コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<幻影学園奇譚・学園ノベル>


闇夜に輝く幻

-オープニング-

 空には月が輝いていた。
 それを、軽蔑するかのように睨み付けると、生徒会長繭神は、手の中にある石を見つめた。
「まだ足らない」
 そう言うと、繭神は周囲を見回した。
 月夜に照らされた、校庭で、行き交う生徒の体に、ポワンと光りの粒が浮かび上がっているのだ。
「おい、お前これと同じモノを持っているな」
 強引に呼び止めると、胸ぐらを掴み、差し出せと言わんばかりに詰め寄った。
「え? 生徒会長? な、なんですか。ボクは何も持ってませんよ」
 余りの剣幕に弱々しく告げる男子生徒。
 すると、淡い光りは繭神の勢いに驚くかのように、ぶわっと舞い上がった。
 白とも青ともつかぬ光りは、一瞬大きく輝くと、すぐにその光りを鈍らせる。

「これ、何かしら」
 女生徒の1人が、手のひらの上に光りを乗せ不思議そうに呟いた。
「綺麗ね」
 隣にいた友人も、それを見つめうっとりとした表情をしている。
 そんな彼女達から少し離れた所に、初瀬日和と羽角悠宇はいた。
「すごい、ねえ、光りが舞い降りてくるみたい」
 日和は楽しそうに片手を空に上げている。それを見つめながら悠宇は1人微笑んでいた。
 目の前の日和は、無邪気に光りと戯れている。
 それが、子供っぽくて余りにも可愛いのだ。
 こんな彼女を独り占めしている自分が、また嬉しかったりする。
 光りは、どこからか風にのってやってきているようだ。
「すごく、綺麗」
 そういうと、日和は悠宇を見た。
「こんな中で一曲弾けたら素敵だと思わない?」
 訴えるような視線に、思わず苦笑する。
「……弾きたいんだろ?」
 すると、日和はパッと顔を明るくした。
「とっくに下校時間過ぎてるし、真っ暗で危ないんだけど……俺も日和のチェロ聞きたいしな」
 ニッと唇の端を上げて笑うと、辺りを見回した。
 そして、校庭の端に置かれているベンチを見つけそこを指した。
「あそこでなら弾けるんじゃないか?」
 悠宇の言葉に頷くと、日和はチェロのケースを抱えて移動した。

