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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


ハングリー・ドリーマー


■序■

 ずしん、と一歩踏み出せば、かれはいちどに5段はのぼることが出来た。階段の傾斜はひどくなだらかなものである。かれの故郷の洞窟のように、階段は漆黒の深淵へと続いている。どこまでも続いている。
 そうとも、どこへでも行くことが出来る。
 今は門が開け放たれたままで、ローブをまとった門番もいない――。
 よだれを滴らせながら門をくぐったかれは、灰色の空気を吸い込み、吼えた。
「ホフゥク! ホフゥク! イア、アイアーラソセッフ!」


 夜のうちに起きた惨殺事件の被害者は、宿直の用務員ふたりだった。
 神聖都学園は、現在、IO2じみた組織の力で封鎖され、寮も閉鎖されている。噂は瞬く間に広がったが、謎の機関の力がはたらき、マスコミが大きく取り上げることはなかった。真相の糸口を掴んだのは、東京でもごくわずかな人間だけで、その中には草間武彦と碇麗香、瀬名雫も入っていた。
 神聖都学園で起きた殺人事件を追う者が、辿り着いた先は――
 アトラス編集部の片隅、応接間に居座るイギリス人作家のもとだ。
 リチャード・レイは、集まった探究者たちの前で、頭を抱えていた。
「謝礼は充分に用意致しました。殺人鬼の掃討をお願いします……実は生徒さんが数人、行方不明でして。出来れば彼らの保護もお願いしたいところなのですが……それは欲張りというものでしょうかね」
 レイと、レイの背後にある機関が関わっている限り、殺人鬼は人間ではない。そして、一般によく知られている怪異でもない。
 それを知っている者が、どれほど多いというのだろう。


 ああ、あの顎が。
 月夢優名を喰ってしまう。
 彼女は整った顔を恐怖に染めて、絹を裂くような悲鳴を上げ、きっと喰われてしまったのだ。
 生死が定かではない生徒の中に、月夢優名の名前があった。
 だが――
「あ、れ……?」
 気がつけば、優名は図書室の片隅で目を覚ましていた。目の前には、退屈な教科書と、百科事典と、広げられたノートがある。そうだ、自分は宿題をしていたのだ。のんびりしていたら、提出日は明日になっていた――世界史の宿題を片付けようとしていたのだ。
 夢の中で、彼女はひどく恐ろしいものを見たような気がした。だが、その夢は、追おうとすると霧散してしまう、曖昧なものでしかない。曖昧でありながら、彼女の心の片隅に巣食いつづけていた。
「……」
 優名はきょときょとと周囲を見回した。
 図書委員の姿はなく、真面目な本の虫たちも居ない。かしっ、と時計の針が動く音が、いやに大きく鳴り響いた。
 廊下の喧騒も、校内放送もなく、――静かだ。
 神聖都学園とは、数々の怪奇現象に恵まれた学園で、持っている不思議は七つどころの騒ぎではなかった。優名は、そういった不可思議な、いくつものファンタジックな体験をしていた。はじめのうちは、この異様な沈黙も、「いつものこと」なのだと思っていた。
「何だか……ちがう」
 思わず呟き、窓に近づいて、校庭を見下ろす。
 やはり、生徒の姿はない。
 その代わり、見たこともない外国人たちが十数名集まって、何やら真剣な顔で話し合っているのが見えた。わけもなく優名は窓から離れ、見知らぬ男たちの視界から逃れた。
 ――何か起きてる。大人しくしてたほうがよさそう……。
 優名は教科書とノートを鞄にしまい、律儀に百科事典を片付けて、こそこそと図書室を出たのだった。

