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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


道場:異種格闘大会【リングでハッスル・ハッスル?】


 前日までの盛り上がりもそのままに、
本日の学園祭はメインイベントを「異種格闘技大会」と銘打ち、
その手のファンやマニアらしき姿がかなり多く見かけられていた。
別の会場では、他のイベントも開催してはいるのだが、
どう見てもお客の大半は格闘技目当て、と言った風貌であった。


 そんな中、一人の女子生徒が颯爽と人ごみの中を進んで行く。
2年の天薙・さくら。弓道部の生徒である。
この学園祭での弓道部の毎年の伝統、恒例行事として奉納を行う慣わしがあり、
今年はさくらがその代表として選出され、たった今、その模範演技を終えてきたところだ。
 これは学園祭の成功と無事を祈るための儀式も兼ねているという事で、
いわばこの奉納が終わると同時にその日一日の学園祭がスタートするという事になるのだ。
それゆえに、失敗は決して許されないと言う大事な役目だけあって、
さくらもなかなかの緊張と共に朝から過ごしていたのだが、彼女の腕において失敗の二文字はなく、
現在は気分もリラックスして学園祭の出し物を見てまわろうと散策しているところだった。
 しかし、元々彼女はルックスも美人で周囲の、特に男性の目を惹く事が多いのだが、
今日の出で立ちは、弓道着である袴姿に、長い髪をゆるく三つ編みにして肩口から垂らしており、
なかなかどうして普段の彼女とはまた違った女らしさをかもしだしていた。
 それゆえに先ほどから何度かナンパをされつつ、その度に進路を変えて学園内を歩く。
個人的には、妹のいる茶道部へ行くつもりだったのだが…
そうして進路変更を繰り返していたせいもあり、気が付くと道場の前にまでやってきていた。
なにやら人が並んでいて前に進む事が出来ず仕方なくその最後尾につけるさくら。
「こんなにたくさんの人がいるのね…後で他のイベントも見てまわりましょ」
 にこにこと楽しそうに微笑みながら呟くさくらだったのだが、
彼女は今、自分がどこに立っているのかに全く気付いていなかった。
自分の並んでいる列の最前列に…『参加申し込み受付』の文字があることを…。



 一方その頃、3年の鈴森・転は朝から走り回っていた。
まだ学園祭が開始されてそんな時間は経過していないというのに、
気分の悪くなった者や迷子になった子供や道に迷った生徒やお客の案内に、
保健室へ走り、生徒会室へ走り、果てまた自転車整理の為に駐輪場に走り…
学園祭の実行委員会の一人として、忙しさを極めていた。
 …と言っても、もう四日目にもなると慣れてきてそう大変だとは思わないのだが。
しかしそれでもまわりが楽しんでいる中、忙しく走り回っているのも少し空しい気もしないでもない。
一応は交代で休憩時間があり、その時間は好きに見てまわる事は可能なのだが。
「あの〜…お茶会に行くにはどうしたらいいんですかァ?」
「はい!お茶会ですね?えっと…本日、2年C組の教室にて開催されております」
「だから、その場所がわかんないの!案内してよ」
「ちょっとお兄さん!この子、迷子みたいなのよなんとかしてよ!」
「自転車置く場所が無いんだけどどこにおけばいいのー!?」
「は、はい!!」
 転のどこか優しげな、声をかけやすいお兄さん的な風貌が原因なのか、
他にも係員がいるにも関わらず、何故か用事が彼に集中してしまうのだった。
「おーい!鈴森〜!道場で怪我人出たみたいだから行ってくれー!」
「わかりました!」
 案内を追え、自転車整理を終え、迷子を連れて生徒会室にやって来ていた転は、
ちょうどそこに居た他の役員に言われて、すぐに救急箱を抱えて教室を飛び出した。
 今日は格闘技がメインだ。おそらくずっとこの調子なのだろうな…
そんな事を思いつつ、転は道場へと急いだのだった。



