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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


妖怪看板投げの恐怖!


「妖怪看板投げね」
 話を聞いて探偵は、紫煙とともに大きく溜息を吐き出した。
 妖怪看板投げ。そう呼ばれる小坊主のような格好をしたものが台風の夜に出没し、通行人に看板を投げつけて逃げていくのだという。
「何のギャグだよ、そりゃ……何度も言うがな、おやっさん。うちは別に拝み屋じゃないんだぜ」
「別におめえさん、俺ァ除霊やれなんて言ってねェだろうがよ」
 言っている意味がわからなくて、探偵は眉をしかめる。ただ今その名を口にしたのは、ほかならぬこの男、顔なじみの刑事自身だ。
「『妖怪』……じゃないのか?」
「便宜上そう呼んでるだけだよ」
 刑事は煙草の火を灰皿にこすりつけて言う。
「お恥ずかしいこったがな、うちで調べても手がかりの『テ』の字すら出てこねェのさ。ま、出てくる日が日だからよ、目撃者がいねェ。次に絶対に目撃してるはずって奴も見てねェって言う。さらに監視カメラにすら映ってねェと来たもんだから、お手上げだよ」
「税金ドロボウ」
「……ッつうわけで、俺の独断で外部の人間、名探偵草間武彦氏にご登場願ったわけだ」
 辛辣なツッコミを、刑事は力ずくで無視して話を続けた。探偵は不機嫌さを隠そうともせず、眉間を揉んで答える。
「だから、そりゃ拝み屋の仕事だろうが!」
「おいおい、バカ言っちゃいけねェよ」
 しかし、刑事は怯む様子も無くいけしゃーしゃーと言ってのける。
「草間探偵、科学的に考えて妖怪なんか存在するわけねェだろうが、な? っつうわけで、これはごく普通の事件だ」
「てめえそんな……」
「草間よォ、ちィとこれ見てみろや」
 さらに言い募ろうとした探偵を、刑事は急に真顔になって制止した。
 取り出したのは数枚の写真だった。無言でそれを見て、溜息を吐く。山のように折り重なった看板、地蔵、角材、その他と、その下から伸びる人間の足。ついでに風雨に広がる血溜まりが、そこに写っていた。
「……看板じゃなかったのかよ」
「最初はそうだったんだがな、段々とエスカレートしてきたんだよ」
「ギャグにしちゃ笑えないな」
「ああ。聞いただけじゃ笑い話でも、本人にとったら深刻だろ。全身複雑骨折で全治六ヶ月。生きてるのが不思議なくれェだってよ」
 無言で写真を見つめる探偵。
 刑事はどこかめんどうくさそうに話を続ける。
「次は人死にが出るかもしれねェ。それでも、嫌だってェのかい、探偵サン? まァ、そこまで言うなら無理強いはしねェがな」
 最後の一押しに、探偵はようやく降参した。
「……わあったよ。この仕事、受けてやるよ」
「おうよ、それでこそハードボイルドってもんだ」
「ったく、タヌキ爺ィが」
「ありがとよ」
 素っ気無く刑事は言葉を投げて返す。それが事件を受けてくれた事に対しての感謝なのか、タヌキ爺ィと呼ばれた事に対する皮肉なのかは判別がつかない。
 全く、見事なタヌキっぷりだぜ。心中でぼやいて、探偵は机に写真を置いた。
「しかし、なんでそんなもんなんか投げんのかねェ」
「意味なんか無えんじゃねェのか? 小豆洗いだって、目的があってシャカシャカやってるわけじゃねェだろ」
 ぼやく刑事に向かい適当な答えを返す。
「はは、違えねェ」
 笑う刑事を横目に見ながら、探偵は事件の方に思考を戻す。
 さて。今回の事件、誰に任せるべきか。


「理不尽よ」
 間断なく叩きつけられる風雨に、皆瀬綾は傘を縮こませながら呟いた。
 空を覆う雲はどんよりと重く、そのくせコマ送りのような速度で刻々とその様相を変えている。いまさら確認しなおす必要もなく、風が強い。
 轟々と唸るその音に掻き消されて、綾の声は同行者達の耳に留まることさえなく消えていく。
「まったく、どうして……」
 風に圧され、しなり、今にも折れそうな傘の下で、綾は大きく息を吸い込む。もう一度、今度は出来る限り声を張り上げて一息に、叫んだ。
「なにが哀しくてあたしがこんな嵐の中を歩きまわらきゃいけないの!」
「ああ?」
 綾の声に、前方を歩いていたすべての元凶である探偵、草間武彦がめんどうくさそうに振り返る。自分はちゃっかり雨合羽を着込んでの完全武装だというあたり、いちいち綾の癪にさわった。
「だいたい、傘でこんな風の中歩けるわけないでしょうが。あたしにもレインコート貸してよね」
「ないんだから仕方ないだろ、あきらめろ」
「なによ、そっちのおニーさんは着てるじゃない」
「僕?」
