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夢の終わり
リーゼントライダーって番組の、出演者を募った訳で、
「せやから全員熱血硬派でな、時代劇で全員集合する勢いやねん」
番組の趣旨を解説しながらこの一団、NEW-WORLDという下町をゆく。狭い路地、将棋の駒が盤面を叩く音、串カツの揚がる音、おっちゃんおばちゃんの音、
そうやって、GTVに向かう。
「んで、リーゼントライダーの前に立ちはだかるんはゲルサラサラ団。……誰やこら二番煎じゆうたんは」
GTVはTWO-TEN-KAKUが電波塔のテレビ局だ、放送する番組はバラエティのみ。何処までも馬鹿らしく、何処までも阿呆らしい。学校のお母さん達なら問答無用でチャンネルを変える、そんな番組達だ。
それを作り出すTWO-TEN-KAKUは、結構広いテレビ局。この図体にどうやってか、いくつものスタジオを抱えて。今日は撮影しないけど、企画室でミックスジュース片手に討論を、
「ほなさっさと行くでー」
と、我が城に、局長が、GTV局長が、
鈴木恵という女子高生の局長が入ろうとした瞬間、
突然、爆ぜた。
TWO-TEN-KAKUが。
「ぬおおおわぁぁぁっぁっ!?」
この時点では、この時点ではまだ、ギャグだったんだ。
だっていくらこんな事が起こったって、人は死なないから。バラエテ異界で人死にが出るなんて、笑えない事だから。夢物語だから。
だから恵の反応も漫才みたいに、「な、な、な、玄関開けたら二分もせんと爆発ぅっ!? うおお!うちの髪がこげこげアフロ、に、」
なって、ない。
お約束じゃない、爆発の時の、お約束が無い。
違和感はそれだけじゃなく、爆発に巻き込まれた彼女は身体に痛みを覚えている。息を、切らしてる。爆風に巻き込まれたらそれが当然? だが彼女にとっては、
信じられぬ現実。
信じていた夢は、何処へ、
「東京、タワー?」
呆然と呟く前に、瓦礫の彼女の前に、確かにそれはあった。
TWO-TEN-KAKUの白は消えて、あるのは、赤。赤の鉄塔。理解不能が始まる彼女に、
追い討ちをかけるよう、「コレガ――」
青い姿だった。
記憶喪失の神楽庄二という少年が時折見せる、本人も知らない、青い姿だった。
城を失って、つっこみを失った彼女、ただ、無機質に喋る青い姿を見る。青い姿は浮遊した。まるでワイヤーに吊られるように、呆気なく飛んだ。
そして、こう言った。
「コノ異界ノ、真ノ姿。僕ガ、願ッタ」
周囲が、
変貌していく。
――それは恵以外には馴染みがある
東京。
だけど一つ違うのは、
どうして皆殺しあってる?
ある者は怪異に消え、バケモノに襲われ、少年のナイフに倒れ、
爆弾が爆発する当たり前が、人間に行使される。銃弾の当たり前も等しく、薄汚れた世界でただ一つ鮮やかなのは血の紅であり、身肉が裂ける時の絶叫であり、
何故、殺しあってる?
「……ショ、ショー吉?」
快活な彼女が我を失っている、何か、泣きそうになっている。彼女の愛した世界が、恐るべき変化をしたからだ。何故、殺しあう、何故、
皆笑わない?
「殺シアウ東京、誰モ居ナクナル東京ト世界、ソレガ僕ノノゾンダ異界」
「あ、阿呆! 何ゆうとるんや、ここは、ここはバラエテ異界! うちの兄ちゃんが、兄ちゃんが作った!」
「ソウ、アノ男ガ邪魔ヲシタ」
「邪魔って何」
恵の兄が、殺しあう異界を、
バラエテ異界という皮で包んだ。
、
、何、
「何、ゆうて」
「……モトモトアル異界ニ、別ノ異界ヲ重ネタンダヨ。本当、異界ッテナンデモアリダヨネ」
ある探偵事務所を疾走した兄には、串カツ屋の店主を、ある探偵の帰りを待つ妹には、串カツ屋の手伝いを、ある部下が子供になった編集長には知事を、ある怪談アイドルには女漫才師を、
「重ネタ、イヤ、着セタトイウベキカナ? 着グルミを演ジルショーダッタンダヨ、バラエテ異界ハ」
「ちょ、ちょっと待て、そんなん、そんなんやったらうちはっ!」
「着グルミダ」
、
「嘘、や」
違う! 違う、って、
叫ぶ声。
「うちは、うちは鈴木恵ッ! マッチョが好きで、ショタが嫌いでッ! それで、それで!」
一心不乱に叫ぶ鈴木恵、
青い姿に、首を絞められる。周りの者達は隙を付かれた。片手で気道を締めながら、青い姿は語る。
「ケド、困ッタ事態ガアルンダ。異界ノ現実化ダヨ。異界ハ本来核霊ガ消滅シタラキエルケド、時々現実トシテ実体化スル。……ダカラコソ、僕ハ現実的ニコノ世界ヲ動ケルノダケド」
君にもうろちょろされては邪魔になる、って、
「コノ世界ヲ、コノ異界ヲ支配スルノハ、異界ニ生マレタ者ダケッ! ダカラ、君ハ消エロッ! 王ハ二人イラナイ!」
「う、ぁ、……ぁっ!」
目を見開いて、その目からだらりと涙を溢れさせる、彼女、に、
「安心シテ、」
何、を、
「僕モイズレ死ヌ」誰も、いない世界。「ソノ時、」
新しい世界が――
突然、二人は落下した。
慌てて抱きとめられる恵、そして他のメンバーが青い姿を、
見た時、
その姿、
神楽、庄二。
少年の姿である、女装する、あのマセガキの。だけど、彼、汗をびっしり掻いて、痛みに耐えるように、
「ね、ぇたん、逃げ……ろ」
「ショ、ショー吉」「逃げ、て、ねーたん……、これ以上、抑え……つけ、ああぁぁぁぁぁぁ!」
――青く閃光する、再び身肉が変化していく。
