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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


パジャマパーティーへようこそ!

1.
「それじゃ、帰るのは早くて明日の夕方だから戸締りしっかりな」
草間武彦がそういうと、草間零はにっこりと笑った。

「はい、いってらっしゃい。兄さん」

タクシー代を浮かすため、駅まで徒歩で歩く草間の後姿にずっと手を振り続ける零・・・。
草間はそんな妹を見て、少々不安に感じ始めていた。

昨今、治安が悪くなってきた日本。
そんな中で零はあまりにも純粋で、強盗なんかに入られた日には零は喜んでお茶ぐらい出しそうだ。
あいつは今時珍しいくらいに素直でかわいいからなぁ・・・。
いやそんなことよりも、そんな可愛い零を1人で留守番させる俺はなんて罪深い兄なんだ!?

・・・ただの兄バカ・・・といってしまえばそこまでだが。
とにかく、草間は不安のあまりついポケットから携帯を取り出した。

・・・誰か、零と留守番してやってくれ・・・。


2.
草間さんの家でお泊まりすると言った時の兄さん達の慌てようといったら・・・。

初瀬日和(はつせひより)は、1人思い出し笑いをした。
草間興信所へ向かう道は既に夕闇に包まれている。

でも、草間さんも心配性というか過保護というか・・・ちょっと意外かな。

ポーカーフェイスでハードボイルドを装う草間の顔が思い出されて、日和はまた笑った。
草間の留守を零と一緒にしたいと何とか説得したものの、兄たちの顔は『心配』の二文字がしっかりと書いてあった。
その兄たちと草間が同じように妹を心配している・・・そう思うと、なんだかくすぐったかったのだ。
日和は、足早に手作りケーキとお泊まりセットを持って興信所へと向かった。

興信所のビルに着き、入り口の扉を開けると見慣れた顔を見つけた。
「こんばんわ。あ、シュラインさんも来てたんですね」
「あら、初瀬さん。武彦さん、あなたにまで電話したのね」
苦笑するのは草間興信所で事務員をするシュライン・エマ。
実は草間の恋人だというのは、ここに出入りする人間なら少なくとも知っている事実だ。
「きっとまだ被害者は来るわね」
エマがそう呟いた。
「被害者??」日和がそう聞くと、エマはまた苦笑して言った。
「そ。兄バカの被害者よ」

エマの予言は見事に当たった。
「こんばんわ。草間さんからボディガードを頼まれてきたのですが・・・」と、やってきた梅・蝶蘭(めい・でぃえらん)。
「妹たちから草間様のお願いをお聞きしましたので、参りました」と、海原(うなばら)みそのも興信所の扉をくぐった。
「・・・少し事情があってな。一晩泊めてくれ」言葉を濁してやってきた黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)。
計5人が草間の兄バカによって呼び出されたことになる。

さすがは恋人同士だわ。心が通じ合ってる。

日和はそんなエマと草間をちょっぴり羨ましく思ったりした・・・。


3.
普段は仮眠室である一室を今日のパジャマパーティーの会場 兼 寝室にした。
それ以外の部屋の明かりは節約のために消し、部屋の中に入った。
ケーキに中華風デザート、スナック菓子やジュース、ハーブティーにどこぞのお土産なんかが部屋の真ん中にドンと置かれている。
女6人で食べるには少々多いかもしれないが、まぁ、女の話にお菓子は付き物だ。
既にそれぞれパジャマに着替えて話に花を咲かせていた。

「零さんは、いつもこの髪型なんですか?」

「え?」
赤と白のチェック柄のパジャマに着替えた日和は、零のサラサラとした黒髪を見つめた。
日中は大きなリボンを髪に止めてはいるものの、いつも代わり映えはしない。
「他の結い方を知らないので、この髪型にしているんですけど・・・似合いませんか?」
ちょっぴり困り顔の零に「そうじゃないけど」と日和は慌てて訂正した。
「せっかく可愛らしいんだから、もっと可愛くなるようにしてもいいと思うんです。編み込みとか、ちょっといじるだけでも見違えますし」
にっこりと笑うと日和は櫛とゴムを2つカバンから取り出した。
「ちょっと後ろ向いてもらえますか」
「はい。お願いします」
ちょっと緊張気味に後ろを向いた零の髪を日和は器用に二つ分けにして編み込みの三つ編みを作っていく。

「・・・はい、できましたよ」

日和はカバンから手鏡を取り出した。
少し小さいが全体の雰囲気を見る分には差し障りはないだろう。
「・・・すごい。日和さん、とっても器用なんですね」
ポッと顔を赤らめて、零は嬉しそうに日和に言った。
その顔に日和も思わず笑みがこぼれた。
これだけでも、今日来た甲斐があるというものだ。

「・・フランスの作曲家・ビゼーの代表曲を書け? 珍しい問題ね」
ふと、エマのそんな声が聞こえた。
「音楽の問題ですか?」
思わず、日和はエマと蝶蘭の会話に入ってしまった。
「そういえば、初瀬さんの得意分野だったわね」
エマがにっこりと笑い、そう聞いてくれた。
「はい。ビゼーはオペラで有名なんですけど、曲だけでもとても素敵なんですよ。代表曲というと・・・カルメンやアルルの女でしょうか」
ニコニコと話す日和の言葉を蝶蘭はすらすらと書いていく。
どうやら先ほどの問題は、蝶蘭の宿題だったようだ。
蝶蘭は書き終わると、次の問題へと移行した。
「ではこちらの問題は、バッハでいいのでしょうか?」
「えーっと、うん。そう。バッハです」
必死で宿題をやる蝶蘭を見ていると、妹ってこんな感じなんだろうな・・などと思ってしまう。

「零ちゃん! もう、誰!? こんな話題振ったのは!」

突然、エマの叫びが聞こえ、思わず日和も蝶蘭もエマを見つめてしまった。
いったい何があったというのか・・・?