 綾は不満げに、もう一人の同行者、龍ヶ崎常澄に目を向ける。見れば、確かにその雨合羽は草間とそろいのものだ。単純に考えれば草間が貸したと考えるのが妥当だろう。
 しかし、常澄は首を振って否定した。
「いや、これは零という子に借りたんだ」
「ちなみに、予備を買って置けるほどうちは儲かってないからな」
 と、草間は自慢にもならないことを補足する。
「え、なに。じゃあそれ女物? ちょっと、草間の兄さん、零ってあの子ちゃんとした年頃のレディーでしょ。もっとちゃんとかわいいの買ってあげなきゃ」
「雨合羽に男物も女物も無いだろ。それにどうせ普段使わないしな」
「うわ、ひどっ。いい? 女の子は身だしなみに気を使う生き物なのよ。たとえ普段使わないレインコートだって、ちゃんとしたもの着せてあげないと可哀想でしょうが」
「二人とも、話ズレてるよ」
 呆れたような声で常澄がツッコミを入れる。綾と草間は一瞬顔を見合わせて、お互い場を取り成すようにコホンと咳をした。
「ほら、なんだ。雨合羽一つにそんなムキになるな。みそのを見てみろ」
 三人目の同行者の名をあげ、草間は親指でそちらを差す。
「どうかいたしましたか?」
 名を呼ばれたことに気付いたのか、海原みそのは舞うようなその足取りでクルリと振り返った。フレアーの効いた黒いワンピースが風に遊ばれて大きく広がる。
 それはまるで艶やかな黒い花。綾は一瞬、大輪の黒ばら花開いたような錯覚を覚えた。
 そのばらはにっこりと微笑んで言葉を紡ぐ。
「雨が当たって、とても気持ちいいですよ」
 みそのは雨合羽どころか傘もさしていない。しっとりと雨粒が肌を流れ、長い髪は濡れるままに任せている。メリハリの効いた身体に黒い衣服がべったりと張りつき、その妖しげな魅力はとても、一三歳の幼い少女とは思えなかった。
 綾は首を振って、草間の方に向き直る。
「あれはみそのが特殊なの。あたしがやったら風邪引くだけでしょ」
「いやまあ、それは否定できないけどな」
 言いながら草間は煙草を吸おうと懐を探り、苦笑した。よくよく考えると、こんな大雨では火が着くはずも無い。
 一つため息をついて、言葉を続ける。
「おまえな、そんなに大変ならそもそもこんな日に傘で遠出しようとするなよ」
「別に遠出しようと思ってたわけじゃないわよ」恥じらいに少し頬を赤らめて、綾は言う。「家を出た時はちょっと近くのコンビニに寄るだけのつもりだったんだから」
「ああ、そういえば迷子だったな。でも六度目だぞ、迷子」
 さり気なく、痛いところを突かれた。
「迷子じゃッ……!」
 草間の言葉に、綾は瞬間的に声を荒げかける。だが、確かに幾度も草間興信所に迷い込んでいるは事実だし、自分がちょっぴり方向音痴であるということも自覚している。ここで恥ずかしさ任せて怒鳴っても、むしろ負けたような気がして嫌だった。
「……別に迷ったわけじゃないわ」
 深呼吸して、息を落ち着ける。大丈夫、別に怒鳴らない。にっこりと、満面の笑みを作る。
「っていうか、ちょっとおかしくない? コンビニ行こうとしてなんで興信所に着くのよ。むしろあの興信所、なんか人を引き寄せる毒電波でも発信してるんじゃないの」
「なッ、そんなわけ……」
 否定しようとして、草間は言葉に詰まった。
 様々な情景が脳裏に思い浮かぶ。興信所を開いてこのかた、頼みもしなといういのに妙な事件や変な人間ばかりが集まって来る。たしかに、おかしな電波でも出ている考えれば説明がつくのではなかろうか。
「……無い、よな?」
「ありますわよ」
「あるのかッ」
 それまで興味深そうに会話を聞いていたみそのが、微笑みながら口をはさむ。草間は愕然と目を見開いた。
「興信所が、というわけではありませんけれど。水が滝壷に落ちるように、様々な人の運命が偶然という形をとって草間さまの元へ流れていくんです。確かに『引き寄せられた』と言ってしまうことも可能かもしれません」
「どうしてッ!?」
「さあ、何故でしょうか? そういう星の下に生まれたとしか……」
 困ったようにいうみそのの言葉に、ガクリと草間は肩を落とす。「ほらみなさい」とばかりに綾は胸をはった。
「それにしてもなに、その看板投げって? 頭悪そうな名前だけど」
「知るか、俺がつけたわけじゃない。そっちの兄さんの方がこういうことには詳しいんじゃないか」
 言って、草間は常澄の方に視線を向けた。こんな天気の日になにを考えているのか知らないが、羊を連れ歩いている。綾からしてみればよく分からない男だ。
 なかば以上雨合羽に対する八つ当たりで、綾は悪態をついた。
「は、こいつが? ただの羊飼いじゃないの」 
