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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


矩形波動の秘密



 ……くそったれ!
 どーしても体が勝手に動いて、話にならねえんだ!

 古代祐乃(こだいゆうの)。
 解析用と思しきバイザーにステルス・スーツを身に付けた女狐。
 この街――電魔街の往来で色々と盗みを働く、とんでもない野郎だ。
 好んで旧世代のPCゲームソフトを盗むせいで、その中古相場は暴騰しちまってる……もちろん、それを放っておく俺たちと萬世橋警察署じゃあない。

 だけど、あいつと対峙すると、どこからともなく音楽が流れてきて……体が勝手に動いちまっては捕り物にならない。周囲の人間はともかく、俺まで踊らされてしまう始末!
 聴覚を殺してみたりもしたが、駄目だった。他のヤツラと同じリズムに乗って踊ってしまう……視覚や触覚を遮断しても、結果は同じ……煮え湯を飲まされることには変わりない状況だ。鋼の奴に至っては、ノイズがどうとか言って頭を抑えてしまう。
 きっと、妙なあの音楽のせいのだろう。

 だが、その影響を受けること無く、しかもその発信源を、どうやって押さえたものか?
 音であるが、その実体は音ではなく、ましてや聞こえるものでも触れるモノでも無い。
 ……分かっていることはと言えば、流れる音楽は、その時にアイツが盗んだゲームの音楽だということだ。音楽の種類そのものに、現象の種は潜んでいないということなのだろうか?
 
 とにかく、このからくりを解いて、アイツをこっぴどい目に遭わせてやらねば!
 そのためには……さて、誰に手伝ってもらったものだろう?


  ◆ ◆ ◆


 パラパラという踊りは、90年頃に神楽坂のクラブで生まれたものだという説と、歩行者天国におけるムーヴメント……通称"ホコ天"から派生した説とが存在しているのだという。
「いいかー。右、右、左、左。これ基本な。絶対右から始まるんだ」
「へー。カンタンだねえ」
「カンタンじゃないと、みんな気軽に踊れないだろ」
「ああ! そうか! すごいねえ!」
「…………そうだな」
 確かに、凄いことなのかもしれない。
 見知らぬ者同士が袖を触れ合って、一つの曲のリズムの中、身体を揺らす……それは、言葉やその音だけでは、決して伝えられぬ感情であろう。
 普段からそういった音楽に触れ、製作している地城にして見れば、それは新鮮なものの見方だ。
「4、6のイントロから腕を振れば、良いのだね?」
「すごいなおっさん。確かにその通り。ソロバンとか、得意だろ」
「ソロバンは知らないけど……まあ、数を数えるのは得意ですよ」
 そう言いながら、まったり激しいビートに併せて、腕を振るその男……シオン。
 シオン・レ・ハイ。
 喧騒やヲタク的な匂いとは程遠い、上品な外見を持ち合わせてはいるが、どこかネジが抜けているかのようで――人付き合いに関しては独特の感性を持つ地城も、どこかペースを崩されがちである。
 ……もっとも、それは地城に限らず、誰にとっても同じことなのだ。
 その証拠に、
「なんてマイペースな野郎だ……」
 自はともかく、他は確実に認めているマイペース人が、呆れ顔でシオンのことを見つめている。
 並べられた古い機種のPC、その一つに向かい、必死にキーを操作しているのは、雪森雛太だ。
 今回の事件によって、盗まれたり聞こえたりしたソフトを、延々とプレイしている。
 今はそれにも飽きて、ただ遊んでいた。
 自宅の蔵に置いてあった『ラディウス'90改』……操作もシステムもそれなりに知っているシューティングゲームのPC版だったが、まるで勝手が違う。
 昔の、それもPCゲームなんかに触れたことなどなかったから、その出来を新鮮に思いつつも、キーボードしか使えない環境に、少々苦戦もしていた。彼の親しんで来たゲーム機は、全て方向操作は左手で行う機械だった。PCゲームは逆である。
「地城、外付けのコントローラー」
「そんなものはない。欲しければ、自分で買って来い」
「難しいよ」
「いいか……ポーズをとって、上上下下左右左右」
「ん、わかった」
 言われた通りに、Pauseキーを押し、方向キーを順に押し、Pauseを再度押した。
 けたたましい合成音が聞こえた。
「…………」
「あらあら」
 自爆した機体を、雛太の後ろから見、困ったように笑う美女がいた。
 茶を手にしながら、彼のプレイを見守っていたようだ。
 紅蘇蘭。
 電魔街に潜む"神"の気配になんとなく魅かれている彼女は、今日もC&CO.をからかいに、萬世橋警察署に遊びにきていた。美味い中国茶の専門店もあるし、人外魔境の話題にはこと欠かないこの街は、案外蘇蘭の肌には合っているのかもしれない。
「ここで上げ上げ、ファイヤーで決めポーズ」
「……ハイッ!」
 ぱん! と掌を鳴らし、地城と同時に決めポーズを取るシオン。
 完璧だった。現場でも通用する完璧な振りつけの獲得だった。
「あっちの話かよ! ったく、踊ってばかりいやがって……」
「でも、あなたも、遊んでばかりじゃないの」
「そういうあんたは、煙草吸ってはお茶飲んでばかりだな」
 パラパラに興じる二人を尻目に、黙々とCDを替える雛太。
 どんぐりの背比べ、って奴かしらね……ほんの少しだけ苦笑する、蘇蘭。
 そして――
「まったく、どいつもこいつも……」
 唯一協力的とも言える人物、ササキビ・クミノはため息をついた。
 ダブル・サイド・ポニーテールをわさわささせつつ、件の賊が放つ、音についての分析を、最新のPCの前で一人黙々と行っていた。
「たいへんねえ?」
「……本当にそう思っているんだか」
 蘇蘭の茶々に、ストレートな皮肉を返すクミノだった。
「ここまでまとまりの無い人たちも、ほんと珍しいものだわ……」