 閉め切られたはずの校内を、ひょう、と湿った風が駆けていく。


■深淵への門■

「お久し振りです」
 海原みそのの姿を見たとき、レイはほっと安堵の溜息をついていた。
 みそのはその微笑を大きくし、ゆったりと頭を下げる。
「夢ではなく、現実の神聖都学園が問題なのですわね?」
「ええ」
「最近まで、わたくしの妹が、夢で通っていたようで」
「ええ」
「ご存知でしたか」
「ええ」
 レイの返答は半分上の空だったが、最後の質問の答えでは、ふわりと静かに微笑んでいた。その笑みを受けて、みそのは嬉しそうに笑った。
 今日の彼女は、制服を着ている。神聖都学園の制服だ――ただし、色は、漆黒なのだが。
「お手伝い致します。『見て』みなければわかりませんが、すこし変わったお方が、あの学園に居られるのですね?」
「こちらも混乱しているところなのですよ」
 ふたりがそう話しているところに、ばあん、と派手にドアを開けて、応接室に飛び込んできた少女があった。みそのよりも小柄なその少女は、意外なほど大きな声を張り上げた。
「こんにちはぁ! 霧杜ひびきです! はじめまして、碇編集ち……」
 唐突にぱくりと口を閉ざし、彼女は、その大きな目でレイを見上げた。みそのは変わらず微笑み、「はじめまして」と返していたが、レイは呆気に取られていた。
「……あれ? あれっ? ……あの、ここ、編集長のお部屋じゃ、ないんです、ね……」
「ええ。わたしはただの居候です。イカリ編集長は……ああ、外出中のようですね」
「すいません! すいませんっ! あ、あの、編集長に、リチャード・レイって人のお手伝いしないかって、言われたんです」
 そわそわとした仕草で謝るひびきに、レイがふうっと微笑みかけた。
「ああ、そのレイならば、わたしですよ。はじめまして」

 最後に応援として応接室を訪れたのは、久良木アゲハと名乗る少女で、神聖都学園の1年生だった。血の色をそのまま映した紅い瞳に、白の肌、白の髪――睫毛までが白い彼女は、アルビノだ。
 助っ人のひとりがアルビノであることはべつとして、集まった人員がすべて女性であったことに、レイは目を丸くしたようだった。女性ばかりが集まるのはめずらしいことなのだという。
「こういった仕事を依頼すると、火のような男性が何人か集まってくださるものでして」
「……頼りないですか?」
「そうは申し上げておりません」
 慌てた様子もなく、レイはアゲハの言葉をきっぱり否定した。
「外見や性別ほど、分析のあてにならないものはないのですよ。ことに、この編集部では。皆さんのお力に期待しております。……一応いまは、学園のほうで、わたしの知人が警備に当たっているはずです。頑丈な方ですので、そうそう早く倒れることもないとは思います」
「『火のような男性』ですわね?」
「ええ、まさに」
 レイは肩をすくめて、資料をまとめると、3人を促した。
「道すがら詳しい説明を致します。さ、出発しましょう」


■ホフゥク、ホフゥク■

 優名は、またしても、何かを見た。
 見た途端に、死んでしまったのかもしれない。
 あの、縦に裂けた口、異様なほどに輝く瞳、涎と、唸り声を聞いたときに。
 神聖都学園を闊歩するものは、黒く、巨大で、月夢優名が背伸びをしても、とてもかないそうにはない怪物だった。
 優名は物陰から物陰へと逃げる。寮への出入り口は封鎖されていた。校舎の正面玄関も閉ざされている。どうして学園が閉じられたのか、今の優名にはよくわかった。
 怪物がいるのだ。
 どこかの次元から、次元の門を開けて、はるばるやってきた怪物がいるのだ……。
 手洗い場の片隅で息を殺す優名は、野太い唸り声を聞いた。
「フゥーク! ホフゥーク!」
 ――怒ってる……?
 優名はこくりと生唾を飲み込み、恐々と物陰から顔を出した。彼女の長い髪がさらさらと揺れた。
 蠢いていた影が足を止め、振り向いた。


■其は、鳥の脚■

「こ、これ、合成写真じゃなくて?」
「CGでもなくって?」
 ひびきとアゲハが、思わず素っ頓狂な声で素っ頓狂な質問をした。
「カメラマンが亡くなったので、真相は闇の中ですがね」
 現在神聖都学園に巣食っていると思われるものは――
 レイが車中で取り出した古い写真の中に、のこっていた。
 アゲハとひびきは顔を見合わせた。ふたりともすっかり青褪めている――その横顔を見て、みそのが小さく頷いた。ほとんど盲目と言っていいみそのは、アゲハとひびきが見たものを間接的に『見て』、認識するより他はない。
「御方様のお話の中に、ございましたわ。不浄の食人鬼、ガグのことが」
 写真では、その大きさははっきりとはわからない。闇の中に浮かび上がるふたつの目と、がっぱり開けられた口、その奥の牙、舌、四つの手が見て取れるだけだ。
 何よりも恐ろしいのは、その口だった。
 水平ではなく、垂直に開いていた。