「誰が羊飼いだよ。めけめけさんは饕餮という立派な悪魔だし、僕はれっきとした悪魔召喚士だ」
 憮然として言う常澄の言葉に、綾はまじまじと羊に目をやる。
「悪魔ねえ」
 ぐるぐるに渦巻く羊毛に、丸くねじれた二本の角。瞳孔は横に平たく、口を開けばメエと鳴く。さて、どう見てもただの羊だった。
「ま、いいけどさ。それで常澄、なにを知ってんの?」
「一応職業柄、悪魔に関する伝承、伝説の類は網羅しているよ。都市伝説やの類も同様だ。今回出てきた看板投げという悪魔についてだけど……」
 悪魔という、唐突に出てきた単語に違和感を覚え、綾は首を捻った。
「悪魔……っていうか、妖怪でしょ」
「広い目で見ますれば、キリスト教以外の宗教に属する神話、伝説の超自然的な存在は全て悪魔と定義することもできますから」と、みその。「そういう意味ではわたくしも、皆瀬さまも魔女や悪魔と言えますし」
「ほら、昔あった『悪魔くん』の一二使徒。あれはみんな悪魔って呼ばれてただろう。そういうことじゃないのか?」
 フォローになっているのかなっていないのか、よく分からない言葉で草間が締めくくった。
「……話を続けて良いか?」
「どうぞ」
「僕の知る限りにおいて、看板投げというのは、測ったように飛んでくる看板は投げてる奴がいるんじゃないかという戯言から生まれた悪魔だ。発生はごく最近、よくある都市伝説だな。形態としてはテングツブテに似ているようにも思える。行動は発生以来全体を通して大きな変化は見られず、ただ看板が飛んでくるというだけの悪魔だが、カシマさんの例を挙げるまでも無く、伝承というものは時間の推移のうちに大きく変化する。絶対にそれ以外のことをしないという確証は無いな。まあ、可能性は低いが。僕としてはむしろ悪魔からうわさ話が生まれるのではなく、うわさ話から悪魔が生まれるのではないかという……」
「薀蓄はいいから、いったいどういうものなのか説明してよ」
 業を煮やして、綾が常澄の言葉を遮って言った。説明を途中で止められて、常澄は不満そうな目で綾の方をじろりと睨む。
「風の強い日に看板を投げつけてくる悪魔だよ」
「……それだけ?」
 あまりに短い一言に拍子抜けして、綾は目を丸くする。
「ああ」
「名前まんまじゃない。使えないわね」
「なにッ?」
 一かけらの遠慮も無い一言にムッとして、常澄は言葉をかえした。
「そういうキミこそ文句だけでなにもしてないじゃないか。まったく、近頃の子どもときたら……」
「こ、子どもッ!? あたしのどこが子どもだっていうのよ!」
「どこも子どもじゃないか」
 綾を見下ろして、常澄は言い放つ。二人の身長差は三〇センチ以上、確かにそれだけみれば子ども扱いされてもおかしくない。
「訂正しなさいよ! あたしこれでも立派に二十歳なんだからね」
「二十歳、ホントに? 僕と一つしか違わないのか」
「そうよ、文句ある!」
 堂々と胸をはって綾は言いきった。
「そっちの彼女なら」常澄はみそのに目を向けて言う。「まだ二十歳というのも納得できるけど、綾はどう甘めに見たって中学生だろう」
「なっ……そ、それはみそのが大人っぽいだけでしょ」
「きみが子どもっぽいんだ。身長だってみそのより一〇センチは低いじゃないか」
「し、身長のことを言ったわねッ!」
 喧々と無意味な口論が続く。みそのはその様子を見て、「あらあら」とおかしそうに笑った。
「お二人とも仲がよろしいのですね」
「どこがだよ」
 草間は深く溜息を吐いた。


 ふいに、会話の途切れる瞬間がやってくる。
 沈黙を埋めるのは振り続ける雨音。ぱらぱらと雨合羽のビニールを叩く大粒の水滴。雨の仲を無言で歩くというのは、どうにも雰囲気が重苦しい。
「ところで……」
 常澄は足元の濡れたブーツをぼんやり見つめて、長靴を履いてくるべきだった、などと関係の無い事をぼんやり考えながら、口を開いた。
「僕たちはどこに向かっているんだ?」
「あ、あたしもそれさっきから気になってた」
 常澄の言葉に迎合したのは、意外にも先ほどまで延々と口げんかを続けていた綾だった。やはり、沈黙の重さに耐えかねたのだろうか。
「ずっと歩きづめだけど、いつになったらその看板投げってのに会えるのよ?」
 二つの視線が草間に集中する。しかし、草間は困ったように口の端を引きつらせて、あっさりと言い放った。
「そんなこと、俺に聞かれても知らん」
「……は?」
 あまりにもどうしようもない言葉に、二人は一瞬硬直した。
 常澄はまじまじと草間の顔を見直す。冗談を言っているような様子は無い。いたって真面目な顔で、知らんと言い切っている。
「どういうことだ、草間」
「正確に出る場所なんてわかる分けないからな、さっきから適当に歩いているだけだよ」