  ◆ ◆ ◆


 ……矩形波。
 旧ゲーム機において認知された音の波形である。
 最近では携帯電話の音源にも使用されており、人に身近な無形物の一つであると言える。
 賊はその矩形波を操り、四方から音として発生させている……だが、波形とはあくまで機械に通すパターンであり、決して外部に対して拡散させるものではない。
 しかし、その音が聞こえるたびに、実際に人体、もしくは精神に影響が及んでいる。
 それでいて、聴覚の問題でもない上、人ではない鉄鋼にもその影響は及んだ。
 これを、無形の何かが原因であると仮定するのは、この街では容易い。
「やっかいなデンパね……」
「何がやっかい?」
 蘇蘭に問われ、クミノは手を休めつつも応えた。
「たとえば、放射上に広がる円がある」
 手ぶりを合わせるクミノを制し、自分の吐き出す煙草の煙で、その円を描き出す蘇蘭。その意図を察したか、手を再びキーとマウスに戻すクミノだった。
「それはあくまで二次元の動き。一本の線が、一つの点に向かって動くにすぎない」
 蘇蘭の煙が方円状に拡散していく。
「けれど、電波というのは波形でもある。振幅があるわけね。矩形波の例を挙げるならば、打ち込みが複雑であるほどに、上下の振幅は激しくなる。しゃがんだり、飛んだりして躱せばいいというものじゃ、ないわけね」
 そこまで言って、クミノがPCのディスプレイに、波形パターンを呼び出した。
「波形が人体に影響を及ぼすとするならば、曲が途切れるその瞬間……といきたいところだけど、相手の操る波形には、ゲーム音楽特有の"ループ処理"もあって隙が無い。わたしの障壁を当ててもいいかもしれないけど、どうなるのか確実性がないから、あまり採りたくない選択肢ね」
「なら、どうするの?」
「それでも波形を避けるか、もしくは、同等の電波をぶつけて相殺したり、つまりジャマー……妨害が必要」
「その妨害が、あの踊りなわけ?」
「俺とこいつで邪魔してやるぜ、って。まあ、変な手出しするよりは、ましだと思って」
 いつの間にか、リーダーのような口調になっている。クミノは眉をひそめた。
 ちょうど、その時、第三課のドアが大きく開いた。
「つきとめた……次の予測も」
「鉄……ッ」
 デスクから立ち上がるクミノ。鋼の側に駆け寄った。
「何か、分かったことは?」
「どの店でも、赤外線による防犯装置は作動しなかったそうさ……もしかしたら、俺と同じ……鉄の塊なのかもしれないな……あとは……」
 人ではない。そのことは、この街ではさしたる問題ではない。
 それでも、蘇蘭は時折思う。
 機械に心は無いとしても、その心を与えたもう存在も、はたして本当にこの街にはいないのか? と。
 自分のような神仙はもとより、大きな超常的存在も感じられぬ。街全体が、神の器であるのだろうか……ともすれば、それが"異界"というものなのかもしれない。
「被害を総じて見ると、音楽的に人気のあるタイトルは、もうほぼ全て盗まれてしまっている。けれど、古代祐乃が唯一手に出来ていないソフトも、未だ一つ存在している……当時も、市販のラインにはあまり乗らなかったそうだ」
「じゃあ、そのゲームがある店が、次は狙われやすいということ?」
「そういうことになる……だが……」
 鋼は少しだけ口ごもって、しかし言った。
「そのゲーム、電魔街ではここ半年、売りにも買取にも出されていないんだ」
「ゲームの名前は?」
 シオンと一緒に腕を振りつつ、地城が訊ねた。
「『ラディウス'90改』というゲームらしい」
「ふーん……」
 軽く頷いた後、
「今それ遊んでるけど」
 と、雛太が言った。一同が彼に注目した。


