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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


『 私の大好きな海の色 』


 その人はね、私にとってすごく大切な人なんだよ。
 運命の人なの。
 だけど………
 今はまだ逢えない人なの。
 ――――知っているのは後ろ姿だけ。
 顔は知らないの。
 それでもその人がとても優しい人だっていうのはわかっているの。
 だって私の運命の人なんだもん。
 それにね、ちゃーんとそう想える理由は他にもあるの。
 そう、心はようやく11年もかかって運命の人に出逢えたあの瞬間を覚えているから。
 ――――雨上がりの澄んだ空気の中を、何かに誘われるように、まったく知らない道を歩いて…そう、心が運命の糸を手繰り寄せるままに歩いて、そうしてようやく出逢えた運命の人。
 さやさやと揺れる濃い緑の葉の下で私は聞いたの、運命の人の声を。
 


『なずな』



 名も顔も知らない運命の人の、初めて聞いた声は飼い犬を呼ぶ声だった。
 とても穏やかで快い声。
 それはずっと耳に残っているの。
 いつもその耳に残る声を眠る前に思い返している。忘れないようにって。夢で出逢えるようにって。
 あの人の後ろ姿と共に。
 きっとね、初めて運命の人のために買ったあなたを差し出したら、そしたら言ってくれるよ。



 ありがとう



 って。
 きっと、きっと、きっと、そう言って受け取ってくれるから。



 ―――――ベッドの傍らに置いた小さなテーブルの上に置かれた硝子の花瓶に生けられたコスモスの花に、そう心の中で話し掛けながら、水鈴はいつの間にか深い眠りについてしまった。
 その寝顔がとても幸せそうなのは初めて大切な人のためにプレゼントを買えたからという理由だけではなく、そのプレゼントをきっと大切な人に渡している光景を夢に見ているから。
 コスモスの花が咲いている。
 とても綺麗に、凛と、美しく。
 コスモスの花言葉は乙女の純潔、調和、そして乙女の真心。



 +++


「でし♪ でし♪♪ でし♪♪♪」
「スノードロップの花の妖精さん。スノードロップの花の妖精さん」
「でし? わたしを呼ぶあなたはコスモスの花の妖精さんでしか?」
「はい、そうですよ」
「なんでしか?」
「お願いがあるのです」
「お願いでしか?」
「はい、お願いです」
「なんでしかね?」
「はい、実は…」



