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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


『 猿の手 』

「やれやれ。わりかし我が店にはすごい物が来るけど、今回の商品はさらにすごい物ね」
 アンティークショップ・レンの店長 碧摩蓮は件の商品を手に取って「ほおぅ」と、溜息を一つ吐いた。
 何故なら彼女の手にあるモノは、とてつもなく誰もが心の奥底から欲しがり、そしてそれを手に入れた者は誰もが例外なく不幸な運命を辿るのモノだからだ。
 そう、それとは………
「さてと、あなたがこの店に来たからには、あなたは必ず力在る者に引き取られる。その人はあなたを使って何をするのかしらね?」
 蓮はそれを商品棚に置いた。
 そしてまるでそれを待っていたかのようなタイミングで客が入ってくるのだ。しかもその客はそうする事がさも当たり前かのように蓮の隣に立ち、そうしてそれを手に持った。


 そう、持ち主の願いを5つだけ叶えるという【猿の手】を。
 しかしあなたは知っているであろうか?
 その【猿の手】によって5つの願いを叶えた者は、最後には誰もが不幸になっている事を?


 蓮は【猿の手】を手に取った客にそれを告げ、そしてその客はそれでも【猿の手】を買っていたが、数日後にはその【猿の手】はアンティークショップ・レンに戻ってきた。
 ――――新聞の三面記事にはその先代の持ち主が命を落とした記事が載っていた。


 そしてあなたもこのアンティークショップ・レンを訪れて、やはりその【猿の手】を手に取ったのだった。



 ――――――――――――――――――
【Begin Story】


 俺がその店を訪れたのは別に意味があった訳ではない。
 ただ何となく足が向いて、ただ何となくそれを手に取っただけだ。
 そう、ただそれだけで……
 でもそいつはそんなただそれだけの俺にこう話し掛けてきた。
『よう、あんたには願いはねーか?』
 だなんて話し掛けてきたのだ。
「………」
 俺は小首を傾げる。
 そして周りに誰も居ない事を確かめて、俺はそれに声をかけてみた。
「俺に話し掛けてきたのはおまえか?」
『ああ、そうよ。俺様は【猿の手】って言ってな、てめーら人間の願いを叶えてやるありがたい存在よ』
 そいつはなんだかものすごく偉そうに言った。
 なんとなく俺はムカついて、その【猿の手】を半眼で睨んでやる。
 できる事なら指ぱっちん攻撃ぐらいは喰らわせてやりたいが、さすがに店の商品にそれをする事はできない。
 と、そうやって俺が【猿の手】を睨んでいると、
「あら、その商品、気に入った?」
 店の人が、俺にそうやってにこりと営業スマイルを浮かべて、話し掛けてきたのだ。
 もちろん、俺にはそれを買うつもりは毛頭無い。そう、誰がこんな意味も無く偉そうな奴なんて欲しがるもんか。
『おいおい、そんなつれねー事を言うなよ、相棒』
「って、おい、誰が相棒だよ?! 馴れ馴れしい事を言うんじゃねー」
 って、思わず突っこんじまった俺。はっとして、両手で口を押さえるがもう遅い。
「…………」
 愛想笑いを浮かべながら俺は隣にいる店の人を見る。
 彼女もにこりと笑った。
「あー、えっと………」
『他人から見たら、てめえは独り言を喚いている変なガキだよな』
「って、だからおまえに言われたかねーんだよ。誰が変なガキだよ。誰が?」
 って、やっぱりまた【猿の手】に突っ込んで、俺はものすごく非常に、超、激気まずい想いをしながら、店の人を見て、そしてやっぱり店の人はにこにこと俺を見ながら笑っている。
 だけどきっとこれは俗に言う営業スマイル、笑顔の仮面ってモノで、ガキでも俺はお客さんだから、だから彼女はそういう風に微笑んでいるだけで、内心では………
(あー、くそ、こいつのせいで!!!)
『何だよ、相棒。その俺様のせいだ、っていうような目はよ。てめえが勝手に俺に向って喚いているだけだろう? なあ、相棒さんよ』
 いひひひひひと笑う【猿の手】。俺は頭の中で、その【猿の手】に重石をつけて、海の底に沈めるシーンを想像しながら、同時に必死に言い訳を考える。
 ――――だけどどう言い訳を考え、それを口にしようが、俺は見た目は包帯が巻かれた小さな枯れ木みたいなモノに向って独り言を言っていた変なガキだ。
 しかし、そう悔しがってへこみまくる俺に、店の人はにこりと笑って、
「あなた、名前は?」
「冷泉院蓮生」
「そう、蓮生君。あなたにはこの【猿の手】の声が聞こえるのかしら?」
 と、信じられない事を訊いてきたのだ。
「あ、え、あ、おう」
 俺が頷くと、彼女は顔をしかめる事も無く、何やら何かを納得したような感じで頷き、そして、その【猿の手】を手に取った。
 そうして一体何をしてくるのかと思えば、
「はい、これをあなたに譲るわ」
 と、これまた目が飛び出るような信じられない事を言ってきたのだ。
「はい?」
 ………【猿の手】を受け取りながら思わず俺は素でそう訊いていた。
 あなたに譲るわ、って、つまりそれは………
『だから言っただろう? 相棒だってよ』
 いひひひひと笑う手の中のそれを見つめていた視線をもちろん、俺は店の人に向ける。
「じょ、冗談だろう?」
「いいえ、冗談ではないわ。あなたにならこれを譲っても大丈夫でしょう。だからあなたにこの【猿の手】を譲るわ。この【猿の手】はね――――」
 【猿の手】について説明する店の人の声を聞きながら、俺はやっぱり半眼で【猿の手】を睨み据え、
 そいつはとてもおかしそうに、
『よろしくな、相棒』
 と、俺に話し掛けてきて、笑った。



