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『 精霊の悪戯 』
「た、助けてくれ…」
「うん、謎を解けたら、助けてあげるよ。さあ、問題です。あなたは何故にこの世界にいるのでしょう?」
「わ、わかるもんか、そんな事が…。もう考え付く限りは言った」
「降参なんだね?」
「ああ」
「じゃあ、サヨウナラだね、おじさん」
そのピエロは唇の片端を吊り上げながら優雅な流し目で哀れな男を見据えながら、死神の鎌をしゃこーんと振った。
とても無慈悲に、
そして花を手折るように。
【Begin Story】
「じゃあ、行って来るな、蘭」
持ち主さんはいつも僕に言っている事をまた今日も言って、
「いい、蘭。わかった?」
「うん、わかったなの。言ってらっしゃいなの」
それで僕の頭を撫で撫ですると行ってらっしゃいしたなの。
「ふに?」
さてと今日は何をしてようかななの?
日向ぼっこ?
「ダメなの。今日は雨が降ってるのなの」
うーんと、それだと…あっ―
「お掃除するのなのぉー♪」
どたばたと僕は掃除機まで走っていって、掃除機にスイッチを入れて、それでお部屋のお掃除を始めたのなの♪
お唄は大好きな童謡を唄うのなの。
お唄を唄いながらお部屋のお掃除。
ぶんぶんぶん♪
床を掃除機でお掃除して、棚を背伸びしてはたきでぽんぽん。また汚れた床を掃除機でぶんぶん♪
「ふぅいーなのぉー♪ いい汗かいたのなの♪♪♪」
床はお掃除したし、棚もお掃除したのなの。
「うーん、でも他にも何かお掃除するのなの。後は……」
床、
棚、
本棚?
「そうだ、本棚のお掃除をするのなの♪」
本を全部本棚から出して、
それを床の上に積み上げて、
それからバケツに水を汲んで、
雑巾をじゃぶじゃぶ、絞って、ぱっと広げて、畳んで、
「それで本棚をふきふきなの♪」
上から下まで本棚を拭いて、ぴかぴか♪
雑巾はバケツに入れて、えっちらほっちら。
バケツの水を捨てて、バケツを洗って、雑巾を乾して、
「後は本を並べるだけなの♪」
僕は本棚の前に立って、
本をジャンルに合わせ並べていくのなの♪
「これは上の棚。これは下の棚。これは真ん中の棚なの。それでこれは………ふに?」
僕が手に取った本は何だかとても古い本なの。見た事が無い本なの。ふに?
手に取った本をぺらぺらと捲って、そしたら、しおり、が落ちて、そのしおりも何だかとても古くって、ピエロさんが描いてあるしおりで、それで僕はそれを挟んで、また本をぺらぺらと捲って、本の後ろを見たら黒の棒線がいっぱいで、数字もたくさん書いてあるシールを見つけて、その下に図書館の名前が書いてあるのなの。
「図書館で借りてきたのなの? ふに?」
確かに持ち主さんと一緒に借りてきた覚えがあるのに、
だけどいつ借りてきたのか覚えていないのなの。
「それにどうして借りてきたのなの?」
ふに? それにいつも借りてくる図書館の名前と違うのなの。
本のお名前は『精霊の悪戯』なの。表紙にはすごく可愛い小さな精霊さんが描かれているのなの。
中身は………
「わ、綺麗な絵なの♪」
とても綺麗な絵なの。
見て――――――
絵の右側はね、綺麗な緑の原っぱなの。奥には山があって、その山の前には木が描かれていて、白い家があって、左側にはたくさんの木々と花々があるのなの。
それからその絵には左側付近に道が描かれていて、その道には白いうさぎさんが居るのなの。
それからその絵には空が描かれているのなの。蒼い空に、白い雲…
本当に綺麗なの。
しおりをそのページに挟んで、本を閉じて、
瞼をしっかりと瞑るのなの。
その絵の中に自分が居る光景を想像したのなの。
それから………
そうしたら僕はそこに居たのなの。
気付いて瞼を開いたら、そうしたらそこに居たのなの。
+++
とても綺麗なの。
そこは本当に綺麗なの。
「すごいのなの!!!」
僕は原っぱを走ったのなの。
白いうさぎさんが僕を見てびくりと震えて、それで走っていって、僕はそれを笑いながらおいかけたのなの♪
逃げろや、
逃げろ。
小さな人間の男の子がやってくる。
逃げろや、
逃げろ。
小さな男の子がやってくる。
追いかけてくる。
追いかけてくる。
逃げろや、
逃げろ。
「むむ。白うさぎさん、捕まえられないのなの」
僕は考えたのなの。
立ち止まった僕を白うさぎさんは見ているのなの。
それで僕は特技どこでもすぐ寝れるをやるのなの!
