コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


パジャマパーティーへようこそ!

1.
「それじゃ、帰るのは早くて明日の夕方だから戸締りしっかりな」
草間武彦がそういうと、草間零はにっこりと笑った。

「はい、いってらっしゃい。兄さん」

タクシー代を浮かすため、駅まで徒歩で歩く草間の後姿にずっと手を振り続ける零・・・。
草間はそんな妹を見て、少々不安に感じ始めていた。

昨今、治安が悪くなってきた日本。
そんな中で零はあまりにも純粋で、強盗なんかに入られた日には零は喜んでお茶ぐらい出しそうだ。
あいつは今時珍しいくらいに素直でかわいいからなぁ・・・。
いやそんなことよりも、そんな可愛い零を1人で留守番させる俺はなんて罪深い兄なんだ!?

・・・ただの兄バカ・・・といってしまえばそこまでだが。
とにかく、草間は不安のあまりついポケットから携帯を取り出した。

・・・誰か、零と留守番してやってくれ・・・。


2.
「零ちゃん、お・待・た・せ♪」

紙袋と小さな旅行バックを持って現れたシュライン・エマに、零は大きな瞳を数度瞬かせた。
「今日は、もうお仕事終わったはずじゃ??」
「今日は武彦さん、泊まりで出張でしょ? だからたまには零ちゃんと興信所でお留守番も新鮮かな・・って思ったのよ」
にっこりと笑ったエマに、零はまた数度瞬きをするとほんのりと頬を染めた。
「誰かがお泊りに来るなんて、初めてです・・・。なんだかワクワクしますね。あ、お茶の用意しなければ!」
そそくさとお茶の用意をしようとする零を制止しつつ、エマは思った。

分け隔てないのは長所だけれど・・・。
武彦さんの言ってたとおり、強盗が来たらお茶を出しそうって点は同意だわ。

と、そんな草間興信所のドアが再び開いた。
「こんばんわ。あ、シュラインさんも来てたんですね」
ニコニコと現れたのは手にケーキの手提げボックスとお泊り道具が入っているであろうカバンを持った初瀬日和(はつせひより)であった。
「あら、初瀬さん。武彦さん、あなたにまで電話したのね」
どう考えても兄バカ・草間の行動がこの2人で終わったとは到底思えない。
苦笑するエマの予想は的中した。
「こんばんわ。草間さんからボディガードを頼まれてきたのですが・・・」と、やってきた梅・蝶蘭(めい・でぃえらん)。
「妹たちから草間様のお願いをお聞きしましたので、参りました」と、海原(うなばら)みそのも興信所の扉をくぐった。
「・・・少し事情があってな。一晩泊めてくれ」言葉を濁してやってきた黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)。
全ての人々が草間の兄バカに付き合わされた被害者といえよう。
だが。

「わぁ〜! みなさんがお泊まりに来て下さるなんて・・・今日は一生懸命腕振るいますね♪」

満面の笑顔でウキウキしている零を見ると、その兄バカの気持ちが少し理解できてしまうエマなのであった・・・。


3.
普段は仮眠室である一室を今日のパジャマパーティーの会場 兼 寝室にした。
それ以外の部屋の明かりは節約のために消し、エマは部屋の中に入った。
ケーキに中華風デザート、スナック菓子やジュースの差し入れを部屋の真ん中にドンと置かれている。
エマはそれらに加え、興信所においてあったハーブティーや冷蔵庫のお土産も並べた。
女6人で食べるには少々多いかもしれないが、まぁ、女の話にお菓子は付き物だ。
既にそれぞれパジャマに着替えて話に花を咲かせていた。

武彦さん秘蔵の某ビデオ、見てみるのもいいかなって思ったけど、さすがに18歳未満が多すぎるわね・・・。
零ちゃんの情操教育的にも悪影響そうだし、もうちょっと大きくなってからかしら。
・・・しかし武彦さんも買ったのか、貰ったのか。現状じゃ見るタイミングなさそうで可哀想かも。

シンプルで動きやすい無地のパジャマを着たエマはハーブティーを飲みながら、楽しげに話すみそのたちを見つめながらそんなことを考えていた。
と、淡いグリ−ンのパジャマを着た蝶蘭が、エマの元へなにやらノートを抱えてやってきた。

