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<東京怪談・PCゲームノベル>


シークレット・オーダー


 何て殺風景な部屋だろう。
 ここに来た第一印象がそれだった。
 最初に入って部屋にあったのは床に置かれたテーブルとテレビとノートパソコン、台所にあるのは冷蔵庫とコーヒーメーカぐらいな物。
 ここに何もおく必要が無いと……何もいらないと言っているかのように寒々しい殺風景な部屋だった。
「………あんたらしいな」
 小さく呟いた言葉に、振り返り苦笑する。
 相手は宿敵夜倉木有悟。
 ここはその男の住むマンション。
 どうしてここまで来てしまったのだと問われれば、あの組織関連で提出する書類が終わらなかったからなのだが……もう一つ。
 どうしても、はっきりさせたい事があったのだ。
 切っ掛けが出来たのはあの事件……ジャック・ホーナの一件の時に、どうして一人で返されたのか?
 何時もはぐらかされるだけで、いまだ答えを聞いていない。

 どうして自分が選ばれたのか?
 どうしてあの時自分だけが帰されたのか?

 答えは返されないままだと言ってもなにも解らないままじゃない、日にちが立てば感じていた違和感の正体もはっきりする。
 不自然な所や矛盾だと思えるような行動が幾つもあるのだ。
 もう一人に話を聞いて、啓斗を呼ぶのを提案した時に受けた事までは知っている。
 だが帰れと言いだしたのも同じ相手だからこそ、考えてしまうのだ。
 本当は……。
「……?」
「…………」
 戻ってきた気配には気付いてはいても、顔なんて見られそうにない。
「どうかしたんですか?」
「……まだ、聞いてないから」
「何を?」
 顔を上げ、夜倉木を真っ直ぐに見る。
 今日こそは絶対に尋ねようと。
「俺、どうしてあの時一人で返されたのか教えて貰ってない」
「どうしても言われても……」
 困ったように吐かれた溜息に、啓斗は緊張して強く手を握りしめた。
 真実を聞くのは怖かったが……もう、引き返せない。
「はぐらかさないでちゃんと教えて貰うまで何度でも聞くからな!」
「………」
 無言のまま缶ビールを二本取り出し、片方を啓斗の側に置くいてからもう一本の蓋を開けてから一口。
「飲めないのか?」
「……飲める」
 子供扱いされている気がして、手に取ったビールの蓋を開け一気に飲み干す。
 喉を通りすぎる苦い味は今の自分にピッタリだと思った。
「………っは」
 軽くなった缶を床に置くのを見た夜倉木は軽く溜息を付き、スラスラと並べ立てる。
「戦力の問題です。こっちはただ捕まれば良いだけだったし、帰るには霊を何とかしないとならないから……」
「……嘘だ」
 それくらい、気付いているのだ。
「嘘じゃありませんよ」
「あれから考えたんだ。おかしいじゃないか、ディテクターの武器は銃だから弾切れを予想したら危険が大きすぎる!」
「……そんな事」
 不意に黙り込んだ相手に、やっぱりそうなんだと今まで考えていただけだった問が口を付いてでる。
「何で、答えないんだよ」
「………?」
「どうして……っ!」
 ずっと考えていたのだ。
「やっぱり……俺が足手まといだったからなのか?」
 本当は自分なんて必要なかったのかも知れない。
 作戦上嫌々頷いて、危なくなりそうだと判断して理由を付けて返すのだ。
 夜倉木ならばあり得そうな事だと……作戦に支障が出そうだと思ったら、顔色ひとつ変えずにそれをやってのける事が出来るに違いない。
「あの時の判断は間違っていたとは思っていない、どうして今さら聞くんですか?」
「………っ!」
 今さらなのだ。
 どれほど啓斗が気にしていたとしても、夜倉木にとっては過ぎてしまった事なのだろう。
 二人を置いていった時からずっと悩んでいるのに……あの場に来て帰らなければならなかった事が、どうなったかを知らないままでいなければならない事がどれだけ苦しかったとしても、過ぎた事でしかない。
 きっとそれが普通なのだ。
 何時までも引きずっている自分のほうがおかしいのだろうか?
 もっと……役に立たないといけないのに、足手まといになっていたかもと考えるだけで辛い。
 曖昧なままでいるのは苦しすぎた。
 弱いのならそう言って欲しい。
 強くなるためならどんな事でもするのに。
 今はただ、はっきりと答えが聞きたい、間違いでも勘違いでもない真実を。
「………考えても、答えでなかったし。教えてくれないから聞くしか、無かったんだ」
「………考えた?」
 質問者と解答する方がいつの間にか入れ替わっている事にすら気付かず、呟き続ける。
「ずっと考えてたんだ。あの時、俺が……不甲斐ないから帰されたんじゃないかって」
「それは………?」
 重ねるように問われた声。