「ガグという怪物で」

 身の丈は、4メートル――いや、5メートルはあるだろうか。

「動くものは何でも口にする、肉食の生物です」

 その腕は2本だが、肘から先が二つに割れていた。
 するどい爪のある手が、四つもあった。

「知能は人間と同等で、独自の言葉もありますが」

 涎を滴らせ、巨人は吼えた。

「獰猛で、食べること、邪神に祈ること、眠ることしか頭にない、危険な存在です」

 ダチョウの脚のようで、ダチョウよりもはるかに太い脚が、廊下を削る。

「ただ、問題は」

 声が聞こえる、
 伏せろ、
 と叫んでいる。

「この怪物が、異次元の生物だということです」

 焔が舞った。


■救出成功■

 焦げ臭い風を呼び起こしながら、黒い巨人が叫び声を上げて逃げていった。焔とともに派手に現れた男は巨人を追おうとしたが、ふと思いとどまって、硬直している優名の肩を掴んだ。
「大丈夫か?」
 男はどうやら40代のようだ。不可思議な金色の瞳は、妙に澄んでいた。まだあまり物事を知らない若者の瞳――優名の瞳のように。
「クソ、逃げられちまった。図体の割に逃げ足早ェな。で、ここァどこなんだよ。迷っちまったじゃねェか、天井も高ェし、クソ広ェガッコだな、ここァ!」
「2階の廊下です」
「2階?! いつの間にオレは階段のぼったんだ?」
「……あのう」
「あ?」
「誰ですか?」
 きょとんとした優名と、やはりきょとんとした男は、しばらくの間無言でみつめ合っていた。

 学園に到着し、校門を抜けたレイ一行がはじめに会ったのは、白髪の男と(ブラック・ボックスと名乗っているのだと、恥ずかしげもなく男は答えた)救出された月夢優名だった。
 レイが車中で連絡を受けたところによれば、優名は異変が起きていることを知っていて、かつ異次元の怪物に襲われかけていながら、学園の敷地内から出たくはないと言っているのだった。
「お手伝いさせてほしいんです。この学園を、護りたいっていうか……学園がなくなったら、こまるんです」
 彼女の言動はいやにゆっくりとしていたが、そのテンポが、ぴりぴりと張り詰めていた一行の神経を癒した。
「……私も、こまります」
 アゲハも続いて呟いて、レイとボックスを見上げた。
 ――急に学校閉鎖になっちゃって、なんだろうって思ってたら……こんなことになってたなんて。
 アゲハは唇を噛んで、うつむいた。
 彼女は、親戚の家に使いに行かなければ、学校閉鎖の裏側に何かがあるらしいことも知らずに終わっていたのだ。血が流れたことも、得体の知れない存在が構内を闊歩していたことも、何も知らないままに過ごすところだった。
 アゲハも、神聖都学園の生徒のひとりだ――。
「……行方不明になった生徒って、優名さんだけじゃないんだね」
 校舎を見上げていたひびきが、呆然と呟く。
「……でももう、みんな、探してもみつからないよ……」
 校舎の窓に張りつく手のひらを、ひびきは見た。血染めの手だ。べたべたと窓に血痕が残されていく。くっきりとした手の形が……指紋までもが、ひびきの瞳の中に焼きついた。他の誰にも、その手形は見えていない。
 ひびきだけが見ていた。
 もう、この世のものではない若い命の、メッセージを受け取った。
「!」
 その大きな目が、丸くなる。
 彼女は勢いよく振り向いて、ボックスとレイを見上げた。
「まだふたり生きてるって!」

