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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


本日開店・草間動物園

1.
「・・・薄力粉?」

それを見つけたのは運悪く草間零であった。
零は、袋に入ったその粉を裏返しにし、中身を確認した。

「・・・水と混ぜ合わせ、好きな型で抜き焼くとクッキーになる・・・」

フムフムと零は頷いた。
ここのところの閑古鳥の鳴きようはそれは酷いもので、兄である草間武彦はろくな食事も取れていない。
だからここで零がそんな兄にクッキーを作って食べさせようと思ったことを誰が責められよう。
零はその粉を使い、クッキーを作った・・・。

「ほう。珍しいな。おまえがクッキーなんて作るのは」

帰ってきた草間は驚きはしたものの、色々な動物型に抜かれた可愛らしいクッキーをためらいもせずに食べた。
そして、変化は起こった・・・。

「な、なんだこれはーーーーー!?!?!?」


2.
最近、居候先の転居に伴い叔父は忙しいらしい。
ゆえに職業・小学生の門屋将紀(かどやまさき)はいつも以上に暇を持て余す結果となった。
とはいえ無駄金使ってゲーセンなど行くくらいなら、ただでお茶もお菓子も出してもらえる草間興信所へ行った方がマシというものである。
そんなわけで、将紀は草間興信所への階段を張り切って上っていく。

「こんちゃー、遊びに来たでー。ん? 何かええ匂いするなぁ・・」

元気にそう行って入り口で突っ立っていた羽角悠宇(はすみゆう)と初瀬日和(はつせいひより)の脇をすり抜ける。
事務所内を満たす甘く香ばしいにおい。
これは・・・
「この匂いはクッキーやな! ええタイミングでおじゃましたわ♪ いっこもらってもええ?」
くんくんと部屋のにおいを敏感に感じ取り、すばやくクッキーにロックオン。
将紀の手がクッキーに伸びかけた時、零の声がした。

「そのクッキーを食べて、兄さんが動物になっちゃたのですーーー!」

何を言っとるやろ?
将紀は気にせずクッキーを手に取り、口に運び入れようとした。
何気なく見回した室内には固まったシュライン・エマの姿、そして怪しげな・・・?

(それを食うんじゃない)

「・・・おっちゃん?」
その怪しげな動物の心の声が聞こえた気がした。
将紀はクッキーを食べるのをやめ、ササッと皿へと戻した・・・。


3.
「・・・っということは、つまり。武彦さんはクッキーをわしづかみにして食べてしまった・・・ということね?」
事の顛末を零から何とか聞きだし、エマは考え込んだ。
猫の顔、オウムの羽、ウサギの体、豚の尻尾、そして鹿のようにすらりとした足にはいつも草間がはいているズボン。
どうやら草間のいつものシャツはキメラになった時に破れてしまったらしく、足元に無残な姿を残すのみ。
「これだからここに出入りするのはやめられないんだよなぁ!」
ニヤニヤとやけに嬉しそうな悠宇を「こら」と日和がたしなめた後、こんな提案をした。
「尻尾が出てるのに窮屈そうですから、服を一時的に手直ししましょうか?」
ニコニコと屈託のない笑顔。どうやら本気らしい。
「日和ちゃん? できれば元に戻る方法を模索して欲しいのだけど・・・?」
「・・・あ・・・」
間の悪い空気が、エマと日和の間に流れていく。

ホンマかなぁ?

むくむくと疑問が将紀の心の中で大きくなっていく。
そう、それはまさに純真なる探究心がゆえの衝動。
「なぁ。おっちゃん、おっちゃん?」
微妙に心弾ませたような将紀の声に、思わず草間が振り向いた。

『バクバクバク・・・』

「あぁ!? ま、ま、将紀君が・・・」
零が蒼白な顔で指差す方向をエマは見た。
そこには・・・

「なぁ? おいしい?」

ニコニコと純真無垢な笑顔の将紀は、振り向いた草間の口にクッキーを大量に放り込んでいた。
「ま、将紀君! ダメよ!」
日和が慌てて将紀を止めたものの、時既に遅し。
草間は放り込まれたそれらを全て飲み込んでしまっていた後だった・・・。
「・・・面白すぎるな・・・」
笑いをこらえ、ボソリと呟いた悠宇。
「零ちゃん! このクッキーの原材料の入ってた袋とかは? もしかしたらそれに何か書いてあるかもしれないわ!」
「は、はい! 探してきます!」
エマの声に零が台所へとクッキーの粉が入っていた袋を探しにワタワタと走って行った。
その間にもさらに草間の変化が始まっていた。
徐々に怪しげな姿へと変貌していく草間。
顔は猫耳を残し狐の顔へ、体は徐々に小さくなり、手が熊のものへと変化した。

「おっちゃん、かっこええ〜!!」
羨望の眼差しで将紀が草間を捕まえようと手を伸ばす。
まさかこんな風になるとは思わなかった。
予想以上の出来事に、将紀は少々興奮していた。
だが、その手をすり抜けて草間はパタパタと翼を羽ばたかせた。
その時、パタパタと軽快な足音ともに零の声が近づいてきた。

「シュラインさーん! 袋見つけました〜!!」


4.
「どれどれ?」
悠宇と日和がなにやら草間を捕まえようとしているのを背に、将紀とエマと零は顔をつき合わせて袋の後ろの説明書きを読み始めた。

『拘束ッキー: 以下の形に抜いて焼くことによって食べた者の行動を拘束することができる。
 ○ / 半径3メートル内でしか動けなくなる
 △ / 手を上に上げっぱなしになる
 □ / 足の動きがツーステップになる
 使用上の注意 * 効果を除去したい場・・・ 』