鈴木恵は担がれる、逃げる、逃げる、呆然とバラエテ異界の中を、否、
人が死んでいく東京という名の異界を。
……青い姿、
発光しながら、「恵ノ兄ハ、僕ノ異界ノ住人ニ、バラエテ異界ノ住人ノ姿ヲ着セタ」
発光を、落ち着かせながら、
「ダケド僕ニハ何モ重ネナカッタ、核霊ニハ、幽霊ニハ、力ガナイカラネ。ダケド僕ハ彷徨ッタ、ソシテ都合ノヨイ身体ヲミツケタ」
発光を、やめながら、
「君ハ、辛カッタダロウナァ。記憶喪失トイウ名ノ都合良イ着グルミ。アノ不思議ナ鞄ダカラコソ、飛ビ出シテキタ着グルミ」
己の青の姿についても、何一つ知らない男の子。
「ダケドモウ苦シマナクテイイ、モウ二度トメザメナクテイイ、サア」
眠れって、歌った時。
(僕、……は)
声が。
青い姿の心の中に、声だ。必死に、必死に主導を奪い返そうとして、腕に意思が届かない、足に意思が届かない、舌を噛みたくても、噛めない、だから、
心の中で神楽庄二は、
(僕は、僕や)
「……アノ子ト一緒、デネ」
一生この身体で眠れ、そう、呟けば。……愛くるしい少年の影は瞬時に消え、青の姿に戻る。
そう、戻ったのだ、
全てが、本来に。
「……貴方ハ、残念ダロウネ」
再び空に浮かんで近づいてから、声をかけるのは、
バラエテ異界の大空に、ホログラフのように浮かぶ――この現実が嫌だからこそ、否、
あの女性が殺されるのが嫌だからこそ、
「死ンダ妹ヲ着セタオ兄サン?」
空に浮かぶ、恵の兄は、
死んでいた。
口から血を流して、瞳から涙を流して。
――実体化した恵が誰かの着ぐるみをやめた時
彼女は、終わるのだろうか。
◇◆◇
海原みあおという少女が居た。
少女というからには、彼女は幼い。小学校一年に比例して身長も小さく、あらゆる意味で守護の対象となる。だけど、今みあおは行使している、守護者として生きている。
友達が居なくなるのは、嫌だ。「こっちだよ恵、急いで!」
慣れた地理を、そう、東京という街を先導する、だけど一つ見慣れてぬのは、
己が《生まれた》惨状に良く似た。
ちのいろ、さつがい。
今もほら、誰とも知らぬ腕が伸びて、みあおの顔を千切ろうとした、だけどそれを止めたのは、新たな腕つまり殺戮だ。千切れる光景が始まるより早く海原みあおは、それを機会にして脱兎する。足並みは標準の速度、でも行かなければ、行かねば、
「みあお、なぁ」
不意。
「東京って、こんな所か」
「え……」
思わず足が止まってしまって、だがすぐ後ろから爆殺が響いて、慌ててまた手を引いて、移動しながら聞き返す、「何言ってるの、こんな所って」
「こんな、酷いわ、なんやねん、なんで」
人が死んでるんや――そう言った彼女は、
震えてる。
弱い物。
海原みあおは少女だった、即ち、統計的に守護される役目だ。だが今年上の彼女にそれを奪われ、自分は護り手になっている。足取りがおぼつかない彼女は重り、でもけして手は離さない。あらゆる殺しとそれに直結する死から逃れろ、避けろ、生きる為に、絶望は――みあおの言葉に無い、
("逃げるのも手段"だって、言ってた)
一番上の姉の言葉、(逃げて、逃げて、逃げて、だいじょうぶな場所で)
術を、それが、少女の思惑、けど、
認識が甘かったのは、この異界の壮絶か、
安全な檻は何処にも無い、この世界こそが猛獣の檻。
目の前に立ちはだかった怪異、「なんや、ねんな」震えた恵が、泣き声を叫ばせる。
「なんやねんなぁこれぇッ!」
それは大きな口であった。目も鼻も何も付いてない、ただ丸い肉を引きずり、手足も短い、大きな口。食べる、為だけの、身体。
二人の少女にまな板のように並んだ歯が向かう、高速で、
かわそうとするみあお、だが、恵が重りになり過ぎた。かばう? けど、あの口では、
丸呑み――
背筋に、恐怖が、具体的な形として、奔った時、
生命の危機が転がった時、
その時こそ現れる、約束。
現実を捨てるよう瞑った瞳と、立ち向かおうとして開けた瞳、みあおは後者で、世界を把握出来るのは少女だ。
起こった、事は、「りーぜんと?」
殺し合いの異界には不釣合いだろう、リーゼントは、バラエテ異界で行われる、番組の物だったから。だけど、リーゼントが救った。
巨大なリーゼントが口だけの身体に突き刺さり、そして供に、まるで泡のように消えた。浄化、という言葉が浮かぶ。一体何の仕業、
「敵は多いようじゃな局長……」
声が響く、
「いや……たいした事はあるまい……」
良く聞いた、恵の番組から何度も響いた、声が鼓膜に届いてる、聞こえる。
「今夜はわしとお主で」
姿が見える――
「ダブルリーゼントって既にもう誰かおるではないか!?」
血を流す異界でも、
相変わらず彼女は彼女なのだ。変化しない、人、快活で、面白がりで、
例え羽根の生えた悪魔が急襲し、「危ないっ!」とみあおが叫んだとしても、不適な笑みは絶やさずに、
腕を、回しながらこう言うんだ。
「変身ッ」
発光する、その光に、悪魔は消えていってしまう。その只中で、
トウッという雄叫びとともに、空中へ飛ぶ少女が居た。風の力を借りたのか、小柄な着物をまるで自分と同じ苗字の男が変身するようなアーマーに変化させ、一つ違うのは仮面を付けず、戦艦のように雄雄しい、
リーゼントが、決まっている。「母よ、心配するで無い」すとりと荒廃した地に降り立つ、
熱く謡えよ青春の音を! 永久に語れよあの夏の日を! 俺達が、風になった日、可愛いあの子とにゃんにゃんした日ッ!
