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<東京怪談・PCゲームノベル>


茜の心を癒す人 中編

 あの、路地裏であった少女・長谷茜と出会ったあなたは、暫く彼女を世話することに。その中で彼女の悲しみなどを受け止めて、心を通わせていく。

「……私、どうすればいいのかわかんないよ。何もかも真っ白で……こわい」

 まだ、先にある運命に立ち向かえるだけの強さを持っていないようだった。
 彼女を元気に出来ることは出来るだろうか?


 長谷平八郎は、愛する娘の捜索を続けている。
 彼も分かっていた、今無理矢理連れ戻しても娘は昔のように元気になってくれないと……。しかし、一目見たいのであった。



 さて、アレから数日経ったのだろう?
 家にいる茜は単にぼうっとしていたり、事実蓮也しかいないこの男所帯の家の掃除を蓮也がいないときにやっていたりする。
 男の場合、やっぱり細かいところまでは目が届かないのが普通なので、食事とセットで綺麗な我が家を見た蓮也は驚きを隠せなかった。つまり、目を丸くしている。
 其れを「おかえり」と、少し恥ずかしそうに言う茜が可愛く見える、というおまけ付きである。
 考えてみれば、蓮也は大きな間違いを犯していると気付く。もう長い時間、彼女を此処に置いていること同棲と同じではないか、と。
 風呂の時間などは極力、茜の風呂上がり姿を見ないよう務めているが、朝のパジャマ姿の茜にはドギマギしっぱなしである。朝に強いんだろうか弱いのかよく分からないポケポケした寝起きの顔で、
「おはよう」
 とか、言いながら既に台所を使ってご飯を作る茜。
 
 どう見ても同棲だな。
 
 もうバレたら、恋人が知ると怒るだろうし(感情戻っている模様)、あの厄介なナマモノ達にからかわれるかもしれない。からかわれるのはいつものことであるが、少し困ったと思う少年18歳。
 しかし、前から思っていたことが、こういう形で実現したし、またこの状況でないといえないこともあるだろうと前向きに考えていた。

 茜としては、どうして蓮也は何も言わずにずっと此処に置いてくれるのか何となく分かっていたが、口にしない。恥ずかしいからということもあるし、既に彼女持ちの彼には流石に言いにくかった。簡単なことだが、
 ――好きなのかな?
 ということである。
 しかし、彼女は考えると赤面して蹲ってしまう。
 なので、食事の時は始終無言で終わる。

 ただ、食事が終わり2人で片づけをした後、一緒にTVをみていたりゲームしていたりで、極普通(?)であった。
「あー、まけたー!もういっかい!」
「どうだ、強いだろう?」
「むー、改造しているからだー! 私基本機体だよー!」
「でも、これでもまだだよ。そんなに戦果あげてないぜ」
「ぶー」
 やっているのは家庭用でのロボット対戦ゲーム。本来はアーケードだが、非通信用で移植されたようだ。
 雨の中で外に出られない日が続くわけだが、何とかうまくいっている模様。蓮也は茜を妹のように接して、茜は蓮也を兄に甘えている感じだった。

 就寝時間がきたので、眠るときに茜が一言、
「いつもありがとう、お休みなさい」
 と、いつも言う。
「ああ、お休み」
 電気を消し、お互いの寝室に向かっていく。
「茜」
「何?」
 思わず呼び止める蓮也。
「あのさ、天気予報では明日、晴れだな?」
「うん」
「山に行こうか? 家の中にいるのもなんだ……えっと……気分転換に、今頃なら紅葉もキレイだろうし弁当持っていかないか?」
 と、照れながら言う蓮也。
 茜の寝間着姿をもろに見たためである。
 其れはおいておき、少し別のことを考えてもいたからもある。
「うん、いいよ」
 ニコリと、しかし悲しそうに笑う茜。
「……よし、決まりだ。おやすみ」
「うん、おやすみ」
 と、2人は挨拶を交わして再び寝室にむかった。



 弁当は2人で作り、蓮也が好む山に向かう。
 向かうときに本屋に平積みされている雑誌には秋の行楽特集がされている。蓮也が行くのはその雑誌に載っていないところだ。穴場というのだが、実際は山の所持者に所在拒否か“何か”に取材を邪魔されているのだろう。
 電車に乗り、1時間弱。現地につき、歩く。
「わぁ」
 秋化粧の山道を見て、茜は感嘆の声を挙げた。
 今まで、足取りが重たい感じの彼女だったが、
「たしか、この先に湖があるって言ってたよね?」
 と、蓮也の手を取る。
「ああ、そうだ」
「ゆっくり、でも少し早く行こう」
「ああ」
 茜の笑っている顔を見て、微笑む蓮也。
 まぶしかった。
 また儚かった。
 しかし、まだ彼女の“糸”は迷路となっている。
 蓮也は皮肉な力だなと思うこともある。人の運命の糸を見て運斬で変えられるのは良い。しかし、見えるだけというのはどれだけ意味のないことか。いや、意味はあるのかも知れない。茜の糸の縺れ方は、悩みの象徴だ。
 ――前から茜が好きだった。しかし、今は別の子がいる。それでも、茜は大事な友達であり仲間だ。
 そう、今まで馬鹿騒ぎして遊んで、共に戦ってと色々な事をしてきた。今は彼女をすすむべき道に気付かせ、友達として支えることが最善なのだ。
 そう考えている蓮也の目には、儚い少女が踊るように秋化粧の山道を歩いていた。
 茜が、景色に見とれて、躓きかけるところを蓮也は素早く抱き留める。
「あぶないなぁ」
「あ、ありがとう……で、でも」
「あ、ごめん」
 抱き留めた瞬間、胸を触ったらしい。
 急いで、2人とも離れる。
「でも、助かったから良いよ。謝らなくても」
 照れながら、茜は言った。
「あ……ああ」
 暫くして、何かおかしかったのか茜は笑う。
 蓮也もおかしくなって笑い始めた。
 こうしたトラブルもまた、楽しいものだ。
 