 強く拳を握りしめると握りしめていたレポートから聞こえる、パタパタと鳴る水の落ちる音。
「―――っ!」
 自分の流した涙だと気付いて慌てて手の甲で目元を拭う。
「どうして、泣くんだ」
 それが知りたいのはこっちのほうだ。
 こんなつもりじゃ……泣くつもりなんて無いのに、眦から溢れる涙が止まってくれない。
「………っ!」
「…どうして泣くんです?」
「そんな、事……っ、見るなっ」
 泣いてしまうなんて、何て情けないのだろう。
 これでは何時も相手が言っているように、子供だと言われたって仕方ない。
「………言わないと解りません」
「だ、れが!」
 解るはず無い。
 言えるはずもない。
 誰にも必要とされなかったら。
 全てを否定されてしまったら。
 その時自分は………きっと、誰の記憶にも残らず、忘れ去られてしまうに決まってる。
「どうせ……邪魔なんだろ、何時も子供扱いして」
 こうすれば余計呆れられているに違いないとしても、言葉にせずには出来なかったのだ。
 もっと、役に立たなければ自分なんて誰からも必要とされないのに。
 こぼれ落ちる涙を擦るのを待ってからかけられる声。
「啓斗」
 名字ではなく、名を呼ばれた事に驚き目を見開く。
「………え?」
「先に返したのは、連絡する事も重要だったからですよ。誰かが伝えないとならない。そもそも俺が自分の命もかかっているのに必要ない相手を連れて行ったりはしません」
 強い、しっかりとした口調なのに……まだ何かが引っかかる。
「……嘘だ」
「嘘じゃありませんよ」
「だって、そうじゃないか。俺ちゃんと知ってるんだ。連絡だけが必要なら、あの場を見てる人が居たんだから任せれば良かったんだって。なのに行きだけ連れて、後になってから一人だけ帰して……」
 一気にまくし立てていた言葉が不意に途切れる。
 知ってるのだ。
 調べたのだから。
 あの場合最も正しい判断は、3人で行動する事。
 二人だけで行くのも危険だし、一人だけ別行動を取るのだっておかしい。
「それって、やっぱり必要なかったって事だろ? 俺が……弱いから、邪魔だから」
 もうこぼれる涙を拭う事もせずに、静まりかえった部屋の中に聞こえるのは自分の泣き声だけ。
 沈黙の重さに耐えきれなくなり、黙ったままの夜倉木の服の袖を握りしめ、睨み付ける。
「こ、たえろっ、やぐらぎ!」
「……だから」
「ごまかしたら駄目だからなっ!」
「それは……」
「やぐらぎっ!」
 袖を掴む手に更に力を込めた啓斗に、夜倉木は困ったように……。
「………あの仕事は、人殺し以外の何物でもないんですよ」
「……ん」
「ジャック・ホーナの研究所で俺は34人の人間を殺しました。ディテクターは関与してませんよ、しなくていいと言ったんです」
 抑揚のない声で一部始終の説明を始める夜倉木に、今まで高くなっていたテンションが一気に冷えていく。
 変わりに感じたのは、何か別の物。
 強い、違和感。
「機密保持のために、仕事で、人を殺すなんて事は…俺みたいに慣れてる人間がすれば良いんですよ」
 どうして、そんな事を言うのだろう。
「人殺しなら、俺だって同じだ」
「違います」
「違わな、い…」
 知っているのだ。
 人を殺すと言うことが、罪を犯すと言うことがどれだけの事か。
「やっぱりあんたは……嘘つきだっ」
 本当に人を殺す事を何とも思っていないのなら、止めるような事は言わないはずだ。
「……ズルい」
 どうして自分にこんなに事をするのか。
 どうしてこんな嘘を付くのか?


 どうしてこうなってしまったのか?
 慣れないと事はするものじゃないと今さら考える。
 ここに人を入れるのも偶々だった。
 ここまで深く追求してくるのも珍しかったし、ましてや泣かれるなんて思ってもいなかったのである。
 考えてから、どうすればいいか何て思っても実行に移せそうな事何て数えるほどしかなかった。
「……啓斗」
「……ん? っ、ひっ…うっ、さ、さわ……」
 クシャリとを髪を撫でてみても余計に泣き出されてしまう。
 当然と言えば当然だ。
 こんな風に泣いてる相手を泣きやませる方法なんて……。
「………」
「………?」

 もう一度髪を撫で、問い掛ける。

「どうして欲しい?」
「……え?」
「………願いは?」
 静かにそう告げた。




【続く】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】

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■         ライター通信          ■
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何時もお世話になってます。
そんな訳で後編に続きます。