「だから、どういうことそれッ!」
 綾が耐えかねたように声を張り上げた。
「あたしたちはその看板投げってヤツを退治しに来たンでしょ。会えなかったら無駄骨じゃない」
 勢いよくまくし立てると、草間は「まあ、落ち着け」と手で制して言う。
「だれも会えないなんて言ってないだろうが。こんな台風の日に、そもそも歩き回るヤツなんかほとんどいないだろ。待ってりゃ向こうさんの方から出向いてくれる」
「行き当たりばったりだね」
 ふんと鼻を鳴らして、常澄は草間の意見を一蹴した。綾もそれに続いて、冷たく言い放つ。
「ッてか、もし出てこなかったらどうすんの? 台風なんてそうホイホイ来るもんでもないし、捕まえられないじゃん」
「だったら、おまえら他になにか方法思いつくのかよ」
 不機嫌そうにじろりと草間が睨みつけると、二人は同時に明後日の方へ目を逸らした。
 ふいにおかしそうに、その様子を見つめていたみそのが割って入ってくる。
「大丈夫ですよ、皆さま」
「みその? なんか良い案があるの?」
「はい」
 頷いて、みそのはにっこりと微笑んだ。
「わたくしには見えますから、その看板投げさまがいらっしゃるところが」
「ホントにッ!?」
「ええ、看板投げさまの風は力の流れが普通と違いましたので、とても分かりやすうございました」
「風……?」
 さらりと言い放たれたその言葉に、常澄は考え込むように唸る。
「みそのは風使いか」
「少し違いますけど、似たようなことも出来ますわ」
 綾は惜しげもなく感嘆の声を上げる。
「へぇ〜、すごいじゃないの。そこの羊飼いとか無計画へぼ探偵よりよっぽど役に立つわ」
「口だけの迷子少女よりもな」
 綾の暴言を軽くいなして、草間は肝心の質問を口にした。
「で、その風というのはどこにあるんだ?」
「それなのですが……」
 一瞬言いにくそうに口篭って、みそのは首をかしげる。
「こちらに」
「こちら?」
 不意に、風が止んだ。
「え?」
「な、ナニ!?」
 突然の事態に動揺する常澄と綾を横目に見ながら、草間は苦々しげに笑って頭を掻く。
「なあ、何かいやな予感がするんだが」
「ええ」みそのは頷いて言った。「ご到着なさったみたいです」
「な……えェッ!?」
 綾が驚きの悲鳴を上げるとほぼ同時に、四方から色鮮やかに輝く電飾看板が魔風に乗って襲い掛かってきた。


「めけめけさん、食べろ!」
 とっさに看板を指差して、常澄は彼の契約した悪魔である饕餮、めけめけさんに命令を下す。
 見た目は羊と言えど、饕餮といえば中国においては四凶と呼ばれ恐れられるほどの大悪魔だ。飛んでくる看板を食らいつくすことなど、少々古い言い方で言えばお茶の子さいさい。たちまちに命令を実行して、常澄はかすり傷一つ負うことなく事は済む。はずだった、本来なら。
 めけめけさんは命令通り忠実に食らいつく。
 常澄の手に、ビシッと看板に向けられた指先からがぶりと。
「ち、違うめけめけさん。僕じゃなくてあの看板をッ」
 全て言い終わるより早く、ガゴンと痛々しい音を立てて看板が常澄の顔面に命中した。
「大丈夫か、龍ヶ崎ッ!」
 ひらりと看板を避けながら、草間が聞くまでも無いことを聞いてくる。かなり大丈夫じゃなかった。
「あはは、命令する対象は明確にしないと」
 笑いながら、綾も自分の方に飛んできた看板を避けようと、とっさに後ろへ飛びずさる。看板は綾の居た空間をむなしく薙いで、そのまま横に転がっていく。そこまでは良かった。
「んきゃあッ!」
 突風の勢いと、手に持った傘の空気抵抗で体勢が大きく崩れた。それでも踏ん張ろうとして、綾は足に力を込める。ぱきりと、軽く、それでいて致命的な音が鳴る。
 ぎくりと、背筋に冷たい汗。先ほどまで綾を吹き飛ばさんとかかっていた傘の空気抵抗が一気に弱まる。原因は、知りたくなかった。だが、どう視線を逸らそうとしても、その悲惨な姿は否が応にも目に入ってくる。
「ああ、あたしの傘がァ。お気に入りのなのに!」
 綾はたしかに、その場に踏み止まる事に成功した。お気に入りの傘の、無残なまでにひっくり返ったその姿を代償にして。
「だ、大丈夫よ、きっと。修理を……」
 心の平安を求めて必死に言って聞かせる。
 だが、ぐわんがらんと無駄に騒がしい音が、綾の心に容赦のない追い討ちをかけた。草間の避けた看板が横から飛んできて、傘を修復不可能なまでに粉砕したのだ。
「あぁアッ!!」
 絶望的な悲鳴があたりに響きわたった。

「あらあら」
 飛んできた看板はなぜかみそのを避けるように脇へすり抜けていく。物象の流れを見て、それを自在に操ることのできるみそのにとっては、飛んでくる看板を避けることなど造作も無いことだ。大騒ぎの中で一人、みそのはまったくマイペースであった。
