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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


決死の試飲 〜アナタが一番タフだから

■悪魔の試飲(オープニング)■

「おい、待ってくれ。 ここは探偵事務所だよな?」
「そうですね、兄さん」
 散乱する書類の束、ジリジリと鳴りっ放しの黒電話が今月の家賃滞納の催促電話だという、とりあえずは目をそらしておきたい事実を遠目に見つつ、草間武彦は更に今持ち込まれた、物、ブツ、はたまた異臭を放つそれに目をやりながら、何も気にする事は無く、健気に掃除を続ける零の涼しい声をなんとなく遠い場所で聞いたような気がした。

「そういう事だ、ここは探偵事務所らしい。 出て行ってくれ」
 目の前の人物は女であればそれこそ暫く事務所に居て欲しいような風貌の、長い黒髪と青い瞳が特徴的な長身の男であったが、問題はその人物ではなく、持ってきた物である。
「嫌です。 草間さん…でしたよね? ちゃんと調べてきましたから間違ってはいない筈です」
 何をどう調べたのだ。そして、何がこの男の中で草間を適任者として選んだのか。
 いっそ、いつもの心霊事件の方がまだマシだなどと、心にも無い事を一瞬だけ思ってみたりもした。
「とにかく、このお酒。 いえ、お酒らしき物なんですが…調べても何処の銘とも書かれていませんし、この異臭ですし、このままではお客様にお出しするわけにはいかないのです」
 お酒『らしき』物。壷風の瓶は確かにそれっぽい雰囲気があると言えばあるのかもしれない、だが、その『らしき』が今草間の生死をわける鍵なのだ。
「出さなきゃいいだろう」
「私の興味でもあります」
 ならば自分で調べてみろ。と、ヒステリックに叫びたかったが、家賃滞納の電話が響く中、自分の声とはいえこれ以上の騒音を増やしたくはない。

(はぁ…)
 そう、バーテンダー風の格好をした男が持ってきた依頼はごく簡単な物である。
 男、萩月・妃(はぎつき・きさき)という美貌の男性は、その容貌にも似つかわしくないこの異臭を放つ壷のような日本酒のような、とにかく毒物としか思えないような液体を草間に試飲して欲しい。と、いうごくごく簡単な、だが決して、はいそうですかとは飲みたくない物を持ち込んできたのだ。
 勿論、始めは断るつもりでいた。
 いたのだが、途中で鳴り出した電話を零が取れば、それは先月の家賃滞納の催促電話だったという。
 慌てて零から受話器を取り上げ、一方的に切った矢先、依頼に来ていた萩月の美しいが嫌な微笑みが草間を奈落に突き落とす事となる。

「試飲してくだされば、そのお電話の金額。 払わせて頂きます」
 それは悪魔の誘惑か、はたまた絶好のチャンスか。
 死をも覚悟した試飲が今、まさに行われようとしていた。

■学校帰りの不思議■

 いつも帰宅する道とは少し違う道。
 海原・みなも(うなばら・みなも)はまだ中学生の制服をはためかせながら、時折訪れる心霊探偵の元へ寄り道していた。
 ちょっと、どころではないあまり衛生上よろしくない程度には錆びた階段を駆け上がり、ふと、いつもならその探偵の妹がしっかり閉めて置く筈の扉が閉まっている事や、中から「ぐぅっ」という、明らかに何か危ない物に近づいたような声だの、「引き受けるんですか? 兄さん」という冷静な声が漏れていることから、
(あれっ? 依頼人さんですか?)
 少しだけ開いた扉を開けると見慣れない人物までもがそこに立っていた。
「おや、愛らしい女性ですね」
 見慣れない、白いシャツと黒いエプロン等からバーテンだとわかる女性のような物腰さえ感じるが、声色で男性だとわかる男はみなもを見ると少し微笑む。
「あ、有難う御座います。 依頼人さん…ですよね?」
「ま、まだ正式に決まってはいないぞ!?」
 「はい、萩月と申します」と、相手が話すのすら遮って出た草間は先程から漂うこの異臭にやられたのか、いつもだらしない格好をしているが、髪も乱れ、ネクタイは解けてシャツにひっかかるというような、いかにも、な乱れ方をしていた。
「試飲の依頼を持ち込んだのですが…こうして拒まれてしまいましてね」
 みなもに助けを求めるように、萩月はまたにこりと笑ってみせる。
「くっ!! 俺が駄目なら零、零でも落ちないならみなもに交渉を持ちかける気か!?」
「零さんはかなり乗り気でいてくれているのですがね…矢張り、もう一方にも押して頂かなければ」
 確かに、滞納した家賃は痛い。零もその辺りを考慮しての承諾だったのだろうが、まさかバーから出てきた酒の『ような』物を中学生に勧めるのはいただけない。
「あっ、でもあたしも興味あります」
「何っ!?」
 あらかた会話を聞いたみなもは、異臭こそすれ、実家では父しか飲まない酒という未知の物が目の前にあるという事で心が躍っていた。
「だって、『らしき』ってだけでお酒とも断定できないですよね? それならやっぱり…興味があります」
 「駄目ですか?」と、純真な瞳で上目遣いされれば、「駄目です」と、無理に言える筈も無く。草間武彦はこの世と、自分の肉体に別れを惜しみつつ、だが何処かで、
(交渉術…交渉術の上手い知り合いは…)
 などと、未練がましい願いを天国にむかって必死で叫んでいた。勿論、この異臭の漂う物の試飲を中断させてくれる決定打にもなりうる一人が。