ここで丁度袋が破られており、文章の続きが読めなくなっている。
そして、最後に書かれた手書きの文字に将紀は疑問符をはじき出した。

『 全国草間武彦ファンの会・一同より 』

な、なんなんや?? このネーミングセンスの悪さは・・・!?
「・・・またなのね・・・」
わいわいと騒ぐキメラになった草間をちらりと見たエマが再びため息をついた。
「なぁ、治るんやろ? おっちゃん」
そのエマのため息に嫌な雰囲気を感じ取り、将紀は身を乗り出してエマに訊ねた。
「どうも本来の使い方と違うみただし、途中から破れててなんとも・・・」
「・・・ボク子供やから、全然わからへん♪」
にっこりと笑う将紀。
誰かがどうにかしてくれると思っていた将紀にはかなりの誤算だ。
ここは笑ってごまかすしか!?
「わ、私、続きを探してきます〜!」
零が蒼白な顔をしてまた台所へと引き返した。
事の重大さに責任を感じたらしい。

こ、これはボクもひょっとしたら、ひょっとするんかな・・・?

と、視界の端でエマが動いた。
ひょいっと猫型のクッキーをつまみ上げ、パクッと口の中に放りこんだのだ。
「しゅ、シュラインさん!? どうしよう・・・悠宇君!」
慌てる日和の目の前で、エマの体が徐々に変化を起こしていく。

「シュラインねぇちゃん! 猫耳や!!」

将紀は叫んだ。
エマの頭に立派な猫耳が2つ、生えていた・・・。


5.
「同じものを1つ食べてこの程度の作用か。・・・ってことは、武彦さんよっぽどいっぱい食べたのね」
「ねぇちゃん、意外と大胆やなぁ」
将紀の感心に、エマが苦笑した。
だが、エマのおかげでわかった。

このクッキーはどうあら1つ食べただけでは全身が動物化する事はないらしい。
ということは、あとは元に戻す方法さえわかればこれほどのおもちゃはない。

将紀がそんなことを考えている間、キメラを追い掛け回していた悠宇が零に言った。
「零、風呂場借りるぞ」
「どうしたんですか? 羽角さん」
ガサガサと台所で袋の切れ端を探していた零がパタパタと飛んできた。
「いや、なんか煙草臭いし・・・このさいだから洗ってやろうと思ってさ」
「わかりました。あ、でも今袋を探してて手が離せないのですが・・・」
困ったように零が言ったが、悠宇はヒラヒラと手を振って「大丈夫だから、借りるな」と風呂場へキメラ草間を強制連行して行った。
「悠宇君! シュラインさん、将紀君。私も悠宇君のお手伝いしてきますね」
ぺこりと頭を下げ、日和も風呂場へと悠宇を追いかけて行った。

「ありました〜!! 袋の一部です〜!」
台所から嬉々として零が戻ってきたのはそれからすぐであった。
「どれどれ」
エマと将紀、そして零が期待を込めてその繋ぎ合わされた袋を覗き込んだ。

『効果を除去したい場合は水を掛けて3分待つこと』

「・・・水?」
一同がそう呟いた時、風呂場から日和の悲鳴が聞こえた!
「どうしたん!?」
パタパタと音を立て、風呂場へと直行するとそこにはびしょ濡れの悠宇と顔を覆った日和、そして人間に戻った上半身裸の草間が立っていた・・・。


6.
「ったく、酷い目にあった・・・」
「それはこっちの台詞だ」
拭き拭きと頭のタオルで水分を拭いている悠宇と草間。
「とにかく、無事に元に戻れてよかったわ」
ほっとしたエマはそういうとにっこりと笑った。
「ひとまず、お茶入れてくるわね」
るんた♪るんた♪と軽い足取りで台所へと向かうエマを見送り、将紀はコソリと零に言った。

「なあなあ、零姉ちゃん。このクッキー、お持ち帰りしてええ?」

「・・・えーっと・・・」
零が困った顔で返答に窮している。
「なぁ、ええやろ? お願いや」
キラキラとした瞳・無邪気な笑顔・・・零が思わず首を縦に振りかけたとき、将紀は後ろから頭を鷲づかみにされた。

「おーまーえー、何に使うつもりだ・・・?」

振り向かなくても、その語調で草間が怒っているのが手に取る様にわかった。
「ボ、ボク、そろそろお家帰るわ。ほな、さいなら!!」
「あ、待ちやがれ!!」
脱兎のごとく、うまく草間の脇をすり抜けて将紀は草間興信所を飛び出した。

その手に、クッキーを1つ持って・・・。

−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

3524 / 初瀬・日和 / 女 / 16 / 高校生

3525 / 羽角・悠宇 / 男 / 16 / 高校生

2371 / 門屋・将紀 / 男 / 8 / 小学生


■□     ライター通信      □■
門屋・将紀様

お久しぶりです。
この度は『本日開店・草間動物園』へのご参加いただきありがとうございました。
皆様の予想通り、動物になってしまいました草間。
参加者様のご意見を取りまとめてこのような姿へと変貌しました。
悪意のない純真ないたずら心・・・いいですね。大好きです。(笑)
最後に1つ手に入れたクッキー、将紀様が一体どのようにお使いになるのか気になるところではあります。
楽しい使い方(?)をしていただければと思います。(^^)
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。