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<東京怪談・PCゲームノベル>


文月堂奇譚 〜古書探し〜

結城二三矢編

「こう毎日準備準備じゃ気の休まる暇もないよな……、その上こんなポスター張りまで…。」

 神聖都学園の一年生、結城二三矢(ゆうき・ふみや)は寮祭の準備に毎日追われる日々をすごしていた。

「しかし……、ここは一体どこなんだ?」

 そしてその追われる日々の中、寮祭の事を皆に知って貰うべく、寮祭のポスターを貼るべく町に出たのは良かったのだが、気がつくと見知らぬ路地に迷い込んでいた。
しばらく適当に歩いていると今までよりは大きな路地に出た二三矢だったが、その路地もやはり知らない道であった。
近くにあった自動販売機で飲み物を買って、壁に寄りかかりながらこれからどうしようか考えていると、遠くから自分の通う神聖都学園の制服に身を包んだ女性が歩いてくるのが目に映った。
しばらくしてその歩いてきた女性が見知った顔であるのに気がつくと、二三矢はそっと彼女に手を振って呼びかけた。

「あ、秋篠宮先輩じゃないですか、こんにちわ。」

 二三矢は手を振って、そばを通りかかった同じ神聖都学園の生徒で先輩である秋篠宮静奈(あきしのみや・しずな)に声をかけた。

「あら、二三矢君じゃない、どうしたの?こんな所で……。」
「いえ、それが……。」
「………?」

 言い難そうにしている二三矢を見て、思わず小首を傾げる静奈。

「ボクにはちゃんと言ってくれなきゃ全然判らないんだけど……。」

 そう言われて二三矢は半ば諦めたように静奈に理由を話す。

「寮祭のポスターを貼らせて貰おうと思って、色々張る場所を探している内にちょっと道に迷ってしまって……。」
「あ、そうだったんだ……。」
「……はい。」

普段は学年が違う為にほとんど話す機会が殆ど無い為、少し緊張した様に話す二三矢を見て静奈は思わず笑みをこぼす。

「そっか、それじゃ大変だろうから、ボクが知り合いの店とか案内してあげようか?」
「え?秋篠宮先輩が?」
「ええ、丁度ボクもそこに用事があったからついででもあるしね。」
「あ、それじゃ是非お願いします。」
「それじゃ決定って事で行こうか。」
「はいっ」

 二三矢の返事を聞いて、静奈はゆっくりと歩き始める。
静奈が歩き始めたのを見て二三矢もまた静奈に続いて歩き始める。
だがまだ二三矢はこれから自らの身に起こる事について予想だにしていなかった。

「あの……先輩…、ここなんですか?知り合いのお店って……。」

 二三矢が指差した先にあったのはどう見てもお店ではなく学校であった。
しかも彼らが通っている神聖都学園ではなく、二三矢にとっては来たことすらない学校で、校門には『私立神名木高校』としっかり書かれていた。

「ま、まさか違うわよ、高校がお店な訳無いじゃない、ちょっと知り合いが通っているからどうしてるかな?と思ってきてみただけだよ。」
「へぇ、そうなんですか?で、その知り合いさんはいそうですか?」
「あ、し、知り合いね、えーと、い、いないみたい。」

 しばらく知り合いを探す『振り』をしていた静奈だったが、

余りここで時間つぶしているのもなんだから今度こそ、そのお店に行こうか。」
「そうですね、ところでそのお店ってどういうお店なんですか?」
「あ、文月堂っていう古本屋さんよ。そこにいる知り合いの一人がこの神名木高校に通ってるのよ。」
「へぇ、古本屋さんですか、なんか楽しみですね。」
「いい雰囲気のお店だから、きっと二三矢君も気に入ると思うわよ。」

 そういって再び静奈は歩き出し、その後についていく二三矢であった。
もしこの二人の様子を知らない人間が見ていたとしたら、二三矢の事をどこか子犬の様だと評したかもしれない。

 そして静奈に案内されて二人が次にたどり着いたのは、なぜかピンクのイルミネーションがテカテカと輝くビルであった。
いわゆる普段であれば恋人達が仮の宿を求めて集まるそのビルを見て、思わず二三矢が呆れた様につぶやく。

「先輩の知り合いのお店ってここなんですか?
さっきは古本屋って言っていたと思ったんですけど…。」
「……………………。」
「……秋篠宮先輩?」

 しばらく呆然と自分が来てしまった所を見つめていた静奈だったが二三矢の声で我に返る。

「あ、な、何?」
「秋篠宮先輩が連れてきたかった所ってここのお店なんですか?」
「ち、違うわよ、そんあ訳ないじゃない、ここがどうすれば古本屋に見えるのよ。」
「そ、そうですよね。」

 二三矢は静奈の剣幕に押されつつも頷く。
頷いたのを見た静奈はそそくさとその場を離れようと早足でその場を離れる。

「二三矢君、早く来ないと置いてっちゃうよ〜。」
「あ、せんぱ〜い、待ってくださいよ〜。」

 すでににその場からいなくなっている静奈を二三矢は慌てて追いかけて行った。

そしてそれから数時間後、それからもあっちへ行ったりこっちへ行ったりの二人であったが、緋もすっかり暮れた頃にようやく目的地であった『古書店 文月堂』にたどり着いた二人であった。