 その場に転がった電飾看板を、正確にはその看板に太字で書かれた『妖怪看板投げ参上!』の文字を見つめて、小さくため息をつく。
「名刺にしては少し乱暴ですわね」
 なるほど、目撃者がいなくても犯人の正体がわかったわけである。
 みそのは空を見上げて怪しい気配がもっとも濃い場所、つまり看板投げの本体がいる場所をさぐった。
 難なくそれは見つかった。マンガに出てくる小坊主のような格好をした幼い少年が、電柱の上に座り込んでいて、袖口から何か小さなものを取り出しては、己の操る風に乗せて放り投げている。
 不可思議なことにその小さなものは、風に遊ばれる中でぐんぐんと大きくなり、看板やらなにやらの瓦礫となってみそのたちの元に襲いかかるのだった。
「あちらです、皆さま」
 みそのが言うと、草間たち四人の視線が一斉に看板投げへと集中した。一瞬、怯んだように看板投げの動きが止まる。
 みそのはそれに、ゆっくりと語りかけた。
「どうして、あなたはこのような事をなさるのですか? 看板を投げるのはよろしいにしても、人が死ぬほどに投げつける必要はありませんでしょう」
 風が、震えた。
 動揺したように口元を抑えて、看板投げは首を振る。その様子に首をかしげて、さらにみそのは問い掛ける。
「どうして?」
 返事の代わりに返ってきたのは、しかし先ほどよりも激しい攻撃だ。
 看板投げは癇癪のように、懐からいくつかのものを取り出すと、叩きつけるように放り投げた。風に乗って、みそのの脇を巨大な角材が飛んで転がっていく。
「困りましたわね」
 なるべく穏便にことを済ませたいのですが、とみそのは深くため息をついた。

「め、めけめけさん、今度はちゃんと、こちらに向かって飛んでくるものを食べてくれ」
 鼻を抑えて立ち上がりながら、常澄は今度こそ正確に命令を下した。
 羊らしからぬ機敏さでめけめけさんはその言葉に従って、飛んでくる異物に端から食らい着いていく。自らの口より明らかに大きい熊の置物や、工事現場に置かれる赤いポールまで、どのような手段を用いているのかは知れないが一口で呑み下す。しかし――
「くそッ、きりが無い……」
 風を切って迫る木の枝を避けながら、草間が苛立たしげに呟いた。
 めけめけさんがどれほど速く食おうとも、二つ同時に飛んでくるものを両方食べる事は出来ない。つまり、常澄以外に向かって飛んでくる看板、その他瓦礫の勢いは全く衰えないのだ。
 また、上手く避けたからといって、別に消えてなくなってくれたりはしない。地面に転がる瓦礫の山で、足場は段々と悪くなる一方である。
 片端からめけめけさんに食わせている常澄や、微動だにしないくせになぜか看板に当たらないみそのはともかく、草間や綾には体力的に見ても限界がある。
 実際、綾は突然始まった激しい運動に対して、そろそろ息切れを感じ始めていた。
(『デトネイター』、能力を使えば動かなくていいかな……ううん、雨の中だし、余計に疲れるかも……)
 考えている間にも瓦礫は雨あられと飛んでくる。
 オーソドックスな看板から始まり、デコボコに曲がったトタンの板切れから、片目だけ丸の入った巨大なダルマ、玄関にかけるしめ縄、空き缶、古本、長靴、ヒョウタンツギ、猫。
「ね、猫ォッ!?」
 うろたえて、一瞬足が竦む。それが致命的な隙だった。我に返った時には既に遅く、ふてぶてしい顔つきの三毛猫がべったりと顔面に張り付いていた。
「ニャー」
「ひ、あァ……」
 綾は力尽きたように膝をついて、その場に座り込んだ。
「皆瀬さま?」
 綾の異常に気付いたみそのがいぶかしげに声をかける。しかし、綾は返事もせずに、ああとか、ううとか、言葉にならないうめき声を上げる。
 ぶるぶると手を震わせて、と言うよりむしろガクガクと痙攣させながら、肺に大きく息を吸い込むこと、二、三秒。
「ぎやああぁぁあッ!!」
 盛大な悲鳴が上がった。
「皆瀬さま!」
「猫、猫ッ!? いやあァッ!!」
 パニックに陥る綾に、みそのが慌てて駆け寄る。爪を立ててへばり付くその三毛猫を引き剥がす。
「あいつ、猫苦手なんだよな……」
「しかも、かなり重症みたいだね」
 遠目から見ていた草間と常澄の二人は、他人事のようにぽつりと洩らした。
「大丈夫ですか、皆瀬さま?」
「ふ、ふふ、うふふ」
 返事の代わりにもれ出たのは、妖しげな含み笑い。視線はウツロに虚空を漂って、半開きのまま固定された口元からは空気が抜けるように笑い声が溢れてくる。
「あは、あはははははァッ!」
