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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンション・ある日の回覧板〜お茶会をしよう!

 夏もそろそろ終わり秋の風が吹き始めた今日この日、駅前マンション屋上でお茶会が開かれることになった。
 空は見事な秋晴れ、風も穏やかで気温もまだまだ低くない。屋上からの景色はなかなかに壮観だし、会場が屋上というのもなかなか良い選択かもしれない。
 集った来客たちを前を、お茶会企画者である大家の老人と企画に賛同して主催側にまわった冠城琉人は、穏やかな笑顔で迎えた。
 まず一番乗りは新聞や夕刊配達のバイトでよく顔を見せるシオン・レ・ハイ。配達中にたまたま回覧板を目にしてやってきたのだ。
「こんにちわ。住人ではないですけれど……仲間に入れていただけるでしょうか?」
 彼が手にしているのは駄菓子屋で購入してきたお菓子だ。
「おや、気を使わせてしまったかな」
 外にまで連絡を回すのが面倒だから掲示板で済ませているだけなので、大家にしてみればマンション外の者も大歓迎なのだ。
 そしてまた、もう一人の主催者――琉人もにっこにこでお菓子を受け取り、
「お茶と触れる機会を持てるのはステキなことですよ」
 そんなことを言いながら、さっそくお菓子をお皿に移している。
 次にやってきたのはシュライン・エマ。やはり彼女もお茶請けのお菓子をしっかり用意して来てくれた。
 回覧板ではなく大家からの直の誘いでやって来たのは天薙撫子。
「本日はお誘いありがとうございます」
 手作りのお茶菓子と、何故か大吟醸を持っている。少々疑問の表情を浮かべた大家の老人に、撫子はにこりと笑い掛けた。
「祖父から預かってきたんです」
 お気に入りの大吟醸酒を持たせるあたり、口ではなんと言おうとも祖父もこの老人を好きなのだろう。
「おや、悪いね。どうもありがとう」
 近づいた瞬間、大家は何かに気付いて表情を変えたが――撫子は彼なら気付くだろうと思っていたが、やはり撫子の神気の変化に気付いたらしい――すぐさまいつもの好々爺の表情に戻って笑みを浮かべた。
 撫子のすぐ後に来たのは三春風太だ。みたらし団子や大福、手作りお菓子らしい何か――本人談によるとクッキーらしい――を片手に、残る片方に飼っている白猫・大福を抱いてやって来た。


 とりあえず、そこそこの人数が揃ったところでお茶会スタート!
「うわあ、お茶がいっぱいだねえ」
「あまり見かけない茶葉もありますねえ。どこで手に入れたんですか?」
 用意された色とりどりの――比喩ではなく本当に、赤やら青やら黄色やらと色とりどりなのだ――茶葉を見て、風太はぱあっと楽しそうに瞳を輝かせた。
 シオンも珍しそうにそれを見て、なにやら感心したふうに頷いた。
 途端、琉人がぴっと人差し指を立てて解説をはじめる。
「それはですね、以前植物だらけの世界に行った時に収集してきたものです」
 ぴたりと。
 シュラインと撫子が一瞬動きを止めた。
「それはもしかしてあの時の動く植物たちですか?」
 言いつつ、撫子の表情は呑気なもので、たいして心配していないんだろうことがよくわかる。楽観している――というより、『お茶』そのものに興味が行っているためだ。
「んー‥‥まぁ、摘んだのが冠城さんで大家さんが主催となると、命の危険に関しては心配しなくて良さそうかしら」
 少々訝しげな顔をしたシュラインも、あっさり告げて茶葉を眺める。
「では私はこれをいただきましょう」
 適当な茶葉を選んだシオンのカップにお茶を注ぐのはもちろんながらお茶の使者たる冠城琉人。
 シオンが選んだ真っ赤なお茶は、茶葉の色は毒々しいくせに淹れてみると案外澄んだ色だった。
「そうねえ、私はこれにしようかしらか」
 シュラインは見た目は普通に緑色の茶葉を選んでみた。まあ、色が普通だろうがそもそも採取場所が普通ではないから、中身が普通じゃないのはわかりきっているのだが。
「私はこのお茶をいただきます」
 撫子が選んだのも比較的普通っぽく茶色であった。しかし淹れてみると、何故か、いきなり黄色に変色した。少々不安は残るものの、あの大家が命に関わるような物を出すことはないだろう。
「んじゃあ、ボクはこれ〜」
 風太は何を思ったのか、一番不気味な、うねうねと動いている茶葉を選択した。そりゃあ確かにもともと動く植物ではあったけど、茶葉にされてまで動いているのは少々‥‥っていうかかなり異常ではなかろうか。
「うにゃあ〜?」
 心配そうに風太を見上げる大福(猫)に、風太はだいじょーぶダイジョーブとにっこにこの笑顔で返す。
「大福は飲まないの〜?」
 風太の問いに、何故か琉人が妙に嬉しそうな顔をした。たとえ相手が猫であろうと、茶を勧める機会は歓迎するのだ、琉人は。
 しばし悩んだ大福(猫)は、青い茶葉に肉球を向けた。
「はい、これですね」
 最後に琉人は自分の分を淹れる。こちらはオリジナルブレンドである。もとの味をわかってやっているのだろうか、いろいろ疑問は残るところだが、本人が満足しているならばそれで良いのだろう。
「それでは」
 誰かの声を合図にしたかのように、皆ほぼ同じタイミングでお茶を口に運んだ。