4.
「シュラインさん、ごめんなさい〜」
ウルウルとした瞳で零はエマにそう懇願した。
「怒ってないから、そんな顔しないの」
「でも、シュライン様と草間様はどこまで進んでいらっしゃるのでしょうか・・・?」
ぼそっと呟くみそのに、冥月もウンウンとうなずく。
「・・ご想像にお任せするわ」
ほんのり頬を染めたエマ。
どうやら、恋愛話をしていたようだ。
日和は思わずくすっと笑った。
「なんだかシュラインさんって硬いイメージがあったんですけど、やっぱり恋をしてる人ってみんな可愛いですね」
「恋をすると女は変わると? ・・・私もいつか変われるんだろうか?」
後半は独り言なのだろう。蝶蘭は持参の枕をギュッと抱きしめて、なにやら日和の言葉に考え込んだ。
「私ってそんなに硬いイメージだった?」
「色恋沙汰にあまり興味なさそうな雰囲気はするかもしれない」
おそらく冥月もエマに対してそのようなイメージを持っていたのであろう。
「では、わたくしも可愛いのでしょうか?」
「あんたはどっちかって言うと年齢不適当なくらいに色気がある」
褒めているのかよくわからないが、冥月はみそのの問いにそう答えた。

ガタン

「・・・今、物音がしませんでした?」
日和は、そう呟いた。
瞬間、さらに物音がした。
今度ははっきりと皆の耳に届いたらしく、表情がこわばった。
「・・泥棒かしら?」
エマは冷静にそう呟いた。
「零様はひとまずこちらへ」
みそのが零を抱いて部屋の奥へと連れて行く。
「どうしましょう・・?」
日和は今にも消え入りそうな声で誰に聞くともなしにそう言った。
「私が行こう。こういったことは仕事柄慣れてるんでな」
冥月の瞳がきらりと光った。その瞳は、既に獲物を狙う瞳だ。
「私も行きます。草間さんとの約束ですから」
どこから出したのか、蝶蘭はその手に剣を持っていた。

ガタン

確実に物音は、日和達のいる部屋へと向かってきていた・・・。


5.
冥月がそっと足音を立てぬように出入り口の扉を背にした。
蝶蘭に視線を投げかけ、一度頷く。
それを見て蝶蘭も返事をする変わりに深く頷く。
気配は既に扉の前まで来ていた。

バンッ!

タイミングよく冥月がその扉を開け、気配に向かって蝶蘭が剣を投げつけていく。

カツカツカツカツ!!!

「うわぁああああぁぁぁぁ!!!?!」
「・・あら?」
哀れな犠牲者の声になぜか聞き覚えがあった。
エマが廊下の明かりをつけた。

「武彦さん!?」

そう。侵入者は誰あろう、草間武彦本人であったのだ。
「綺麗に張り付けられましたわね」
みそのが感動したのか、そう漏らした。
蝶蘭の投げた剣はみごとに草間の体を囲みつつ、昆虫標本のように貼張り付けていたのだ。
「ど、どうして草間さんがここにいるんですか??」
日和は自分がパジャマだったことを思い出し、零の後ろに隠れる様にを訊いた。
「そうですよ。私だって草間さんが帰ってくるなんて思わなかったから」
蝶蘭が自分の投げた剣を消しつつ、そう訊いた。

「いや、あんまりにも心配になったんで依頼片付けて帰ってきたんだよ」

「・・・バカ兄貴」
冥月が目をつぶり、その目の端を微妙に痙攣させつつ呟いた。
怒っているのか、あきれているのか?
「草間様が帰ってきたということは、わたくしたちは・・・?」
みそのがそう訊いた。
「あー、それは・・」と草間が言うよりも早く、零が口を開いた。

「折角なんですもん。兄さんは自分の部屋でゆっくり休んでいただいて、皆さんは予定通りにここでお喋りしていって下さい。それでいいですよね? 兄さん」

なにやら有無を言わせぬその言葉に、草間は「わ、わかった」と自分の部屋へ帰っていった。
「・・なんだかちょっと可哀想ですね」

零さんを思って帰ってきたのに・・・。

日和はそう思ったのだが、隣に居たみそのがポツリと言った。
「優しさだけが愛情ではございませんから」
年下のみそのの言葉に少し驚いたが、日和は少し考えて「そうですね」と答えた。

守られているだけじゃ、ダメなんだもの・・・。


6.
夜更けまで話し込み、気がつくと布団の上で雑魚寝をしていた。
いつもだったら兄たちに怒られそうなことだってした。

また、こんな機会があったらいいのに・・・。
そうだ。今度はうちで友達を呼んでやったら兄さんたちも心配しないのかもしれない・・・。

夢の中でウトウトと、日和はそんなことを思っていた。


−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

2778 / 黒・冥月 / 女 / 20 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

3524 / 初瀬・日和 / 女 / 16 / 高校生

1388 / 海原・みその / 女 / 13 / 深淵の巫女

3505 / 梅・蝶蘭 / 女 / 15 / 中学生


■□     ライター通信      □■
初瀬・日和様

初めまして、とーいと申します。
この度は『パジャマパーティーへようこそ!』へご参加いただきありがとうございました。
今回は予定通り男性PCさまのご依頼がなく、話が簡単に進むかと持ったのですが男性PC乱入時のプレイングも頂きましたので草間氏登場と相成りました。(^^;
シナリオ、楽しみにしていただいていたようで大変嬉しく思います。
ご期待に沿えていればいいのですが、書きたいことが多すぎて泣く泣く削減の嵐・・。
少しでもお楽しみいただければと思います。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。