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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


人形遊び

「ルイセーっ、ジュース飲む?」
 貰い物なんだけどとにこやかに笑って告げたファルス・ティレイラ――ティレに、ルイセ・メイフィートはろくに視線も寄越さず、
「飲む」
 と一言で答えた。
 ルイセの視線はただひたすらにテレビにのみ向けられている。今日放映される特番は、予告を聞いた時から自分好みの特集だと思っていたのだ。
 カタン、と響いた小さな音で、ルイセはジュースが置かれたことに気がついた。
 目線はテレビに向けたまま。片手を伸ばしてコップを手にする。
 ジュースの中身がなんであるかすら気にせずに、ルイセはそれを口に運んだ。


『……?』
 テレビが終わって、さてそろそろ動こうかと思った時、ルイセははじめて異常に気がついた。
 体が動かない。
 どういうことかと思って、とりあえずティレを呼ぼうとしたのだが、声を出そうとしても言葉にならない。
 体は動かないし言葉も話せない。
 さあどうしようと思っていたその時。
「あれ、ルイセ。いないの?」
 きょろきょろと辺りを見まわしながら、ティレがリビングへと戻ってきた。
 コップを取りに来たらしい――と。
 視界に映ったティレの姿が妙に大きい。
 ルイセは、どうやら自分が小さくなっているらしいことをすぐに察した。
 腰をかがめたティレの視線が、ルイセに向いた。
 瞬間、ティレの表情がぱああっと明るく輝く。
「……うわあっ、可愛い〜っ!」
 ひょいと抱え上げられて、そのままぎゅっと抱きしめられる。
『ティレ、苦しいっ!』
 叫ぼうとしてみても、やはり声は出なかった。
「あ、この人形、なんかルイセに似てるかも」
 ようやっと放してくれたと思ったら、じっとルイセを見つめてくすくすと笑う。
 似ているもなにも本人なのだが、ティレはまったく気付いてくれる気配がなかった。
 ティレの台詞からすれば、どうやらルイセは人形になっているらしいから、気がつかないのも無理はないのかもしれないが。
「そーだっ。もっと可愛くしてあげるね」
 そう言うが早いかぽんっとソファの上にルイセを放り投げ、ぱたぱたと小走りで自分の部屋に戻って行く。
『まったく、人を投げるとは……』
 気付いていないのだから仕方がない――そんなふうに済ませられるほどルイセは大人しい性格をしていなかった。
 あとできっちり仕返ししようと思いつつ、けれど今はどうしようもないのでただひたすらにティレの帰りを待っていた。
「お待たせーっ」
 小走りに戻ってきたティレの手には化粧道具。どうやら化粧をしてくれるつもりらしい。
 大迷惑だが、その意思はティレに届くことなく、ティレはぱたぱたと楽しげにアイラインやら口紅やらを引いていく。
「ほーら、可愛くなったでしょう?」
 鏡の前に映し出された自分の姿に、ルイセは思いっきり溜息をつきたくなった。
 人形になっている状況もだが、どちらかと言えばティレがしてくれたお化粧にだ。
 自分にやるのと人形にやるのでは勝手が違うためか、微妙にはみ出していたりずれていたりで目も当てられない。
 それからティレは、ルイセ人形を携帯ストラップにしてつけて、そのまま携帯ごと荷物の中に放りこんだ。
「出かける前にルイセに声かけとこうと思ったんだけど……ま、仕方がないか」
 いや、ここにいる!
 と声を張り上げたくなったが、あげられないものはあげられない。
 ついでにもう一つ。いくら面白い物を見つけたからとはいえ出かける前にあんなに遊んでいて時間は大丈夫なのだろうか、などと無駄なことまで考えてしまった。
 ティレはとてもとても上機嫌で外に出たが、ルイセはそのまったく逆。
 時間が経てば経つほど機嫌は傾いていくばかり。なにせ今のルイセは携帯ストラップのお人形である。
 荷物の中で潰されるは、携帯が鳴ってやっと外に出れたと思ったら、歩きながら喋っているものだから、紐一本で繋がっているこっちは思いっきり揺れまくる。
 揺れる視界に気持ち悪くなってきたころ、ようやっと話が終わったら、こんどはポケットに押し込まれて。
 まったく散々である。
 そもそも、原因はいったいなんだったんだろう。
 ルイセは人形になった時のことを事細かに思い返した。
 テレビを見る前は、問題なかった。
 その途中までは、問題なかったはず――ティレの問いに答えることが出来たのだから。
 と。
 そこでルイセははっと一つの可能性に思い至った。……というか、それ以外に原因が考えられない。
 ティレに貰ったジュースだ。
 そういえば貰いものだとか言っていた記憶がある。
 どこで貰ったのかは知らないが、怪奇現象満載な付き合い先もあるティレだ。
 出所不明の謎ジュースなどをもらってくる可能性なんていくらでもあるだろうし。
『ティレ……』
 振り回された恨みと、大元の原因を作った恨みと。
 あとで絶対復讐してやると誓ったルイセであった。



 そして数日後。
 それなりに強い効果を持つ物だったのか、一番魔力が高くなる月齢の時になってようやく元の姿に戻ることが出来たルイセは、一仕事終えて眠っているティレの部屋へと入って行った。
「んー……ルイセ?」
 気配を隠しもせずに中に入ると、ティレはすぐに目を覚ました。
「どこ行ってたの……?」
 半分寝ぼけているらしい。
 ルイセが纏う空気に気付かずに、ティレは呑気な問いをかけてくる。
「誰のせいだと思っている」
「え?」
 低い怒りの声音に、ようやっとティレは目を覚ました。
「あ、あれ。ルイセ、怒ってる……?」
「当たり前だろう……」
 大人サイズのルイセの激怒の表情に、ティレはぴききと固まった――が、復活するのも早かった。
「なんでえええっ!?」
「うるさいっ、問答無用っ!」
 ばっと窓の外へと飛び出したティレを、ルイセはすぐさま追いかけた。
 月夜の下の鬼ごっこは、そのまま一晩中続けられ、朝にはぐったりと疲れて寝込むティレの姿があった。