな」
 悠宇は囁くように日和に耳打ちした。
 それに、日和も頷くと、唇に人差し指をあてた。
 2人の視線の先で、繭神が忙しげに動き出したからだ。
「ちっ。時間がないな」
 繭神は空を見上げると、悔しそうに呟いた。
「簡易的だが……封印を強化するか……」
 苦渋の選択とでもいうのか、顔を歪めると、ポケットに手を突っ込んだ。
 そして、そこから数個の「石」を取り出した。
 それは、月に照らされ、ふんわりと輝きを放つ。
 校舎の影から繭神を見ていた日和と悠宇は、どこか異様な光景に、生唾を飲み込んでいた。
 そこだけ、異質で、まるで現実離れしている世界に感じられたからだ。
 気付けば、日和は後ずさっていた。
 言いしれぬ恐怖が勢いよく襲いかかってきたのだ。
 目に見えぬから、それはたちが悪い。
「日和?」
 小声で名を呼ぶと、繭神を気にしながらも、悠宇は日和に視線を向けた。
「ちょっと、怖くて……」
 素直に答えると、軽く頭を振った。
「大丈夫――」
 そう言って、視線を校舎の先に向けた。
「悠宇、ねえ」
 掠れた声が紡がれた。
「どうした、日和――」
 日和が指さしている先をなぞって見た。
 が、そこには何もなかったのだ。
「繭神……は?」
 悠宇の言葉に日和は首を振った。
「さっきまでいただろ? 目を離したのはほんの一瞬だ」
 そう、そして、校舎の先は行き止まりで、出入り口はどこにもない。
「消えた……の?」
 釈然としない気持ちのまま、2人はその場に立ちつくしていた。

-1日が終わるとき-

 先ほどと変わらない暗黒が辺りを支配している。
 空に輝く月は淡い光りで、闇夜を切り裂くほどの威力はない。
 今だ消えることなく漂っている、光りの粒だけが、闇夜を淡く照らしていた。
「ねえ、繭神君、一体何をしているのかしら」
「さあな」
 校庭を歩きながら、日和は唇を尖らせた。
「前から思っていたのよね。生徒会長ってだけじゃなく、どこか近寄りがたい雰囲気があるの、彼って」
 クラスメートだから言える言葉だろうか、悠宇は日和を見つめた。
「なあに?」
「いや、なぞめいているのは確かだよな。でも、時間も時間だし、帰るか?」
 が、悠宇の視線の先で、日和は立ち止まった。
 そして、辺りを見回している。
 我が侭を言いたい。しかし、それを言ったら自分は呆れられるだろうか――。
 視線で悠宇に訴えながら、日和は口ごもった。
「せっかくだし、一曲弾いていくか?」
 日和の態度で、彼女の気持ちを察したのか、悠宇は優しい口調で告げた。
 悠宇の言葉に、日和は嬉しそうに微笑んだ。
 幻想的な夜に、チェロを奏でられる。これほど幸せなことはない。
 そして、隣には大切な人がいる。
 日和のチェロから優しい音が奏でられた。
 先ほどの事件で、凍てついた心を和らげてくれる。
「やっぱり、日和のチェロは最高だな」
 
 この学園で何が起こっているのか解らない。
 もしかしたら、とてつもないことが起こるのかもしれない。
 あるいは――。

 だからこそ、この幸せな瞬間を大切にしたい。
 愛しい人と共にいられる、この瞬間を――。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3524 / 初瀬・日和 (はつせ・ひより) / 女 / 2-B】
【3525 / 羽角・悠宇 (はすみ・ゆう) / 男 / 2-A】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、日和サマ&悠宇サマ。
 また、お会い出来たことを光栄に思います。

 改めまして、ライターの風深千歌(かざみせんか)です。
 今回の学園ノベルは、「物語の真相」を感じさせながら、謎を残したお話になっております。
 ご一緒にご参加ということでしたので、ノベルの内容は同じものとなっております。正し、各々の視点で書いてありますので、読み比べられても面白いかと思います。

 ご満足頂ければ宜しいのですが……。
 設定などで違う点などございましたら、どうぞ遠慮なくおっしゃって下さい。修正させて頂きます。

 また、どこかでお会いできることを心待ちにしながら――。