「でも、お酒だったら…やっぱりいけませんかね?」
「みなもさん、怖いんですか?」
 零が優しくみなもの背中をさすると、少し悪戯をする前の子供のような表情でみなもは零を見返した。
「うん、ちょっと。 未成年なのに怒られちゃうとか、そういうのじゃないんですけれど…やっぱり始めてってドキドキしちゃいますよね」
 草間のお経のような言葉を聞きながら、酒瓶らしき壷を覗いてみる。
「大丈夫ですよ。 まずは草間さんに試飲していただいてから、お酒じゃないのをなるべく確認して今回は特例という事で飲んでみましょう?」
 萩月の言葉に後押しされ、みなもは興信所に備え付けで置いてある、色落ちの激しいソファに座り、今か今かと草間を見やった。

■未知との遭遇■

 今の草間の状態はとにかく使えない。例え彼が大の男並みの力があって、幼女が彼にナイフを突きつけようとも、逃げる事もしなければそのナイフを取り上げる事すら出来ないであろう。
 実際そんな状況に陥る筈は皆無に等しいが、そう例えても否定できないほど、この異臭を放つ物にやられてしまったのか、はたまた空腹時にこんな物の匂いばかりを長時間嗅ぎ、とうとうあの世とこの世の狭間まで行ってしまったのか、ぐったりとソファの横に座り込んでいる。
「草間さん大丈夫でしょうか? なんだったらこのお酒みたいなの、飲みやすいように何か混ぜて飲めば少しは美味しくいただけるんじゃ…」
 あんまりな草間の反応に、「可哀想だ」とみなもはそう言い、はたと、
「あっ、それじゃあ依頼になりませんね」
 考え込んで、まだ飲めない未知の飲み物を寂しそうに見た。
「みなもちゃん、零ちゃん、ちょっと待っててね。 とりあえず私が交渉してみるから」
「シュラインさんお願いします」
「宜しくお願いします」
 妹のような少女二人の声援を受け、シュラインは改めてその酒瓶を自らの手で持ち上げて観察してみる。
「ふぅん、年代は確かに古そうね。 良くみると…これは日本じゃなくて中国文字…? 依頼主さんは一体これを何処で、どんな風に入手したのかしら?」
 剥がれかけた酒瓶の紙をひらひらと指で遊びながら、みなもの隣に座ったシュラインは萩月に問う。
「はぁ…それは……、バーの常連客が新装開店時に持ってきた物なのですよ。 彼は新聞記者でして、様々な場所に行っていると思うのでどういう経路でこれが私のバーに預けられたかはわかりませんが、とりあえず開店時に出してくれ、と」
 萩月の青い瞳が困ったものだというように伏せられ、長い前髪がさらりと白い頬に流れる。
「じゃあ何かいわく付きとかそういうのは聞いていない? 飲ませて倒れました、じゃあお店なんてやっていけない筈でしょ」
「いわくは、そうですね。 持ち込まれた当事あの人の方も忙しいみたいでしたから、あまりはっきり話してはくれませんでしたが。 ただ、水の精がどうの、というのは言っていましたが」
 やっぱり、とシュラインは瓶をテーブルに戻し、このまま試飲していいものかと考えるように腕を組んだ。
「シュラインさん、やっぱり危ないから、試飲…駄目ですか?」
 みなもは目の前にあってもなかなか手を出せない奇妙な物に、中学生らしい好奇心でいっぱいの様だ。
「安全なものなら良いのだけれどね、倒れたら危ないわよ?」
「確かに、そうなんですが…」
 今度はみなもが酒瓶を取ると、くんくんと匂いを嗅ぎ、その異臭に顔を歪ませる。
「人体の安全面なら保障できますよ。 私が一度試していますから」
「本当ですか!?」
 一度は曇ったみなもの目が輝き、瓶を大切そうに元に戻すと、萩月に駆け寄るようにして側に行く。
「ええ、飲み込んでみたところ、酒かどうかまでは判別不可能でしたがとりあえず人体影響は無いと判断できました」
「やりましたね! これで飲めますよっ!」
「ちょっと待って、みなもちゃん」
「はい、シュラインさん。 何か問題でも…?」
 一度は飲めるの言葉に死人に鞭打った様な反応を見せた草間の死体、いや、草間だったが、待ったがかかるとほっとしたように、またソファの端に頭を沈ませる。
「一度飲んでいるならこっちに持ち込む事も無いんじゃない?」
 シュラインの鋭い瞳が萩月に向けられ、当人もやれやれ、という表情でテーブルに乱雑に置かれた、今日の朝ご飯兼昼ご飯であるピザ注文時に使われたであろうタバスコを白い指で持ち上げた。
「確かに、害が無く、自分で飲めるなら良いのかもしれません。 ですが―――」
「わっ、萩月さん! そんなもの飲んじゃ!?」
 みなもやシュライン、零の見守る中、萩月は手にしたタバスコを開けたと思えば一気に飲み干し、涼しげにポケットからハンカチを取り出したかと思うと口についた赤い跡を拭う。
「…わかったわ。 つまり味がわからないという事ね。 依頼者さんもどういう身体の作りをしてるか知らないけれど…」
「その通りです。 人体の安全保障は出来ますが味の保障は出来ませんので精神的安全は保障出来ない、という事になりますね」
 ため息をつくシュラインと萩月、どうしたものかと慌てるみなもと、矢張り涼しい顔の零、そして、死体と化している草間。