――こんな異界でも、貴方はそうしてくれている
恵の涙目に暖かく映る、
「リーゼントライダーッ! ここに参上ッ!」
本郷源という少女が居た。
◇◆◇
上社房八という男が居た。
召霊師……五行とは違う、別次元の魔術師の男が居た。アフロドッグブリーダーの男が居た。昔ある学園で退魔師をしていた男が居た。カリスマ美容師の男が居た。アフロ教信者の男が居た。娘の前に風呂を入る事が許されず、寧ろ入った後も許されず、シャワーで澄まし、衣服も別々に洗濯される、娘との距離に嘆く男が居た。
、
そして、
伝説の着ぐるみ師の男が居た。
「着ぐるみとは、幸福です」
43歳なのに洒落たメガネをかけているのは、カリスマ美容師だからか。自ら崩したビルの瓦礫に腰掛ける、下にあるのは、人をやめてしまった者達。醜いけど、可愛そうな、心が痛む者達。その中に幾つの人が巻き込まれてるのか、幾つの苦しみがあったのか、
この異界は、最悪だ。……カエルの着ぐるみを胴体に付けて、頭部だけを露出した房八はそう一人ごちる。「ウレタン、合成樹脂、本皮、毛皮、金属、プラスチック、世の中にある森羅万象が、着ぐるみになります」
だから、異界が素材で何が問題であろう、そう呟いた時、
瓦礫の隙間から白い何かが這って、浮く。低級霊だ、雑霊だ。
憎しみの権化、解り易く言えばそうなる。聞く耳持たぬそれのそれに、房八は続ける。「……素晴らしい」
にこりと微笑んで、「何時まで着ても着飽きぬ物です、身体にフィットしたり……しなかったり」語り続ける、続け、ながら、
電車のように突っ込んでくる霊体――
「中がサウナとなろうとも、汗の臭いが篭ろうとも」
人差し指の腹で、押さえた。普段彼がする死霊との話し合いでは無い、単純な動作。
それくらいは力が甦ってきた、か、
「着ぐるみを着ている充実感の前では、透明に近く色あせる」
だから別に大丈夫だろう、おそらくは張り合えるだろう、そう思いながら、視線を上にする。着ぐるみについてを、語っていたのは、けして物言わぬ空気じゃなく。物を言う、彼なのであり、
「着ぐるみとは、人生の幸福」
立ち上がる。
「幸福と書いて、しあわせと読む」
立ち上がり、表情を変える。
憤怒の色に表情を変える、そして、房八は叫んだ。
「その幸福を誰が壊せようかッ」
カエルの着ぐるみを着た中年が、「誰にも、彼方にも壊せるはずが無いっ!」叫ぶのは、
青い姿の。
青の子。「……真実ヲ、隠シ続ケテモ、カイ?」そう言葉を落とされて、「真実と供に生きる、それが着ぐるみです」
「ハハハ、成ル程ダネ、流石言ウ事ガ違ウ、伝説ノ着グルミ師トナルト」
「……気になっていた事があるのですが、よろしいですか? 彼方に自分の愚かさを気づかせる前に」「ドウゾ」
「私はバラエテ異界を傍観してました、まぁ、テレビで見ていたというだけですが。……だからこそ私はここに来た、訳ですが。源さんに誘われて」
けど、一つ疑問。異界に訪れた事の無い私を、
何故彼方は知っている、いや、
「何故ここの異界の方は、知っているのですか?」
倒し続けた霊、人間、話し合いで丸め込んだ霊、人間、
その中の幾つかは、上社房八を知っていた。何故この殺しあう異界が上社房八を認識しているのか。
答えは単純で、「コノ異界ハ、君達ノ東京ヲ基本トシテ誕生シ」
既に三年が経過した、と。
「……異界ノ外ノ、君。ソシテ、異界ノ中ノ、君。霊ヤ人達ガ聞イタノハ後者ノ君」
ただそれだけの事だよと、言って、三年間で、ここまで変わるもんだって。「他ニ質問ハ」
「……いえ」
三年後、
娘と自分の関係は、どうなってるのだろうか。
虹の端と端程に、開いてしまっているのか。
……知ったとしてもしょうがない、この異界は、自分とは関係ない、けど、
着ぐるみの不幸を見逃す訳がいかず、「それに、私達の東京に、関係ない話じゃなさそうですしね」
「……流石」
伝説の、と青の子が言った時、
房八はカエルの腕に筒をはめた。唯の筒をはめた。