こくこくすうすう。
すやすや。
むにゃむにゃ。
ふに。
くすぐったいなの。
とてもくすぐったいなの。
これは白うさぎさんの吐息?
「捕まえた、なの」
白うさぎさんを捕まえたなの♪
「おお、見事な作戦ですな、お坊ちゃん」
白うさぎさんを捕まえた僕の前にピエロさんが現れたのなの。
ふに、どこかで見たピエロさんに似ているのなの。
「白うさぎさんを捕まえたご褒美をあげようね。何がいい、坊ちゃん?」
「坊ちゃんじゃないの。藤井・蘭なの」
「蘭坊ちゃんだね」
「ふに?」
「で、蘭坊ちゃん、どんなご褒美がいい?」
「えーっと、ミネラルウォーターなの♪」
「ミネラルウォーターね」
ぽん、と白うさぎさんはミネラルウォーターになったの。
「飲んでごらん」
「うんなの♪」
ごくごくお水を飲んだの。
それはとても美味しいお水だったの♪
「ご馳走さまですの♪」
「おそまつさまでした」
ぽん、と僕の手から空きペットボトルが消えて、
それで、ピエロさんは…
「さてさて、ところで蘭坊ちゃん。私を捕まえられますかな?」
「ふに?」
「鬼ごっこですよ♪」
そう言うとピエロさんはいつの間にか足下に転がっていた大きなボールに乗って、それをころころと転がしながら、逃げ始めたのなの!
「ふにぃー、負けないぞなの!!!」
僕はピエロさんを追いかけたのなの。
原っぱを走る。
走る。
走る。
原っぱを走っていくのなの。
だけど、でも………
「ふに? …………ふに? ふに?」
ふに?
とても不思議なの。
右側に向っていたのなのに僕は左側にいたのなの…。
「ふぃー」
今度は左側に向っていくのなの。
そしたら…
「ふに?」
右側に居たのなの。
今度は前に向って走ったのなの。
でもどれだけ行っても辿り着けなくって、
そしたらいつの間にかまた最初に走り出した場所に居たの、なの…。
「ふに?」
「ふふふふふ。蘭坊ちゃん。ご自分がどういう立場に置かれていますか、ご理解できましたか?」
「どういう事なの、ピエロさん?」
「それはですね、蘭坊ちゃんはこの世界に閉じ込められてしまったという事ですよ」
「ふに?」
「もう帰れませんよ」
「ふに? それはダメなの。僕は持ち主さんの所に帰るのなのー」
僕は白い家に向って走ったのなの。
だけどその白い家には誰も居なくって、
それで大きな机の上にはたくさんのジオラマがあったのなの。そのジオラマにはそれぞれお人形さんがあったのなの。
だけどこのジオラマ…
「ふに? どこかで見た事があるのなの。でもどこで見たのなの?」
ふにー?
お菓子の家に、
蒼い鳥がいる森、
桃が流れている川、
お髭を触っているまんまるなおじさんがいるお家、
泣いている赤鬼さんがいる山…
ふに?
『坊や。坊や』
「ふに?」
『こっちだよ、坊や』
「どこなのなの?」
『こっちだよ、こっち』
「ふに?」
その声は、目の前のジオラマから聞こえるのなの。
「お人形さんなの?」
『そうだよ』
『ここは本の世界だよ』
『私達は本の世界に閉じ込められて』
『ピエロに人形に変えられたんだ』
『助けて・・・』
『助けておくれ』
「ふに? 絵本の世界?」
ふに?
そういえばこれは絵本の世界なの!!!
