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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


パジャマパーティーへようこそ!

1.
「それじゃ、帰るのは早くて明日の夕方だから戸締りしっかりな」
草間武彦がそういうと、草間零はにっこりと笑った。

「はい、いってらっしゃい。兄さん」

タクシー代を浮かすため、駅まで徒歩で歩く草間の後姿にずっと手を振り続ける零・・・。
草間はそんな妹を見て、少々不安に感じ始めていた。

昨今、治安が悪くなってきた日本。
そんな中で零はあまりにも純粋で、強盗なんかに入られた日には零は喜んでお茶ぐらい出しそうだ。
あいつは今時珍しいくらいに素直でかわいいからなぁ・・・。
いやそんなことよりも、そんな可愛い零を1人で留守番させる俺はなんて罪深い兄なんだ!?

・・・ただの兄バカ・・・といってしまえばそこまでだが。
とにかく、草間は不安のあまりついポケットから携帯を取り出した。

・・・誰か、零と留守番してやってくれ・・・。


2.
「・・・少し事情があってな。一晩泊めてくれ」

黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)はそう言おうと心に決めて草間興信所へと乗り込んだ。
草間の威厳がどれほどのものかはわからなかったが、一応アレでも零の兄なのだ。
兄バカであることをわざわざ他人の冥月が知らせるのは無粋だろう、と思った。

しかし、あの娘をどうかできる奴が世にどれだけ居るんだ・・・?
・・・でも天然ボケ具合は最悪か・・・。

ため息をついた冥月は、そう思った。
冥月は草間興信所に入ると、第一声で言った。

「・・・少し事情があってな。一晩泊めてくれ」

だが、それは余計な気遣いだったようだ。
既に来ていたシュライン・エマ、初瀬日和(はつせひより)、海原(うなばら)みその、梅蝶蘭(めい・でぃえらん)が既に零とともに雑談していたのだから。

・・・あいつは私以外にも頼んだわけか・・・。

兄バカっぷりを目の当たりにし、冥月は軽いめまいを覚えた。
しかし、ここまで来てしまった以上帰るつもりもなかった・・・。


3.
普段は仮眠室である一室を今日のパジャマパーティーの会場 兼 寝室にした。
それ以外の部屋の明かりは節約のために消し、エマが部屋の中に入った。
ケーキに中華風デザート、スナック菓子やジュース、ハーブティーにどこぞのお土産なんかが部屋の真ん中にドンと置かれている。
女6人で食べるには少々多いかもしれないが、まぁ、女の話にお菓子は付き物だ。
既にそれぞれパジャマに着替えて話に花を咲かせていた。
が、普段パジャマなどを着ない冥月だけは黒のノースリーブに黒のパンティという姿態。
10代の頃にこんな女同士の集まりに参加したこともなく、冥月は1人取り残されたような気持ちで日和達を見つめていた。
と、そんな冥月に擦り寄ってきたものがいた。

「冥月様はとても胸が大きいのですね」

「え゛!?」
突然そんなことを言われ、冥月は戸惑った。
それは、黒のシースルーネグリジェを着たみそのであった。
確か年は・・・13と聞いた気がした。
が、透けて見える体は13歳にしては立派過ぎた。

「草間様に揉んで頂いたのでしょうか?」

「・・・な、な・・!?」
こともなげに聞いたみそのに、冥月は狼狽した。
まさかそんな質問が来るとは思っても見なかったのだ。
「あ、それってテレビで聞いたことがあります」
脇で日和と話していた零が話に割り込んできた。
「でも、兄さんじゃないですよね。兄さんの恋人ははシュラインさんですもんね?」
零がエマに話をふった。
「え?」
ふいに零にそう問われ、エマが目を瞬かせた。
どうやら話を聞いていなかったようだ。
「冥月様の胸があまりに大きいので草間様に大きくされたのかと・・・」
「だーかーらー! 何故そうなるんだ? これは元々で・・」
「兄さんはシュラインさんと恋人なんだから、そんなはずはないですよ。みそのさん」
うらやましげに見るみそのの視線が胸に痛い。
と、突然、何をひらめいたのか零が神妙な顔をしてエマを見つめた。

「・・は!? もしや、シュラインさんの胸が大きいのは・・・」

「零ちゃん! もう、誰!? こんな話題振ったのは!」
フルフルと頭を振って否定するエマを、いつの間にか冥月やみそのや零、そして先ほどまで宿題をしていたはずの日和や蝶蘭までもがじーっと見つめていた・・・。


4.
「シュラインさん、ごめんなさい〜」
ウルウルとした瞳で、零はエマにそう懇願した。
「怒ってないから、そんな顔しないの」
「でも、シュライン様と草間様はどこまで進んでいらっしゃるのでしょうか・・・?」
ぼそっと呟くみそのに、冥月もウンウンとうなずく。
実際、あの男がどこまでこの女性相手にどこまで進んでいるのか気になるところではある。
「・・ご想像にお任せするわ」
ほんのり頬を染めたエマに、日和がくすっと笑った。
「なんだかシュラインさんって硬いイメージがあったんですけど、やっぱり恋をしてる人ってみんな可愛いですね」
「恋をすると女は変わると? ・・・私もいつか変われるんだろうか?」
後半は独り言なのだろう。蝶蘭は持参の枕をギュッと抱きしめて、なにやら日和の言葉に考え込んだ。
「私ってそんなに硬いイメージだった?」
「色恋沙汰にあまり興味なさそうな雰囲気はするかもしれない」
パッと見、仕事一筋そうなやり手の雰囲気を持ち合わせたエマは少々近寄りがたい雰囲気がある。
「では、わたくしも可愛いのでしょうか?」
「あんたはどっちかって言うと年齢不適当なくらいに色気がある」
間髪をいれず、冥月はきっぱり・はっきり言い切った。

