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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


星と雪と闇と桜

オープニング

「この桜について調査をおねがいしたい」
 そう言って男性が取り出した写真に写っているのは近くにある公園の桜の木だった。
「この木が何か?」
 草間武彦は怪訝そうな表情で男性を見る。
「この桜は夜咲く桜なんだ」
「夜咲く桜?」
 草間武彦はその言葉に疑問を感じて詳しい話を聞いてみる事にした。
 話を聞けば、ここ数年その桜は夜《しか》咲かないのだという。
 夜には見事なまでに咲き誇るのだが朝になれば枯れたように花びらは散ってしまっているのだという。
「それは奇妙だな…」
 確かその桜には言い伝えがあったはずだ。
 遥か昔に恋仲だった二人が引き裂かれた場所なんだと―…。
「調査してみるか」
 草間武彦がそう言うと簡単な依頼書を依頼人に差し出し必要事項を書いてもらう事にした。

「夜にしか咲かない桜ですか…」
 零も不思議そうに依頼書を眺めながら小さく呟く。
「あぁ、どうやら昔からの言い伝えに何かありそうだな…」
「どなたかに電話してみましょうか?」
「あぁ、そうしてくれ」

 こうしてあなたのモトへと依頼が来たわけだが、あなたならどう調査する?
 言い伝えでは、貴族の女性と庶民の男性が引き裂かれた場所なんだという。
 なぜ、ここ数年から夜に咲くようになったのか?
 それを知るにはあなたの力が必要なのです。


視点⇒加賀島・樹乃


 ここ数年、夜にしか咲かないという奇妙な桜があるという。
 樹乃はタイムトレーサー…時間追跡者としてその桜の事を調べるようにと依頼が舞い込んできた。
 早速樹乃は問題の桜がある公園に向かい、タイムトレースを駆使して調査を始める…。
「……あれ…」
 だが、アクセスロックがかかっており記憶を引き出すことをモノ…つまりは桜が拒否している事になる。
 恐らく、別な記憶を打ち込むことでアクセスロックが解除される、という至って簡単なトラップだろう。
 しかし、問題はそのアクセスロックを解除する記憶がどこにあるか、ということだ。
「…この木…この桜と同じくらいの樹齢かな…」
 桜の隣に立つ木に手を当ててタイムトレースをする。その木から感じ取った記憶は二人の男女が引き裂かれた、そこまでの記憶しか読み取る事はできなかった。
 その後やその前の記憶は全く読み取る事ができない。
 何とかタイムトレースできないかと何度か試みてみるがアクセスロックを解除できなかった。
「……仕方ないなぁ…」
 あまり気に入った方法ではないのだが、裏の自分を頼る事にする。悔しいけれど自分ではタイムトレースができない。だけど、裏の自分ならばこの程度のアクセスロックなど簡単に解除できるだろう。


「………ふぅ……」
 樹乃が一度目を閉じ、再度目を開けると先ほどまでの樹乃とは全く違う雰囲気を持つ人物が現われた。
 彼こそが樹乃の裏の自分、エルマなのだ。
 エルマは桜に触れてフンと鼻で笑う。
「この程度のアクセスロックが解除できない俺じゃあないしな」
 そう言って再度タイムトレースを試みる。先ほど樹乃がタイムトレースしたときはアクセスロックがかかっていて記憶を読む事ができなかったのだけど、今は違う。
 エルマにとってこの程度のアクセスロックなどあってないに等しいものだからだ。
 アクセスロックを解除して垣間見た真実は、引き裂かれた二人がまた来世で出会おうというありがちな話ではなく、もう二度と出会わないようにと固く誓ったものだった。
 桜に染み付いている記憶には「こんな苦しい思いをするのならば、もうあなたと出会いたくない」という男性の言葉。
 そして、その言葉を酷く悲しんでいる女性の姿。
 あの言い伝えの話は「また出会いましょう」というドラマのような綺麗な終わり方などしていなかった。
 人間の醜い部分が現われて、どろどろとしたもっとも醜い終わり方をしていた。
 その話を後世の人間達が綺麗に、都合のいい解釈をして伝えていたに違いない。

『…おねがい…、そっとしておいてください』
 エルマの頭の中に響いてきたのは目の前の桜の声だった。
『あの二人は本当に幸せそうだった。私が咲くのを本当に楽しみにしていてくれた。だから、私は信じない。あの二人がもう戻ってこないなんて…』
 桜が言うには、言い伝えの二人は毎日のように夜桜を見ていたという。この桜もふとしたことから言い伝えの二人のことを思い出し、夜に花を咲かせていたのだろう。

 −…いつかあの二人が戻ってくるという淡い期待を抱きながら…。

『おねがい、放っておいてください、あの二人が戻ってくるように花を咲かせなければならないんです』
「……その二人は戻ってこない。おまえ自身も分かっているんだろう、それを認めたくないだけだろう」
 そうエルマが言うと、桜は逆上したのかザァッと花がエルマに襲い掛かる。
 だが、エルマはそれを避ける。それを見て桜は適わないと思ったのか抵抗するのをピタリと止めた。
『私を綺麗だと言ってくれたあの二人はもう…戻ってこないんですね…』
 桜の声が淋しそうに呟く。
「あの二人だけでなくても、お前を綺麗だと思ってくれるヤツはいるだろう」
 エルマがそう言うと桜は「…ありがとう」と呟き、そのあとは何も言わなくなった。
 それから暫く経った後に桜が咲かなくなったという話を聞いた。
 だけど、この時の人間はまだ気がつかない。あの桜を支えていたものが言い伝えの二人に会いたいという気持ちだけで保たれていたという事に。
 それに気がついたのはエルマと樹乃の二人だけ。
 そして、来年の春、きっとこの桜は咲くことはないのだろう。桜の願い通りに言い伝えの二人に会いに行ったのかもしれない。
 死、という唯一の手段を実行して…。


 タイムトレースの能力を持つ樹乃は桜がもう二度と咲かないことを知っていた。
 だからこそ、最後に見たあの見事に咲いた夜桜を目に焼きつけておこうと思った。桜が自分の命全てを使って咲かせた最後の桜だったのだから…。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

4013/加賀島・樹乃/男性/14歳/タイムトレーサー兼武器商人

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■         ライター通信          ■
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加賀島・樹乃様>

初めまして、今回『星と雪と闇と桜』と執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
締め切りギリギリになってしまい、本当に申し訳ございませんでした。
『星と雪と闇と桜』はいかがだったでしょうか?
すこしでも面白いと思ってくださったら幸いです。
また、お会いできる機会がありましたらよろしくおねがいします^^


             −瀬皇緋澄