「あの、宿題を少し教えて欲しいのですが・・・」

普段の真面目振りが伺えるその言葉に、エマは快諾した。
「いいわよ。私でよければ」
「ここなんですけど・・・」
「・・フランスの作曲家・ビゼーの代表曲を書け? 珍しい問題ね」
国語か数学かと身構えていたエマは、蝶蘭の出した宿題を見て意表を突かれた。
「音楽の問題ですか?」
横から、何気に話を聞いていた日和が話に入ってきた。
赤と白のチェック柄が日和をいつもより少し子供っぽく見せていて可愛かった。
「そういえば、初瀬さんの得意分野だったわね」
「はい。ビゼーはオペラで有名なんですけど、曲だけでもとても素敵なんですよ。代表曲というと・・・カルメンやアルルの女でしょうか」
ニコニコと話す日和の言葉を蝶蘭はすらすらと書いていく。

学生さんは学生さん同士のほうが話が合うのかもしれないわね。

ちょっぴり寂しい気もするが、それは持つべき仕事の違いかもしれない。
「・・・はシュラインさんですもんね?」
「え?」
ふいになぜか二つ分けの編み込み三つ編みヘアになった零にそう問われ、エマは目を瞬かせた。
・・・話が全く見えない。
「冥月様の胸があまりに大きいので草間様に大きくされたのかと・・・」
「だーかーらー! 何故そうなるんだ? これは元々で・・」
「兄さんはシュラインさんと恋人なんだから、そんなはずはないですよ。みそのさん」
どうやら妙な話の展開になっているらしい。
と、突然、何をひらめいたのか零が神妙な顔をしてエマを見つめた。
「・・は!? もしや、シュラインさんの胸が大きいのは・・・」

「零ちゃん! もう、誰!? こんな話題振ったのは!」

フルフルと頭を振って否定するエマを、いつの間にか冥月やみそのや零、そして先ほどまで宿題をしていたはずの日和や蝶蘭までもがじーっと見つめていた・・・。


4.
「シュラインさん、ごめんなさい〜」

ウルウルとした瞳で零はエマにそう懇願した。
「怒ってないから、そんな顔しないの」
「でも、シュライン様と草間様はどこまで進んでいらっしゃるのでしょうか・・・?」
ぼそっと呟くみそのに、冥月もウンウンとうなずく。
「・・ご想像にお任せするわ」
ほんのり頬を染めたエマに、日和がくすっと笑った。
「なんだかシュラインさんって硬いイメージがあったんですけど、やっぱり恋をしてる人ってみんな可愛いですね」
「恋をすると女は変わると? ・・・私もいつか変われるんだろうか?」
後半は独り言なのだろう。蝶蘭は持参の枕をギュッと抱きしめて、なにやら日和の言葉に考え込んだ。
「私ってそんなに硬いイメージだった?」
「色恋沙汰にあまり興味なさそうな雰囲気はするかもしれない」
おそらく冥月もエマに対してそのようなイメージを持っていたのであろう。
「では、わたくしも可愛いのでしょうか?」
「あんたはどっちかって言うと年齢不適当なくらいに色気がある」
褒めているのかよくわからないが、冥月はみそのの問いにそう答えた。

ガタン

「・・・今、物音がしませんでした?」
日和が、そう呟いた。
瞬間、さらに物音がした。
今度ははっきりと皆の耳に届いたらしく、表情がこわばった。
「・・泥棒かしら?」
エマは頭の中で今の状況を冷静に分析しようとしている。
「零様はひとまずこちらへ」
みそのが零を抱いて部屋の奥へと連れて行く。
「どうしましょう・・?」
日和が今にも消え入りそうな声で誰に聞くともなしにそう言った。
「私が行こう。こういったことは仕事柄慣れてるんでな」
冥月の瞳がきらりと光った。その瞳は、既に獲物を狙う瞳だ。
「私も行きます。草間さんとの約束ですから」
どこから出したのか、蝶蘭はその手に剣を持っていた。

ガタン

確実に物音は、エマ達のいる部屋へと向かってきていた・・・。


5.
冥月がそっと足音を立てぬように出入り口の扉を背にした。
蝶蘭に視線を投げかけ、一度頷く。
それを見て蝶蘭も返事をする変わりに深く頷く。
気配は既に扉の前まで来ていた。

バンッ!

タイミングよく冥月がその扉を開け、気配に向かって蝶蘭が剣を投げつけていく。

カツカツカツカツ!!!

