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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


『幼き悪戯心が招いた悪夢』


「Why? なんでこんな事になったのよ?」
 ローナはただ母親と一緒にこの夢を楽しみたかっただけなのだ。
 なのにこんな事になるなんて!!!
 ローナは愕然とした。
 一体何が悪かったのだろうか?
 悪い?
「それはミーよ。ミーが軽軽しく口寄せなんかするから。だからママがー」
 ローナは激しく地団駄を踏んだ。
 大切なママをとんでもない目に遭わせてしまった自分に対するどうしようもない怒りを剥き出しにして激しく地団駄を踏む。両手を壊れたおもちゃの様に震わせて。
 ここは夢の中。もしもローナが母親を…アレシアを口寄せしなければ、目覚めて終わりだったかもしれない。目覚める事で、ここから逃げ出せた。
 だけどここでローナだけが目覚めたら、そうしたらアレシアがどうなるかわからない。だからローナは目覚められない。大切な母親、アレシアを独り残して。
「Shit!!! こうなったらミーがママをsaveするわ!!!」
 決意も露に力強く頷いたローナは、視線の先にある城を睨んだ。
「Just a moment。すぐに助けに行くからね、ママ」
 ローナはアレシアがいる城に向って、走り出した。



 鏡に映し出されるそのローナの姿を見ている人物が二人居た。
 ひとりは…
「ローナ…」
 ローナの母親であるアレシアだ。
 そしてもうひとりは、
「くっくっくっく、これは勇敢なお嬢さんだ。ローナ・カーツウェル。こうではないと。さあ、それでは哀れな少女が見る悪夢をじっくりと楽しみましょうか。くっくっくっく」
 ピエロの姿をした魔物…人が見る悪い夢に喜びを感じる【夢魔】は意地糞悪く笑った。
 そう、その【夢魔】こそがローナが自らの夢に招き寄せたモノであったのだった。



 ――――――――――――――――――
【Begin Story】

【T】


「ねえ、ローナ、見たい夢を見る方法って知ってる?」
 小学校からの帰り道、ツインテールを揺らしてその女の子はくるりと回ってローナの隣から前に立って、かわいい笑みを浮かべた顔を小さく傾げさせる。
「No。見たい夢を見る方法なんてあるの?」
「うん、あるんだよ、ローナ。あのね」
 ツインテールを揺らしてその子はまたくるりと回ってローナの横に立つと、ローナの耳にその方法を囁いた。
「あのね、ローナ。その方法はね………」
「Oh。そんな事で見たい夢が見えるの?」
 ローナはとても嬉しそうに微笑んだ。
「うん、見えるんだよ。私だって昨日、それをやって、大好きな漫画のヒロインになったんだから!!!」
「wonderful。すごい!!!」
「ねえ、ローナはどんな夢を見たいの?」
「ミー、ですか?」
 自分の顔を指差しながらローナはにこりと笑って、そして言った。
「a secret。内緒♪」
 ローナはかわいらしく自分の唇の前に人差し指を立てた。
 見たい夢が見える。それはどんなに嬉しい事であろうか。ローナはスキップを踏んで家へと帰った。
「Glad。ママにも教えてあげよう、と♪」



 +++


「I'm home,mom! 今、帰ったよ」
「お帰り、ローナ」
「ママ、今日、friendにgreatな事を教えてもらったんだよ♪」
 すっかりとご機嫌なローナにアレシアはん、と微笑んで、
「素敵な事?」
「そう、many many 素敵な事。見たい夢を見る方法なのだよ♪」
「まあ」
 アレシアは胸の前で両手を合わせて感嘆の溜息を零した。
「そんな方法が?」
「Yes。素敵でしょう、ママ」
 ローナはアレシアの足に抱きつき、下から優しい笑みが浮かぶアレシアの顔を見上げ、アレシアも自分の顔を見上げるローナの頭を優しく撫でてやる。
「うん、素敵。それでそれはどんな方法なの?」
「あのね、その方法はね…」
 それはローナが友達に教えてもらったトップシークレットな情報で、それでママにだけ教えてあげる事を了解してもらったモノで、だからローナはアレシアにしゃがんでもらって、アレシアのさらさらな髪を掻き分けて耳にこっそりと内緒話をしたのだ。
 娘が母親に内緒話をするその光景は本当に綺麗で優しい光景だった。