だがそこからは唯の所業では無い、彼の足元が途端、騒がしくなる。いや、瓦礫からだけじゃない、空気が震える、四方八方が彼に呼応する。
雑霊が、
蜘蛛の糸のように収束を初め、
腕に、筒に、集まり、そして、
「彼方は私達の東京に、いや、世界に」
――現実化という法則を使って
「この異界を着ぐるみにして、着せる気だ」
そして何百もの霊を閃光威力破壊強力空気が潰れる世界が焼ける近くに居た夢の一つ一つ乱れる崩れる必殺――
魍魎砲が、断末魔の音をあげながら、
笑う青の子に向かっていく。
◇◆◇
「リーゼントライダァァァァ、パァァァンチッ!」
活躍である。
「リーゼントライダァァァ、キィィック!」
疾風怒濤の大活躍である。
「リーゼントライダァァァ、チョ、ん?」
完全無敵で疾風怒濤の超大活躍、をもって、本郷源、おでん屋オーナーは、
殲滅、と、人間の追っ払いを完了した。代償は倒れた木や折れた電柱、だが生命二つを護れたのだから、そう満足そうに笑い、彼女は振り向いて、「見たか局長殿ッ! これでわしのリーゼントライダー主役の座は安泰」
が、
彼女は座り込んで、うつむいている。
みあおが肩を揺らして、声をかけている中。
「……あのう、局長殿?」
リーゼントを上下に揺らしながらそう声をかけるが、答えない。みあおが肩を揺らして、声をかけても、声を、「恵、恵っ」
動こうとしないのだ、いくらリーゼントライダーの活躍で敵が退散したとしても、ここが危険極まり無いのは確か。
もっと安全な所で無ければ、みあおの策は、「恵ってば! 早く行くよ、早く、行って」
恵の異界を取り戻すのッ!
言葉が、
世界に突き抜ける。本郷源も、海原みあおも、沈黙する。
その静かを破ったのは、今まで黙ってた女である。「……取り、戻す?」
「……そう!」みあおの顔がぱぁっと輝く、
「みあおの考えだとね、みあおのお兄ちゃんは、《大切な人》が殺されるのが嫌で、死んだ恵を着せたの。……多分、異界の中の人に着せれば、恵が実体化というか生き返る事も考えて、今みたいに、……多分だけど」
「大切な人、か?」会話の蚊帳の外は嫌なのだろう、源、「確かにそれだと辻褄があうのう」
「うん、だから出来るだけ安全な場所で、その大切な人に恵を脱いでもらう。恵はもう現実化してるんだから問題ないよね、そうしてから」
海原みあおは明るく言葉を。「その大切な人に、恵のお兄ちゃんを着てもらう」
、
恵の、兄を?
「……着せる力を、利用するのか? しかし局長殿の兄は――」
リーゼントの表情がくもったのは、お空に浮かぶ恵の兄が死んでいる姿を見ているから、
だがそれはみあおも承知、
「大丈夫なはずだよ、恵のお兄ちゃんも幽霊になってるはずだもん」
「ふむ、で、その後は……おおもしかしてみあお殿っ!」
うん! と笑顔になる少女に、また少女も笑顔を浮かべて、
「神楽庄二に恵を着せるっ!」
「記憶のある恵なら、神楽、というか、あの青い奴ものっとれないはずだから。あとはもう一度恵のお兄ちゃんにバラエテ異界を作ってもらって」
「おお全てまるっと元通りじゃぁっ! 天晴れじゃみあお殿っ、褒美にこのミレニアムアフロを進呈」「いらないよぉ」
何ぃぃこのアフロは千年に一度しか取れぬ至高の一品、って、
何時もの、鈴木恵のかもし出す、雰囲気、
「ここは、東京なんやろ……?」
壊すのは彼女自身、「もう、無理やて、いくらやっても」弱音、泣いて、
力なく笑う。
「うちは嘘や、この異界の嘘や、……嘘が、ほんまになったらあかんやん。ええ、もう、ごめんなみあお、おでん屋」
うち、
「とっとと消えて」
――パァンッ!
………、
平手が、頬を打つ。
みあおの平手が恵の頬を打つ。「み、みあ、お……」「み、みあお殿?」
呆然とする二人の前で、少女は震えている。感情は悲しみ、いいえ、
怒り。「やるったら、やるの」
、
「やるったらやるの! 出来ると思う、思わない、じゃなくてやるのっ! だって、だって、やらなきゃ、何かやらなきゃ!」
恵が居なくなっちゃう!