「怪我人はどちらですか?」
 転が道場に到着し、道場の脇にある救護テントに向かうと、
すっかり顔なじみになった教師に手招きされて少し奥に向かう。
保健室から借りてきたついたての向こう側に、簡易ベッドと椅子が置いてあるのだが…
そこに、足首に氷をあてて床を見つめている生徒の姿があった。
「遅くなりました…3年の鈴森です…」
「あ、どうもわざわざ申し訳ありません…私、2年の天薙です」
「もしかして…弓道の奉納をやっていた?」
「はい…」
 どうしてこんな華奢な子が格闘技大会に!?と転は驚いた顔をする。
確かに弓道といえば武術ではあるのだが、この大会はどちらかつと言うと、
なんでもありの大格闘大会、プロレス大会という雰囲気の方が強く、
とてもさくらのような生徒が参加するようなイベントではないと思っていたのだ。
「ええっと…とりあえず怪我を看させてもらっていいかな?
一応、こう見えても保健委員よりは怪我とか看ることは出来ると思うから…」
「すみません…ありがとうございます」
 さくらは申し訳なさそうに肩をすくめながらぺこりと頭を下げる。
その雰囲気に、転は少しドキリとしつつも、怪我を看ようと足首に手を当てる。
冷やしていた患部に手を添えると、少々腫れがあり熱を持っている。
少し動かしてさくらに痛みの具合を聞きつつ触診した限りでは、軽い捻挫といったところだった。
「湿布を貼って、包帯を巻いておくから…早めに医者に行くようにね」
「ありがとうございます…鈴森先輩って、手当てお上手なんですね…」
「え?うん…そうでもないと思うけど…弟がよく怪我をしてたからかな」
「わかります!私も、妹がいるんですけど…心配ですものね」
 さくらは両手を合わせてにこにこと微笑みながら転に話しかける。
なんとなく、話をしやすい雰囲気に思えたかららしい。
「うん…でも、天薙さん」
「さくらでいいですよ?苗字が同じ人がいるとややこしくなってしまうと思うから…」
「そうか…それじゃあ、さくらさん…どうして格闘技大会に?危険だと思うんだけれど」
「はい。それなんですが…」
 転の問いに、さくらは少し恥ずかしそうに頬を染めて視線を落とす。
そして躊躇いがちに、転にこれまでの事を話し始めたのだった。



「あの…私、どうしてここにいるんでしょう?」
 道場の格闘技会場、と言うか、プロレスリングの上に立ったまま、さくらは首を傾げる。
レフリーが「はあ?」と不思議そうな顔をして見るが、さくらはわけがわからない。
長い人の列に続いて進んだ後、学年と名前を聞かれてそのまま答えた後、
ゼッケンをつけられて係員に案内され、気付いたらここに立っていたのだが…。
「赤コーナー!天薙〜さくら〜!青コーナー!三下〜忠〜!」
 絶叫と共にコールされた名前、さくらはきょとんとした顔で正面を見る。
そこには、おどおどした顔の三下・忠がボクサー姿で立っていたのだった。
「あら…三下さん…どうかなさったんですか?」
「え?あの…いや、戦うんですよ…ね?」
「はあ…?どうして私と三下さんが戦わなくてはいけないのかしら?」
 さくらは未だにわけがわからないと首を傾げてすがるような目でレフリーを見る。
レフリーはあきれた顔をしてため息をつくとさくらの元に歩み寄り、
「貴方ね、格闘技大会に参加したんでしょ!これ勝ち抜き戦だから!一回戦ね!
勝った方が進めるの!わかる?戦い方は自由ね!ダウンしたら負け!ルールはなんでもあり!」
「……はあ?ええっと…ですから、私が何故ここに…」
「あんたが自分で参加希望したんでしょッ!もー時間無いから始めますッ!!」
 レフリーはどうやら周囲のヒートアップと対照的なさくらのボケボケな雰囲気にしびれを切らしたらしく、
叫ぶと同時に試合開始のゴングを鳴らしたのだった。
とは言え、相手は三下である。気絶する事くらいしか脳が無いと言われているあの三下である。
戦えと言われても…。
「あの、三下さん」
「はいっ!ごめんなさい!!違うんです!!出たくなかったんですけどっ!!
どうしても出ろって上の方の人たちに言われて…あとあの人とか…あの人とかに…」
 何かにおびえているように三下はきょろきょろしながら周囲の様子を窺う。
さくらはそんな三下と戦うわけにもいかず、神聖な弓をこんな戦いに使うわけにもいかない。
「すみません、審判さん。ダウンすれば良いんですよね」
「だからそう言ったじゃないッ!!いいかげんにして!!!」
「はい…あの、では三下さん…」
「は、はいっ!?」
「本当に申し訳ないのですが、少し寝ててくださいませんか?ほんの少しですから」
「は?」
 三下が言うが早いか、さくらはにこっと微笑んだまま、強烈な手刀を三下の首筋に叩きつける。
護身用にと体得しただけの事だから、とほのぼのとした雰囲気ではあるのだが、
叩きつけられたと同時にマットに沈んだ三下を見て、観客達はあまりのギャップに沈黙したのだった。