  ◆ ◆ ◆


 かくして全面対決と相成った。
 C&CO.はもちろん、萬世橋警察署の威信をかけた作戦。
「決着をつけようじゃねえか」
 時は深夜……側面を向いたトレーラーが、路を大きく塞いでいる。
 萬世橋警察からの壮大なアナウンスを背にして、緊急封鎖された道路に地城が立った。オレンジ色の身なりは、暗い夜に差した光であるかのようだ。
 そこに対峙する、鈍色に身を包んだ肢体が、ひとつ。
「ずいぶん調べたようだねえ……」
「お前が自走する機械だってこともな」
「だったら、どうする?」
「どうもしねえよ」
 人であろうが機械であろうが容赦しないのが、C&CO.のやり方だ。
 プレミアのついた名作ゲームを盗むなどという輩は、決して許しはしない。
「どうもしないで、また、前のようにダンスを踊る?」
 二人の目の前に、剥き出しの箱……『ラディウス'90改』が、文字通りに釣り下がっている。誰かが吊り下げているのだ。
 テグスを辿っていくと……自由堂ツインタワーの屋上のへりに、釣竿を構えた雛太の姿が見える。巻き添えを食って"ぶざまなダンス"を踊るのも嫌だったから、安全圏と思しき場所に陣取った次第だ。
 それでも――電動ではあるものの――リール動作を駆使して、お目当てのものを求める相手を翻弄しなければならぬ。決して楽な作業ではない。
 目を擦りながら、動きが訪れるのを待つ……
「あんたは、何もしないのかよ」
 頭上で、宙に浮いた大きなキセルに腰かける人影に、雛太は毒づいた。
「急かさなくても、その時が来れば、面白くしてあげるわ」
 何かを企むような笑みに、なんとなく雛太は嫌な予感を覚えた。
 彼のこうした気分は、ことこの街の中においては不思議なことに良く当たるのだが、そのことに雛太本人は全く気付いていない。


  ◆ ◆ ◆


「ああ、踊るさ……」
 ゴーグルに隠れて視線は見えない。
 だが、賊の口元は、意外とでも言わんばかりに歪んだ。
「俺のナンバーだがな! シオン! トレーラーオープン!」
 耳から大きく回ったインカムに、地城が言った。
 直後、トレーラーの積荷部分が、電動で上方へと開放されていく。
 眩いばかりの照明の中に、しなやかなシルエットが見える。
「くっ……」
 逆光に視界を奪われ、反射的に後方へと身を翻す祐乃。
「どうした? お前の『ラディウス'90改』から離れているぞ!」
「ふん……またこの前のように、踊るがいいわ!」
 右手を大きく突き出す。それは明らかに何かの予兆だった。
 地城も、そのアクションを認め――腕を大きく掲げた。
「シオン、あとはよろしくWant You!」