 ――――――――――――――――――
【Begin Story】


【璃生】
 朝、新聞配達の人の原付バイクが止まる音がする。
 エンジンは切らずに、配達員はバイクから降りると、着ているウインドブレーカーの擦れる音をあげながら我が家のポストにまで軽快に走ってきて、そしてポストにがしゃんという音を奏でさせながら、新聞を入れると、また原付バイクへと戻って、次の家へと走っていく。
 その音を聞きながら、起きているのと眠っているのとの境界線上を彷徨う私は何故か唐突に今日のお昼ご飯のお弁当は自分で作ろうかな? なんて想った。
 そしてそう想ってからの行動は早かった。
 いつもは目覚まし時計が鳴ってもタオルケットを頭からかぶって、ダックスフンドの抱き枕を抱きしめながら二度寝の誘惑と戦ったりするものだけど、でも今日はばぁっと、ベッドから起き上がって、カーテンを開けて、両手の指を組んで伸びなんかしたりする。もちろん、あくび付きで。
 目の端の涙を手で拭いながら、吐いた息は薄く白く濁って、それはどこか氷の結晶かのように見えて、私は綺麗だな、って想った。
 10月の最初。まだまだ昼間の気温は高くって、体育の授業なんかは陽の光に気をつけないといけないけど、それでも夕暮れ時に見られる空のコントラストは夏の時期よりも早く見られるようになって、そして夏休み時、皆で行く旅行のために早起きした時はもう確かに朝日が見られていたのに、だけどまだ世界は薄暗い。季節は確実に秋となっているのだ。
「うー、寒いわね。さてと、早くお弁当を作ってしまおう。うん」
 私は両の拳を握って、頷くと、洗面所に行って、顔を洗って、眠気を完全に追い払い、後ろ髪を縛って、台所に立った。
「ただ今の時間は4時18分か。さてと、お弁当を冷ますのを考えると6時ぐらいに完了していないといけないわけで。それを考えると…」
 冷蔵庫の中身と時計とを見比べて、素早くお弁当の献立をたてると、私は、冷蔵庫の中から食材を取り出した。
 鳥の腿肉、卵、ウインナ―、ハム、ニンジン、玉ねぎ、ピーマン、レタス、トマト、きゅうり。
 まずは玉ねぎとニンジンを微塵切り。
「ニンジン、玉ねぎ、さっと切ってね♪」
 昔、幼稚園の時に大好きだったお弁当の歌を口ずさみながら、私は手を動かしていく。
「お次は鳥の腿肉をきざみましょう。ハムと一緒にきざみましょう♪」
 鳥の腿肉とハムを切って、
「フライパンにね、オーリブオイルをちょっと入れて♪」
 熱したフライパンにオリーブオイルを敷いて、腿肉、ハムを炒めて、次に…
「ニンジン、玉ねぎ、さっと炒ってね♪」
 レンジでチンしたご飯(冷ご飯を温めてから炒めると、ぱらっとした感じになる)をフライパンに入れて炒めて、ケチャップをかけて、
「チキンライスの出来上がり♪」
 そしてそれを皿の上に乗せて、
 そのフライパンに溶いた卵を敷く。
「うーん、いい匂い」
 本当にそれだけでもとても嬉しくなる♪
「さあさあ、その卵にチキンライスを乗せまして♪」
 フライパンを持たない方の手でとんとんと取っ手を叩いて、上手に卵でチキンライスを包んで、オムライスの完成だ♪
「出来上がり、と♪ さてと、ケチャップで描く絵はどんな絵にしようかな?」
 考えただけで嬉しくなる。
 色々と考えて…
「お魚、かな?」
 うん、そうしよう。
 私はオムライスにケチャップでお魚の絵を描いて、完了させた。
 あとはウインナ―でタコさんを作って、野菜をお弁当箱の隅に入れて、デザートも用意して、冷まして、蓋を閉めて、ナフキンで包んで終わり♪



 ――――――――――――――――――
【水鈴】


「あれれ? 私……なんでここにいるんだろう?? おっきくなってる?」
 私はくるりんと一回転して、自分の身体を見回した。普段よりも地面が遠い。
 スカートから覗く足は長いし、手もすらりとして。
 もう一度くるりん。
 ふわりと舞った髪に、ネクタイ、スカート。自分の身体を見回して、なんだか嬉しくなってしまう。
「うわぁー、私、本当におっきくなってるんだ!!!」
 大きくなったらやってみたい事はたくさんあった。
 お誕生日が来て、歳を重ねるたびにそれがやれるようになるのはものすごく嬉しくって、でもそのやれるようになった瞬間の気持ちはすごく嬉しいのだけど、でもその待つ時間ってのはやっぱりもどかしくって待ち遠しくって、だけど私はいつも指折り数えていたそれらを待たなくってはいけなかった時間をすっ飛ばしてやれるようになったのだ。それは何て嬉しいんだろう。
「制服を着て、学校に行くのもやりたかった事のひとつ♪」
 くるりんと回って、私は目の前にある校舎を見つめる。
 明るい朝の陽光に照らされる校舎の前を数羽のすずめが飛んでいく。とても楽しそうに。
「ほわぁー、私も幸せだぁー」
 でもおっきくなってるのも不思議だけど、ここに居るのも不思議。
 どうして私はここに居て、どうやって私はここに来たんだろう?
「私はお布団で寝ていたはずだわ」
 腕組みしてきょとんと小首を傾げる。
 でも……
「難しい事はわかんないし、居るものは居るんだし。それに…」
「おっきくなったものはおっきくなったんだしね」
 後ろからかけられたふわりとした声。
 ――――あの人に似てる? あの運命の日に聞いたあの人の声に。
 私は髪とスカートと、それにネクタイを翻らせて、後ろを振り返った。
 そこには透き通るような銀色の髪の二人のお姉さんが居た。
 腰まで髪を伸ばした眼鏡をかけたお姉さんはコスモスの花のネクタイピンをネクタイに付けていて、もうひとりのショートのお姉さんはスノードロップの花のネクタイピンを付けていた。
 二人はにこにこと笑っている。
「そうだね。おっきくなったものはおっきくなったんだし!」
「そうでしよ♪」
「でし?」
 私が眉寝を寄せてそう言うと、スノードロップの花のお姉さんは両手で口を隠して、愛想笑いを浮かべた。
「さてと、じゃあ、水鈴ちゃん、行きましょうか?」
「ほえ? 行くって、どこへ?」
「あら、あたしたちは学生よ。だったら行くべき所は自分たちの教室でしょう」
 コスモスの花のお姉さんはにこりとたおやかに笑って、
 スノードロップの花のお姉さんはにこにこと笑いながら手招きした。
 私は二人を見比べて、それから学校を見て、そして、校門をくぐって次々と校舎へと流れていく生徒たちを見て、それで私はうん、って頷いたの。
 だって、私は前から高校生になって、制服を着て、教室で皆と授業を受けたり、笑ったりしたいと想っていたんだから♪