 ――――――――――――――――――
【U】


 ローナのお部屋。
 勉強机に腰をかけて色鉛筆で画用紙にローナは見たい夢の内容を絵で描いていた。
 ローナの見たい夢は魔法の国。だからその魔法の国を統治する女王が住むお城を描いて、空を飛ぶ魔法の絨毯も、同じく空を悠然と飛翔するドラゴン、咲き誇る不思議な花、そして魔女たち………
 ―――――絵本やゲーム、漫画、そういうのでイメージするそのすべてをローナは画用紙に織り込んでいく。
 それがローナの見たい夢。
 そしてローナはその絵を枕の下に置いて、絵の上に置いた枕に頭を乗せて、瞼を閉じた。小さな胸のうちで心臓をどきどきさせながら。
 どきどき。なかなか眠れない。
 どきどき。なんとなく意識がところどころ途切れる。
 どきどき。魔法の国の夢を本当に見られるかなー? などと想ったら、また妙に眼が冴えてしまって。
 そんなこんなでいつもよりも3時間ほど遅い時間になってから、ようやくローナは深い眠りについた。



 ――――――――――――――――――
【V】


 そうしてローナが見る夢とは・・・
「Oh、wonderful♪ すごい、すごい。ミーが絵に描いた通りの魔法の国だ!!!」
 空を見上げればそこには悠然と青い空を巨大なドラゴンが飛んでいくし、魔法の絨毯に乗った人たちが優雅に空のドライブを楽しんでいる。
 周りの木々にはドーナツやらキャンディーなどといった実が成ってるし、近くの噴水から上がっているのはソーダ―水だ。
 と、ここでローナは腕を組んで小首を傾げた。
 ママにもこの見たい夢を見る方法を教えてあげたけど、果たしてママは見たい夢を見れているだろうか?
 ひょっとしたら失敗しちゃってるかもしれない。
「そうだとしたらママがかわいそうだな」
 ローナは青い空を見上げる。
 ここはローナの夢。
 ローナの見たかった夢。ローナが行きたかった魔法の国。
 だけどローナがこの魔法の国を好きになったのはママの影響もある。
 アレシアは魔法関係の本などを持っていたりして、だからローナも魔法の国が大好きになったのだ。
 だったら・・・
「だったらママもここにご招待してあげれば、happy,haappy,many many happyになるに決まってるね♪ good ideaよ、ミー♪」
 そうと決まったら行動は早い。想ったが吉日だ。
 だからローナは口寄せ、をやった。もちろん、口寄せるのはアレシアだ。
 ぽん、という音が聞こえそうな光が空間から放たれたかと思えば、その光が収まった時には、光が発せられた場所には何かがいる。
「Oh、ママ。いらっしゃい♪ ミーの夢の世界にようこそよ」
 と、だけどものすごく嬉しそうに言ったローナの眼が点となった。
「Who are you? また、ミー、失敗した?」
 ローナの目の前に居たのはピエロの恰好をした男だ。
 ピエロは優雅に礼をして、そして大仰な仕草でぽんと出した大きなボールに乗って見せると、パントマイムを始める。
 最初はローナもそれを喜んでいたが、しかし彼女には他にもする事がある。だからローナはもう一度口寄せした。
 今度こそ………
「今度こそ、ママを口寄せね!!! また失敗したら、またやればいいね♪」
 光が発生し、そしてその眩しい光が収まると、そこにアレシアがいた。
「Congratulations♪ 成功よ、ママ」
 ローナはアレシアの足に抱きつき、そして青い目を丸くさせる母親に満面の笑みを浮かべた。
「ママ、ようこそ、ミーの夢に」