  ◆ ◆ ◆


「こっちにも飛んでくるかもしれないから、気をつけておきなさい」
「は?」
 言ったことの意味が分からず、雛太は竿を持ったまま、蘇蘭に聞き返した。
 返事は微笑で返された。
 神仙たる者の秘儀は、既に始まっていた。
「我が赤龍よ――うつろう波気にその色を与えい!」
 しなやかな指に、一瞬凝縮し、街全体に放たれたものは――まさに色だった。
 それは、形無きものに形を、色無きものに色を与える、神の儀式だ。


 ◆ ◆ ◆


「それではレッツ、ゴーゴーダンスダンス!」
 美しいスーツに身を包んだシオンの声と同時に、トレーラーに設置されたスピーカーアンプが爆音を上げた。

  あれが噂の 巫女みっこファイヤー アイヤイヤ〜♪
  そうよ私は 恋をするには 若すぎない ヤイヤ〜♪

 上上下下右左右左。
 正確にしてアグレッシブな腕の振り。
 豪快なビートとうねるようなシンセサイザー音。
 スピーカーから溢れるは……音の波形だ。
 本来ならば不可視にして無色である音が、確固としたヴィジョンとカラーを備えながらに、まさに音速の速さを伴って街中に広がっていく。
 それは、賊たる祐乃の方も同様だった。
 無規則に発生した音の波紋が、目に見えて音速と共に街全体を覆って行く。
 ハイ・エナジーの音色と、矩形波がぶつかり合っては、まるで互いの音に負けまいと、互いを相殺して行く――
 ただの一瞬、しかし絶え間無く行われるその相克を、雛太は確かに見た。
 裂かれて空間に流れた波形から身を避けるために、立ち上がった。
 トレーラーの特設ステージで、ノリノリで踊る黒服……シオン。
 まるでディスコ・キングだった。彼の一挙一投足に導かれるかのように、スピーカーから流れだす波形。その音を、波形へと変えているのは、地城の力だ。彼なりのイメージで、無形たる音に、形という名前をつけてやっている。

  あれが噂の 巫女みっこファイヤー アイヤイヤ〜♪
  紅袴は 脱がさず愛して イヤイヤ〜♪

 ……どうだ!
 そんな表情を浮かべる地城。ついには彼も踊り出した。
 トレーラーの上に飛び、シオンとのユニゾンで腕を振る。
 右右、左左、空手チョップから、"おしおきよ"ポーズ。
 二人のエナジーを凝縮するかのように、波形は祐乃の発生させていく矩形波を相殺していく。
 形無きものを――ゼロを無限に変える街、それが電魔街。
 ならば、同じことを行えば、50:50で対抗できる……それが地城の策だった。
「封じたところで、こうすれば、私には近づけまい――」
 言い放つ祐乃。
 四つの発生源を自らの周辺に集結させ、発生主を守るが如く展開する。
 その通りだった。
 あくまで地城の行ったことは、相殺であり、それ以上の行為では無い。
 この状況で、さらに、祐乃を出し抜く一手を打たねばならないのだ。
「そうでもないわよ」
 祐乃の声を遮る声が一つ……だが、その声は、賊には聞こえてない――言った本人にすらも。


  ◆ ◆ ◆


「今度は何をやってるんだ?」
 時折飛んでくる波形の欠片をかわしつつ、なおも手をかざすことをやめない蘇蘭に雛太は訊ねた。
 聞かれてすぐに、神の奇跡を行う鬼女は、未だ年若い青年に告げた。
「真空の定着」
「真空……? 宇宙とかの真空か?」
 蘇蘭はゆっくりと頷いた。
 今なお、その神通力を働かせている最中なのだ。
 その素子があるとは言え、擬似的に宇宙を生み出しているようなもの。彼女にとっても、決して楽な所作というわけでもない。
 それでも、蘇蘭の表情は涼しい。久しぶりに、大きすぎる力を、何の忌憚も無く操っていることに、少々興奮もしている――