「ふに。僕も絵本の中に入ったのなの。『精霊さんの悪戯』って本なの」
『その精霊をお探し、坊や。それが助けてくれるはずだよ。私達はできなかったけど、だけどどうか坊やはその本の主人公を見つけるんだ…』
『本の主人公が助けてくれるルールになってるの』
『それを見つけて』
「うん、わかったのなの」
僕はこくりと頷いたのなの。
精霊さんの居場所は知ってるのなの。
僕はオリヅルランの化身で、植物さんとお話ができるのなの。
だから僕は知ってるのなの。
悪戯をした精霊さんが木に封印されているって。
「こんにちわなの♪ 精霊さん」
「おやおや、これはかわいいオリヅルランの化身さんだ。でも少々お話を無視されちゃあかなわないね。あたしがこの封印を解いて悪戯をして、そしてまた懲らしめられて、だけど改心して、村の皆を助けるってお話だったのに」
「ごめんなさいなの」
「まあいいよ。この悪戯好きの精霊さんの物語に悪戯をしたあのピエロをどうにかすればいいんだから」
「うん、わかったなの。でもどうすれば・・・」
「いや、なに、この我輩の問いに答えてくれれば解放してあげるよ、蘭坊ちゃん」
「ふに!!!」
いつの間にかピエロさんが居たのなの。
「さて、問題です。どうして蘭坊ちゃんはここに居るのでしょう?」
「わかんないのなの」
「わからない。精霊に助けてもらってもいいんですよ」
「ふに?」
僕が精霊さんを見たら、そしたら精霊さんはにやりと笑った。
「家にはジオラマがあった。たくさんの物語の。つまりはそのピエロは多くの人を色んな物語の中に封じ込めたというわけだ。そこから推測できるのは、つまり物語は関係無いということだ。だったら本は関係無い」
「ふに?」
僕はピエロさんを見る。
このピエロさんは………
物語は関係無い。
たくさんの人達、物語…
ふに?
「共通しているのさ、そのピエロは。皆、ピエロと言ったんだろう? だったら?」
「ふに、皆、ピエロさんのしおりを使った?」
「おお、当たりですが、でもそれだけでは足りない」
「オリヅルランの化身さんはここに来る前に何をしていた?」
「えっと、本にピエロさんのしおりを挟んで、それでそのページの絵を想像したのなの。自分が居る所を。だからそれが叶ったのなの!!!」
「ぴんぽーん。正解です♪ では、ご褒美に蘭坊ちゃんを想像するまでに憧れさせたこの世界に封印してあげましょうねー」
ピエロさんがにこりと笑って、
そのピエロさんの手に鎌が現れて、
振られた鎌は僕に…
「ふにぃー」
僕は足下にあったお花を手に取って、
それに力を与えたの。
そうしたら、それは…
「ほほう、花が鞭になった。それが蘭坊ちゃんのお力ですか。ひゃっほう」
――――鎌が蘭の首目掛けて放たれるが、しかしその鎌は蘭の放った鞭の一閃によって打ち砕かれ、
そしてその鞭はそのまま………
「うぎゃぁぁぁーーーー」
――――ピエロを打ち滅ぼした。
【ラスト】
「ふに?」
僕はいつの間にか眠っていたようなの。
「でもなんだか変な夢だったのなの」
こくりと起き上がって、眼を擦って、それで…
「あれ、なの?」
本が無いのなの。
だけど…
「ピエロさん?」
ハサミでちょきんとしたように真っ二つなったピエロさんのしおりがあったのなの。
でもそれを触ろうとしたら、そうしたらそれはふわっとどこかからか吹いた風に飛ばされて、消えてしまったのなの。
「ふに?」
― fin ―
++ライターより++
こんにちは、藤井・蘭さま。
いつもありがとうございます。
このたび担当させてもらったライターの草摩一護です。
今回もご依頼ありがとうございました。^^
プレイングに添えていただいたお言葉も嬉しかったです。
お題からこのような物語を書かせていただいたのですが、どうでしたでしょうか?
お気に召していただけてましたら幸いでございます。^^
本を借りてきた図書館もピエロが属する不思議な世界のモノという設定になっております。
ちなみにジオラマの人々も、ちゃんと蘭さんの活躍によって、解放されております。^^
それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
本当にありがとうございました。
失礼します。
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