 ―――――「はい、実はスノードロップの花の妖精さん。今日、あたしを買ってくれた水鈴ちゃんの願いを叶えてあげたいのです」
「願いでしか?」
「はい、願いです。この二人を出逢わせてあげたいんです。でもこのお二人はまだ逢えない。だからせめて…」



 ――――――――――――――――――
【璃生】


「あら、璃生。お弁当を作ったの?」
「うん。なんかそういう気分になったの」
「何よ、そういう気分って」
 苦笑する母さんに私も笑いながら手を横に振った。
「う〜ん、まあ、たまにはね」
「たまには、ですか」
「はい、たまにはです。皆の分も作っておいたよ♪」
「まあ、ありがたい。これが毎日なら、ものすごくお母さん嬉しいんだけどな」
 にこっと笑った母さんに、私は肩を竦めて、
「でも、私が作ると皆に恨まれちゃわない? せっかくのお母さんの美味しいお弁当が食べられない、って」
「まあ、上手い、この娘は」
 また苦笑して…だけどとても優しくって幸せそうに笑う母さんに、私はちろりと舌を出して、そして私もくすくすと笑った。
「さあ、学校に行く用意をしなさいな。せっかく早起きしたのに、学校に遅れちゃうわよ」
「は〜い」
 私は自分の部屋に戻って、パジャマから制服に着替えて、ブラシを髪に入れて身繕いをして、そして………
 ―――――それから私はコンタクトを入れた。
 黒のカラーコンタクト。
 ファッションのためじゃない…。
 私の瞳の色を隠すためだけのモノ。
 青の瞳は私の心を縛り付ける。哀しみに。
 心に抱くコンプレックス。それを隠すためのカラーコンタクト。それで事が解決したわけでも何でも無いけど、だけど少なくともそれで青い目は隠せるから。
 ――――それは多分逃げなのだろう。だけど今はまだ、私はそれに立ち向かう勇気も何も無いから、だからそれが得られるまでは………その弱さを見ないふりをしたいの。



 鏡に映る私の黒の前髪の奥にある瞳は青から黒へ。
 ――――今はまだ、卵の殻の内で、外にある世界に憧れと不安を抱きながら打ち震える雛のように、私はいつかこの弱い自分の殻を脱ぎ捨てて、肺を世界のまっさらな空気で満たす事を夢見る。