「嫌だよそんなのッ! 恵が消えて、消えたら……恵ぃっ!」
まるで子供のように、子供は、
泣きじゃくりながらそう堰を切る様に、言って、その後は、
恵の胸に、頭を付けた。「……やろうよ、恵」
嵐が去った後のような静寂、の中、
「そ、その通りじゃ! みあお殿の言うとおりっ!」
決め台詞を取られた形で、まるで慌てて源、
「だいたい、大阪がギャグで東京がシリアスとは誰が決めたのじゃっ! 大阪の全国区のお笑い番組なぞ探偵ナイトスクープくらい、しかも深夜ッ!! それに炭水化物で炭水化物を、つまりお好み焼きでごはんを食らうのも関西限定と思われるが、否、否っ!じゃっ!」
腰に手をあてて脈々と、つらつらと、「東京にも古来からダブル炭水化物、即ちラーメンライスがあるでは無いかッ! そして、大阪と比べて人情が無い、それはとんだ勘違いッ、墨田区に行って見よ、広がるはこてこての下町。しかも演芸小屋が立ち並んでおる、どうじゃっ!」
―――、
………、
………ええ、と、
「……あの、どうやと言われても」
みあおと一緒に、人差し指ビシィっとした源を見ながらの、冷や汗掻きながらの恵のセリフ、
「それで結局何が言いたいん?」
「うっ」
痛い所を突かれたのか、狼狽する実はハムスターの獣人であるがあまりそうゆう事は知られて無いおでん屋、とりあえず改まって、
「つ、つまり、わしの目が黒い内はぁ、東京をシリアス、無人情の街とは言わせんのじゃあっ! へん〜しん、とおっ!!」
「もう変身しとるがな」
なので、軽く宙に浮いた後、元の姿の侭着地する本郷源である。バツが悪い、物凄くバツが悪い。だけど、
それに救われた女が、いや、もう一人、みあおにも、つまりは少女達に救われた、
鈴木恵、
「おおきにな、二人とも、てかみあお」「おお、さらりとわしを除外しておるっ!?」
流石ボケの使い所を心得てるのうと源、いや、二割本気入っとるけどな、と恵、
「めぐ、み」
「あーごめんごめん、うちが悪かった、へこんでた、どうしようもない位へこんでた」
せやけど、
「ここまで言われて元気でーへん奴はおらんて」
そう言ってニカっと笑う、みあおの顔に、また笑顔の光色が戻る。
そして、開口っ、
「よっしゃ! もう敵もおらんみたいやしみあおの計画を発動するでッ! つまりうちはもう実体化しとるから、うちを兄ちゃんの大切な人に脱いでもらってッ!」
おおーと盛り上がる三人、であったが、次の一言、
「どないするん?」
でずっこけた、正しくバラエテ異界のノリである。「どうするって、恵出来ないの!?」「当たり前や無いかい! だいたい着ぐるみっちゅううちがどうやって」「ふむう、局長殿が着ぐるみじゃからのう、ここはリーゼントライダーチョップで局長殿を切れば中から」「死ぬっ!? 出血多量で普通に死ぬてぇ!?」元通りの何時ものノリ、
断絶する現象。
どさり、と、
音がした。恵の、傍で。
「……え?」
音に、する方、振り向く、法則、
バラエテ異界だろうと、殺しあうこの異界だろうと関係無い、
向けば、
身体がある。
眠っている身体がある。
恵から零れたような態勢――けど、けど、
「大切な、人?」
源には見覚えが在り過ぎた、
髪が長いけど間違いない――
―――あやかし荘管理人の
因幡恵美。
同じ、場所に、住んでいる、者。
でも、髪が、長い。というか、大人、びている。
三年後みたいな。「大切ナ人ダッタ訳ジャナイ」
この声は、
この音程は、「タダ、殺サレソウナ、人ダッタ。……タクサンノ女達ト一緒ニ」
「ホモショタ、お主」
それは君の思い込みだよと、ああでも、君の知ってる人、つまりとある学園に居た人を元にしてこの身体は、生命の無い身体は鞄から出たかもしれないね、と、そう源に告げながら、
青の子は。
「ダケド可愛ソウダッタカラ、恵ノ兄ハ妹ヲ着セタ」
同じ名前、っぽい、という偶然を使って。唯、それだけの事、
それは闇のような静寂が訪れるには、充分な言葉だった。
だがそれを、許せない少女が居た。「ホモショタ、今お主なんと言った」「僕ハ、違ウ。ソウダナ、青ノ子ト呼ベバイイ」
「おぬしに正体などあるものかっ!」
鮮烈な声、そして、「お主、今なんと言った! 恵美殿と一緒に、たくさんの女じゃと!?」
それは焦りにも似た――まさか、想像したくない、けして、
だが、
「君ノ世界ニハ関係ナイ異界ノ話ダケド、ネ」
想像通り、
、
あやかし荘の彼女達は、この異界における住人、は、
殺されたよ。
、
三下に。
、
「嬉璃モ含メテ」
◇◆◇
ふざけた異界、
三下が、人を殺した?
あやかし荘の彼女達を。
◇◆◇
三年という月日は、それ程残酷なのか。この、異界は、異界は、
「……おかしい、よ」
みあおの声、「どうして、皆殺しあうの」
答える、のは、
「ソレガ僕ノ願イダカラ」
元凶。へ、
「貴様あぁぁぁぁぁ!」
こいつはあのホモショタじゃ、無い、そう確信して、リーゼントライダーが、飛ぶ、身体を回転させながら、「リーゼントライダァァァ、」
クロス、キィィックッ!
、肉体の力で射抜こうとっ!
