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<東京怪談・PCゲームノベル>


【夢紡樹】−ユメウタツムギ−前編


------<夢の卵>------------------------

「おや? ずいぶんと荒れてらっしゃいますね……ここはやはりこの余っている夢の卵をお渡しした方がよろしいでしょうか」
 くすり、と黒い布で目隠しをした銀髪の青年は笑う。
 手には籐で出来た籠を持っている。
 湖の畔に立ち目隠しをしているというのにも関わらず、視線はある方向に向けられている。
 その視線の先にいるのは黒髪の少しボーイッシュな少女だった。制服を着ているから学生なのは間違いない。
 その少女の名は松山華蓮。
 むしゃくしゃとした気分を発散させるように、道ばたの石を思い切り蹴飛ばして歩いていた。
 蹴り飛ばした石は電柱にぶつかるが、思い切り跳ね返りまた華蓮の足下に戻る。

 そんな華蓮に近づいた青年はそっと声をかけた。
「こんにちは。初めまして、私はそこにある店の店主の貘と申します。見たところとても苛立っておられる様子。少し発散していきませんか?」
 怪しげな風体の貘を訝しげに見つめた華蓮だったが、その話の内容に興味を持ち耳を傾ける。
 見たところ、と貘は言ったが目隠しをしているのに見える訳無いだろう、と華蓮は胸の内で思う。しかしそれを口にするようなことはせずに一番気になるところを尋ねてみた。
「貘さん、って言うんや。少し発散ってどないいうことをして発散すんねん?」
「そうですね……貴方のお気に召すままに」
 口元をにっこりと微笑ませた貘は華蓮に微笑みかける。
「お気に召すままにって…ウチの好きなように当たり散らしてもええって事?」
 貘の言葉はそういう風にしか取れなかった。しかし好きなように当たり散らしてもいいものなどあるのだろうか。とりあえずそんなものは華蓮の周りにはないように思える。
 しかし貘は迷うことなく華蓮に告げた。
「はい、そうです。どうですか?」
 貘の迷いのない言葉に一瞬考えるそぶりを見せた華蓮だったが、丁度何かに当たり散らしたくてたまらなかった所だ。そんなものがあるというのならば見てみたかったし、興味もある。それになによりこの胸の中のもやもやを吐き出してしまえるのなら願ったり叶ったりだ。
 すぐに頷いて可憐はその話に乗る。
「面白そうな話かもな。ウチ、その話に乗ってもええよ」
「本当ですか? それは良かった」
 華蓮の答えを聞き、貘は本当に嬉しそうに笑みを浮かべる。
 何がそんなに嬉しいのかと華蓮は首を傾げつつも、促されるままに貘の後に付いていったのだった。


------<ミニチュアの世界>------------------------

 貘は華蓮を連れ、湖の脇を通り抜けると大きな木の隣に立つ建物へと向かった。
 華蓮は、前にこの付近を通った時には見あたらなかった様な気がしたが気のせいだろうか、と首を傾げる。こんなにも大きなログハウスがあっという間に組み上がることは無いような気もする。しかしそれは今は関係ない。
 華蓮に必要なのは憂さを晴らすことの出来る空間。
 そしてそれは目の前にあるこのログハウスの中にあるらしい。ログハウスがいつ出来たかどうかなどは関係ないのだ。
 湖は光を受けて煌めき、木漏れ日が華蓮と貘を照らす。
 しかし二人はそれらに気づくこともなく、ログハウスへと近づいた。
 そして入り口の扉を開け中に入ると華蓮の目に飛び込んできたのは15メートル四方程のミニチュアの大都市。
 貘の話だとスケールは1/2000との事だった。
 精巧に作られたそれらは、サイズが違わなければ本物だと思うくらいの出来だった。特撮映画等のセットを軽く超えているような気がする。

