コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


本日開店・草間動物園

1.
「・・・薄力粉?」

それを見つけたのは運悪く草間零であった。
零は、袋に入ったその粉を裏返しにし、中身を確認した。

「・・・水と混ぜ合わせ、好きな型で抜き焼くとクッキーになる・・・」

フムフムと零は頷いた。
ここのところの閑古鳥の鳴きようはそれは酷いもので、兄である草間武彦はろくな食事も取れていない。
だからここで零がそんな兄にクッキーを作って食べさせようと思ったことを誰が責められよう。
零はその粉を使い、クッキーを作った・・・。

「ほう。珍しいな。おまえがクッキーなんて作るのは」

帰ってきた草間は驚きはしたものの、色々な動物型に抜かれた可愛らしいクッキーをためらいもせずに食べた。
そして、変化は起こった・・・。

「な、なんだこれはーーーーー!?!?!?」


2.
学校帰り、いつもよりもなんだか時間の流れがゆっくりしているような日だった。
羽角悠宇(はすみゆう)は初瀬日和(はつせひより)を草間興信所へと誘った。
「たまには俺に付き合ってよ」 と優しく笑った悠宇は、毎日めいいっぱいの時間を使って練習に励む日和を息抜きさせようと思っていったことだった。
「うん」
それを知ってか知らずか、笑って日和は悠宇と草間興信所へと足を向けた。

「こんちわ〜。暇なんで遊びに来ました〜」
「悠宇君! そんなこと言っちゃダメだったら」
威勢良く入った悠宇と日和は、草間興信所の中出見てはならないものを見てしまい、固まった。
「・・・」
「・・・」
言葉もない二人。
「あの・・これは・・・その・・ククク、クッキーを・・・」
しどろもどろに零が説明しようとしているが、どうやら零自身も混乱しているらしく言葉が上手くまとまらない。
奥には、どうやら仕事をしていたらしいシュライン・エマの姿も見える。
と、悠宇たちの後ろからさらに来客が現れた。

「こんちゃー、遊びに来たでー。ん? 何かええ匂いするなぁ・・」

暇を持て余したと思われる門屋将紀(かどやまさき)が入り口で固まっている日和と悠宇を掻き分けてやってきたのだ。
だが、どうやら彼の目に悠宇たちが見た怪しげな物は映っていないらしい。
「この匂いはクッキーやな! ええタイミングでおじゃましたわ♪ いっこもらってもええ?」
くんくんと部屋のにおいを敏感に感じ取り、すばやくクッキーにロックオン。
将紀の手がクッキーに伸びかけた時、ようやく零の声が出た。

「そのクッキーを食べて、兄さんが動物になっちゃたのですーーー!」

そう。
日和が見たもの、それは動物の体をつぎはぎのように掛け合わせたキメラ・草間の姿であった・・・。


3.
「・・・っということは、つまり。武彦さんはクッキーをわしづかみにして食べてしまった・・・ということね?」
事の顛末を零から何とか聞きだし、エマが考え込んだ。
猫の顔、オウムの羽、ウサギの体、豚の尻尾、そして鹿のようにすらりとした足にはいつも草間がはいているズボン。
どうやら草間のいつものシャツはキメラになった時に破れてしまったらしく、足元に無残な姿を残すのみ。
零の話を信じなかったわけではないが、どうやらこのキメラが草間であることには間違いないようだ。
「これだからここに出入りするのはやめられないんだよなぁ!」
ニヤニヤとやけに嬉しそうな悠宇を「こら」と日和がたしなめた後、こんな提案をした。
「尻尾が出てるのに窮屈そうですから、服を一時的に手直ししましょうか?」
ニコニコと屈託のない笑顔。どうやら本気らしい。
「日和ちゃん? できれば元に戻る方法を模索して欲しいのだけど・・・?」
「・・・あ・・・」
間の悪い空気が、エマと日和の間に流れていく。
「なぁ。おっちゃん、おっちゃん?」
微妙に心弾ませたような声がして、思わず草間が振り向いた。

『バクバクバク・・・』

「あぁ!? ま、ま、将紀君が・・・」
零が蒼白な顔で指差す方向をエマは見た。
そこには・・・

「なぁ? おいしい?」

ニコニコと純真無垢な笑顔の将紀が振り向いた草間の口にクッキーを大量に放り込んでいたのだ。
「ま、将紀君! ダメよ!」
日和が慌てて将紀を止めたものの、時既に遅し。
草間は放り込まれたそれらを全て飲み込んでしまっていた後だった・・・。
「・・・面白すぎるな・・・」
笑いをこらえ、ボソリと呟いた悠宇。
「零ちゃん! このクッキーの原材料の入ってた袋とかは? もしかしたらそれに何か書いてあるかもしれないわ!」
「は、はい! 探してきます!」
エマの声に零が台所へとクッキーの粉が入っていた袋を探しにワタワタと走って行った。
その間にもさらに草間の変化が始まっていた。
徐々に怪しげな姿へと変貌していく草間。
顔は猫耳を残し狐の顔へ、体は徐々に小さくなり、手が熊のものへと変化した。

