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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


おいしいひととき

〜 幻影学園奇譚・学園祭イベント「激甘昇天クレープ」より 〜

■休憩タイム
「さて、と……一息いれようかな」
 洗い場にあった最後の茶碗を片付けながら、宮小路・綾霞(みやこうじ・あやか)は近くの後輩達に言った。
「そこの一年生、後片づけをやっておいてちょうだい。私達は休憩にいってくるわ」
「はーい」
 彼女の所属する茶道部の開催する茶会は、学園祭の中でも人気の出し物のひとつだ。そのためか、最初は交代制で行っていたのだが、すぐに手が足りなくなってしまい、学園祭2日目以降からは部員全員がスタッフとして参加することになってしまった。
 昼の繁盛時を終えて、一段落ついたのは午後3時すぎ。めまぐるしく働いていた部員達はようやく休憩に入ることができる。
 もちろん、休憩といっても看板を下ろすわけにはいかないので、客が来たらすぐに対応しなくてはならない。しっかりと休みを取りたいのなら、外に出ていってしまうのが一番だ。
 その隙を綾霞が逃すはずもなく、部長達が休みをとると同時に彼女も外へ出ることにした。衣装を着替えてさっさと出ていく部長達の後を追うように、綾霞は素早く身の回りを整えた。
 
■おいしいお店へのお誘い
 脱出(?)に成功した綾霞は、まず構内の散策からはじめることにした。思えば初日の音楽祭の後半ぐらいから、部活とクラスの出し物の準備におわれてしまい、ゆっくりと学校内を見てまわることは少なかった。休憩の合間をぬってコンサートやオークションに顔出しをしにはいったものの、たいした成果は得られなかった気がする。
 ふと、眼前を横切る見知った姿に気付き、綾霞は通り過ぎる少女に声をかけた。
「ごきげんよう、今日も忙しいようね」
「あっ、綾霞ちゃん。お茶屋さんは休憩? あ……そだ、一枚撮っていい?」
 いいながら彼女ー瀬名・雫(SHIZUKU)は胸から下げていたカメラを構えた。
「いくよー、はい笑顔ーっ」

 カシャリ。
 
 レトロなシャッター音が鳴り響く。そういえば、カメラも普段持っているデジタルカメラではなく、少し古い型の一眼レフカメラだ。
「珍しいね、いつものはどうしたの?」
「うーん、なんか……学園祭始まってから調子が悪いんだよ。露光をいつもどおりにあわせているのに、何だか暗くなっちゃうし……あと、変なものが時々写るし……」
「変なもの?」
「あっ、ううん。こっちの話っ。それよりさ、校庭の屋台にすっごく美味しいクレープ屋さんがあるって話だよ、一緒に行ってみない?」
「そうね……丁度お茶菓子を探していたところなの。ご相伴にあずかろうかしら」
「よしっきまりだねっ!」
 早く行こうと言わんばかりに、SHIZUKUは綾霞の手を引き階段を降りようとした。
 その時、不意に綾霞は見なれぬ人影が踊り場を過ぎていくのを見かけた。彼は足下にある何かを拾いあげると、そのまま上の階へとあがっていく。
「あら……上は確か……今日は何もなかったはずですけど」
「どうかしたの?」
「いいえ、なんでもないわ」
 気のせいだろうと思い直し、綾霞はにっこりとSHIZUKUに微笑みかける。
 そのまま雫に手を引かれながら、綾霞は駆け足ぎみに階下へ続く階段を駆け降りていった。
 
■一流の味
 校庭には様々な屋台がひしめき合うように並んでいた。
 もはや学園祭の定番となりつつある、やきそば・お好み焼き・たこ焼き……神聖都学園通り商店街が主催なだけあってか、どれも本格的なものばかりだ。香ばしいソースの焦げる匂いを楽しみながら、2人は目的地へであるクレープ屋までまっすぐ向かっていった。
「ほら、あそこだよ。なんか……結構並んでいるね……」
 雫の指差した屋台の前には、長蛇の列が出来上がっていた。当たり前の話ではあるが、若い女性の姿が多い。知り合いがいないか探してみたが、同級生だったであろうと思われる程度の顔見知りぐらいしか見当たらなかった。
「仕方ないね、並んで待とうか」
 さすがに挨拶を交わした程度の知り合いに、途中から割り込みしてもらうわけにはいかない。
 雑談を交えながら、2人は素直に順番待ちをすることにした。
 