-あらぬ疑い-

 日和はベンチに座ると、チェロのケースを大事そうに開いた。
 そんな日和の隣には悠宇静かに腰掛けた。
 日和が何気なく悠宇を見上げた。
 いつ見ても綺麗だな――そんなことを思っていると、かなり長い間見つめていたらしく、視線の先で日和が頬を染めていた。
 慌てて視線を外すと、照れ隠しも伴い、1つ咳払いした。
「俺、日和が奏でる音って、すんげえ好きだな」
 すると、日和は更に顔を赤くし、意味もなくケースの開け閉めをしている。
「突然そんなこと言わないでよ」
 恥ずかしそうにはにかみながら告げるその顔が余りにも可愛くて、悠宇の顔を自然と微笑んでいた。
 淡い月が輝き、闇夜には蛍のような輝きを放つ光が浮遊している。だからだろうか、なんだかいつもと違い、ロマンチックな気分になる。
 ふと、日和は手のひらを上げた。
「蛍みたいよね。でも……」
 そう言うと、手の平に落ちてきた光りの粒を握りしめた。
「溶けるように消えてなくなっちゃう」
 そして、そっと手を開く。
 そこへ、何粒かの光りがまた落ちてきた。
 なぜか、消えてしまうのがもったいなく、日和はそれを握りしめた。
「お前も……か」
 が、突然闇から現れたかと思うと、男は日和の手首を掴み、引っ張り上げた。
「痛いっ」
 小さく叫ぶと、非難がましく視線を男性に向けた。
「放して、繭神君っ」
 そう、日和の目の前にいるのは、この学園の生徒会長繭神なのだ。
 その生徒会長が、なぜ日和の腕を掴み上げているのか皆目検討が付かない。
 日和の隣にいた悠宇は、日和の小さなうめきを聞くや否や、繭神の胸ぐらを掴み上げた。
「おまっ……何やってんだよ。放せよ」
 憤慨すると、悠宇は繭神の胸ぐらを掴んだまま、後ろへと押しやった。
 少しよろけながら後ずさると同時に、日和の腕を放した。
 日和は非難がましく繭神を見つめると、軽く睨み付けた。
「文句を言いたそうな顔だな」
 しれっと言い切る繭神に、反発しようと口を開きかけると同時に、悠宇が割って入った。
「お前、日和になんの恨みがあるんだよ」
「恨み? 彼女が持っているモノを渡してもらおう」
 冷ややかな視線を2人に向けると、乱れた制服を整えながら、苛立ちを含ませた声を紡いだ。
「持っている……モノ?」
 悠宇は日和を見た。
 日和も自分自身を見つめた。
「……これ?」
 日和は、チェロのケースを自分の前に置いた。
「……イヤ」
 繭神は不愉快そうに眉間に皺を寄せた。
「これと同じモノだ」
 そう言うと、繭神は、胸ポケットから、小さな石を取り出した。
 それは、何かのかけらのようにも見えるモノで、手のひらにすっぽり治まる大きさをしていた。
 繭神は、それを親指と人差し指でつまんで2人に見せた。それは、闇夜に輝く月の光をうけ、淡く輝いていた。
「……きれい」
 思わず呟いいてしまう。そんな日和に悠宇は軽く溜息を吐いていた。
「……持ってないわよ」
 慌てて1つ咳払いすると、日和はきっぱりと言い切った。
「だが、お前の手の中が光るのを見た」
 そこで、日和と悠宇は顔を見合わせた。
「それってさ」
 悠宇は周囲に視線を向けた。
 それにつられるように、繭神も疑いの眼差しを日和に向けながらも、周囲に素早く視線を移した。
「……?」
 淡く輝く光の粒が、彼らの周り、そして校庭一帯に浮遊しているのだ。
「なんだ、これは」
 掠れた声で呟くと、問いつめるように2人を見た。
「さあ、俺らが知ってるわけないだろ? なあ」
 最後は日和に問いかけたものである。悠宇の言葉をうけ、日和も大きく頷いた。
「……まさか」
 小さく呟くと、繭神は疑ったことを謝りもせず、校舎へと走っていった。
「なんだ、あれ」
 思わず肩を竦める悠宇の後ろで、日和はぷうっと頬を膨らませた。
「生徒会長のくせに、なんなのよあの態度」
 そう言うと、訴えるように悠宇を見た。
「せっかく気分よかったのに。繭神君のお陰で台無しだわ」
 それには、悠宇も同感であった。
「なんだか、このまま帰るのもしゃくだもの。繭神君のこと見張ってみるわ」
 きっぱり言い切ると、日和は繭神が走っていった方向に視線を向けた。
 そんな日和に、悠宇は心配そうな視線を向けるた。
「おい、日和」
 頭の中に指をつっこむと、髪をかきむしった。
「とに、デートはぶちこわされるわ、日和はやっかい事に首を突っ込もうとするわ……なんなんだよ」
 と、ぼやきながらも、日和からチェロケースを奪い取った。
「重たいモノは俺が持つ」
「悠宇……」
 照れくさそうに少しはにかみながら微笑み返す日和を見つめ、この笑顔に弱かったりするんだな……俺は、などと心の中で呟いていた。
「いいか、深追いするなよ」
 意気揚々の日和に、しっかり釘を差すことを忘れない辺りはさすがではあるが――。