だが、かわす、青の子はかわす、嘲るように、笑うように、「アアソレト、ミアオチャン、君ノ計画ダケドモウ無理ダヨ」
、
「ダッテ、恵ノ兄ハ僕ノ中ニ眠ラセタカラ」
その力を使って――恵と恵美を分離させたのは青の子
「ジャナイトコノ異界ヲ、君達ノ世界ニ着セラレナイカラ」
「くぅっ!」
空中で方向転換する源、相手の頭を殴り倒そうと、だが逃れる、素早い、青い光を発光させる。まるで気にしてないように語りを続け、
「ダカラ、君達モ、殺シテアゲル、サッキノ男ミタイニ」
「房八、の事か」
源の目が見開いて、「お主のような者にやられる訳がなかろうっ!」
「ソウハ言ッテモサ」
漂いながら、
「トッテモ無様ナ、死体ダッタヨ、顔ガ崩レテ肉ガハミダシテ! 死ダヨ! 僕ガ望ンデルモノ! 死体!死体!」
死体、と、言った時、
源、「なるほどのう」
何故か笑って、
「流石伝説、じゃ」
何を言って、
その時青の子の腹を、悪鬼の叫びが貫いた。
霊の集合だ。
「………、」
………、
腹、穴。
「ア! ァッ! ァァッ! ァッァ!ウァアアァッァッ!」
腹、無い所為、音とも言えない音。血は流れない、流れないが、青の子の光が弱まっていく、弱くなっていく、ダメージという単語が彼に適応される。今までの余裕が嘘のように剥がれ落ちて、瞳には惑いが虫のように這い、何がの問いを頭で幾度も幾度も、
伝説が、目の前にあった。
それは明かに、死体であったはずだ。だが、
その死体は動いてる。「最初に言ったはずですけどねぇ」
崩れた顔は、怪物の皮膚だ、
「森羅万象全て、着ぐるみの素材となる」
流れた血は、身体を傷つければ溢れる。
カエルの着ぐるみ、それに付いた汚れ、落としていく、落として、いけば、
ただのカエルの着ぐるみの姿、「死体の着ぐるみは捨てました」
魍魎砲を構える。
「彼方という着ぐるみを潰せば、彼女の兄は復活する」
彼の魔術が火を噴いた瞬間、源が再び英雄の技を繰り出した瞬間、青の子がぽっかり空いた腹を押えて、逃げ出そうとした瞬間、
海原みあおが立ちふさがった。
戦闘に移行――
ただ眺める、恵の前で。
◇◆◇
海原みあおは普段は少女だ、だが幾つもの自分を宿している。
ハーピー、その一つ。
今や手は捨て去って、自由の象徴翼が生えて、浮遊を開始、そして、
彼女の翼から、羽、一つずつ、力、青の子に突き刺さる、燃え上がる。それが楔となる、強い力。戒めを無理矢理ほどいて、よろけるように言った先には、
源の腕力が物を言った。大岩すら砂に変える衝撃が、青の子の顎を粉砕する。続いて、
因幡恵美に、瓦礫の着ぐるみを着せて、安全を確保した後の、房八。
「魍魎砲、」
百か千か萬すら行くか、
「どかん」
あっけない一言で、
天地創造すら塵に返さんとばかり、それくらいの勢いで青の子に放つ、体中全体で受けて、瀕死となる青の子。死ぬ、死、死、
それは彼が望んだ事と言えど、
「マ、ダ」
まだ、
「マダァァァッ!」
死ぬのは己が最後なりと、叫びながら空へ、だけど、
そこにはもうみあおが居る。「許さない、」
ハーピー、正確にはみあおじゃない、だが、泣いている。それが、
それがみあおの感情、「恵を、皆を」
彼女の翼が開かれる、そして、
あおぐ。
錐揉みの風、それに乗って、
千の羽根が舞いて、
青の子に突き刺さる。
力、力、霊力、
爆発するように解放する。千切れる、四肢が千切れる、だが、まだ、まだ、
穴の空いた胴体を消滅させたのは、
伝説が放った雑霊達だった。
叫びが神経を、もう存在しない神経を駆け巡るように、
食らわれる、ような、だが、まだ、まだ、
「マダ」残っている頭部の耳に、
リーゼントライダー、そう枕の言葉が聞こえた。
みあおの起こした風に乗って、そして、
みあおの起こした風に乗って、
本郷源。「ッ、リーゼントライダァァァァッァッ!」
二度目の叫びっ! 今必殺! 放つ、全ての怒りを込めてッ!