「はぁ…。 まぁ、何かあったら武彦さんの知り合いにでも頼るとして、その依頼引き受けましょう」
「有難う御座います」
 このまま考えていても埒が明かない。
 シュラインは考える頭を振り払い、今はとりあえず持ち込まれた物と、草間の家賃滞納についてを優先させる事にした。
「でも、勿論、家賃滞納の代金なんてそんなはした金で、とはこの際言わないわよね?」
 試飲してもらえると、胸を撫で下ろした萩月にびしり、とシュラインの言葉が突き刺さる。
「ふぅ、言われると思っていました。 草間さんだけならなんとかやり過ごせると思っていたのですが…」
「人体に影響が無いとはいえ、私も、みなもちゃんも、零ちゃんも健康体なのよ? 精神衛生上の確認が無いのに飲ませるなら、それくらい頂かないと話にならないわ」
 みなもと零を見ながら、シュラインはにっこりと微笑む。が、その言葉の何処にも草間の影が無い。
「あれ? 草間さんはいただかないんですか?」
 ソファからこんにちは状態で頭を沈ませている草間は、みなもの言葉に体制を変えず、だがぶるぶると震えて答えて見せた。
「了解しました。 ただし、草間興信所ではなくシュラインさん。 貴女の口座に全額振り込ませて頂きます。 草間氏への報酬は貴女がよくお考えになった上で差し上げてください」
 どうぞ、と差し出された領収書にシュラインは自分の好きなだけの数字を書き込む。
「随分取られてしまいましたね…。 まぁ、此方もスポンサーが良いので、とりあえずはこのお酒のようなもの、宜しくお願いしますよ?」
 ようやく、酒瓶の蓋が開けられ、更に強烈な匂いが部屋中に行き渡る。

「部屋を換気します」
 流石に空腹状態でなくとも顔が歪んでしまいそうになってくると、零が気を利かせたのか事務所の窓全てと換気扇を回し始めた。
「うん、ありがとう、零ちゃん」
 みなもも、匂いに関して最初はそれ程でも無いと思っていたが、瓶から酒が零れ出る度に漂う異臭には流石に鼻を摘みたくなる。

「さて、換気も回してくれた事だし? 遠慮なく頂きます」
 大人の代表として、草間が飲めないのであればシュラインが始めに飲むしかない。とりあえず全員分注がれたコップを取ると、喉の音も立てずに一気に飲み干していく。
「シュラインさん、だ、大丈夫ですか?」
 草間がその香りだけで再起不能になった飲み物。お酒という事で気が惹かれたみなもだったが、目の前のシュラインがいざ、無言で飲み始めると心配になってくる。

