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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


You’re My Only Sunshine.


 審判のゲームセットの声がグラウンドに響く。
 チェリーナ・ライスフェルド(ちぇりーな・らいすふぇるど)は応援席に居る葛城樹(かつらぎ・しげる)に向かって、
「樹さぁんっ!」
と叫んで大きく手を振った。
 手を振りながら大きく飛び跳ねるチェリーナにチームメイトが集まってくる。
 9回表満塁ホームランを打ち助っ人として充分すぎるほどの責務を果たしもみくちゃにされている。
 そんなチェリーナの姿を樹は目を眇めて眺める。
 樹が目を眇めたのは決してキャップからこぼれた彼女の金色の髪がキラキラとしている様が眩しかっただけでなく、その太陽にも負けないほどの彼女の輝く笑顔が眩しかったからだった。


■■■■■


 早く早くと気持ちが急くのにそう言う時に限ってなかなかシャワールームが空かない。
 早く、早くしないと―――
 チェリーナは気付いていた。
 試合中も応援席にいる同じ学校の女の子がチラチラと樹の方を見て騒いでいたのだ。
「樹さんあんなに素敵なんだから当たり前なんだけど」
 シャワーを浴びながらそう呟く。
 すぐにシャワーを切り上げると、打ち上げに誘うチームメイトを振り切ってチェリーナは急いで着替えて外で待つ樹の元へと急いだ。


「おめでとう」
 試合の後、2人でささやかな今日の勝利をお祝いした喫茶店を出るとすでに日が傾き、あたりの景色が朱色に染まっていた。
「ありがとうございます」
 そう頬をうっすらと染めてチェリーナも今日何度目かになる答えを口にした。
「本当は試合前ものすごく緊張しちゃってたんです。特にあのホームランを打つ前……でも、バッター入った時なんて頭が真っ白になっちゃって」
 一打逆転のチャンスが回ってきた9回表、ツーアウト満塁のチャンスで打席に入ったチェリーナに樹の声が届いた。
「がんばれ!」
 ほんの一瞬だがチェリーナが目を向けると樹が力強く頷いてくれた。
「樹さんのおかげです」
 その直後に今日の試合を決めた逆転満塁ホームランを打てたのだ。
 そんなチェリーナの言葉に樹が微笑みをたたえたままゆっくりと首を振る。
「毎日練習に参加して頑張っていた結果だよ」
 チェリーナの努力を認めてくれる樹に、言葉では言い表せない何かに満たされ、気持ちがもうチェリーナの体の中からあふれ出しそうになる。
 もう、チェリーナの身体中どこにも樹への気持ちを溜めて置けるところなんてどこにも残っていない。
「……」
「……」
 束の間の沈黙が2人の間に流れた。
「あのっ、樹さん」
「チェリーナさん、僕」
 2人の声が重なる。
 タイミングの良さに2人は顔を見合わせて吹き出した。
「樹さん先にどうぞ」
「いや、チェリーナさんから先に」
 何度か同じようなやり取りをした後、結局レディファーストという言葉に負けたチェリーナが意をけっして口を開く。
 大きく1度深呼吸をしてチェリーナは真っ直ぐ樹の目を見る。
 そして、
「私、樹さんが大好きです!」
と告げた。
 幸いな事にチェリーナが耳まで真っ赤にした表情は夕日に染まって隠れている。だが、それは樹の顔も同様で―――
 樹は驚いたような顔をした。

「ごめん」

 その言葉にチェリーナは思わず目を瞑り俯く。
 しかし、次の瞬間、
「ごめん―――その台詞だけは僕が先に言わなきゃいけなかったのにね」
と言葉と共に樹の腕が優しくチェリーナの肩に回された。
 驚いて顔を上げたチェリーナの目に映ったのは大好きな樹の優しい笑顔。
「やり直ししていいかな?」
 そう言うと樹はチェリーナを抱きしめていた腕を離し、
「僕は……チェリーナさん貴方の事が大好きなんです」
とはっきりと告げた。
「私もです!」
 チェリーナはそう答えて今度は自分から樹にぎゅっと抱きついた。
 

■■■■■


 その告白から数日後―――
 夏休みを利用した樹の長期のニューヨーク旅行の見送りの一団の中には勿論出来立てほやほやの樹の恋人の姿もあった。
 モデルばりの従兄弟や友人知人は普段ならやたらと人目を引くのだが、国際空港という特殊な場所ではそれもまるで当たり前のような光景だった。
「友人にはちゃんと言っておいたから楽しんできてね」
 今回のホームスティ先を紹介してくれた従姉妹がそう言ったあと、一番後ろに居たチェリーナを1番前に押し出す。
「ほら、私たちなんかより可愛い恋人にしっかり言っておかないと」
 そう言われて目の前に立ったチェリーナに樹は1枚のMDを渡した。
「僕が演奏した曲が入ってるんだけど……」
 差し出されたMDをチェリーナは照れながら受け取る。
 チェリーナは周りに居る樹の家族や親戚の目を気にして手を差し出した。
 しかし、樹の手は差し出された手をすり抜けてチェリーナを抱きしめる。
「し、樹さん」
「毎日メールします」
「気をつけて行ってきてくださいね」
 チェリーナも抱きしめ返す。
 空港という日常から離れた場所だからこそ出来た事だったのかもしれないが、それを見ている人たちの目は温かで、そんな幸せを感じながら樹は新たな1歩を踏み出した。
「それじゃあ、行ってきます」
 出発ゲートから見えなくなるまで、チェリーナはずっと手を振り続けた。