――この世界の存在だとしても
彼女が失われたのは――
「超スピン、キィィィィィックッ!」
青の子の、
、
頭が、破壊された。
◇◆◇
……だけど、
「マ、ダ」
◇◆◇
「えッ!?」「何っ!」「なんじゃと!」
源が、力尽きて少女に戻ったみあおを抱えながら降りた時、その声は響いたのだ。「ど、どこから聞こえておる!? 完全にあやつは消したはずじゃぞっ!」
本気でテープレコーダーを探し始める源、だがそんな物が見つかるはずも無く、ひたすらに声が、まさか、
「不死身とでも、言うのですか?」
房八の目の先には、
口だけの、肉塊が、青い光が、「……なるほど、霊体だからこそ、神楽庄二君という着ぐるみを切れた事を忘れていた」
魍魎砲は霊の集合体だ、だから霊体も傷つけられる。海原みあおのハーピーの羽根も同じく、だが、
本郷源に霊力は存在しない。その事を思い出した房八は、再生を始めている頭部に魍魎砲を、が、
「っ、雑霊が、居ない」
使い切ってしまった。この周囲にもう霊は居ない、海原みあおは、全力を使ってしまった。どう、する、
「よし、わしが金メダルよろしく、この頭をグルグル回して投げ飛ばすのじゃ!」
本気でそう考えて、実行しようと頭に駆け寄り、
それに足をかけて転ばす人。どたぁ。「ったぁ!? な、何をするのじゃ何処の誰が!」
文章の組み立てが無茶苦茶なセリフ、生まれた原因は、
「きょ、局長殿!?」
「……あかん、どう考えてもあかん。……今のうちらじゃあいつには勝てん」
かといって絶望した様子でも無く、何か策があるような、「こういう時鈴木家には、伝統的な戦い方があるんや」「で、伝統?」「あの明かりを照らす……っ!」「そりゃ電灯じゃ房八」
くだらないボケとツッコミは無視決め込んで、みあおにだけ答えて鈴木恵、
「逃げるッ!」
普通にずっこけかける、みあお、だったが、
「そ、そうだね。逃げるのも立派な手段だもん!」
「せやせや、一旦ここ離れて状況立て直すでッ、あんたらん所化け物みたいなんがいっぱい転がってるんやろ、依頼したら一発やないかッ!」
そう叫びながら逃避行開始、目指すは、
「しかし、依頼料はどうするのですか?」
「……おでん屋、任せたッ!」「お断りするのじゃ」「な、なんやとぉ!? ちょっとぉ、うちとおのれの仲やん」「出汁に脱着式アフロを入れたのは何処の誰じゃったかのう」「うわーそんな古い話出さんでも」
バラエテ異界から出てたKAN-JOU-SEN、あれが生き残ってるかは解らない、けど、それが唯一の異界の外へ、東京へ、帰る方法。向かって、
、
みあおは、不安だった。
恵が、無理して笑ってるようだから。
でもそれは、今の悲しさを、兄を失う事とかの悲しさを、隠す為だと思ったから、
あんな決意だとは思わなかったから――
、
◇◆◇
鈴木恵という少女が居た。
◇◆◇
上社房八の仕事は、美容師だ。
仕事の合間に、写真を見ている。
娘の、写真だ。
その時、どうしたんですかって、店員が聞いてきて、
それに、少し困った風に笑いながら、
(嫌われても、嫌われても、嫌われても、嫌われても)
娘が生きているって、
いい事だなって。
とても当たり前の事ですけど、って。
何処か、寂しそうな顔で。
◇◆◇
本郷源の仕事は、色々だ。
屋台を引いたりもするし、世界征服を企んだりもする。
だけどその傍らに居るのは、嬉璃という座敷童だ。
茶菓子を食べながら、供に、通販を見ながら、
生きているというのは良い事じゃな、って、
嬉璃には聞こえない、声で、
何処か、寂しそうな顔で。
◇◆◇
海原みあおの仕事は、なんだろう。
まだ小学生だから、関係ないか。
今日は何して遊ぼう、宿題もしなきゃ、ごはん何かな。
姉。
姉、母、父、自分、
生きているというのは。
……生きていない、というのは。
「生きてる」
、
「恵は、まだ、絶対……」
生きてる――
◇◆◇
あの日の事、
一行が異界から逃れようと、まだ崩れてなかったKAN-JOU-SEN乗り場に辿り着いた時、急いで東京行きの電車に乗り込もうとした時、
鈴木恵は立ち止まった。
「恵、どうしたの?」
「ふむ、さては無線乗車を気にしておるのか! 安心せい、わしなど毎日のようにタダ乗りじゃっ」「まぁ、今はお金を払える状況じゃありませんからね」
カエルの着ぐるみはそう、源の声に反応したけど、
恵は何も言わない。
けど、笑っている。
みあお、「恵……?」何も言わず微笑んだ侭、みあおと源に近づいて、屈んで、
ふさりと、
右の腕をみあおに、左の腕を源に、
そうやって、抱える。「って、え、恵?」「な、なんじゃいきなり、気持ち悪い」
「あんたが居てくれて、楽しかったわ」
「……ッ!」
みあお、「駄目、だよ」源、「何を、今更」
気づいたのは、房八も、「恵さん」
今更、
「おでん屋も、なぁ、あんたみたいなんおると、安心する」
で、そこのおっちゃんは、「ぶっちゃけなんの思いでもあらんけど」「………」
少女二人が、こう騒いだ。小鳥のように。悲壮に。
「なんで、なんでこうなるの! 恵、逃げるんでしょっ!」
「そ、そうじゃッ! 何をふざけた事を、ここで、お主、それはっ」
ポンっと、
頭を叩いて。
二人から離れた後、房八に目をやって。「お願い」
「……それで、いいのですか?」
「いいも悪いも、うちはここの人間や。……自分でなんとかしてみる。ってこら何を勘違いしとるんや自分ら、別に死にに行く訳やないって」
ちゅうか、多分死にたくても死ねない、って、
「幽霊にはなると思う、けど、それ以上は無いやろ。それやったら勝てるかもしれん」
「本当はただ、足止めになるつもりで」
「それもあるな」
その時、ようやくみあおと源は、気づいた。青い光が、向かってきて居たんだ。
電車の速度なんか関係無い。
「ま、運が良ければあいつの身体ににーちゃんやショー吉みたいに眠る、で、運が良かったらのっとり返す、ショー吉のしてたみたいな事、やりゃあええだけ」
「恵、恵ぃっ!」「ふざけるでない局長! お主にそんなシリアスな」
そこまで言った源とみあおを、ポンと電車の扉に押して、「お、お、お、」源が電車の向こうに入った瞬間、
ガタァァァンッ!