 一方、シュラインは飲む以前にかなりその味を覚悟しているのが幸いしたのか、すっと入ってきた酒の喉ごしの良さに、コップを下ろしてはため息をついた。
「どうでしたか?」
 萩月、みなも、零の声が一斉にシュラインを取り囲む。
「どうもこうも無いわ。 飲みやすく、癖も無いし…ご馳走様」
 ことん、とコップを置いて以外に美味であった酒に、これはなかなか良い依頼だったと心の中でほくそ笑んだ。
「じゃあ、やっぱりお酒だったんですね…」
「ええ、そうよ、みなもちゃん」
 がっくりと肩を落とすみなもの前で零が諦めましょうか、と彼女の顔を覗き見る。
「うーん、そんなに飲んでみたい?」
「はい…、少しだけなら…飲んでみたいです」
 シュラインはみなもの頭を撫でると、帰りがけに買ってきたスーパーの袋をあさり、その中からカルピスを取り出した。
「味も薄いお酒だから、これで薄めてほんの少しだけよ? 良いでしょ、依頼者さん」
 一瞬、萩月の顔が「うっ」と強張った様だが、みなもの落胆のしようもなかなか思い切り駄目だ、とは言い切れず、
「わかりました。 ではカルピス割りという事でみなもさんにも試飲して頂きます」
 シュラインの作るカルピス割りの量を萩月は目で測るようにしてギリギリお酒だと分かる程度の飲み物を作っていく。
「はい、みなもちゃん。 お父さんには内緒ね」
「わぁ…有難う御座います!」
 手にしたコップはシュラインが飲み干した酒よりかなり濁っていて、カルピスだけのような感じもしたが、逆にあの異臭は消え、なかなか品の良い飲み味に仕上がっていた。
「うん、美味しいです! お父さんもいつもこんなものを飲んでいたんですね」
 カルピスの後にふわりと浮かぶような感覚がまたみなもを楽しくさせる。
「お父さんが飲んでいるものはもっと苦いかもしれないわよ?」
 シュラインが零の為にもう一杯カルピス割りを用意しながら言う。
「でも、飲めて嬉しかったです! 草間さん、どうですか? シュラインさんも美味しいって言ってますし、飲めるかもしれませんよ?」
 ぐったりとしていた草間にみなもは声をかけるが、少し先程よりはマシになった草間は、ゾンビのような目で飲みかけのカルピス割りを見て、
「もう少し、休ませてくれ……」
 と、消え入りそうな声で沈んで行った。
「勿体無いですー」
「ふふ、しょうがないわよ、武彦さん相当参ってるみたいだから」
 みなもは残ったカルピス割りをこくこくと飲み干すと、幸せそうに立ち上がり、
「それじゃあ、今日はご馳走になりました! また遊んでくださいね!」
 零の「酔いが回っていませんか?」という言葉に「大丈夫」とだけ答えながら、それでも頬をうっすら赤くして事務所の扉をくぐっていった。
「それじゃあ、私も失礼致します。 未成年に飲酒させてしまった事、くれぐれも店長には内密にしてくださいね」
 「もし近くに寄った際には」と、萩月もバーの名刺を置いていくとすごすごと帰っていく。

「結局、兄さんは損をしただけですね」
 零も美味しいカルピス割りを飲みながら、気だるげにしている兄を見ながら微笑んだ。

■大人に近づいた?■

「美味しかったなぁ〜」
 今度こそ、家への帰り道。みなもは大きく伸びをしながら、口に残る甘みと天に昇ってしまいそうな浮遊感を楽しみながら歩いている。
「あたしも大人になったらこんなの、沢山飲めるようになるのかな…」
 ちょっとだけ背伸びをした日、海原みなもはこの上の無い至福感で心も身体もふわふわと浮いてしまいそうだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1252 / 海原・みなも / 女性 / 13歳 / 中学生】
【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

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■         ライター通信          ■
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海原・みなも様

始めまして、いつも一杯一杯で仕事をしております。ライター・唄です。
今回、未成年者という事で、萩月を実は一番翻弄させてくださいました。
また、お酒はとりあえずカルピス割りで我慢、という事になってしまいましたが如何だったでしょうか?
プレイングをなるべく反映できていれば良いのですが、上手く行っていなければ申し訳御座いません。
ですが、書いていてとても楽しいお話となりました。
もし、誤字脱字を見つけた場合、申し訳ございません。
感想等下さいましたならしっかりと心に留めますゆえ、もし何かあればレター等待っております。
それでは、この度はご発注有難う御座いました。またお会いできる事を祈って。

■『BLUE』後日談■

「それで? 飲んでもらえたの?」
 カウンター席の端に座る男、切夜がいつにも増して面白おかしそうに、目を細めながら、帰ってきて早々、コップ洗いに勤しんでいる萩月を見た。
「ええ、飲んでいただけました。 実に美味しいものだとか…」
 自分の味覚が狂っているので味わえなかったその感想を、持ち込んだ張本人である新聞記者に話して聞かせる。
「うん、そうだろうね。 あれは元々海の神様を祭るお社で中国の古い地方の物なんだ。 山の神に祈る時に用いる古酒だよ」
 感想を聞けた事が嬉しいのか、切夜はまた何を書いているかわからない手帳にペンを走らせ始めた。
「そこまで知っていて何故ここに置いていったのですか…」
 萩月の呆れる声に、
「いや、私も臭いのはちょっと苦手だったから。 入手したは良かったんだけどね…」
 苦笑する切夜に、今日、まさに自分の中である『未成年者飲酒マナー』のタブーを破ってしまった事に責任を感じる萩月であった。

唄 拝