 笑いながら綾は幽鬼のような顔色で、ゆうらりとその場に立ち上がる。傍から見ていた草間と常澄は、びくっと背筋を震わせて、おびえた子リスのように一歩後じさった。
「ふふ、看板投げェ?」
 満面の笑みを浮かべて綾は、姿すら見えぬそれにやさしく声をかけた。一瞬ピタリと瓦礫が止む。
「すこォしおいたが過ぎちゃったみたいよねエ」
 一拍の空白の時間。直後、生物の根源的な恐怖の感情を刺激されてか、看板投げは綾に向かって大量の瓦礫を集中させる。電柱、土管、鉄骨などなど、当たれば即死レベルの大物ばかりだ。
「危ないッ!」
 常澄から走る警告の声。しかし、綾は避けようともせず、手のひらをかざす。静かにそれらを見つめながら、飛んでくるものを掴むように手を閉じて、一言言った。
「どかーん」
 言葉と同時に三つ、熱気と赤光の花が開く。渦巻く赤い熱気の中から、弾けるような哄笑を上げて綾が飛び出した。
「アハハはははッ」
 綾の能力『デトネイター』は単純に物を爆発させる力だ。制御にそれほどの自身が無く、また大雨の中での使用は極端に疲労する。そのため、先ほどまでその使用を躊躇していたのだ。
 だが、猫のことで血が上った今の綾の頭からは、既にそういった冷静な考えはすっぱりと、跡形も無く消えうせていた。
 爆炎の光にくるまれて、鉄骨は無残にひしゃげ地面に転がり、土管は粉々に砕けて飛び散る。電柱に至っては真ん中から真っ二つに折れ砕け、近くのビルの窓ガラスへと豪快に飛び込んでいた。
「あらあら」
「おい、草間。あれは流石にまずくないか」
「……だれが弁償するんだよ」
 傍目から見ていた草間たち三人は頭を抱える。
 言っている間にも事態は更なる悪化の道を歩んでいた。
 看板投げの立つ電柱に向かって飛び出した綾を迎撃するために、ミサイルのような勢いで三体の地蔵が飛び出した。だがそれも呆気なく新たな爆炎に押されて塀を粉砕し、あるいは道路にめり込む。
 うろたえた表情で、看板投げは懐から一際巨大な塊を取り出した。風に乗せるとそれは見る見る大きく膨れあがり、五メートルはあろうかという大仏となって綾に降りかかる。
「無駄ァッ!」
 ハエでも払いのけるような無造作な仕草で綾が虚空を薙ぐ。すると大仏はその内側から巨大な炎に包まれた。
 数十トンはあろうかというその巨大な岩の固まりは、三連の爆炎の元にバラバラと砕け散って、見るも無残にアスファルトの河へと降り注いでいく。
「どこから持ってきたんだろう、アレは」
「俺が知るか」
 至極もっともな常澄の指摘に、草間はやけっぱちな様子で答えた。
 幸いにしてこの日は台風。中から血相を変えた住人が飛び出してくるという最悪の事態は避けられた。だが、これだけの大騒ぎになれば、遠からず物好きな人が寄ってこないとも限らない。
「早いところどうにかしないとな」
 苦々しげに頭を掻きながら、草間は口を開いた。
「龍ヶ崎、あの瓦礫片付けられるか」
「めけめけさんに食べさせることは出来るよ」
「頼んだ」
 小声で命令を下して常澄は看板投げの方へと視線を戻す。
 大仏を爆破されて流石に手札が尽きたのか、看板投げはおびえた様子で、電柱のすぐ下まで迫って来た綾を見つめている。綾の方も、流石に本体を直接爆発させるのは忍びないと思ったのか、電柱の下から看板投げを睨みつけていた。
「こらァ! 降りてきなさい」
 怒鳴る綾に、しかし看板投げはふるふると恐ろしげに首を振って、がっしりと電柱につかまる。
「降りてこないと電柱爆破するわよッ!」
「するなッ! おまえは、ここら一帯を停電にするつもりか!」
 とんでもない暴言に、流石に草間からツッコミが入った。綾は不満そうに口を尖らせる。
「じゃあ、どうしろって言うのよ、草間の兄さん」
「もう少し優しく言えばよろしいんですわ」
 と、突然みそのが脇から割って入ってきた。
「はい、皆瀬さま」
 ぽんと、軽い調子で手に持った物体を綾に押し付ける。
、すなわち、みそのが先ほど綾から引き剥がしたふてぶてしい三毛猫を、である。
「いやあッ! ね、猫ぉぉぉぉぉッ!!」
 慌ててその猫を着き返して、綾は一瞬にして数メートルほど後ずさる。
「み、みその! 卑怯よそれ」
「ほほほほほ」
 綾の抗議を笑って誤魔化してから、みそのは看板投げに語りかけた。
「ほら、看板投げさま、怖い方は向こうに行ってしまいましたよ。降りておいでなさいませ」
「怖いって、だれが怖いって? あたしは別に怖くないでしょ!」
「まあ、皆瀬さまったら。ご冗談を」
「その反応はナニッ!?」
「ほほほ」
 そうこうしている内に看板投げは、よじよじと四肢を動かし電柱を降りてくる。そのまま地面に足がついたかと思うと、さっとみそのの背後に隠れてしまった。
