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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


いよかんさん来襲

 また、謎の箱が現れた。
 草間と零は睨み付けている。
 開けるべきか、それとも放っておくべきか?
 ラベルには「いよかん」と書かれている。かすかに柑橘類の香りがする。
「なぁ、いよかんっていつの季節の果物だったか?」
「辞典で調べてみますね」
 そんなことをしていると、好奇心旺盛な猫、焔が箱をつつく。
「こらやめろ! 箱が変な行動するだろう!」
 と、草間が焔を捕まえた。
「にゃーにゃー?!」
「なに? なにかいるって?」
 草間が箱を見る。
 箱は、“いるよ”とほくそ笑んでいるようで気持ち悪く思った。
 爆発されると困るから、仕方なく、あける。

 中には……。

 普通のいよかんがいっぱい入っている……。
「なんだ、たんなる宅配か……驚かせやがっ……て?」
 草間はいよかんを調べているとき、長細い柑橘類に手足、目や口がある謎生命体と目があってしまった。
「かわうそ?の親戚か?」
 草間はこの奇妙な存在に訊いてみるが、生命体は答えない。
「にゃー?」
「そうではないでしょう兄さん」
 首をひねる草間兄妹。
「……」
 と、その長細い柑橘生命体はみよんみよんと奇っ怪な擬音を立てながら、箱から出ようとしていた。他のいよかんも何故か動き出す
 そのとき……兄妹は驚愕する。
 ……いったい何が起こったのか!


1.いつもの通り
「あらま、またなのね」
 経理の仕事をしていたシュラインさんは“いつもの事”で慣れていた。
 つまり、箱の仕業と。
 草間のデスクと応接間を埋め尽くすほどのいよかんと、縦にながい手足の付いたいよかんのような謎物体36匹を眺めているわけで。
 この足場の悪い状態を何とかすることが先決と、てきぱきと別の箱をもってきて
「はい、まずはいよかんを箱にいれましょ、武彦さん零ちゃん」
「あ、ああ……」
「そ、そうですね……」
 と、片付け始める3名。
 その仕事中、後ろでスタタタタタという擬音と直ぐにコケッと如何にも何をしているのか分かるような音がする。
「走ってこけているのね」
 と、シュラインさんがその方向を向く、
|-_-*|ノ
 1匹と目があってしまった。
 意外に可愛い。
 しょっちゅうここに来ている小麦色より可愛いのでは? と思うシュラインさん。
「お名前は?」
 と訊いてみる。
 とたん生命体は物陰にスタタタタ……コケッ……と逃げてしまった。
「恥ずかしがり屋さんみたいですね」
 零が箱に普通のいよかんを詰めていきながら言う。頭には何故か例の生命体がよじ登っていた
「みたいね」
|-_-*|ゞ いよかんさんです。いよかんのお化けです。
 物陰に隠れて自己紹介するいよかん。否、いよかんさん。
「タイヤキが海に逃げた歌知っているか? あれの柑橘類バージョンと思うんだが?」
 草間も片付けながらいよかんさんが無害と知り、意見を言う。
「そうみたいね。別段、害はなさそうだし」
 と、シュラインさんはいよかんさんと握手をもとめた。
 いよかんさんも照れながら握手する。
 未知の生命体との接触であった。

|-_-|ノシ 宇宙人ではありません。いよかんさんです。


2.食うべきか、栽培するべきか?
 偶々やってくる人間というのは良くいるものである。
 つい最近フレッシュジュースに凝っているモーリス・ラジアル、ペットの犬2匹と散歩がてらやってきた柏木狭波、謎のびんぼーにんシオン・レ・ハイ、ハムスターの里親を捜して貰うべくやってきたロックバンドメンバー本谷マキである。
 まず、草間達が事情を説明して、この散らばったいよかんを詰めてから、興信所内を走り、そしてこけている謎生物の対応をすると言う。一応皆はそれに応じた。足場が悪ければ何も出来ない。
 特筆すべきは異様なオーラを放っている影2つが草間の私室から降りてきた。
「まともな入り方はしないのか? 啓斗、北斗」
 草間は高校生忍者双子の守崎啓斗と北斗に文句を言った。
「屋上からここに来るには最適な道を使ったまでだ」
 ステレオで答える双子忍者。
「……」
 興信所を忍者屋敷にしているのはコイツ等だなと思う草間。今に限ったことではないが……。
 啓斗はじーっといよかんさんを観ている。
  |-_-|…… ←怖がっている模様
 |Д゚)…… ←喰いたい表情の小麦色
 なぜか、ナマモノもいた。
「三すくみ……の関係ですね……違いますか?」
 狭波がぽつり。
「それって、ヘビとカエルとナメクジじゃ?」
「じっとしてないで、散らばったいよかんを先に片付けるのを手伝え」
 草間が文句を言う。
 |Д゚) だと、どーする?
「……」
「兄貴……まさか……」
「わかった……」
 草間と北斗の声に渋々応じる啓斗。