ガタン

「・・・今、物音がしませんでした?」
日和が、そう呟いた。
瞬間、さらに物音がした。
今度ははっきりと皆の耳に届いたらしく、表情がこわばった。
「・・泥棒かしら?」
エマは冷静にそう呟いた。
「零様はひとまずこちらへ」
みそのが零を抱いて部屋の奥へと連れて行く。
「どうしましょう・・?」
日和が今にも消え入りそうな声で、誰に聞くともなしにそう言った。
「私が行こう。こういったことは仕事柄慣れてるんでな」
冥月の瞳がきらりと光った。
今までの会話が嘘のように、一瞬にして顔つきが変わった。
「私も行きます。草間さんとの約束ですから」
どこから出したのか、蝶蘭はその手に剣を持っていた。

ガタン

確実に物音は、冥月達のいる部屋へと向かってきていた・・・。


5.
冥月はそっと足音を立てぬように出入り口の扉を背にした。
蝶蘭に視線を投げかけ、一度頷く。
それを見て蝶蘭も返事をする変わりに深く頷く。
気配は既に扉の前まで来ていた。

バンッ!

タイミングよく冥月がその扉を開け、気配に向かって蝶蘭が剣を投げつけていく。

カツカツカツカツ!!!

「うわぁああああぁぁぁぁ!!!?!」
「・・あら?」
哀れな犠牲者の声になぜか聞き覚えがあった。
エマが廊下の明かりをつけた。

「武彦さん!?」

そう。侵入者は誰あろう、草間武彦本人であったのだ。
「綺麗に張り付けられましたわね」
みそのが感動したのか、そう漏らした。
蝶蘭の投げた剣はみごとに草間の体を囲みつつ、昆虫標本のように貼張り付けていたのだ。
「ど、どうして草間さんがここにいるんですか??」
パジャマ姿が恥ずかしいのか、零の後ろに隠れる様に日和がもっともなことを訊いた。
「そうですよ。私だって草間さんが帰ってくるなんて思わなかったから」
蝶蘭が自分の投げた剣を消しつつ、そう訊いた。

「いや、あんまりにも心配になったんで依頼片付けて帰ってきたんだよ」

「・・・バカ兄貴」
冥月は目をつぶり、その目の端を微妙に痙攣させつつ呟いた。
怒っているのか、あきれているのか自分でもよくわからなかったが、なんとなくホッとしていた。
「草間様が帰ってきたということは、わたくしたちは・・・?」
みそのがそう訊いた。
「あー、それは・・」と草間が言うよりも早く、零が口を開いた。

「折角なんですもん。兄さんは自分の部屋でゆっくり休んでいただいて、皆さんは予定通りにここでお喋りしていって下さい。それでいいですよね? 兄さん」

なにやら有無を言わせぬその言葉に、草間は「わ、わかった」と自分の部屋へ帰っていった。
「あの兄バカっぷりだと夜中に覗きに来るかもしれんな」
げんなりと呟いた冥月に、蝶蘭が言った。

「そうしたら、今度は本気で脳天に刺すだけですよ」

「・・・あんた、可愛い顔して怖いこと言うね」
冥月は笑った。
それに釣られて蝶蘭も笑った。
どこまで冗談なのか、よくわからなかった・・・。


6.
夜更けまで話し込み、気がつくと布団の上で雑魚寝をしていた。
何を話したのか全く覚えていなかったが、この人生の中で1番話したのではないかと思うほど話した気がした。

「また、こういう機会があるといいですね」

帰りがけにそう呟いて笑った零の顔が、やけに印象に残った。

そうね。
たまにはこういう空気も悪くない。

黒髪をなびかせ、冥月はそう思った。
普通の女として過ごした一夜・・・それが夢のようだった・・・。


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■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

2778 / 黒・冥月 / 女 / 20 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

3524 / 初瀬・日和 / 女 / 16 / 高校生

1388 / 海原・みその / 女 / 13 / 深淵の巫女

3505 / 梅・蝶蘭 / 女 / 15 / 中学生


■□     ライター通信      □■
黒・冥月様

初めまして、とーいと申します。
この度は『パジャマパーティーへようこそ!』へご参加いただきありがとうございました。
今回は予定通り男性PCさまのご依頼がなく、話が簡単に進むかと持ったのですが男性PC乱入時のプレイングも頂きましたので草間氏登場と相成りました。(^^;
設定読ませていただいた限りサバサバ系美人で、プレイングの方では少々冗談の通じる人・・・かなといった具合でこのような形となりました。
胸のことに関しましては、零よりも突っ込んでくれそうなみその様に肩代わりをしていただきました。
女性同士の無礼講・・・ということで少しでもお楽しみいただければ幸いです。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。