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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


 『MOLD BUSTERS!!』


「う〜ん、今日もいい天気〜」
 因幡恵美は、青い空に触れようとするかのように、大きく伸びをする。手には竹箒を持っていた。
 都内にある古びた館、あやかし荘。
 そのアパートの管理人である彼女は、綺麗になった庭を眺め、満足そうに頷き、移動を始める。
「次は中、っと」
 ここは、アパートといっても、かなり広大な敷地を持っており、それに見合うだけの巨大な館である。
 ただ、通常の家事は人並みだが、掃除だけは達人レベル、という彼女が、こまめに掃除をするため、敷地も館内も、常に清潔に保たれていた。
 彼女はアパートの中に入ると、今度はバケツと雑巾を手に、廊下を掃除し始める。床が磨かれていく様が楽しくて、自然に鼻歌がこぼれた。
 ところが。
 視線が、何かを捉える。
 近寄ってみると、そこにあったのは、薄っすらと浮かんだカビだった。
「あれ?この季節にカビ……?」
 彼女は慌てて管理人室に戻り、カビの除去剤を持って来ると、それに向け吹きかけ、雑巾で強く擦った。黒く汚れた雑巾を見て、顔を大げさに顰める。彼女は潔癖症なところがあるのだ。このあやかし荘に、カビがはびこっていると想像するだけで、ゾッとした。
「ふぅ……」
 とりあえず安心し、バケツの水で雑巾をすすぐと、再び床を拭き始める。
 すると、また廊下の隅に、カビが生えているのを発見してしまう。
「ええ!?何でよ?」
 再度、先ほどと同じことをする。床は、すぐに綺麗に磨き上げられた。
 そこで彼女は、何かを感じたのか、ふと、後ろを振り向く。
 たった今掃除したはずの場所に、またカビが生えている。
「え?嘘でしょ!?」
 恐る恐る周囲を見回した彼女の目に飛び込んできたのは、あちこちに点々と拡がるカビの姿。
 しかも、それは徐々に増えていっている。
 点だったそれは、次第に膨らみを帯びた物体へ――
「嫌ぁ〜!!誰か何とかしてぇ〜!!」
 恐怖のあまり上げた、恵美の叫び声が辺りにこだました。


■ ■ ■


「ヒマだロボ……」
 某所にある、世界征服を企む者たちの住処、通称『秘密基地』。
 オットー・ストームは、小さなグリーンのボディから出た足を、自身には大きすぎる椅子の上から、ブラブラ揺らしていた。
 以前は二十メートルもあったという体は、今やたったの六十センチ。見た目は、まるで、どこかのアニメに出て来るキャラクターのようだ。
 その時。
 基地にある大きなモニターの一点が、赤く明滅し始めた。
「むむっ!?企画発動ロボ?」
 すると、基地の一部が音もなく開き、和服に割烹着を身に纏い、腰には日本刀、手には竹箒を携えている、という奇妙な格好をした女性が入って来た。
 彼女は穏やかに微笑むと、手にした茶封筒をオットーに渡す。
「はい、これ企画書ね。場所はモニターに表示されてるところ」
「了解!ロボ〜」
 そう言うと、彼は、「むきぃぃぃ!!オットーばっかりずるいロボ!」などと騒いでいる他のロボットたちに捨て台詞を吐きつけ、秘密基地を後にした。

 目の前には広大な敷地を持った、巨大な館。
 普通の人間でも大きく感じるそれは、小柄なオットーから見ればなおさらだった。
 彼は開けっ放しになっていた、古びて錆の浮き出ている門をくぐり、館へと向かい、歩き出す。
 木造建築のそれには、『あやかし荘』という表札が出ていた。名前からして、アパートなのだろう。
 中から、何やら人の話し声がする。
(急ぐロボ!)
「ついに……ついに出番がやって来たロボ〜!!」
 オットーは、勢いのあまり、唐突に声を上げ、飛び跳ねてしまう。
 一瞬にして、こちらへと視線が集まる。
(き、気まずいロボ……)
 そこに居たのは三人。
 黒髪で、サングラスを掛け、カーキ色のジャケットを羽織った男性。
 長い髪を赤く染め、黒のパンツスーツを着込み、ベージュのトートバッグを肩に掛けている女性。
 栗色の長髪をし、割烹着姿で、手に雑巾を持った女性。
「なんだ?コイツ」
「あ、カワイイ」
 男性と赤毛の女性の同時に漏らした声に、オットーは憤慨した様子を見せる。
「こいつとは何だロボ!失礼だロボ!ロボにはオットー・ストームという、れっきとした名前があるロボ!それにロボはカワイクないロボ!カッコイイロボだロボ!!」
「ま、何でもいいじゃん。この際だから、あんたも手伝って」
 赤毛の女性のあっさりとした言葉を受け、オットーはさらに言葉を続ける。
「手伝う前に、ロボも名乗ったんだから、そっちも名を名乗るのが礼儀だロボ!」
 暫く顔を見合わせていた三人だったが、それには素直に従った。
 男性は幾島壮司、赤毛の女性は堂本葉月、栗毛の女性は因幡恵美とそれぞれ名乗る。
 オットーは満足気に頷くと、渡された企画書のことを思い出す。
「月霞からの企画書があるロボ」
「企画書?誰だよ月霞って」
 壮司の発言は無視し、茶封筒の中に入っていた一枚の紙を広げるオットー。それを読んだ途端、彼の肩がわなわなと震えだす。中には、こう書いてあった。