「それで…早く終わりたいなって思ってその後も何度かお相手していたんですけど、
先ほど出てきた方がすべって転んだ拍子に私も転んでしまって、足を痛めてしまったんです」
 のほほんと言ってはいるが、その後のバトルに関しては、
柔道技の投げは飛び出すわ、空手技の蹴りは飛び出すわ、ボクサー並みのパンチは繰り出すわ、
観客達の間で”リングに咲いた一輪の華麗な桜”とすら呼ばれていたくらいの活躍ぶりだったのだが。
知らぬが仏と言うか、転はまさかそんな事があったとは知る由もなく。
「そ、そんな事…女子生徒相手に実行委員も何を考えてるんだろう…さくらさんも棄権すれば良かったんですよ」
「―――はい?棄権ってなんですか?」
「え?」
「はい?」
 にこっと微笑んだままで、素直に、かなりストレートに問い返すさくら。
まさか弓道部であるのに棄権を知らないわけではないだろう!?と転は思いつつ、
しかし、このさくらの様子だとそれも有り得ない事も無いような気もしつつ…
「ええっと…棄権って言うのは、試合の参加を取りやめる事なんだけど…」
「ああ!はい!」
 さくらはポンと両手を合わせて数回頷くと、感心したように転の顔を見つめ、
「こういったイベントでも、棄権できるんですね!」
「ぜ、全然知らずに参加したんだね…」
「はい…私、茶道部に行こうと思っていましたから」
 失敗した自分を叱るような仕草をするさくらの様子を、正直に「可愛い」と思う転。
異性としての可愛いよりも、可愛い妹的な感覚に近いのかもしれないが…。
「えっと…それじゃあ僕でよければ案内しますよ?」
「本当ですか?ありがとうございます!」
「いいえ。なんだかさくらさんを一人にしておくのは心配ですから」
「そ、そんな事ないです…っ!」
 顔を赤くして否定するものの、また人ごみに紛れて気付いたらリングの上と言う展開は御免被りたい。
早く茶道部に行かなければ終わってしまうかもしれないのだから。
「それじゃあこれから後の試合については棄権の要請をしておきますね」
「でも途中で試合を放棄するのは相手に対して失礼ではないのでしょうか?」
「まあ、お遊びのイベントですし…僕としてはさくらさんの足の怪我が心配ですし」
「お優しいんですのね…鈴森先輩」
「いえ…当然の事ですから」
 では行きましょうか、と転はさくらに手を差し出して微笑みかける。
さくらもどこか嬉しそうに笑顔を返して頷くと、転の手を借りて立ち上がり片足を庇うように歩き始める。
途中で格闘技大会本部に立ち寄り、棄権を告げると、そのまま茶道部へ向かって歩き始めた。
 軽い捻挫と言えどもそれなりには痛く、さくらは少し眉を寄せながらの歩みとなる。
転は極力、負担をかけないようにとエスコートしながら、沈黙しているのも良くないと色々と話をする事にした。
学園生活の事や兄弟の事を話し、さくらも楽しそうにそれを聞き、自分の事についても話をする。
そうしているうちに、さくらの妹のいる茶道部の部室へと到着していた。
「では僕はここで失礼させていただきますね」
「はい…本当にお世話をかけてしまって…ありがとうございました」
「せっかくの学園祭で…怪我をしてしまって…残念でしたね」
「いいんです。そのお陰で鈴森先輩に会えましたから」
「え…」
「それじゃあ…また今度…改めてお礼をさせて下さい…頑張って下さいね」
 華のような、と言う例え言葉があるが、まさに華のような笑顔を向けたさくらは、
転に深々と一例すると、茶道部の部室へと入っていく。
最後の最後で、気になる発言をされて、転はぼーっとしたままその場にしばし突っ立っていた。
あまりこういう恋愛ごとには耐性がない故に、思春期の少年としては…刺激が強かったのか。
「……えっと…何をするんだったっけな…そうそう、自転車と迷子と案内と…」
 転はやっと歩き始めると同時に、ぶつぶつと呟きながら生徒会室へと向かうのだった。
その道中、弟にその様子を目撃されてからかわれる事になるのだが、
今の転がそんな事を知るはずもないのだった。


 学園祭には時として生徒達の間でこういった”恋の芽”があちこちで生まれる。
ただ、その後、それが育つかどうかは本人達次第と言う事もあり、
なかなか芽が花を咲かせるという事にはならないのが常であるのが切ない青春である。
果たして、この二人の場合はどうなるのかは…本人達のみぞ知るのだった。





☆おわり☆




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■        登場人物                  ■
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2年C組
【2336/天薙・さくら(あまなぎ・さくら)/女性】
3年
【2328/鈴森・転(すずもり・うたた)/男性】

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■            ライター通信            ■
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 こんにちわ。この度はパーティノベルへの参加、ありがとうございました。
今回は「格闘技」と言う事だったのですが、格闘技ではなく、
なんとなく青春の一幕のようなストーリーになってしまいました。(^^;
天薙さんと鈴森さんの二人でバトルと言う事も考えてはみたのですが、
この二人にはそれよりもこちらの方が…と思い、
プレイングとの事も考えまして、このようなお話になりました。
タイトルに反してほのぼのとした内容なのですが、楽しめていただけていると嬉しく思います。
 またこの度、夢の中の学園と言う事で現実では無いという事もあり、
ちょっとした恋愛の芽生えのような展開にさせていただきました。
あくまで夢の中でのお話ですので、実際のお二人とは関係ありませんのでご安心下さいませ。(笑)
 学園祭でのエピソードは大変楽しく書かせていただきました。
また機会がありましたら、お会いできるのを楽しみにしております。


:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>