「凄い怯えようだな」
 呆れている常澄の言葉に、綾も流石にバツが悪くなったのか、ぷいと目を逸らす。
「ちょ、ちょっと脅かしとこうとしただけじゃない。ソイツが人襲ったら困るんでしょ」
「まあ、そりゃそうなんだが……」
「限度と言うものがあるんじゃないかな?」
 ぽりぽりと頭を掻いて、草間。常澄もそれに同意して頷く。綾は言葉に詰まって黙り込んだ。
「それにしても、どうして人に向かって看板を投げていらしたんですか?」
 みそのが口を開く。他の三人も気になっていたのか、黙って看板投げに目を向けた。
「あ……」
 看板投げの口が開かれる。その口から漏れ出た声は存外に高く、聞いただけでは普通の子どもとさして変わりない。
 みそのはあやすように、やさしく語りかける。
「さあ、仰ってくださいな」
「あの……」
 看板投げはようやく、語り始めた。
「あの、ぼくのことを知ってもらいたくて、みんな、ぼくなんか忘れてしまうから。だから……」
「それで、人に大怪我させたっていうの?」
「ひッ……ごめんなさい」
 綾が声を荒げると、看板投げは怯えに目を見開いて、身を縮こませる。そのあまりに過剰な反応に、流石の綾も少々ショックを受けた。
「そ、そんなに怖がること無いじゃない」
「怖がらせるからいけないんですよ」
 みそのは看板投げの頭をなでてやりながら、少しだけとがめるような口調で言う。
 ふと、それまでなにやら考え込んでいた常澄が顔をあげた。
「ああ、なんとなく今回の事件の全容がわかった」
「なに、どういうこと?」
 興味を引かれたのか、はたまた話題を変えるのに丁度いいと思ったのか、綾がその言葉に反応する。
「つまり、看板投げはずっと看板を投げ続けていただけなんだ」
 その一言に、草間も合点が入ったというように頷いた。
「……なるほどな。地蔵もポールも、ある意味全て看板だったってことか」
「ちょっと、自分たちだけで分かってないで、ちゃんと説明してよ」
 さっぱり分かりかねて首をかしげる綾。草間と常澄は互いに顔を見合わせて、首を振る。
「な、なによォ」
「おまえ、看板ってのが何のために存在してるかわかるか?」
「そりゃ、宣伝するために……あ」
 草間の言葉に、綾はようやくその事を理解した。
「そういうこと、これは宣伝だったんだ。あいつはただずっと主張していただけなんだよ、『自分はここにいる』ってな。ちょっとやりすぎちまったみたいだが……」
 神妙な表情で言う草間に続いて、常澄は淡々と言葉を紡いでいく。
「都市伝説っていうのは広まるのも早ければ廃れるのも早い。噂によって大きく変質する彼のような存在にとって、忘れられるというのは自身の存続にかかわる恐怖だったんだろう」
 妙な沈黙が辺りを支配する。
 看板投げも自らの存在をかけて必死だったのだろう。行動がエスカレートしたとしたのも当然と言えば当然の流れだ。むごたらしい事件であればあるほど、人は噂でもっておもしろおかしく飾り立てようとするものなのだから。
 沈黙を破って口を開いたのは綾だった。
「それで、どうするの? 看板投げの噂をもっと広めたら、そんなに投げなくて良いようになるかしら」
「無理だろうな、麗香に頼んでアトラスに記事を載せてみても、多分一時凌ぎにしかならないだろう」
「それでは、消えていただきますか?」
 にっこりと笑って、みそのが恐ろしいことを口にする。びくりと震えて看板投げはみそのから身を引き離した。
 その様子を見て、草間は肩をすくめた。
「今更できるか、そんなこと」
「そうですね」
 あっさり同意して、みそのはまた首を捻る。
「僕に提案があるんだけど」
 軽く手を上げて、常澄が口を開いた。
「言ってみろ」
「僕と彼、看板投げとで契約するのはどうだろう。契約悪魔になれば、うわさ話に振り回されるほど不安定な状態から開放される。少なくとも人を殺すほどに看板を投げつけることはしないですむよ」
「悪魔召喚士との契約か」
 頷いて、草間は看板投げの方に目を向けた。全員の視線が再びそちらに収束する。
 一歩前に歩み出て、常澄は懐からカッターナイフを取り出す。カチカチとその刃を出すと、自らの手のひらをそっとなぞった。
 赤い血球がじわりと、傷口の端ににじみ出る。
「この血を舐めれば契約が成立する。選ぶのは君だ、看板投げ。自由なる不自由か、それとも不自由のある自由か、どちらがいい?」
 差し出された手を見て、看板投げは戸惑う。
 自分の選ぶべき選択とは、どのような道だろう。じっと、その赤い血を見つめながら考えた。
 数秒間の迷いの後、看板投げは決意を固め、顔をあげる。