 ――――――――――――――――――
【W】


「ママ、ようこそ、ミーの夢に」
 自分の足に抱きついて満面の笑みを浮かべてそう言ったローナにアレシアはさらに青い目を大きくして、そして初めて娘のその言葉に納得する。
「なるほど。じゃあ、これは私の夢じゃなくって、あなたの夢なのね、ローナ」
「Yes。ミーの夢よ。ママにも教えてあげたでしょう。あの方法でミーが見た夢にママをご招待したのよ♪」
 アレシアはゆっくりと周りを見回す。
 なるほど、確かにここはローナの夢なのだろう。娘は自分の影響…いや、その身に流れる魔女の血の影響なのか、魔法の国が大好きだったりする。
 まあ、子どもは誰しも魔法の国を夢見るものなのだろうが。
「でもあんな方法で夢をコントロールするなんて。ううん、これもローナの体に流れる魔女の血故なのかしら?」
 アレシアは下唇を噛んだ。彼女は自分の力がいかに危険な物かは知っている。だから家族の前では力は滅多に使わない。アレシアはローナの力を知っているが、ローナはアレシアの力を知らない。
 色々とこの事について想う事はあるのだが、しかし自分の見ている夢にはしゃいでいるローナを見ていると、今回はまあ、これでもいいかな? と想ったりもするのだ。やっぱり子どもの嬉しそうな顔は親としては嬉しいし。
 だけどそう想ったのも束の間………
「綺麗な夢。美しい夢。だけど私の大好きな夢は悪夢。怖い夢が大好き。怖い夢が大好物。だってそれは私が【夢魔】だから♪」
 ころころと転がるボールにまだ乗っていたピエロが歌った。そしてその【夢魔】であるピエロがぽーんと足元のボールを蹴ってアレシアの前に優雅に舞い降りる。
 そしてアレシアに慇懃に一礼して、
「それではしばしの失礼をお許しください、マダム」
 顔を上げた【夢魔】がにやりと酷薄に笑い、
「きゃ、きゃぁー」
「ママ!!!」
 アレシアを片腕で抱えた。
 そして【夢魔】の頭上にロープを口にくわえた大きな鳥が現れて、【夢魔】はそのロープを片手で掴み、その瞬間にふわりと【夢魔】の足が地上から浮いて、
「ママーーーー!!!」
 ローナは飛んでいく大きな鳥を追いかけて、
 アレシアはローナに手を伸ばして、
「ローナぁーーーー」
 と、叫び、
 ピエロの恰好をした【夢魔】の笑い声が世界に広がっていくにつれて、悪夢が、ローナの夢の世界を汚染していく。
 楽しくって、綺麗だった魔法の国は物凄く奇怪で不気味な世界となった。
 アレシアを片腕で抱えた【夢魔】が向うのはグロテスクな城だ。壁にはいくつも眼があって、ぎょろぎょろと動いていたそれがじっと飛んでくる【夢魔】とアレシアを見つめる。
 そして【夢魔】は城の最上階、女王の間について、アレシアを軽々と宙に投げた。その瞬間に壁からいくつもの手が生えて、生えた手がアレシアの頭、頬、首、肩、二の腕、手首、胸、腰、太もも、足首を掴んで、掴んだ瞬間に伸びていた手が今度は逆に縮んで、アレシアの後ろ半分だけが壁にめり込んだ。もうアレシアがどれだけ動こうが、彼女の体は動かない。
「無駄ですよ、奥様。もうあなたはその壁からは出られない。私は【夢魔】。夢を操る存在。悪夢を人に見せる存在。これはあなたのお嬢さんが見ている夢。あなたはローナに口寄せで召喚された。夢に招かれた。つまりがそれはあなたが召喚された夢と言うルールによってあなたはローナの夢の登場人物ということになるので、故にあなたは【夢魔】である私の手でどうにでもなる。あなたは私が汚染し、故に私の夢となったこの悪夢の一部であるから、もうローナが目覚めても、この夢から逃れる事はできず。ああ、その事をローナにも教えてあげましょう♪ 彼女は勇敢にもこの城に向かってきていますから、その意志をさらに強固なモノにしてあげるためにもね。私を倒せばあなたは解放されるとも」