 10名近くいれば、あっという間に沢山のいよかんを箱に収めることが出来た。
とりあえず、手頃ないよかんでお茶にするご一行。
 すでにシュラインさんに懐いているいよかんさん。ちょこんとテーブルに立っている。シュラインはいよかんさんの横に食べたいよかんの皮と買い置きしていたいよかんを“彼”のよこに並べる。
「約6倍よね」
 と、納得した。
 シオンはマイ食器を懐から出し、
「食べて良いですか?」
 と、尋ねた。
 その声で、のこる35匹のいよかんさんは……スタタタタ……コケッ。
 逃げたかったが直ぐにこけてしまった。
「まず、食べるのは必要だな」
 啓斗はこけた1匹を捕まえる。
「た、食べて良い物なんでしょうか?」
「こう意識があると抵抗があるわね……」
 狭波ちゃんとシュラインさん悩む。
 |Д゚) ばきぼきめきょ
「あ――――――――――っ!!」
 零と狭波、マキが驚く。
 なんと、かわうそ?が、いよかんさんを頭からガブガブ喰っていた。皮を剥かずに。
「……まて! ナマモノ!」
|Д゚) ?
 啓斗が小麦色を止めた。
「皮を剥かず食べるのは、いよかんに失礼だぞ」
|Д゚)ゞ そーかー?
「食べ方の論議をするな!」
 草間と北斗が突っこんだ。
「まず、何故、かわうそ?くんがいよかんさんを食べるとその咀嚼音になるか訊いてみたいです。謎なのでしょうけど」
 モーリスがかわうそ?といよかんさんを抱き上げて言った。些細なことだが後に重要になると見越しての発言。

 なんと、小麦色に食べられた、いよかんさんは、かわうそ?の口から霊魂が出てきてテーブルに置いてあるまだ食べていないいよかんに乗り移り、ぴょこんと復活する。
「成る程成る程、近くにいよかんさえあれば大丈夫なのね」
 と、シュラインさんメモをとる。
「シュラ姐、良い事教えてくれてありがとう」
 と、啓斗は他の逃げてこけている捕まえたいよかんさんの皮を剥き始めた。
「おい、兄貴……喰うのか?」
「何を言っている、味を知らなきゃ話にならないだろう。それに抵抗があるなら白魚の躍り食いなんて出来ないぞ」
「売る気なのか……あの“生きている茸”に飽きたらず……。俺の、俺の所為で……兄貴がこの方向に突っ走ってしまうのか……?」
 真剣にいよかんさんを栽培すると決めた兄啓斗を止める事が出来ない弟北斗は涙を滝のように流して泣いていた。しかし兄に渡されたいよかんさんの“亡骸”1部を差し出されると顔をかえて、
「くれるの、サンキュ♪」
 と、にこやかに食べ始める。
「確かに……実が6倍でも普通のいよかん並に美味しい。これなら栽培して勝手にやってきて食い放題だ」
 北斗のいよかんさんを食べた感想。
「これなら……質の良いいよかんをどこかで手に入れて、栽培だな……それだと売れる」
「売る事優先かよ! 兄貴……。ん!……しかしさ、とんでもねー誤算があるとおもわねぇか?」
 弟・北斗の言っていることを完全に無視して、いよかんさん栽培計画を本気で練っている兄・啓斗。