『オットーには、今回カビまみれになってもらいます。後はゾンビのマネでもしといてください♪』

「なんじゃこりゃあ〜!ロボ……また変な役ロボ……これが我らの運命ロボ……」
 泣きたい気持ちでいる彼に、葉月がぎこちない笑みを浮かべ、声を掛けて来る。
「企画書だっけ?何が書いてあったの?」
「あんたには関係ないロボ〜!!」
 オットーは、紙を破り捨てると、廊下をてくてくと走っていった。
「……まぁ、あんなのはほっとこう。とりあえず、俺がカビを解析する。それから駆除に当たるぞ」
 彼の左眼には霊子等を含む、物質の解析能力が備わっている。
 恵美と葉月は、大きく頷いた。

「クラドスポリウム、アルテルナリア、ムコール……」
「どう?」
 解析をしている壮司に、葉月が声を掛ける。
「どれも、一般家庭に広く分布するカビだ。除去剤も、普通のもので構わねぇだろう。だが、やっぱ吸い込んだりはしないほうがいい。マスクと……出来ればゴーグルもあったほうがいいな」
「あ、人数分ありますよ〜」
 恵美が明るい表情で答えを返す。
 こうして、ビニール手袋をはめ、マスクとゴーグルをつけ、カビの除去剤を持ち、効率を良くするため、モップを手にし、皆でカビの撃退作業に入った。
 ――オットーは、その間も、カビまみれになることに専念していたのだが。

「うわぁ、皆さんのおかげで、どんどん綺麗になってく!」
 作業を始めて数分。恵美が感嘆の声を上げる。
(ふふふ……出番が来たロボ!)
「ゾンビ〜!ロボ」
 その目の前に、全身カビまみれになったオットーが、手を前に垂らしながら飛び出した。
「嫌ぁ〜!」
「こら!遊んでないで手伝え!」
 葉月のモップが、彼の緑のボディを直撃した。床に倒れ、さらに転げまわってカビを体に擦り付ける姿に、他の三人は溜息をつく。
 そこで、急にオットーの動きが止まった。
「ぬお!カビが!カビがぁぁ!!ぬげぇぇ!!……体が上手く動かなくなったロボ……」
「マジで使えねぇ〜!!」
 思わず頭を抱える葉月。恵美は可哀想に思ったのか、除去剤をスプレーし、オットーの体を丁寧に拭く。
「うぅ……誰かさんと違って、優しいロボ……」
「何だってぇ!?」
 そんな騒ぎがある一方で、壮司は、カビの除去をしながらも、解析を続けているようだった。
「おい!みんな、こっちだ!」
 その声に、三人は振り返った。

 あやかし荘の裏手。
「ここだ」
 壮司についてきた三人は、それを見て、不思議そうに首を傾げる。草むらに、ポツンと取り残されたように存在する、錆色の円い蓋。
 恵美が口を開く。
「それ、確か、古い水道管か何かだって聞いた事がありますけど……今回のことと、何か関係があるんですか?」
「ああ、この奥にカビの発生源がある」
 そう言いながら、壮司は力を込めて、その蓋をこじ開ける。錆びついていたため、時間は掛かったが、何とか開けることが出来た。
 そこには、ぽっかりと口を開ける穴。
 穴は緩やかにカーブしており、覗いても先が暗くて見えない。
「ここに薬剤を流し込んでもいいんだが……それじゃ、確実とは言えねぇ」
「それに、人間が入るには狭すぎるよねぇ」
 壮司に続いて言った、葉月の言葉に、皆の視線が自然と一点に集中する。
「ろ、ロボは嫌ロボ!ロボの能力は『世界の中心で脇役です』ロボ!脇役は、脇役らしく――」
「うだうだ言ってないで、さっさと入んなさい!」
「ほげぇぇぇ〜!!ロボ〜!!」
 葉月の放った蹴りで、哀れ穴の中に吸い込まれていくオットー。