 ――――――――――――――――――
【X】


「ママ、ママ、ママ」
 ローナはぐにゃぐにゃとした感触のする、しかも踏みつけるたびに何やらぷしゅっと汁を出す道を走りながら助けたい大切な人の名前を呼んでいた。
 道の両脇にある木には顔があって、それらが大口を開けてけたけたと気色の悪い声をあげて笑っている。
 ローナは両手で耳を押さえながら走りたかったが、しかしそんな事をすれば、走るスピードが遅くなるので、ローナは我慢して走った。
 そのローナの頭上をすれすれで飛んでいった巨大な化け鳥が空中で旋回して、そして鋭い足の爪を光らせてローナに襲いかかってくる。
「チキン、からあげ、親子丼、鶏肉は大好きだけど、ユーは食べる気はしないよ」
 走るスピードはそのままローナは手に持ったクナイを化け鳥の眉間に投げつけた。
「ギャァー」
 化け鳥は悲鳴をあげて地に落ちて、そしてローナはその死骸の横を通り抜ける時にほんの一瞬だけ目を閉じて、唇を囁かせた。
「鳥さん、ミーのせいでごめんなさい」
 そう、この鳥だって、自分があの【夢魔】を召喚しなければ、そしたらこんな酷い姿にはならなかったのだ。
 ローナは泣きたいのを我慢して走った。
 襲ってくるのはこの夢の世界…ローナが描いた魔法の国の住人だ。それを創造したのはローナ。だから彼女にはわかっている。自分を襲ってくる皆が本当はとてもかわいい姿をした動物たちだって。
 だけどローナはここで自分を襲ってくる動物たちに殺されるわけにはいかないのだ。もしも自分が殺されたら、その時はローナは夢から覚めてしまう。
 そうなったら大好きなママがこの悪夢の世界に閉じ込められたままになってしまう。あの【夢魔】がそう言っていたのだ。
「I'm sorry。ごめんね、皆」
 ローナの忍術は我流忍術。しかしその効果は本物だ。なぜなら彼女はその身に流れる魔女の血によって自然の力を借りて、それを表現するのだから。
 巨大クマの横殴りの一撃を忍術超ジャンプでかわし、空中に飛んだ彼女はクナイを巨大クマの眉間に投げつけて、
 空中でもはや落ちるしかない彼女の下に巨大な牙を持つ猛獣が集まってくるが、ローナは縄を手身近な樹の枝に引っ掛けて、そして軽やかに樹の枝に飛び移ると、その木に向って走ってくる猛獣たちに向ってローナは玉を投げた。それは地上にぶつかった途端に煙が広がって、そしてその煙が収まった時には猛獣たちはすべて昏睡していた。
 だが一難さってまた一難。ローナが乗っている樹の枝…正確には樹が枝をしならせた。その反動でローナは空中に放られる。
 そしてそのローナめがけて再び化け鳥が飛んできた。
 それを見たローナの青の瞳が大きく見開かれた。
 しかしそれでローナは諦めなかった。
 両手にクナイを持ってかまえる。
 大口を開けて、足の爪を鋭く光らせて、化け鳥はローナに向ってくる。
 ローナは化け鳥にクナイを投げた。
 しかしそれは化け鳥の羽ばたきによって明後日の方向に飛ばされ、化け鳥の爪がローナを………
 でも…
「口寄せ」
 ローナは口寄せをした。
 それが怖くはなかったわけではなかった。その口寄せがあの【夢魔】をこの楽しかったはずの夢の世界に召喚したのだから。
 しかしローナはここでこの化け鳥に倒されるわけにはいかず、成功する事を祈りながら、涙を流しながら口寄せをしたのだ。
 そしてその祈りにも似た声で口寄せしたのは大蝦蟇で、化け鳥はあっさりと大蝦蟇の舌で捕らえられて、食べられた。
「Thank you。大蝦蟇、もう一働きお願い。あそこのお城に向って」
 頭に乗ったローナに頭を撫でられながらそう頼まれた大蝦蟇はげこぉ、と鳴いて、そして城に向って跳び始めた。



 ――――――――――――――――――
【Y】


「おやおや、中々にやりますね、あなたの娘さん」
 おどけたようにそう言う【夢魔】にアレシアはにこりと微笑んだ。
「それはそうよ。だってローナは私の大切な娘ですもの。【夢魔】さん。あなたは覚悟しなきゃダメよ」
 諭すように言ったアレシアに【夢魔】はくすりと笑いながら肩を竦めた。
「わかりました。心得ておきますよ。ああ、でもそろそろと前菜だけではなくメインディッシュもいただくことにしますよ。このままでは前菜でお腹がいっぱいになってしまいそうですからね♪」
 壁に埋められたアレシアはふぅーと溜息を吐いて、そして細めた目を鏡に映る映像に向ける。
「ローナ、かわいそうだけどこれはあなたが巻いた種よ。だからあなたがやらなければね」
 アレシアは厳しい母の声を鏡の中のローナにかけた。だけどそこには確かに優しい母親の愛情もあった。



 ――――――――――――――――――
【[】


 お城の最上階に向けて大蝦蟇は跳んでいくが、その大蝦蟇が突然に飛来したダーツの一撃によってパンと弾けて、ローナはお尻を硬いお城の床に打ち付けた。
 しかしその痛みを感じている暇はローナには無く、彼女は立ち上がって、クナイを【夢魔】に向けて投げつけた。
 しかし【夢魔】は飛来してくるクナイをダーツで撃ち落す。彼は化粧を施した顔ににこりと笑みを浮かべた。
「ローナ、ありがとう。この悪夢に対するあなたの恐怖はとても美味しくって、私はとても満足しました。満足しすぎてこのままではお腹が一杯になりそうで。だからメインディッシュを頂きに参りました」
「What? メインディッシュって何?」
「あなたがこの夢から覚める瞬間のあなたのこの悪夢に対する恐怖や悲しみ、絶望が私のメインディッシュとなる。頂きます、ローナ・カーツウェル」
 それを聞いた瞬間にローナの肩眉の端が跳ね上がった。
「I beat you。絶対にあなたをやっつけてやるわ!!! そしてママを助けるんだから」
 ローナはクナイを構え、
「ひゃーははははははは」
 そして笑う【夢魔】に踊りかかった。