 大きな湖にやってきた。澄んだ水が鏡のように秋化粧の山を映し出す。
「綺麗ね」
「ああ、昼飯にしようぜ」
「うん」
 2人はレジャーシートを広げ、弁当をだし、食べる。栗鼠や他の小動物が小首を傾げて近寄ってくるが気にしない方向にした。
「ここは穴場なんだよ、近場で湖あってキレイだし。何かあったときよくここに来てぼ〜としてるんだ。考えすぎず自分って小さいな〜って思える瞬間が。答えは出ないけどさ」
 と、蓮也が、自分の事情を話し始めた。
 家にいるときにはそんなに彼の実家の話しは聞いたことはない。茜は首を傾げる。
「今だから言うけど、前は茜の事気になってたんだよ。あやかし荘で会う前から」
「え? ええ?! ……いつ?」
 初めて出会ったのはあやかし荘だが、いつ頃なのか分からなかった茜。
「神聖都で、ハリセン持って義明を追いかけまわしていた時……ってのは冗談で、神聖都で一回であったんだ」
「むぅ、ハリセンのことは言わないで。ハリセンは私のとって神聖な武器だけど……。……うん」
「一緒にバカやって戦って、でも茜は義明だけ見てた。今は彼女一筋だけどさ。怖がらずにもう少しだけ周り見てみろよ。俺は義明の代りはなれないけど傍にいることはできる。互いに支える仲間や友達も沢山いる。俺は茜の傍でまた一緒に笑ってバカ騒ぎしたいって思うから」
 と、茜の頭を撫でる蓮也。
 妹を慰めるように、優しく。
「知らなかった。私の世界って狭かったんだな〜」
 茜は遠くを見た。
 蓮也は、その姿に義明と重なった気がした。
 織田義明は、天然であるがいつも視ている先は遠い。そう運命の糸の果てまで見ているかのように終わりのない道を見ている。
 しかし、蓮也は茜の迷路の糸は無くなった事に気が付いていない。
 栗鼠がちょこんと茜の膝に乗っかってきた。
「ドングリ無いんだけど?」
 それでも良いよと言う顔をしている栗鼠。
 蓮也は此処の常連なので、様々な小動物がやってくる。懐いているというより、仲間として認識しているようだ。
「心配してくれているのは、俺たちだけでなく自然もだって事だな」
「そうね。……霊木の声が聞こえてきそう……」
 茜の声に強い意志を感じた蓮也だった。


 電車でまた家に戻る。雨が降りかけている事で急遽早めに戻ることにした」
「あのね……。この雨、霊木が私を呼んでいるの」
「あの神社の?」
 茜の言葉に蓮也は訊くと頷いた。
「このまま、長谷神社に向かうよ。いい?」
「ああ、かまわない。茜が言うなら」
 蓮也は頷いた。
「あ、今度から君付けはなくていい。名前で呼んでくれ」
「え? いいの?」
「ああ」
 また蓮也は頷く。
「ありがとう、蓮也」
 茜は真剣な表情で彼の名を呼んだ。
 目の前にいるのは昔憧れていた少女の成長した姿だった。
 危うさも、はかなさも無い。
 有るのは、今から起こる自分の道を歩こうとする力強い“意志”だった。

 雨の中、電車は走り続ける。

To Be Continued

■登場人物紹介

【2276 御影・蓮也 18 男 高校生 概念操者】

【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高等部・巫女】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 『茜の心を癒す人』に参加して下さりありがとうございます。
 はい、一寸だけトンデモナイことが有りましたが、茜を友達、仲間として、またバカ騒ぎなどする、支えるという励ましと、自然の中に連れて行く事で、茜は立ち直ろうとしています。蓮也様の恋人に知られたらどんなことになるかはさておき。後編に続きます。
 茜の背景は異空間書斎〜東京怪談で起きた事件と同じですが、このノベルだけはパラレルです。今後中編、後編の行動次第で、茜がどうなるかが分かるでしょう。
 では又の機会があればお会いしましょう。

 滝照直樹拝