コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


戦々決闘

「ふむ」
 こちらを見つめてくる紅月の視線は、鋭く、厳しい。
 しかし、我宝ヶ峰・沙霧はそれに全く動じる様子もない。自慢ではないが、修羅場を潜った数は十や二十の比では無い。
「触れるもの全てを斬る、いや、穿つような目だな」
「そういう紅月は、触れなくても斬りそうな目だね」
 沙霧の切り返しに、紅月の目が僅かに見開かれる。その唇が、笑みの形に歪んだ。
「さて、無駄話もなんだ。死合いといこうか」
「回復、修理なしで、得意の獲物で勝負。どう?」
「いいだろう」
 紅月の態度はどこまでも尊大だが、沙霧は特に気にしない。これよりももっと横暴な依頼人に会ったことも多い。それでも、仕事はしたが。
 沙霧が愛用の銃を取り出したのを見て、紅月が顔をしかめた。紅月は、現代の銃器を“無粋なもの”と言っているらしい。沙霧から見れば時代錯誤もいいところだが、こういう古のロマンに取り付かれてしまった哀れな人間に現実を教えてやるのもいいだろう。
「さて、どうするかな?」
「どの武器が得意なの?」
「どれも得意だな。特に苦手なものはない」
 つまり、それが紅月の異能になるのだろうが、はっきり言って弱いのではないだろうか。まあ、かくいう沙霧も、それほど強い異能を持っているとは言い難いが。
 武道場に置かれている武器を物色していた紅月だが、結局、鉤の付けられた盾と、篭手と一体化した短剣を手に取る。
「変な武器ね」
「変とは失礼な。この盾は鉤引と呼ばれる攻防一体の盾、この剣はマンプルという特殊剣だ」
「ほら、特殊なんじゃない」
 沙霧のセリフに、紅月は人の揚げ足をとるな、という表情を浮べる。沙霧の方はというと、扱い易い紅月を弄るのが段々楽しくなってきた。戦いの前、ということで否応なくテンションも上がっているのだろう。
 憮然とした表情のままの紅月と、武道場の中央に立つ。沙霧が射撃武器、ということで、間合いは短剣の間合いより少し広く取られる。
「さあ、楽しませてもらおう」
「それはこっちのセリフ」
 お互い、不敵な笑みを浮べつつ、隙を窺う。しかし、沙霧の内心は余裕だった。剣の攻撃の数十倍も早く、銃弾は飛んで行く。改造に改造を施された沙霧の銃は、あの程度の盾など簡単に吹き飛ばしてしまうだろう。
「それでは……始め!」
 審判係の昇の声が聞こえるか聞こえないかの内に、銃を紅月の頭にポイントし終えている。あとは、引き金を引くだけで、紅月の頭の半分は持っていかれるだろう。
 引き金を、引――こうとして、視線がこちらへ飛んで来る何かを捉えた。それが紅月の放った含み針だと気づく前に、脊髄反射で目が閉じられる。
「チッ」
 頭を振って含み針をかわす。同時に目を開けたときには、紅月の顔が目の前に迫っていた。
 ガンッ。
 鉄と鉄のかち合う嫌な音が響き、右手の銃が盾に付いた鉤爪持っていかれた。短剣に付いた鉤爪に絡め取られそうになった左手の銃は何とか死守して、無理な姿勢から一発放った。
 ダンッ!
 床が爆ぜ、爆音が響く。沙霧は慣れているが、紅月はこの音にも耐えられないだろう。その思いが、一瞬の油断を生んだ。
 ブンッ。
 突き出された剣に対する反応が一瞬遅れる。頬と耳が切り裂かれ、痛みが走った。しかし、その痛みで逆に意識が集中する。
 ギャン!
 紅月の心臓を狙って放たれた銃弾は、こちらへ投げ飛ばされた盾を耳障りな音と共に四散させてそれていく。破片に目を瞑った沙霧の感覚が、頭上を通り過ぎる気配を感じた。
 チャ。
 感覚だけをたよりに、銃を肩越しに後ろへ向ける。ぐぅ、と唸る声が聞こえた。
「いかんな」
「まいった?」
 目を開けて、壁にかけてある大鏡を見てみれば、丁度沙霧が銃を向けたところに紅月の頭がある。銃を向けられた紅月の唇には笑みが刻まれているが、その額には冷汗が浮かんでいる。
 勝った、そう確信して、笑みを浮べる。あとは、この銃弾を紅月に叩き込めばいい。
 引き金を引――。
「勝負あり!」
 どこか震えた少年の声がした。見れば、昇が今にも泣きそうな表情でこちらを見ている。
 それを見ていると、戦気が萎えた。
「……はぁ」
 息と共に、銃をしまう。紅月が細く息を吐く音が聞こえる。冷静になっていくと同時に、頬と耳の傷が痛みを訴え始めた。
「とりあえず、治療といこうか」
「紅月は怪我してないじゃないの」
 沙霧のせりフに、紅月はニヤリと笑みを浮べ、自らの足を示す。それを見た沙霧の表情が固まった。
 紅月の右足は、ほとんど使い物にならなくなっている。どうやら、最初の一撃がヒットしていたらしい。
「それでよく人の頭上越えられたわね」
「ワイヤーアクションの男と呼んでくれ」
 フゥ、と息を吐いて、紅月がこちらに手を差し出してきた。握手を求めているのだろうが、気が進まなかった。くるり、と紅月に背を向けて、治療役の仄へと向かう。と、背後で何かが床に落ちる音がした。
「……剣は銃に勝てないって事、思い知ったでしょ」
 床に倒れた紅月を振り返り、沙霧は小さく呟いた。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 3994/我宝ヶ峰・沙霧/女/22/滅ぼす者

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 始めまして、渚女です。
 戦々決闘、いかがでしたでしょうか。
 ここが良かった、ここをもっと良くして欲しい、などありましたら、お気軽にお手紙くださりませ。
 今回は、沙霧様の得物が銃ということで、少し変わった戦いになりましたが、楽しめていただければ幸いです。
 それでは、また次の物語でお会いできる事を楽しみにしております。