-垣間見た真実-
 
 校舎裏、そこに繭神はいた。
 淡い光りの粒が、そこだけ密集するように浮遊していた。
 それを、手で払いながら、周囲に鋭い眼光を走らせた。
「消えた……か」
 何に対して言っているのだろうか、彼の後を尾行していた日和と悠宇は、彼から死角になる位置で動きを止めていた。
 いつも冷静沈着な繭神らしからぬ、動転ぶりに、2人は顔を見合わせた。
「あいつ、絶対何か隠しているよな」
 悠宇は囁くように日和に耳打ちした。
 それに、日和も頷くと、唇に人差し指をあてた。
 2人の視線の先で、繭神が忙しげに動き出したからだ。
「ちっ。時間がないな」
 繭神は空を見上げると、悔しそうに呟いた。
「簡易的だが……封印を強化するか……」
 苦渋の選択とでもいうのか、顔を歪めると、ポケットに手を突っ込んだ。
 そして、そこから数個の「石」を取り出した。
 それは、月に照らされ、ふんわりと輝きを放つ。
 校舎の影から繭神を見ていた日和と悠宇は、どこか異様な光景に、生唾を飲み込んでいた。
 そこだけ、異質で、まるで現実離れしている世界に感じられたからだ。
 ふと隣に視線を移すと、日和が青い顔をしていた。
「日和?」
 小声で名を呼ぶと、繭神を気にしながらも、悠宇は日和に視線を向けた。
「ちょっと、怖くて……」
 微かに唇が震えている。
 言いしれぬ不安と、目に見えぬ恐怖に襲われ、逃げ出したい衝動に駆られているのだろうか。
 悠宇は、日和を安心させるため、手を伸ばそうとした。
「大丈夫――」
 気丈にも言い放つと、瞳の奥に恐怖に怯える炎をちらつかせながらも真っ直ぐ校舎の先を見つめた。
 そんな日和に、悠宇はニッと唇の端を上げた。
 普段はおっとりしているくせに、変な所で強がったりして――世話が焼けるがそこがまたいいのだ――と思っていると、袖を引っ張られる感覚に意識が戻された。 
「悠宇、ねえ」
「どうした、日和――」
 日和が指さしている先をなぞって見た。
 が、そこには何もなかったのだ。
「繭神……は?」
 悠宇の言葉に日和は首を振った。
「さっきまでいただろ? 目を離したのはほんの一瞬だ」
 そう、そして、校舎の先は行き止まりで、出入り口はどこにもない。
「消えた……の?」
 釈然としない気持ちのまま、2人はその場に立ちつくしていた。

-1日が終わるとき-

 先ほどと変わらない暗黒が辺りを支配している。
 空に輝く月は淡い光りで、闇夜を切り裂くほどの威力はない。
 今だ消えることなく漂っている、光りの粒だけが、闇夜を淡く照らしていた。
「ねえ、繭神君、一体何をしているのかしら」
「さあな」
 横を歩く日和と盗み見、直ぐさま視線を前に向けると、小難しそうに顔を歪めた。
「前から思っていたのよね。生徒会長ってだけじゃなく、どこか近寄りがたい雰囲気があるの、彼って」
 そういえば、繭神は日和のクラスメートだったな――などと思いながら、彼の粗野な態度をやはり許せずにいた。
「なあに?」
 悠宇の視線に気付き、日和が首を傾げる。
「いや、なぞめいているのは確かだよな。でも、時間も時間だし、帰るか?」
 問いつめるにしても、明日にすればいい、そう思い日和に告げたのだが、目の前で何か言いたげな表情をしている。
 そして、辺りを見回しはじめた。
 訴えるような視線で、悠宇はピンときた。
「せっかくだし、一曲弾いていくか?」
 悠宇の言葉に、日和は嬉しそうに微笑んだ。
 幻想的な夜に、チェロを奏でられる。これほど幸せなことはない。
 そして、隣には大切な人がいる。
 日和のチェロから優しい音が奏でられた。
 先ほどの事件で、凍てついた心を和らげてくれる。
「やっぱり、日和のチェロは最高だな」
 
 この学園で何が起こっているのか解らない。
 もしかしたら、とてつもないことが起こるのかもしれない。
 あるいは――。

 だからこそ、この幸せな瞬間を大切にしたい。
 愛しい人と共にいられる、この瞬間を――。

 
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【3524 / 初瀬・日和 (はつせ・ひより) / 女 / 2-B】
【3525 / 羽角・悠宇 (はすみ・ゆう) / 男 / 2-A】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちは、日和サマ&悠宇サマ。
 また、お会い出来たことを光栄に思います。

 改めまして、ライターの風深千歌(かざみせんか)です。
 今回の学園ノベルは、「物語の真相」を感じさせながら、謎を残したお話になっております。
 ご一緒にご参加ということでしたので、ノベルの内容は同じものとなっております。正し、各々の視点で書いてありますので、読み比べられても面白いかと思います。

 ご満足頂ければ宜しいのですが……。
 設定などで違う点などございましたら、どうぞ遠慮なくおっしゃって下さい。修正させて頂きます。

 また、どこかでお会いできることを心待ちにしながら――。