「秋篠宮先輩、今度こそ間違いないんですよね?」
「え、ええ、今度こそ間違いないわよ。
おかしいなぁ、何でこんなにボク達はここまで来るのに時間が掛かったんだろう?」

 自分が道に迷った所為で遅くなったとは露とも静奈は思わずに二三矢を連れて文月堂の扉を開けて中に入っていく。
文月堂の中では一人のおとなしそうな銀髪の少女が店番をしていた。

「いらっしゃいませ…、って静奈さんじゃないですかお久しぶりです。」
「あ、今日は紗霧ちゃん一人?隆美さんは?」
「お姉さんはもうすぐ帰ってくるはずなんだけど、それまで私一人で店番なんですよ。」
「そうなんだ、今日は後輩がちょっと用事があるっていうんで連れてきたんだけど…、隆美さんが帰ってくるまで待たせてもらおうかな。紗霧ちゃんじゃちょっと判らないと思うからね。」

 しばらく店番をする紗霧と呼ばれた少女を見ていた二三矢だったが、彼女が上の方にある本棚と格闘しているのを見てそっと手を添えてあげる。

「上の方は危ないから、その隆美さん、だっけ?が帰ってくるまで店番手伝うよ。」
「あ……、ありがとうございます。ええっと……。」
「俺は二三矢、結城二三矢っていうんだ、君は紗霧さん、だよね?」
「あ、私は佐伯紗霧(さえき・さぎり)って云います。
手伝ってくれてありがとう……、二三矢さん。」

 どこかはにかみながら微笑む紗霧をみて二三矢も思わず笑みをこぼす。

「それじゃこの本を上の棚に置くのは俺に任せておいてよ。代わりにと言ってはなんだけど、秋篠宮先輩と俺の分のお茶でも入れてもらえると嬉しいな。」
「あ、そうですね、お二人の分の何か飲み物でも持ってきますね。」

 紗霧がそういっておくに消えていくのを見ながら、自分がどこかに何か大切なものを忘れてきてしまっているような、そんな人松の寂しさを覚える二三矢だった。

 二三矢と静奈が紗霧の手伝いをしながら店番をしていると、一人の女性が文月堂に入ってきた。

「ただいま、って静奈も来ていたのね、お久しぶり。」
「隆美さんおかえりなさい。今日はちょっとこの後輩の用事の付き合いで、ね。
後はこの手紙をいつもの様に渡しにね。」
「あ、初めまして、秋篠宮先輩にお世話になっている結城二三矢といいます。」
「私はそこにいる紗霧の義姉の佐伯隆美(さえき・たかみ)っていうのよ、よろしくね。
それで私に用事って?」
「ええっと隆美さんにっていうか文月堂さんにっていうか、この寮祭のポスターを店先に貼ってもらえないかと思いまして…。」

 静奈が隆美に手紙を渡した後、二三矢は持ってきたポスターを隆美に広げて見せる。

「ああ、もうそんな時期なのね……。
こんな裏通りのお店の店先でいいなら、張ってもいいわよ。」
「本当ですか?ありがとうございます。」
「どういたしまして、私も神聖都学園に通っていた時は寮祭に遊びに行ったりしたし、気持ちはわかるつもりよ。」

 そう笑みを浮かべて、二三矢の持っているポスターを受け取る隆美であった。

しばらく四人は談笑していたが、静奈が帰るということで、二三矢も帰るために歩き始める。
丁度お店を出ようとしたところで思い出したように二三矢が隆美達に話しかける。

「あ、そうだ、もし良ければ寮祭のほうに出展とか無理でしょうか?出し物は多いほうが楽しいと思うので……。」
「うーん、ちょっとどうなるか判らないけど、考えておくわね。」
「よろしくお願いします。」
「寮祭、頑張ってくださいね。
それから学校は違うけど、私の高校ももうすぐ学園祭があるんです、良かったら遊びに来てくださいね。」

 二三矢が二人に頼むのと同じ様に、紗霧もまた自らの通う神名木高校の学園祭の事を二三矢に話す。

「そういえばさっきその高校なら通りましたよ、もし行ける様だったら遊びに行かせてもらいますね。今日はありがとうございました。
今度来るときは、本を買いに来ますね。」

 二三矢はそう二人に挨拶すると、先に出ていた静奈を追いかける様に文月堂を出て行った。
静奈と判れた後二三矢は先ほど文月堂で感じた寂しさをふと思いだす。

『…あのどこか心の中が欠けた様な寂しさは一体なんだったんだろう?』

 そんな事を考えながら二三矢は夜の街に消えて行った…。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 結城・二三矢
整理番号:1247 性別:男 年齢:15
職業:神聖都学園高校部学生

≪NPC≫
■ 秋篠宮・静奈
職業:女子高校生兼巫女

■ 佐伯・隆美
職業:女子大学生兼古本屋

■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋

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■         ライター通信          ■
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どうも初めまして、新人ライターの藤杜錬です。
この度は『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加頂き、ありがとうございます。
初めて本を探すという依頼ではなく、その周辺から絡めてくる依頼だったので色々勉強になりました。
二三矢さんをうまく描けているか少し心配ではありますが、いかがでしょうか?
それでは、ありがとうございました。

2004.10.15
Written by Ren Fujimori