 ――――――――――――――――――
【\】


「ご馳走さまでした♪」
 深々と一礼した【夢魔】にアレシアは小さく溜息を吐いた。
「ローナは泣いていたわね」
「そうですね。ぐずぐずに泣きながら死んでいきましたよ。とても美味しい悪夢でした。今頃は現実世界で目覚めているでしょう」
「そうね。では私も目覚めさせてもらうわね」
「それは無理です、アレシア。あなたはもう悪夢の世界の住人だ。あなたの絶望を永遠に楽しませて…」
 せせら笑うように喋っていた【夢魔】の口が止まった。
「私、先ほど言ったわよね、ローナは私の大切な娘だって。あなたは覚悟しなくってはならないって。そう、だからローナを泣かしたあなたは許さなくってよ。ローナが目を覚ますまでは、自分でやった事の責任は自分で取らせるために何もしなかったけど、でもあの娘はもう充分に自分のやった事の責任は取った。これでこれからはもっと自分の力を恐れ、考えるようになるでしょう。私のこれからの母親の務めは、ベッドから飛び起きて私の所に来たあの娘を抱きしめてあげること。だからもうこれでお暇させていただくわね。愚かな坊や」
 アレシアは優雅に微笑み、そして常に笑みを絶やさなかった【夢魔】のピエロの化粧が施された顔に、初めて恐怖の表情が浮かんだ。



 ――――――――――――――――――
【ラスト】


「ママ!!!」
 ローナは飛び起きた。
 ベッドから抜け出して、ママを探す。
 リビング、キッチン、そしてパパとママの部屋。
 ばんと乱暴にパパとママの寝室の扉を開けると、ちょうどママはこれから寝ようとしているところなのか、ベッドの上に座っていて、それでローナの顔を見るとにこりと笑って、
「どうしたの、ローナ。怖い夢でも見たのかしら?」
 と、いつものように優しく微笑みながら言ってくれて、
 それでローナは、
「ママ!!!」
 と、ママに抱きついて、
 アレシアは優しくローナを抱きしめてくれた。
「ママ、ママ、ママ」
「はいはい。大丈夫。大丈夫よ、ローナ。私はここにいる。ママはちゃんとここにいますよ」
 そしてローナは久しぶりにアレシアの優しい温もりを持つ柔らかな感触に包まれながら眠るのだった。
 眠りにつくまでの間、一度はあの悪夢の中で永遠に失ったと想ったこのママの…アレシアの優しく柔らかい感触と甘い匂いを噛み締めながら、ローナは本当にあれが夢でよかったと想い、そして自分の力の怖さを自覚するのだった。
 そんなローナを労わるようにアレシアはぎゅっといつもより優しくローナを抱きしめて、
 そうやって母娘は一つの布団で仲良く眠った。


 ― fin ―


 ++ライターより++


 こんにちは。はじめまして、ローナ・カーツウェルさま。
 こんにちは。はじめまして、アレシア・カーツウェルさま。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
 ご依頼ありがとうございました。^^

 今回はローナさんの夢がメインで、そしてローナさんとアレシアさんが酷い目に遭うということで、このようなお話にさせていただきました。
 お言葉に甘えさせていただき思いっきり趣味に走らせていただきました。^^
 いかがでしたでしょうか? 満足していただけていたら作者冥利に尽きます。
 

 悪い夢と言えば【夢魔】ということで、敵役は【夢魔】に。
 その【夢魔】にあっさりとローナさんは負けてしまうのですが、その【夢魔】をアレシアさんが倒すという事で、アレシアさんの強さと言うか、母の強さを書き表したいなーと想ったのです。^^
 そしてその描写があるからこそラストがもっと暖かくなるかな、って。
 ラストのローナさんとアレシアさんがひとつの布団で眠るシーンは本当にお気に入りなのですよ。^^


 ローナさんが口寄せをやったのはアレシアさんを自分の夢に招待したいという娘心だったのですが、でもその口寄せに対する恐怖心とかは無くって、失敗してもいいという軽い心でそれをやって、そして【夢魔】を呼び出してしまって。
 今回のノベルでとても痛い想いをしてしまって、でもそれは決して無駄だとは想わないのです。これをバネにして自分の力のコントロールを覚えていくのでしょうね。^^
 なにはともあれ本当にラストの母娘のシーンはお気に入りです。辛く哀しい想いをした分、きっとアレシアさんと一緒に眠るローナさんは今度こそ良い夢を見るのでしょうね。^^


 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 本当にありがとうございました。
 失礼します。