  ◆ ◆ ◆


 声の主に、矩形波が届いていない――そのことに気づき、祐乃は動揺を隠せない。それはプログラムが、予期せぬバグに遭遇させられた時の心情にも近い……機械に意志があったのであれば、という仮定に基づくが。
 声の主は、その身を大きな腕に委ねていた。
 鉄鋼。
 刑事の片割れが、硬く頑丈な腕で形作った椅子に、生身の人間を乗せている。
 ササキビ・クミノだ。
 口と鼻を覆うマスクをしている。繋がった管は、鋼が背負っている機械に繋がっているようだった。
 何も手にしていない。だが、その手は、人のものとは大いに異なった様相を呈している。まるで怪猫の爪だ。
 この街の中でだけ扱える、彼女にしては異質の、近接的概念武装である。
 その爪の、光速の一振りが、真空を作り出し――それを蘇蘭が、空間要素として固定しているのだ。
 真空は音を伝えない。
 必要な空気は、最低限だけ、ボンベなどから摂取すれば良いし、機械の体である鉄鋼は、そもそも呼吸の必要がない。
 危険な状況――祐乃はそう判断し、『ラディウス'90改』に飛びつき、手を伸ばした。
 その素早い動作は……目的の物を掴み取るには至らない。
 屋上で、リールを自動に設定しつつ、雛太はあっかんべー、と舌を出してやった。いい気味だった!
 苦虫を噛むように、祐乃が地上へと意識を戻す。
 一瞬、音が聞こえなくなった……展開していた音源の音が、聞こえない――戦慄が走る。それは、恐怖というものを初めて、意志持つ機械が知る瞬間だった。



 何も聞こえない真空にあって、猫の一爪が、賊の腹部を大きく貫いた。


  ◆ ◆ ◆


 −事後報告−

 ●紅蘇蘭
 久しぶりに真面目に力を使ったので、ちょっぴり上機嫌。
 そのまま、シオンと地城と飲みに行った。
 
 ●ササキビ・クミノ
 鉄鋼と、電魔街のネットカフェ探索に。
 同業者の仕事を見学。端から見ればちょっとしたデートだ。

 ●雪森雛太
 『ラディウス'90改』が物凄く高値で売れたので、
 二匹目のドジョウを狙うも、家の蔵には『モノポリー』しかなかった。

 ●シオン・レ・ハイ
 踊り疲れたので、地城のおごりで飲みに行った。

 ●宮杜地城
 同じく踊り疲れたので、憩いをかねて飲みに行くことに。

 ●鉄鋼
 クミノと一緒に電魔街のネットカフェ探索に。
 案内役のはずなのに、終始リードされていた。

 Mission Completed.


  ◆ ◆ ◆


「なあ、地城くん……」
「んー?」
 夜のクラブで、しばしの酒を傾ける三人。
 シオンと蘇蘭、そして地城だ。
「あの祐乃ってのは、なんだったんだろうねえ」
「……さあな」
 解体作業にも立ちあったが、組成物の内に数点、矩形波を使う音源ボードが紛れていたことを除いて、賊の出自を匂わせるデータは皆無だった。
 地城はシオンの杯に安ウイスキーを注ぎつつ、自分も手酌でかき込んだ。蘇蘭は静かに、滔々と煙管を吸っている。
「あなたは、どう思います?」
「……どうなのかしら」
 シオンに問われて、蘇蘭は煙管を下ろし、事も無げに言った。
「誰の仕業か分からないけれど、それを生み出す土壌というものが、間違い無くこの街にある――それだけは確かね」
「……難しい話だねえ」
 煙の匂いにうーん、と唸りながら、シオンは琥珀色の水面に鼻を近づけた。
 もちろん地城のおごりだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0908/紅・蘇蘭/女性/999/骨董店主・闇ブローカー
 1166/ササキビ・クミノ/女性/13/殺し屋じゃない
 2254/雪森・雛太/男性/23/大学生
 3356/シオン・レ・ハイ/男性/42/びんぼーにん+α

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■         ライター通信          ■
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 どうも、Kiss→C(きっしー)です。
 【界境現象・異界】こと「C&CO.」、いかがだったでしょうか。

 今回は、一人を除いてマイペースなキャラばかりだったので、
 どうしよう、どう動かそう、と悩みつつ、こんな感じになりました。
 相変わらず勢い重視で、設定とかどうとかは二の次というのは、
 きっしーの文章の特徴でございますが(短所とか言ってはいけない)。
 今回は特に勢いがあるなあ、という自己評価はありますね。

 とにかくお選び頂き、誠にありがとうございました。
 次のC&CO.の捜査も、よろしければ手伝ってやって下さいませ。