 ――――――――――――――――――
【水鈴】


「わぁ、ここが私のクラスなの?」
「そうよ。ここが水鈴ちゃんの教室」
「1時間目は数学でしね♪ よく眠れそうでし」
 教室の前の黒板。向って左手側、先生の机の後ろの壁には時間割が貼ってあって、今日、月曜日の1時間目は確かに数学って書いてあるの。でも…
「数学って何?」
「うーんと、算数よ」
「ああ、算数…って、ぇえー、朝から算数受けるのぉ…」
「って、そんなしょぼーんとしないの」
「水鈴さん、かわいいでし♪」
 スノードロップの花のお姉さんとコスモスの花のお姉さんは私を見て、またくすくすと笑って、私もそんな二人にぷぅーっと頬を膨らませたけど、だけど上手く頬を膨らませられなくって、尖らせた唇から息を零して、くすくすと笑ってしまった。
「えーっと、私の席はどこなのかなー?」
 教卓から教室を見回して、それで隣の二人に聞こうと想ったんだけど、でもそこにはもうスノードロップの花のお姉さんもいなくって、コスモスの花のお姉さんもいなくって、それで…
「おはよう、水鈴ちゃん」
「おはよう、涼原さん」
「あ、ねえねえ、みんな、昨日のドラマ、見た?」
 それで私の周りには皆が集まってきて、私は普通のお姉さんみたいに、その私の周りに集まってきた女子高校生のお姉さんたちとお話するの。
 お喋りはとても楽しくって、
 それで朝から何をボケてるのよ、ってお姉さんのひとりに教えてもらった私の窓側、前から3番目の日当り良好の席もすごく気持ち良くって、
 数学の時間はやっぱりぐっすりと眠れて、
 体育でやったテニスの壁うちははじめてやったんだけど、すごく、すごく楽しかったの!
 科学の授業でやった実験もすごく面白かったわ。目の前で、ぱぁっと化学反応が起こって光ったのと大きな音がしたのには、すごくすごくびっくりしたの。
 そして漢文の授業はぐっすりと眠りたかったんだけど、お腹がぐぅ〜って鳴って、お腹が空き過ぎて眠れなくって、私はぽかぽかとした暖かい光を浴びながら机に突っ伏して、机の下では両手でお腹を押さえて、心の中で、漢文の授業よ、早く終われぇー、って祈っていたの。
「う〜ぅ、お腹が空いた」
 本当に早く、授業、終わらないかな。はふぅー。



 ――――――――――――――――――
【璃生】


 きーんこーんかーんこーん♪ きーんこーんかーんこーん♪♪ 
 ようやく現国の授業の終わりを報せる予鈴が鳴って、黒板に穴を自分の体で塞いだ山椒魚の気持ちを書いていた先生はその手を止めて、
「これだけ書きますからちょっとお腹を空かせて待っててね」
 なんて笑いながら言って、それでそれでも普段よりも速い動きで黒板に文字を書いて、それでそれを書き終えた先生は、今日は授業の終わりの挨拶を無しにしてそのまま教室から出て行って、
 そうして私は黒板に板書された文をすべて書き終えると、ふぅーと溜息を吐いて、ノートを閉じた。
 窓際前から3番目の特等席に座る私は外に視線を移す。
 さわさわと風に揺れる葉の動きはとても気持ち良さそうで、まるで誘われているようだった。
「笹川さん、ノート写し終わった?」
「あ、うん、終わったよ」
「じゃあ、お弁当食べましょうか?」
「あ、璃生さんたち、ちょっと待てて。あたし、パン注係り(学校に入っているパン業者さんの所にパンを買うクラスメイトたちが注文したパンを取りに行く係り)だから、パンを貰いに行かなきゃだから」
「OK。いいよぉー。早く行ってきな」
 教室から出て行った彼女を見送って、だけど私は机を合わせようか、と言ってきた友達に顔の前で手を合わせてごめんなさいをした。
「ごめん。今日は私は外で食べたいのだけど?」
「外で?」
「うーん、外か。お昼放課中に後輩の子が貸してたMDを返しにきてくれる約束になってるんだよね」
「あー、そうか。うーん、でも…」
 ――――外でご飯を食べたい、な。
「あ、じゃあ、私、外で食べてくるね?」
 ちょっと上目遣いで一緒にいつもお弁当を食べる友達を見ながらそう言ったら、彼女は笑った。
「そこまで外で食べたいか?」
「食べたいです」
 拳を握ってそう言う。
「でもどうして今日に限って?」
「うーん、何でだろう? 自然が私を呼ぶの?」
「って、何よ、それは?」
 くすくすと笑う友達に私もちろりと舌を出して、それで、見送ってくれる友達に手を振って、教室を後にした。
「さてと、どこで食べようかな?」
 そう想った瞬間、誰かが私を呼んだ声が聞こえたような気がした。