 みそのが笑みを消して前に出た。
 笑みが消えていたのはほんの一瞬であった。
 風の流れがとまり、音すらも、学園からは消えたようだった。
「あの方は、外に出ることはありません」
 漆黒の彼女の目に、見えているらしい。
「あの方は、暗がりを望まれるがゆえに。――さーくる棟、というのは、何処でございますか?」
 優名とアゲハが、ほとんど同時に、同じ方向を指した。
「あの大きな方は、その、さーくる棟にはまだ行っていらっしゃらないようです」
「みそのさんにも霊感あるの?」
「ひびき様のお力とは、少々異なります。わたくし、今は、流れを見ましたの。けれど、霊の言葉もひとつの流れ――ひびき様のように、感じることも出来ましょう」
 少女たちの言葉に、レイがボックスに目をやった。ボックスは肩をすくめて、むずかしい顔だ。
「そんな目で見ンなよ。ちゃんと探して回ってたつもりなんだぜ。文句言うならこの学園建てた連中に言えよ。広すぎンだって、ここァ!」
「生徒でも行ったことないところ、多いもんね」
 優名がアゲハにゆったりと微笑みかける。
 思わずアゲハも、笑顔で頷いていた。


■渡り廊下■

 どうやら、敷地面積に対して、警戒に割ける人員が少なすぎるらしい。無理もない、と溜息をつきたくなるほどの広さだった。レイとボックスの組織はIO2にも応援要請を出しているのだが、対応が遅れているらしい。現在は出入り口を固めるので手一杯なのだそうだ。
「実はちょっと頼りなかったり……して……なんてね」
 ひびきの言葉に、レイとボックスが苦笑していた。
「まァ、奴を外に出してないところくらいは誉めてくれよ」
「対応が遅いのはIO2の方ですよ」
「ふたりとも目が怖い……」
 ふと、みそのが足を止めた。
 フゥ、フゥ、
 人間のものではない呼気が聞こえる。

「生命の気配を追えるのですね」

 みそのが言ったとき、ずしん、と校舎の鉄の扉が揺れた。
「非常口です!」
 優名が声を上げた。
「サークル棟へ! 生徒さんを探しましょう!」
 レイに続いて走ったのは、優名とみそのだった。非常口は頑丈なつくりであるようだが、巨大な食人鬼の体当たりにどれほど持ちこたえられるというのだろう。
 この世のものではない鬼は餓えていて、生命と肉を渇望している。
「私も、眩しいところはきらい」
 アゲハが身構えた。
「でも、お腹が空いてたら、外に買い物に出かけます」
 ずしん――
 不意に、鉄の扉が沈黙し――
 があん、と一気に外れたのだった。
 蛍光灯も消され、薄暗い校舎の中から、窮屈そうに身体をかがめた巨人が姿を現した。アゲハとひびきは、たまらず、一歩後ろに下がった。
 食人鬼は、写真で見るよりも、想像していたよりも、ずっと醜悪な姿をしていた。


■ことばありき■

 この大きさに、太刀打ちできるのだろうかと、アゲハはいやでも不安になった。
 縦に裂けた口は、ひと齧りで人間の上半身を食いちぎれそうなほど大きい。桃色にらんらんと光る目は飛び出しているように顔についており、瞬きは不器用だった。
「ホフゥク!」
 舌は満足に動かないに違いない。言葉は、呼気によるものだった。
「バァルフォ! ヴァ、ヴァアア、アアハアアア!」
 光のもとに現れた巨人は、腹に火傷を負っていた。巨人は怒り狂ったように突進し、真っ先にボックスに襲いかかった。見た目よりもはるかに俊敏だった怪物は、異様な腕で、ボックスをはね飛ばした。
 数メートル向こうに倒れこみながら、ボックスは大声を上げた。
「ちくしょう! ライター落とした!」
 レイは彼を、頑丈だと言った。その通りだ。ひびきとアゲハはほっとした。
 ほっとした次の瞬間に、アゲハは走っていた。ボックスを見下ろしたままの黒い巨人の背後を取ると、気合一閃、その鳥類じみた脚の脛に蹴りを入れた。鈍い音がし、毛むくじゃらの人喰いはバランスを崩す。怒りの咆哮を上げて、怪物は片手を振り上げ、ふたつの手で背後をさらった。アゲハはすばやく地面を転がり、鋭い爪を避けた。
「ボックスさん! ライター!」
 怪物の隙をついたひびきが、何も入っていない鞄からさっと銀のオイルライターを取り出し、倒れているボックスに投げよこした。何故、ボックスが今ライターを欲しているのか、理由はわからない。だが、渡すべきだと、直感が彼女を突き動かしたのだ。
「おう、サンクス! ――何てェ手品だ、こりゃAランクのライターだぜ――」
 放物線を描いたライターを慣れた手つきで受け取ると、ボックスは呑気にもライターの底のランク表示を確認してから火をつけた。
「そいつから離れろ! 火ィつくぞ!」
 ライターの火が、この怪物を倒すというのか?
 アゲハとひびきの不安は、すぐに消えた。ひびきがアゲハの服の裾を引っ張り、ふたりの少女は倒れた。ライターの火が膨れ上がるのを見た。