「食べて良いみたいですね♪」
 と、かわうそ?と双子が食べ始めたとたん、シオンもいよかんさんを食べ始めようとするが……
 いよかんさんが泣きそうだったので、
「だ、駄目です私には食べられません……」
 と、涙目でいよかんさんを離す。いよかんさんは感激して彼の頭を撫でた。
 一種の友情であろうか?
 さて、こちらはモーリスとシュラインさんの方は、
「丁度ジューサーも用意していますから、ジュースも……」
 と、モーリスさんはジューサーにいよかんさんを入れる。ジタバタしている様だが、非力故、あえなくジュースに……。
 ただ、ジューサーの音が……
 ぐしゃばきめきょ……という、身の毛のよだつ音。
「ジューサー計画はなしという方向なのかしら」
「スプラッターになりますね……まずは皮を剥いてからでしょうね……」
 モーリスとシュラインは苦笑する。
 シュラインさんは目の前の怯えているいよかんさんを撫でていた。
「本当に食べて良いのでしょうか?」
 マキと狭波は疑問に思う。
「実がつまって6倍お得だぞ。それに今の状態で死ぬことも無いから心配無用だ」
 既に草間も喰っていた。
 沈黙するしかないマキと狭波。
 しかし、マキは、ハムスターの里親探しを頼む状態ではなくなったのだが、なんとかしようと、
「あの、私、動植物と意思疎通できるんですけど!」
「この子達、無口だけど喋ることが出来るみたいよ」
「あ、そうなんですか……」
 ちょっと残念なマキであった。

 分かったこと1:シャイであるが一応喋る。
 分かったこと2:そのまま食べることには抵抗はあるだろうが、まずは皮を剥いてから食さないと、奇妙な音がでる。


3.36匹の行方と、箱
 沢山のいよかんさえ有れば、いよかんさんは居なくなら無いと言う事をいよかんさんから聞いた、皆さん。
「と、言うことは」
 可愛いいよかんさんを欲しい人はいっぱい居るだろう。
 まず、たらふく食べることが出来る。いよかんの補充さえしっかりしていれば食い放題だし、いよかん畑でも庭に作れば何とかなる。いよかんさんがずっと自宅に住み着けば更に問題ない。
 欠点としては、季節柄痛みやすい時期にいよかんを沢山置いておくのは危険という。生かさず殺さずになるわけだ。
「で、兄貴」
「なんだ?」
「こう沢山いよかんさんが居るけどさ……、いよかんさん自体、増える気配がいっこうにないぜ?」
「……」
 大誤算である。
 そう、啓斗くんが恋して病まない(?)茸自体は謎生物だがれっきとした“生命体”である。しかし、いよかんさんは、いよかんという媒体がなければ増えるのかどうかすら分からない“お化け”つまり“超常自然現象”なのだ。
  |-_-|ゞ ←申し訳なさそうにしているいよかんさん
 |Д゚) ←乱獲は良くないぞと訴えている小麦色
「そ、そんなことはない! 増えてくれる! 沢山いよかんが有れば!」
 なんとか計画を実行しようと真剣に考える啓斗くん。

 シオン氏は「たまに興信所でいよかんさんを見に来ても良いですよね」と、半分ションボリ。彼には住処がないのだ。
「でも、可愛いから数匹いてくれると助かるわ♪」
「確かに、いよかん限定だが……保存が出来るのは良いな」
 そう、いよかんさんは“お化け”なので“彼”が取り憑いたいよかんに賞味期限はない。
「やっぱり、いよかん天国だな!」
「いや絶対増える方法を編み出してやる!」
「まだ売る気かよー兄貴―。あのさ、妥協案でしめ縄に飾るのをいよかんにしようぜ……たいしてかわらねーからさ……」
「大ありだ、日本の文化をねじ曲げるな」
 相変わらず、食べるだけを考える北斗くんと売ることだけを考えている啓斗くんの双子漫才が続いている。
「なら、私も少しだけ頂けないでしょうか?」
 狭波もいよかんさんに懐かれた模様。
 流石に36匹、この興信所で彷徨かれると、仕事にも差し支える。しかも、猫は柑橘類の皮が苦手ときく。焔はいつの間にか逃げているのだった。
 モーリスも、
「私も数匹と1箱、頂けるなら構いませんよ」
 と、いよかんさんを欲しいみたいである。
「どうしましょう……ハムスターで困っているのに……」
 マキは、3匹ほどのいよかんさんに囲まれ更にハムスターのかごをもって困っている。
「此処には一応、猫が居るからなぁ……逃げているけどな」
 流石にハムスターはヤバいだろうと困惑している草間。
「焔ちゃんは賢いですから、私が彼女を説得するので、里親探しは私がやりますよ」
 零ちゃんが助け船。
「ありがとうございます!」
 マキの顔は明るくなった。