「なぁぁぁっ!? リーゼントが扉に挟まって身動きが取れぬぅ!」
「ふわっはははぁ! かかったなぁおでん屋、ここはまだバラエテ異界っぽいから、リーゼントのお約束が実行されるんやぁ!」
そう、快活に笑った声も、
今は、遠くに聞こえる。
隔たれた扉、ガラス越し、
恵は寂しそうに笑って、こう言った。
シリアスなんてもんちゃう、阿呆な事、笑えへん、冗談、
だったら、だったら一緒に行こうよ、うちの家で、お姉ちゃんも居るから、
ごめんみあお、にーちゃんと……あのクソガキは置いていかれん、
(青の光がやってくる)
また後で助けに来ればいいじゃろう! 早くこのリーゼントにっ、
……いやそう無闇にぶんぶん振ったら、思わず掴みたくなるやないかい、
(青の光が、強まる)
……あの着ぐるみを着る時、恵さん、恵さんで居てください、
カエル姿の親父が言ってもサマにならんなぁ、
(青の光が、)
、
(降臨する)
すると、恵は扉から目をそらして、こんな事を聞いた。
うちがショタ好きでショタ嫌いな理由、兄ちゃんの霊持ってるんやったら知ってるやろ。
今だ傷ついている青の男は、簡潔に答える。
初恋が小学生、フラれたのも小学生。憧れと恐怖の対象。それを抱えて、事故で。
アホらしい理由やなぁ、って、
そう、青の子に呟いてから、
再び電車に向いて、
恵、
「おおきにな」
、
「寂しいけど」
電車が発進する、みあおが狂ったように叫ぶ、源が怪力で扉を壊そうと、だが、電車が崩れていく、
バラエテ異界の終わりだと、房八は思う。
青い光がここまで届いて、移動する自分達に、恵、恵、恵、
恵、
、
青い光に、紅の色が、混じった。
◇◆◇
東京駅。
1914年、東京に建造された煉瓦の城。空襲を生き残った、東京の象徴的な。
深夜だから、無人のホームで泣いているのはみあおだった、不甲斐なさからだろうか、単純に、失ってしまったからだろうか、でも、まだ生きているはずで、生きていて、
ならば何故泣いてしまう。「めぐ……み」
名前を呟いて、
あんな異界、だから。殺しあう、異界に、彼女が残されたから。
そう考えて、けど否定して、
失ったのが、会えなくなったのが、寂しくて、悲しくて、
泣いている、
「泣けば、局長殿が帰ってくるのか?」
みあおに、
源の声、その声に、みあおは、だけど涙が流れる事を告げようと、「だって、恵が」
掠れた声を出した時、
歯を食いしばって、本郷源も泣いている。「泣いても、悲しいだけじゃ」
、
「泣いておるが、悲しいだけじゃぞ! 悲しくて、悲しくて、……悲しいだけじゃっ!」
ならば何の為にわしは泣くッ! なんの為、なんの、
「必要だからです」
一人、ホームの天井を見上げる男、
「でなければ、人は涙を手にしてません」
何度娘の事で泣いたのだろう、何度。悲しみとは、けして無くせない、そういう物のはずだから、だから、
「今は、泣きましょう」
誰も居ない駅で、
暫くそうやって、泣き声は続いた。誰の為か、自分の為か、彼女の為か、
永遠に、終わる物へ。
◇◆◇
かくして、夢は終わりを告げ、異界の人々はその夢を忘れ、
死にゆく異界が再開する。
◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
1108/本郷・源/女/6/オーナー 小学生 獣人
1415/海原・みあお/女/13/小学生
2587/上社房八/男/43/召霊師 伝説の着ぐるみ師 美容師
◇◆ ライター通信 ◆
まずは、ご参加いただきありがとうございました。
……モノがモノな依頼だけに、埋まるかどうか不安でしたのですが、このように集って、感謝の言葉が万でも足りません。ほんまおおきにです。
そして、バラエテ異界が終わった事は――謝罪、です、ほんま_| ̄|○
もともとは鈴木恵も消滅させる予定やったんですが、海原みあおのPL様と本郷源様のプレイングを見て、こんな形ですが、はい。
プレイングを参考にしたと言えば、着ぐるみ云々の事は房八のPL様のを。バラエテ異界を閉じてしまってこちらもすいまへん; いやぁあの悲哀っぷりは書いていて楽しかったです!(何)てか、伝説の着ぐるみ師ってあんな感じですかねぇ(聞くな
本郷源PL様のリーゼントライダーっぷりはお見事でしたー、ほんまやったら普通に募集してたはずですが、すいませぬ; しかし、ラーメンライスこの間負けてましたな(ドッチ
みあおPL様、海原一族でお世話なっとります。相関結んでるキャラだったのでそれっぽく……本当にありがとうございました。
とりあえず、次の異界が始まります。
尚、今回青の子の黒幕は? という事に対しては誰もプレイングで言及してなかったので、不明です。また別の形で晒します、といってもあんま関係あらへんかもしれまへんが;
とにもかくにも参加いただきおおきにでした。んではまた何処かでー。
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