「うわぁああああぁぁぁぁ!!!?!」
「・・あら?」
哀れな犠牲者の声になぜか聞き覚えがあった。
エマは廊下の明かりをつけた。

「武彦さん!?」

そう。侵入者は誰あろう、草間武彦本人であったのだ。
「綺麗に張り付けられましたわね」
みそのが感動したのか、そう漏らした。
蝶蘭の投げた剣はみごとに草間の体を囲みつつ、昆虫標本のように貼張り付けていたのだ。
「ど、どうして草間さんがここにいるんですか??」
パジャマ姿が恥ずかしいのか、零の後ろに隠れる様に日和がもっともなことを訊いた。
「そうですよ。私だって草間さんが帰ってくるなんて思わなかったから」
蝶蘭が自分の投げた剣を消しつつ、そう訊いた。

「いや、あんまりにも心配になったんで依頼片付けて帰ってきたんだよ」

「・・・バカ兄貴」
冥月が目をつぶり、その目の端を微妙に痙攣させつつ呟いた。
怒っているのか、あきれているのか?
「草間様が帰ってきたということは、わたくしたちは・・・?」
みそのがそう訊いた。
「あー、それは・・」と草間が言うよりも早く、零が口を開いた。

「折角なんですもん。兄さんは自分の部屋でゆっくり休んでいただいて、皆さんは予定通りにここでお喋りしていって下さい。それでいいですよね? 兄さん」

なにやら有無を言わせぬその言葉に、草間は「わ、わかった」と自分の部屋へ帰っていった。
「いいの?」
エマが零にそう訊くと、零はにっこりと笑った。

「だって、こんなに楽しい事があるなんて私知らなかったから・・・。もっと皆さんとお話したいなぁって・・・ダメですか?」

少し恥ずかしげにそう言った零に、エマは思わず抱きしめたくなる衝動に駆られた。
が、それでは草間と同じ『姉バカ』になってしまうとどこかで囁く声にその衝動に身をゆだねることはなかった・・・。


6.
夜更けまで色々な話で盛り上がり、気がつくと布団の上で雑魚寝をしていた。
無防備に眠る零やみその、日和や蝶蘭や冥月を起こさぬように、エマはそっと部屋を出た。
時計は7時を少し過ぎたあたり。
そろそろ朝食の支度をしておこうと思ったのだ。
パジャマのままで台所まで来ると、朝刊を読みながらタバコをくゆらせていた草間を見つけた。

「おはよう、武彦さん」

「・・おう。早いな」
チラッとエマを確認すると草間は再び新聞へと目を移した。
怪訝に思ったエマだったが、それがパジャマのままのエマに対する配慮だと気がついた。
「コーヒー、入れましょうか?」
「あぁ、頼む」
カチャカチャと静かな朝の時間の中でエマは草間のためにコーヒーを入れた。
「たまにはこういうのもいいのかもしれんな」
ポツリと、草間が呟いた。
「??」
エマは手を止めて草間を振り返った。
草間は言葉を選ぶようにゆっくりと語る。
「あいつは・・・零はもっとこういう女の子らしいことをさせてやらないといけないのかもな。俺と一緒じゃなかなか女の子の生活というヤツがわからんだろうし」
「こんなことでよかったら、いくらでも私が誘ってあげるわよ」
ふふっと笑い、エマは再びコーヒーの支度を始めた。
「おまえが居てくれて、つくづくありがたいと思うよ」
草間のそんな呟きが、エマの耳に届いた。

皆が起きるまで、もう少しだけ。
この時間が続きますように・・・。


−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

2778 / 黒・冥月 / 女 / 20 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

3524 / 初瀬・日和 / 女 / 16 / 高校生

1388 / 海原・みその / 女 / 13 / 深淵の巫女

3505 / 梅・蝶蘭 / 女 / 15 / 中学生


■□     ライター通信      □■
シュライン・エマ様

この度は『パジャマパーティーへようこそ!』へご参加いただきありがとうございました。
今回は予定通り男性PCさまのご依頼がなく、話が簡単に進むかと持ったのですが男性PC乱入時のプレイングも頂きましたので草間氏登場と相成りました。(^^;
年が違うと女性はかなり話が合わなかったりするのですが、今回は日和様よりのご提案で恋愛話を書かせていただきました。
書き足りない部分もかなりあるのですが、文字数の都合で削らせていただきました。
・・・自分の文章力のなさが悔しいです・・・。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。