 10分程並び、ようやく綾霞達の順番となった。
「へぇ……甘さの調節が出来るんだ。綾霞ちゃんは決まった?」
「そうね、『生クリームホイップチョコベリークレープ』で、甘さは5、トッピングにバナナとフルーツを追加でお願いしようかしら」
 メニューを見ながら、綾霞はさらりと言った。その言葉に、SHIZUKUは途端に眉をひそめき、囁くように言った。
「甘さ5って……生クリームとチョコ5倍だよ? きっとものすっごく甘いと思うよ?」
「物は試しよ。折角の機会なんだから、存分に楽しまないとね」
 にっこりとほほえみ、綾霞は宣言通りに注文した。
 目の前にある丸い鉄板にクレープ液が注がれ、へらで薄い円状に伸ばされていく。
 鉄板から剥がしとり、少し時間をおいてから、下地のバター、チョコレートソース、バナナ、ブルーベリーとラズベリー、桃とリンゴ……と順番にフルーツが並べられた。
 並べ終えたら生クリームをふんだんにかけ、半分に折り畳んでくるりと一巻きさせる。
 最後にデコレーションとして、ホイップとチョコレートスプレーを飾れば完成だ。
 大きさは市販のクレープの1・5倍程、綾霞の両手2個分はある。
 想像以上の大きさに驚きながらも、とりあえずは、と一口かじりついた。
 海外の菓子に代表される、砂糖だけの甘さではなく、はちみつやジャムの自然の甘さが上手に取り入れられた優しい甘さだ。
 生地はバターを多めに練りこんであるのだろう、簡単に噛み切れる程度ではあるが少し固めに焼かれている。
 フルーツの爽やかな酸味と自然な甘み、クレープのパリパリ感とクリームの柔らかさが程よく混じりあい、最後まで飽きを感じさせない食べやすさをかもし出している。
「なるほど、人気があるのも頷けるわね」
 並のレピシエの技ではない。恐るべし、神聖都学園通り商店街。
「んー……バターの味がとろけるぅ……」
「あら、そっちのクレープはなんだか貧そうね」
 雫が注文したクレープには殆ど何も入ってなかった。トッピングも何もないノーマルなのだという。
「メニューの一番端にある、シュガーバタークレープなの。甘さ控えめでこっちも美味しいよ」
「でも、ちょっと寂しい感じがするんじゃない?」
「そう思う人はトッピングで何か足せばいいんだよ。私はこれがいいって思ったから決めたの。で……どう、そっち。甘くない?」
「上品な甘さで美味しいわ、フルーツによく合う味よ。全然飽きがこないからお代わりも出来そう」
「でもうっかり食べ過ぎて太らないよう、気をつけないとね」
「そうね、そればっかりはお店の人も保障出来ないものね」
 ふと、時計を見上げて綾霞は小さく声を上げた。
「あら……そろそろ戻らないと部員の皆が心配するわね」
「またお仕事?」
「ええ、でもまずはこれを全部食べきることが先決ね」
 それまではゆっくりしていきましょう、と2人は近くのベンチに座り込んだ。
 SHIZUKUと交換して、少しだけかじったただのクレープもなかなかの味だった。
 バターの風味がよく溶け込み、クレープ生地により深い味わいをかもしださせている。
「同じ生地なのに、中身が違うだけでこんなにも違うのね」
「こんなに甘くて美味しいクレープを発明した人は本当に偉大だよ」
「あら、最初のクレープは甘くはなかったのよ。パンやナンみたいなものだったんだから」
「ふーん、そうなんだ」

 しばらくして、部の後輩達が綾霞を部室へ連れ戻すためにやってきた。
 それまでの少し間、2人はクレープをかじりながら楽しい談話を続けたのだった。
 
 おわり
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号/   PC名  /性別/クラス  】

  2335/ 宮小路・綾霞 /女性/2年C組
 
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■         ライター通信          ■
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 お待たせいたしました。
 『激甘昇天クレープ【16日】』パーティノベルをお届けいたします。
 ご依頼ありがとうございました。
 
 文中に出てくるクレープのモデルは実在します。でも、どこのお店かは秘密(え)
 トッピングが色々あるものも秀逸ですが、何もないプレーン(中身はバターと砂糖のみ)というのも結構美味しいものですね。
 大抵のクレープ屋は生クリーム入りなので、何もない状態というのは、お店の人に無理を言って頼まないと作ってもらえなさそうではありますが……
 
 ほんのりと文中に謎めいた描写が入っていますが、その正体は、すでに納品された他作品からお気付きになられているかと思います。ただし、時間軸と話の都合上、このお話の段階でははっきりと気付けないようになっています。どうぞご了承下さい。
 
 それではまた、別の物語でお会いできるのを楽しみにしております。
 
  文章執筆:谷口舞