 焔が舞った。


■救出成功?■

 みそのの導きに従い、優名が先陣を切って、3人がサークル棟の中を走る。危なっかしい足取りのみそのに、レイが手を差し伸べた。
 ここです、とみそのが生命の流れを『見た』部屋の戸を、優名が開けた。
 中では、イヤホンをした生徒がふたりいて、突然開いた戸に驚いていた。ふたりとも髪はぼさぼさで、目の下には隈ができ、室内には濃いコーヒーの匂いが充満していた。
 ふたりの手元には、ストリーントーンを貼られている最中の、漫画原稿があった。
「しゅらば、でございましたのね」
 みそののにこやかな一言に、優名とレイが呻き声を上げて肩を落とす。
「……あの、何すか?」
 イヤホンを外した生徒が、間延びした質問をしてきた。
 黄色い歌声のアニメソングが、イヤホンから漏れていた。


■夢の終わり■

 黒い巨人が、サークル棟の前で焼け焦げていた。


■あってはならない、謎■

「この怪物は、光の下に出ることも出来ない。この世界に来ることも出来ない。それなのに、唐突にこの学園に現れた――これは何か、大きな事件の前兆です」
 ぶすぶすと煙を上げる死骸を見下ろして、レイが溜息をついた。
「夏に、変な夢を見ました。私が、この学園の生徒だったの。……それと何か関係ある?」
 ひびきの問いに答えたのは、見えないはずの目で怪物の死骸を見つめるみそのだ。
「直接的な関係は、ございません。引き金のひとつにはちがいありませんけれど」
「夢と現実の境目が、なくなってきてるのではありませんか?」
 怪物の死骸からは距離をとって、アゲハが眉をひそめる。その言葉に、レイとボックスが顔を見合わせた。
「ぜんぶ夢だったらいいのにな……」
 優名の呟きと嘆きが、悪臭の中に消えていく。

 目を閉じれば、浮かび上がってくるのは、悪夢の住人のおぞましい顔。
 牙と涎。
 夢の中で、夢の人を喰っていればいいものを――。

 被害者の死体の一部は、怪物の腹の中から見つかった。




<了>


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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【1388/海原・みその/女/13/深淵の巫女】
【2803/月夢・優名/女/17/神聖都学園高等部2年生】
【3022/霧杜・ひびき/女/17/高校生】
【3806/久良木・アゲハ/女/16/神聖都学園1年】

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               ライター通信
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 月曜の納品ラッシュに紛れて……(こそこそ)
 モロクっちです。このたびはゲリラ依頼にご参加いただきまして、まことに有り難うございました。し、しかし、(レイも言っていましたが)参加者全員が10代の女性! ライター始めてから1年半経ちましたが、初めてかもしれません。
 そもそも、初めてのお客様がほとんどですね。月夢さま、霧杜さま、久良木さま、ありがとうございました。楽しんでいただけたなら幸いです。みそのさまも本当に、お久し振りです。
 相手がデカすぎたので、助っ人NPCを出しました。この焔使いが怪物にとどめを刺せたのも、修羅場の生徒を救えたのも、皆様のおかげです。

 それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。