「おっちゃん、かっこええ〜!!」
羨望の眼差しで将紀が草間を捕まえようと手を伸ばす。
だが、その手をすり抜けて草間はパタパタと翼を羽ばたかせた。

ここは1つ、決定的写真を撮っておくべきだな。

内心ニヤリと笑った時、日和が真剣なまなざしをして悠宇を見つめていることに気がついた。

「悠宇君。私、草間さんの写真が撮りたいの・・・」

以心伝心とは、まさにこのことかと悠宇は思った・・・。


4.
日和の真剣なまなざしに、悠宇はおもわずにやりと笑った。

「・・・寄寓だな。俺もそう思ってた」

そういうと、悠宇は腕まくりをした。
「待ってろ。すぐに捕まえるから」
「うん。ありがとう」
悠宇はふわふわと飛ぶ草間を捕まえるべく、てやっ! と手を伸ばした。
だが、それを察知したのか草間はパタパタと羽を使い、悠宇の手を逃れた。
「こしゃくな!」
今度は高くジャンプし、右手を伸ばす。
それを草間は再びかわすが、悠宇もそれは予想していたので左手を草間の逃げる方向へと大きく突き出した。

見事に、草間は悠宇の手によって捕らえられた。

「よし。これ、日和持って笑って」
捕まえた草間を日和に渡し、悠宇はデジカメを構えた。
「折角ですから一緒にお写真撮ってもよろしいですか?」
日和は恐る恐る草間にそう訊いている。
「・・・」
先ほどまで悠宇の手の中でジタバタとしていた草間が、日和の手の中では嫌に大人しい。
「ハイチーズ!」
カシャッとフラッシュが光った。

女の子に抱っこされるとおとなしくなるって、どうなんだ・・・性格疑うぞ・・・?

日和が何かを思いついたのか、草間を悠宇に手渡した。
悠宇はそれをつまむとジロッとにらみ付ける。
しかし、草間も負けておらず、睨み返してくる。

草間さん、やっぱ性格悪いな・・・。
なんか煙草臭いし・・・よし、このさいだから洗ってやろう。

そんなことを思っていたらこれもまた以心伝心なのか、草間が逃げた。
「あ!?」
悠宇はまた草間を捕まえようと手を伸ばすが、今一歩のところで逃げられる。
と突然、日和が慌てたような声を出した。
「しゅ、シュラインさん!? どうしよう・・・悠宇君!」
その声に振り向くと、エマの体に徐々に変化が起きていくところだった。

「シュラインねぇちゃん! 猫耳や!!」

将紀が叫んだ。


5.
「同じものを1つ食べてこの程度の作用か。・・・ってことは、武彦さんよっぽどいっぱい食べたのね」

「ねぇちゃん、意外と大胆やなぁ」
将紀に感心され、エマが苦笑した。
そんなエマに見とれたのか、草間に隙が出来た。
悠宇はそれを見逃さず、すかさず草間を捕まえた。

「零、風呂場借りるぞ」

「どうしたんですか? 羽角さん」
ガサガサと台所でなにかを探していたらしい零がパタパタと飛んできた。
「いや、なんか煙草臭いし・・・このさいだから洗ってやろうと思ってさ」
「わかりました。あ、でも今袋を探してて手が離せないのですが・・・」
困ったように零が言ったが、悠宇はヒラヒラと手を振って「大丈夫だから、借りるな」と風呂場へキメラ草間を強制連行した。

「本当に洗うの? 風邪、引いたりしないかな?」
あとからついてきた日和が心配げにそう訊いた。
「いいのいいの。俺たちの服にタバコのにおいなんてついたら嫌だしさ」
キュキュッと悠宇は蛇口を思いっきりひねり、シャワー口を草間へと向けた。
「ぎゃ!?!?」
草間が短く、悲鳴を上げジタバタとし始めた。
「この・・・! 逃げるなよ!!」
どうやら水道水が冷たいらしい。
意外と草間の力は強く、悠宇も抑えるだけで精一杯で中々洗えない。
「・・手伝おうか?」
日和が心配げに訊いたが悠宇はにこっと笑っていった。
「だいじょーぶだって! 俺に任せとけって」
だが、口ではそう言ったものの大分てこずっている悠宇。
日和が見かねて悠宇の手伝いをしようとしたその時・・・

「きゃああああぁぁ!!」

思わず出た日和のその声に、事務所で相談していたエマ、将紀、零が慌ててやってきた。
「どうしたの!?」

そこにはびしょ濡れの悠宇と顔を覆った日和、そして人間に戻った上半身裸の草間が立っていた・・・。


6.
「ったく、酷い目にあった・・・」
悠宇がそうぼやくと速攻で草間から突込みが入った。

「それはこっちの台詞だ」

拭き拭きと頭のタオルで水分を拭いている悠宇と草間。
「とにかく、無事に元に戻れてよかったわ」
ほっとしたエマはそういうとにっこりと笑った。
「ひとまず、お茶入れてくるわね」
エマは足取りも軽く、そういいながら台所へと向かっていった。

「大丈夫? 悠宇君」
「ん? 大丈夫だって。そんな顔すんなよ」

日和の問いに、悠宇は笑って答えた。
そして日和は言った。

「あ・・・シュラインさんと草間さんのツーショット、撮るの忘れちゃった・・・」

「・・・また今度な」

悠宇が苦笑いしてそう言った・・・。
だが、日和の顔が明るいのが悠宇にとっては嬉しかった。

日和にとって、いい気分転換になったようだった・・・。

−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

3524 / 初瀬・日和 / 女 / 16 / 高校生

3525 / 羽角・悠宇 / 男 / 16 / 高校生

2371 / 門屋・将紀 / 男 / 8 / 小学生


■□     ライター通信      □■
羽角・悠宇様

初めまして、とーいと申します。
この度は『本日開店・草間動物園』へのご参加いただきありがとうございました。
皆様の予想通り、動物になってしまいました草間。
参加者様のご意見を取りまとめてこのような姿へと変貌しました。
羽角様と日和様のご関係よりこのような形のノベルとなりました。
ぶっきらぼうな人懐っこい・・・ということでしたので、さり気ない優しさを書いてみたつもりなのですがお気に召していただければ幸いです。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。