 そうして彼を見守る四人の人々に向かって、その回答を、はっきり口にした。


「お礼?」
「そ、こないだはお世話になったでしょ」
 にこにこと微笑んで、おそらく買ってきたものであろうケーキの箱を開ける綾を見て、草間はなんとも複雑な表情になった。
「ほら、いまひそかに話題沸騰中の洋菓子店フォイユ・ド・ローリエのカスタードシュー。零も食べる?」
「はい、ありがとうございます」
 先日の行動を脳裏に反芻する。はたして、自分はこの少女からお礼をされるようなことをしていただろうか。
 これが、看板投げを保護することになった常澄などが持ってきたというのならまだ分かる。が、実際目の前でシュークリームを広げて微笑んでいるのは、事件の後無理な能力の乱用による急激な体力の消費と冷たい雨の中で傘も差さずに(途中で折れてしまったからだ)動き回ったことが相まって風邪を引き、さらにそれをこじらせて肺炎になりかけ、都合一週間ほど寝込んでいた綾なのだ。
 お礼参りこそされても、お礼を持ってこられる筋合いはないだろう。
「ほら、草間の兄さんも食べてよ。折角持ってきたんだから」
「いや、それはいいんだけどな」
 ぽりぽりと頭を掻きながら、草間はそのかなりあからさまな違和感を指摘する。
「なんで俺のシュークリームだけ微妙に緑がかってるんだ」
 その言葉に一瞬、綾の口元が引きつった。
「な……そ、そんなことないわよ」
「いや、シューの穴に緑色の何かついてるし」
「え、あ……いや、抹茶! そう、抹茶シューなの」
「おい、ついさっきカスタードって言ってたろうが」
「うッ……」
 言葉に詰まる綾を見て、草間は深く溜息を吐く。
「零、もう一つ食べるか?」
「ええッ!」
「良いんですか、兄さん」
「ああ、今ちょっと食欲無くてな」
「ありがとうございます」
「ちょ、ちょっと待ったァッ!」
 慌てて綾は零の手から、草間に渡されるはずだったシュークリームを取り上げる。
 突然のことに呆気に取られてた様子で綾を見返す零だったが、やがて得心がいったというように頷くと、ぷうっと頬を膨らませてみせた。
「もう、綾さんったら。そんなにシュークリームが食べたいのなら、いってくださればお譲りしますのに」
「へッ?」
「違うんですか?」
 不思議そうな表情になる零に、綾はやけっぱちになって答えた。
「そ、そうなのよ。丁度抹茶シューが食べたかったの!」
 親の仇のような目で、そのシュークリームを睨みつけると、侭よとばかりに思いっきり口に放り込む。
「…………ッ!?」
 そのままものすごい勢いで台所の方へと飛び込んでいった。一瞬見えた目の端には確かに涙が滲んでいたように思える。
「ど、どうしたのでしょう、兄さん」
「……泣くほど美味かったんだろ、抹茶シュー」
 色と反応からいってわさびだな。結論付けて草間は、また深くため息をついた。からしだったら騙されていたかもしれない。
 傘くらい弁償してやろう。半分は良心から、半分はこれ以上厄介な復讐をされたくないという感情から、草間はそうすることに決めた。
 数日後、綾の選んだ高級ブランド傘の値段にかなり本気で閉口することになるのだが、それはまた別のお話である。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3660/ 皆瀬・綾 /女/20歳/神聖都学園大学部・幽霊学生】

【1388/海原・みその/女/13歳/深淵の巫女】
【4017/龍ヶ崎・常澄/男/21歳/悪魔召喚士、悪魔の館館長】

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■         ライター通信          ■
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 どうも、こんにちは月影れあなです。
 このたびはご注文ありがとうございました〜。

 色々の事情により締め切りギリギリになってしまいました。どうもお待たせしてすいません(汗
 量も結構膨れあがってしまいましたねエ。短くまとめる努力をしなければと密かに反省する次第。

 いかがでしたでしょうか〜。
 前回の某雑草の話では色々あそばせて頂きましたが、今回もやっぱりちょっといじめてしまいました。イヤハヤ(汗
 草間探偵とは傷み分けというところですね。貧乏が売りの草間興信所にとって、高級ブランド傘の購入は予想外の出費となるでしょうし。

 もし気に入っていただけたのなら、懲りずにまた注文していただければありがたいなあとか。
 それでは、どうもありがとうございました。縁がありますればまた。