「何これ…ごっついミニチュアの世界。凄い。これをウチが全部壊してもええの?」
 ウチはこれ壊してみたい、と華蓮が言うと貘は頷く。
「えぇ、構いませんよ。どうぞ貴方のお好きなように。この大都市を破壊しつくすのも良いでしょうし、お任せします」
 その言葉を聞き、華蓮は笑みを浮かべると、靴を脱いで黒いストッキングのままそのミニチュアの大都市の中に入る。
 華蓮が立ったのは都市の中央にある大通り。
 周りには華蓮の膝よりも少し低い位の超高層ビルが建ち並び、細い道には商店街がありアーケードがあった。
 道ばたにバラバラに置かれた自転車や、横断歩道、赤信号で止まっている車なども再現されている。
 他にもテレビ搭や公園、高速道路に駅に動物園。
 そして遊園地。
 その遊園地にあるメリーゴーランドや観覧車までもが忠実に再現されていた。

「これは凄いわ。よぉ此処まで丁寧に再現されとるな」
 このおもちゃを全部壊しても良いと思うと自然と笑いがこみ上げてくる。
 華蓮の中に猛烈に沸き上がる破壊衝動。


 ウチは今この街の全てを握っている。
 この街を生かすのも殺すのも己次第。
 この世界で全てのものの行く末を握っているのはウチだけ。
 ウチはこの世界の神だ。


 そう思うと笑いは止まらない。
「この街にとって、ウチの足は約500m。身長は3740m」
 他愛もないな、と華蓮は側にあった超高層ビルを細くしなやかな足で蹴り飛ばした。
 ごっ、と鈍い音を立ててビルはひび割れ崩れ、落下し音を立ててビルは醜く潰れる。
 連続で超高層ビルを蹴り上げ粉々に砕いた。
 華蓮の一蹴りで大都市の象徴でもあるかのように見える超高層ビルが、あっという間に瓦礫と化す。
 道路にはビルの崩れた欠片が落ち、埋め尽くしている。
 中にはそのまま遠くまで飛んで他の家を潰したものもあった。
 あちこちに飛んだ破片が大きな穴を開けている部分もある。

「よぉ、飛んだなぁ……次はこれか」
 華蓮が次に目をつけたのは学校だった。広い校庭には遊具もたくさん置いてあり、体育館やプール、剣道場などもある。
「もしここに子供達がいたら大惨事やろね」
 でもこれは現実の世界ではない。
 だからこそ思い切り気兼ねなく破壊しつくすことが出来る。
 華蓮は迷うことなく校舎を踏みつぶした。
 足下でぐしゃりと音がして、ひしゃげた醜い形の校舎が華蓮の目に入る。
 余りにも不格好な形に華蓮は声をあげて笑った。

 こんなにも簡単にものが壊れていく。
 普通ならばあり得ないこと。
 でもこの世界ではそれが可能だ。
 誰もいない世界で唯一の神が破壊の限りを尽くし、今また新しい大地を作り出す。
 全てを無に還し、無から有を作り出す。
 世界が作られし課程を今まさに繰り返そうとしていた。
 
 華蓮は校庭にある遊具もどんどん潰していく。
 そしてプールは面白半分に拳で叩いてみた。
 本来ならコンクリートなどで作られた屋外プールが簡単にまっぷたつに割れる。ぱかりと大地が割れるように二つになったプール。形の無くなった剣道場。
 子供達の学ぶべき場所は消え去った。

「可笑しい!これほんまだったらどないしよう」
 ケラケラと笑いながら華蓮は街を破壊しつくす。
 高速道路を蹴り上げて駅を踏みつぶした。
 線路を歩けば、街にとって巨人である華蓮の足は線路を踏み壊す。
 作り上げられた世界を思いつく限りの所行で無きものにしていく。
 華蓮によってあっという間に街は瓦礫と化して、そこはまるで地獄絵図のようだった。
 心の中にたまっていたもやもやはいつの間にかどこかに消えて、華蓮は清々しい気持ちで一杯になる。
 これで青い空が見えたらどんなにか気持ちいいのだろう、と思いながら華蓮は街が本当に粉々になってしまうまで壊し続けた。
 ミニチュアの街に華蓮の笑い声が響き渡った。 
 
 
 一人きりの箱庭で一人きりの遊びをする。
 誰にも邪魔されることなく浸れる世界。
 そして何時しか小さな小さな世界の神になる。




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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】


●4016/松山・華蓮/女性/17歳/陰陽師