 ――――――――――――――――――
【水鈴】


「お弁当♪ お弁当♪♪ お弁当♪♪♪」
 どこでお弁当を食べようかな?
「んー、景色が良くって、日当り良好な場所はどこだろう?」
 私はあちこちを見回して、そしたら校舎を歩く猫さんが「なぁ〜」と鳴いて、私を道案内してくれるの。
「日当りのいい場所を知ってるの?」
「なぁ〜♪」
「景色がいい場所でもいいな」
「なぁ〜♪♪♪」
 そしたら猫さんが私に頷いて、そして歩き出したの。
 だから私も猫さんについていったんだ。
 猫さんが私に案内してくれた場所はたくさんの本がある建物(なんだかものすごく古くって、円形の洋風の建物なの。図書館なのかな?)だったの。
 その建物の前には芝生があって、花壇にはすごく綺麗なお花がいっぱい咲いていたの♪
「わぁー、綺麗だぁー。ありがとう、猫さん♪」
「なぁ〜」
 芝生の上に腰を下ろして、ナフキンを解いて、蓋を開けたら、
「わぁー、おにぎりだぁー♪」
 とても美味しそうなおにぎりが三つと、肉団子。それに鳥のからあげに、スパゲティー。他にもたくさん♪
「いただきまーす♪」
 まずは美味しそうなおにぎりさんを♪
 と、想ったら、そしたら私の斜め前の木の下にある木陰に腰を下ろすお姉さんが食べようとしていたタコさんウインナ―が目に付いたの。
 それでそのタコさんウインナ―がすごく美味しそうで、私のお弁当箱にはタコさんウインナ―が入っていなくって、それで羨ましいな、って見ていたら、そしたらね…
「食べる?」
 って、にっこりと笑ってくれたの。
 もちろん、私はうんうんと頷いたわ♪
 それで私はお姉さんが一緒に食べない? って訊いてくれたから、だから木陰に移動して、お姉さんの隣に腰を下ろして、そうして一緒に並んでお弁当を食べたの♪
「わぁー、お姉さんのお弁当はオムライスなんだね」
「お姉さん?」
「うん、お姉さん」
「え、あ、ええっと、まあ、いいか」
「私のおにぎりはすごく美味しいの」
「そうなの?」
「うん、食べる?」
「いいの?」
「うん。さっきのタコさんウインナ―のお礼♪」
「じゃあ、私のオムライスを一口、どうぞ」
「うん、ありがとう。…うーん、美味しい。すごく美味しいよ!!!」
「本当に? うわぁー、ありがとう。これはね、今朝、私が早起きして、作ったの」
「本当に? すごいなー」
「よかったら、もっと食べる?」
「いいの?!」
「うん、いいよ。食べて」
「だけどお姉さん、お腹空いちゃうよ?」
「うん、私はこの大きなおにぎり一個で充分だよ」
「じゃあ、いただきます♪」
「はい、どうぞ」
 そう言ったお姉さんと、私は、顔を見合わせてくすくすと笑いあったの。
 それでお姉さんにおにぎりの他に、鳥のからあげと一口ハンバーグ、それに肉団子、ちくわの天ぷら(カレー風味)をおすそわけしたわ♪
「よかったら、梨も食べる? デザートで持ってきたんだけど」
「いいの?」
「うん、もちろん、よかったら一緒に食べよう」
「わーい、食べる♪ 食べる♪」
「じゃあ、はい、どうぞ」
「ありがとう、お姉さん♪」
 お口に入れた梨のしゃっくとした感触と、甘い果汁がものすごく最高に美味しかったの!!!
「この梨、すごく美味しいよ、お姉ぇ…さん。どうしたの、お姉さん? 何で泣いているの?」
 私は何故かお姉さんが泣いていたので、芝生に両手をついて、お姉さんの方に体を前に出して、訊いた。
 そしたらお姉さんは、
「あ、や、わ、ごめんね。ううん、泣いてるんじゃないよ。ちょっとコンタクトがずれて、痛くって、それで涙が出ただけなの」
「コンタクト?」
「うん、コンタクト」
 それでお姉さんは人差し指の上に乗った黒色の硝子の小さなお皿みたいなのを見せてくれたの。
 だけど私は…
「きれぇー」
 お姉さんの瞳の色に眼が行ってしまったの。
 だって本当にすごく綺麗なんだもん。
「お姉さんの瞳、青い色なんだね。すごく綺麗♪」
 そしたらまたお姉さんの瞳から、ぽろぽろと涙が零れたの。
 ――――どうして?
「またコンタクトがずれたの?」
「ううん、違うの。嬉しかったから」
「嬉しかった? 何が?」
「私の眼が綺麗だ、っていう言葉が」
「だって本当なんだもん。すごく綺麗だよ、お姉さんの瞳。青はお空と海の色。うん、私の大好きな海の色だもん♪」
「海、好きなの?」
「うん、大好き」
「だったらこの歌なんかも好き?」
 そしてお姉さんが歌いだした歌はもちろん、私が大好きな歌で、だから私もお姉さんと一緒に歌を歌って、