「世界が燃えているようですね‥‥」
 ぽつりと呟いたシオンを見れば、なにやら肌が一面赤い。本人の言葉からすれば、視界も真っ赤に染まっているのだろう。
「うわああ、すごーいっ――?」
 真っ赤なシオンに目をきらきらさせてあげた風太の声は、普段の声より数段高い声だった。
 風太の飲んだお茶は、どうやら声が変わるものだったらしい。
 一方そのころ撫子は、その場にこてんっと座りこんだ。
 気持ち良さそうなその表情は、まるでマタタビを与えられた猫のごとし。
「あら、すごい」
 唐突に目の前に現れた幽霊の姿を見て目を丸くしたのはシュラインである。
 怪奇現象との縁は深いが、霊能力があるわけではないため幽霊などは見えないのだ。
「大福はー?」
 にっこにこと、高くなった声をまったく気にせず、風太はひょいと大福(猫)を抱き上げた。
「ふーた、ふーた〜」
 いつもならゴロゴロと喉を鳴らす所で、大福(猫)は風太の名を呼ぶ。大福(猫)のお茶は人間の言葉を喋れるようになるものか、言葉の違う物相手でも意思疎通ができるようになるものか。
「大福がしゃべったあ、すごぉーいっ!!」
 なにはともあれ、風太にはとてもとても嬉しいことである。
 と、その時。
 辺りに漂う死霊の数が一挙に増えた。
 ぱたぱたと周りを見渡してみれば、テーブルのちょうど下辺りに、小人サイズの琉人が、気持ち良さそうに踊っていた。しかも何故か肌が全身青になっていて、ぶつぶつと何かを呟き続けている。
 ブレンドした分、効果も重複したらしい。
 ……いやよく聞けば、呟いているのはお茶の効果でないことは丸わかりだが。琉人が呟いているのは、自分が飲んだお茶の味と効能であった。
 周囲の状況をまったく気にせず――というか、死霊たちが見えていないだけだが――風太は大福(猫)とともに、いちいち頷いて琉人の解説を聞いていた。
 琉人はそれを見てまた解説に熱をあげる。と、琉人の気分に連動しているのか、死霊もますます数を増やした。
「ちょっと、これ、大丈夫なの?」
 見えていなければ気にならないかもしれないが、見えているだけに気になるシュラインは、思わず中心点――琉人から数歩離れた。
 しかしそれを押し返すように、撫子を中心として死霊が浄化されていく。
「撫子さん……?」
 シオンの問いに、撫子は答える様子はまったくなかった。
 どうやら撫子と琉人が飲んだマタタビもどき茶は能力を解放させる効果があったらしい。
 ちなみに、見えていないはずはないのだろうが、大家の老人はいたって冷静に事の成り行きを見守っている。
 しかも変化の無いところから見て、彼が選んだお茶はどうやら妙な効能がないお茶だったらしい。知っていたのか知らずに偶然選んだのか。どちらにしても騒ぎを無視して、一人呑気に茶を啜っていた。


 当然というか、一杯飲んだだけではお茶会は終わらず、シオンが口から煙を吐いたり、シュラインの体が浮き出して危うく空の彼方ヘ行方不明になるところだったり、突如撫子の周囲に動物――大福(猫)も含む――が擦り寄ってきてあわや窒息しそうになったりなどなどなど。
 もちろん琉人はそのひとつひとつを自分でも飲んでそのすべてを解説し、風太と大福(猫)は持って来たお菓子を食べつつそれを真面目に聞いてたり。
 まあ、そんなこんなで全ての茶葉の効能が発覚した。
「良かったら好きな茶葉を持って帰るといい」
 お茶会が一段落したころ。やっぱり周囲の騒ぎに一切巻き込まれなかった大家は、ずずっとお茶を啜りつつ穏やかに笑った。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0328|天薙撫子    |女|18|大学生(巫女)
2209|冠城琉人    |男|84|神父(悪魔狩り)
2164|三春風太    |男|17|高校生
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
3356|シオン・レ・ハイ|男|42|びんぼーにん(食住)+α

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         ライター通信          
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 こんにちわ、日向 葵です。
 お茶会に参加してくださった皆様、どうもありがとうございます。
 いろいろと楽しい効能も考えてくださり、プレイングを読んでいてとても楽しかったです。
 今回はみんなでわいわいと騒いでいるノリが欲しかったので、全員同じ文章となっています。

 そうそう、文中でも言っていたとおり、茶葉は持ち帰り可です。
 また機会があったら飲むなり飲ませるなりしてやってください(笑)

 それでは、皆様、ご参加ありがとうございました。
 多少なりとも楽しんでいただければ幸いです。
 またお会いする機会がありましたら、その時はどうぞよろしくお願いします。