 モーリスの住む豪邸と謎の守崎家、狭波の実家の神社、マキの自宅とこの興信所、12匹ずつのいよかんさんが配られる事になるようだ。もちろんいよかんの詰まった箱1つ付き。シオンはたまにやって、いよかんさんを食べにくることになる。食住がない彼には、いよかんさんを“飼う”資格がないことになる。

「で、次の問題は……だ」
 草間は冷静にいう。
「いよかんのにおいが充満している……窓を開けるぞ」
 柑橘類の匂いははじめ良いのだが、流石に濃くなると耐えられる物ではない……。
 |Д゚) ばきぼきめしょ
「だから、そのまま喰うなぁ!」
 
 何だかんだ、いよかんさん騒動で賑やかな興信所であるが、狭波は初めてみる“謎の箱”をじっと見ていた。
“そんなに見つめちゃいやん”と言う箱からの意志を受けても、じっと観ている。
「あなたは何者なんですか?」
“箱でごわす。後にも先にも箱ですたい”
「……誰が送ってきたのですか?」
“ひみつ☆”
 と、謎の会話をしていたのであった。
 それは、誰も気が付いていない。


4.その後
 守崎家では、北斗がたらふくいよかん天国を味わい、啓斗は必死に“いよかんさんが増える方法”と“いよかんの栽培の仕方”を研究しているという。
「当分先だぜ〜兄貴―。多分未来永劫むりだぞー」
「いや、何かつかみかけている……… ん? ああ! そうか!」
 ぽむっと彼が何かを閃いたときに、いよかんさんが後ろを走ってこけたことで……。
「あー!言い案を思いついたのに!!」
 閃きが逃げてしまったようだ。
 いよかんさんをばくばく食べる北斗クンは苦笑いするしかなかった。
「態とやっただろ? いよかんさん」
 北斗がいよかんさんに小声で訊いたら……
  |-_-;| ←図星らしい
 
 モーリス宅では、料理人に色々いよかんデザートを頼んでいるようだ。
「なかなか美味しいデザートのレパーリーが出来て好評ですよ」
 モーリスとその主人はご機嫌である。
 
 マキのハムスターのことも何とかなっているようだし、いよかんさんもメンバーに上手く行き渡っているようである。
 シオンはちょくちょく興信所にいよかんさんと遊びに来る。いよかんさんぬいぐるみも作ってやってくるので興信所のいよかんさんととても仲良しになっている。
 
 狭波の家も、いよかんさんを特別視せずに仲良くやっているようだ。いよかん風呂で楽しんでいるし、コレといった問題もない。

 さて、事の発端の興信所では、シュラインと零に懐いているいよかんさん5匹。
「今日は、ゼリーを作りたいけど良いかしら?」
 と、シュラインがいよかんさん一行に訊いてみたら、いいよと頷いた。
  |-_-| その代わりとっても美味しく作って♪
「任せてね」
「大丈夫ですよ♪」
  |-_-| 〜♪

 屋上では、残る1匹と、小麦色と仲良く夕日をみていた。
 |Д゚) 良い日……
  |-_-| うん……

 用事の済んだ“謎の箱”はいつの間にか消えていたことを誰も知らない。

 知っているとしたら…… |Д゚) と  |-_-| ぐらいだろう。

END?

■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0554 守崎・啓斗 17 男 高校生(忍)】
【0568 守崎・北斗 17 男 高校生(忍)】
【1462 柏木・狭波 14 女 中学生・巫女】
【2318 モーリス・ラジアル 527 男 ガードナー・医師・調和者】
【2868 本谷・マキ 22 女 ロックバンド】
【3356 シオン・レ・ハイ 42 男 びんぼーにん(食住)+α】

■ライター通信
滝照です。
『いよかんさん来襲』に参加していただきありがとうございます。
食べる方向の方達の考えの描写、友情が芽生えるシオンさん、いよかんさんを栽培し販売する事に燃える啓斗クンを書くのが楽しかったです。箱は相変わらず謎のままですが、何れは……。
食べられることがイヤで逃げたいよかんさんが、食べても良いよとか考えを変えていたり、個性を持っていたりと、様々な状態になりましたが……いよかんさんが増殖するのかは謎のままです。
いよかん好きのあなたのおうちに一匹如何でしょうか?
|-_-|ノ ←そのまま食べないで、と主張するいよかんさん。

守崎啓斗さん、守崎北斗さん初参加ありがとうございます。


ではまたの機会に

滝照直樹拝