 それは本当にとても嬉しくって、幸せで楽しい時間だったの。


 それで…
「あ、予鈴だわ。お昼放課も終わりか」
 キーンコンカーンコーン♪ キーンコーンカーンコーン♪♪♪
「ありがとう。すごく楽しかったよ」
「うん、私もすごく楽しかったよ。それにお姉さんのお弁当もすごく美味しかったの!」
 私がそう言うと、少し目を見開いたお姉さんは、すぐにくすくすと笑い出して、そして私も一緒にお姉さんとくすくすと笑ったの。



 ――――――――――――――――――
【ラスト】


「スノードロップの花の妖精さん、ありがとうございました」
「いえいえでし。でも夢の中とはいえ、水鈴さんと璃生さん、お二人とも逢えてよかったでしね♪」
「はい」



【璃生】


 目を覚ますと、薄闇の中そこにあるのは見慣れた天井だった。
「夢?」
 指で触れた頬は涙で濡れていた。
 ――――とても嬉しい夢だったから。
 たとえ夢の中でも、この私の瞳の色を好いてくれる人と出逢えたから。
 起き上がった私は、姿見の前に立つと、そこにある青い瞳を見つめた。
 今はまだ、黒いカラーコンタクトを離せないけど、でも私は昨日の私よりも私の青い瞳を好きになれていた。夢で出逢えたあの娘のおかげで。
「きっと現実の世界でもいつかあなたと出逢えるわよね」
 ――――それは予感として、私の胸にあった。



【水鈴】


「美味しかったー♪」
 目覚めた私の第一声は、お姉さんのお弁当の感想。それほどまでに美味しかったの、お姉さんのお弁当は!!!
「また出逢ったら、そしたらお姉さんのオムライスとタコさんウインナ―食べさせてもらうんだ♪」
 そう、また出逢ったら。
 うん、お姉さんが、夢の中だけの人じゃなくって、ちゃんと本当にいるんだって知ってるから。
 だからいつか出逢えるってわかってるの。
 名前聞き忘れちゃったけれど、凄く凄く……うん、何時か、また会える気がする。
 大事な事、忘れちゃってる気がするけど…いつか必ず…


「出逢えるよね、お姉さん」



 ― fin ―


 こんにちは、涼原水鈴さま。
 こんにちは、笹川璃生さま。
 はじめまして。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
 ご依頼していただきありがとうございました。


 水鈴さま。
 最初は、夢の中だけでもコスモスを水鈴さんが璃生さんに渡せたらいいなーと、想ったのですが、でもそれだと両PLさまと前回のWRさまのお気持ちを、無視してしまうなーと思い、このような展開にさせていただきました。^^
 水鈴さんにもう少し待って、と言っているお方も夢の中でなら逢わせてくれたようです。コスモスの花の願いを聞いて。そのコスモスの花を買った水鈴さんの純粋な気持ちを知っているから。^^ 
 水鈴さまのかわいくって、明るい雰囲気は出ていましたでしょうか?
 少しでも喜んでもらえていたら、本当に嬉しいです。^^



 璃生さま。
 今回は青い瞳に重点を置いて書いてみました。
 コンプレックスと個性はやっぱり同一的なモノなんじゃないのかな?と僕は想っていたりします。
 今はコンプレックスでも、でもそれをいいと思える人と出逢えたら、それを認めてくれる人と出逢えたら、そうしたらそれはきっと自分の大切な物になるんだろうなと。^^
 いつか水鈴さまに出逢えて、また青い瞳を綺麗だと言われて喜ぶシーンが想像できて、それが微笑ましかったりします。もちろん、またオムライス、作ってとも言われてしまうかもですが。^^


 今回のお話、両PLさまに気に入っていただけたら、幸いでございます。


 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 本当にありがとうございました。
 失礼します。