「うわぁぁ!どこまで落ちるロボ〜!!」
 彼は、情けない声を上げながら、まるで緊急避難用のスロープを滑り落ちるかのごとく、進んでいく。
 そして突然。
 視界が、開けた。
 人間には狭すぎるだろうが、オットーにしてみれば、充分に体を動かせるほどの広さだった。
 その中央に、何やら幽かに発光している物体が漂っている。そのせいで、暗がりの中で、視界が開けたように感じたのだ。
(な、何だロボ!?)
 不気味な影に、怯えるオットー。
「お前は誰だカビ?」
 突然上がった甲高い声。
(ひ、怯んではいけないロボ……)
「ロボは、世界征服を成し遂げるために、日々精進している、いわば世界の黒幕ロボ!!」
 それを聞き、物体は、ケタケタと耳障りな笑い声を立てる。
「世界征服カビ?我輩は、カビ大王カビ。どうやら、お前と我輩とは、目的が同じようだカビ。その世界征服に、我輩も手を貸してやるカビ」
「本当かロボ!?」
「おお、我々は同志、仲間だカビ!一緒に世界征服をするカビ」
(これは、上の連中に知られたらマズイロボ)
「それなら、ロボたちの秘密基地に来るロボ!」
 こうして、契約は成立したのだった。

「いや〜何もなかったロボ〜」
 穴に突き落とされた時とは打って変わって、明るい声音で這い上がるオットー。だが、カビ大王を匿うため、両手が不自然に閉じられている。
「――というわけで、ロボは帰るロボ〜」
 そう言って走り去ろうとする彼を、葉月が足先で止めた。そして、不気味なほどの猫撫で声を発する。
「オットーちゃ〜ん。手の中にあるもの、出してくれるかなぁ?」
「な、何を言っているか分からないロボ!!ロボは何も持っていないロボよ!?」
 狼狽するオットーに、にじり寄る三人。
「オットー。もういいカビ」
 カビ大王が声を上げる。
 彼は、オットーの手の中から抜け出ると、再びケタケタと耳障りな笑い声を立てた。
 日の光の下で見ると、小石ほどの大きさの、様々な色が、気味悪く入り混じった球体。毛糸玉のようにフワフワした表面を揺らしながら、空中を漂っている。
「我輩は、カビ大王カビ。世界征服をする前に、お前ら全員カビまみれに――」
「駆除」
 カビ大王が台詞を言い終わる前に放った壮司の言葉で、三人から一斉に駆除剤が散布される。
「カビぃ〜」
 見る見る縮こまっていくカビ大王。
 やがて、その姿は、空中に溶けるようにして消えた。

「こ、これにて一件落着!ロボ」
 三人の冷たい視線に晒されながら、オットーは逃げるように走り去る。そして、秘密基地へと戻った頃には、疲れ果てていた。
「オットー、見せてもらったわ。中々いいゾンビっぷりだったじゃない」
 割烹着姿の女性――月霞が声を掛ける。
「でも、カビ大王を連れ損なったロボ……」
 ところが。
「そんなことないカビ!我輩はあんなもので、やられたりはしないカビ!」
 今日、三度目の笑い声を上げるカビ大王。
「おお!カビ大王が復活したロボ!!」
 目を輝かせるオットーに、カビ大王は幾分小さくなった体から光を発する。
「でも、まずはパワーを回復しなくてはいけないカビ!幸い、ここは居心地がよさそうだカビ」
 その瞬間。
「月霞様!カビが!あちこちからカビがぁぁ!!」
「うわぁ!来ないでぇぇぇ!!」
 基地の中にカビが大量発生し始めた。基地の中は、大パニックに陥る。

 カビを除去し、カビ大王を消滅させるまでに、それから三日三晩掛かったという。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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■PC
【3275/オットー・ストーム(おっとー・すとーむ)/男性/5歳/異世界の戦士】
【3950/幾島・壮司(いくしま・そうし)/男性/21歳/浪人生兼観定屋】

※発注順

■NPC
【堂本・葉月(どうもと・はづき)/女性/25歳/フリーライター】

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■         ライター通信          ■
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初めまして。今回は、発注ありがとうございます!まだまだ新人ライターの鴇家楽士(ときうちがくし)です。
今回がゲームノベル三作目になります。お楽しみ頂けたでしょうか?

■オットー・ストームさま
すみません、プレイング、変な形で使ってしまいました……(汗)。そのため、反映されていない部分があります(ロボさん同士の会話とか)。
秘密基地、あんな感じの描写で大丈夫だったでしょうか?
『世界の中心で脇役です』でしたが、結構重要な役どころを演じて頂きました(笑)。
個人的に、設定が物凄く気に入りましたので、宜しければまた是非描かせて頂きたいです。

尚、それぞれ別視点で書かれている部分もあるので、今回登場して頂いた、他のキャラクターさんの納品物も読んで頂けると、話の全貌が明らかになるかもしれません。

それでは、読んで下さってありがとうございました!
これからもボチボチやっていきますので、またご縁があれば嬉しいです。