 ――――――――――――――――――
【ひとつ目の願い】

 俺が手に入れた【猿の手】。
 そいつは、
『いひひひひひ。よろしくな相棒』
 だなんてとても慣れ慣れしく俺に話し掛けてくる。
 俺は肩を竦め、そして疲れた溜息を吐いた。
「なんだって、俺がこいつの相棒なんかに」
『だったらよ、願い事5つ、言ってみなよ』
「あ?」
『だからよ、言っただろ? 俺様はてめえら人間の願い事を叶えてやる存在だってよ。俺様はな、てめえら人間の願い事を5つ叶えてやる事ができるんだよ』
「願い事、5つね」
『ああ、そうだ、すげーだろう?』
「ああ、凄いな。でもさ、本当なのかよ? 本当におまえは願い事を叶えられるのかよ?」
 俺が疑い深そうにそう言うと、【猿の手】は、
『な、てめえ、言うに事欠いて、何を言いやがる。この俺様に本当に願いを叶えられるかだと? だったら今すぐに願いを言え! さあ、言え!!! そうしたら俺様がてめえの願いを全部叶えてやる!!!』
 って、ものすごくムキになって言ってきた。
 ………ほんの少しそんな【猿の手】を見て、すかっとした。
 そしてさらには悪戯心が芽生えてしまう。
「鯛焼きが欲しい、なんて願ったら、タイヤと木が出てきたりしてな」
 だなんてからかってやったら、
『キィーッ。このクソガキが。しばくぞ、我!!!』
 と、それはもうものすごい勢いで文句を言ってくる。
 今度は俺の番、とでも言うかのように俺はいひひひひと笑ってやった。
 にしてもだ、鯛焼きでタイヤと木は冗談だとしても、ひとつ俺には疑問に想う事がある。
『さあ、言え!!! 早く言え!!!』
 喚く【猿の手】。
 俺は溜息を吐く。うるっさくってかなわないからだ。と、まあ、だからちょうどこいつもうるっさいし、ひとつ目の願いはこれでいいかな?
「んじゃ、ひとつ目の願いな」
『おうよ。何でも来な』
「願い事、5つって、おまえひとつで5つか、それともひとり5つか、どっちなのか教えてくれねー?」
『・・・』
 しーんと、【猿の手】は押し黙った。
 そして、
『おまえ、それは本気で言ってんのか?』
 と、とても渋く静かな声で、俺に訊き返してきた。
「ん? ああ、本気だよ? だってわかんねーんだもんよ。だからさ、教えてくれよ。それが俺のひとつ目の願い」
 って、言ったら、
『馬鹿か、てめえはぁぁぁぁぁぁぁ――――――ァッ』
 と、それはもうすごい勢いで言ってきたのだ。
『本当におまえはそれでいいのか? そんな事で、貴重な願い事を使うのか???』
 俺はまた溜息を吐く。
「だからくどい。そうだって言ってるだろう? 教えてくれよ、ってか、叶えてくれよ、俺のひとつ目の願い事をさ」
『あー、もうてめえ。わかったよ、叶えてやる、その願い。ただし、それもちゃんと5つのうちのひとつとしてカウントされるからな。い・い・な!!!』
「ああ、いいって」
『んじゃ、教えてやるよ。俺様が叶える願い5つとはひとり5つだよ。おまえはもうこれで4つだけどな。はん、ざまーみろ』
「って、なにいじけてんだよ?」
 俺はやっぱり溜息を吐いた。



 ――――――――――――――――――
【二つ目の願い】


『さあ、蓮生。おまえの願いはあと4つ。次の願いを言え。今度こそ、ちゃんとしたまともな願いを言えよ』
 ………。
「ったく、何を偉そうに言ってんだよ、こいつはよ」
 俺は頭を掻きながら、溜息を吐いた。
「んー、でもさ…」
『でもさもへったくれもねー。さっさと言いやがれ』
「や、あのな、実はよ」
『実はよ、何だよ?』
「願い事がねーんだわ、俺」
『あ?』
「だからさ、俺には願い事が無いんだよ。別に想い浮かばねーもん」
 そして再び、沈黙が訪れた。
 その沈黙はやっぱり言うまでもなく、
『だー、何が願い事がねーだ。おまえにも嫌いな奴が居るだろう? その嫌いな奴を殺してくださいとか、不幸にしてくださいとか、好きな女が居たら、その女と両想いにしてくださいとか、金が欲しいとか、頭が良くなりたいとか、色々とあるだろうがよ!!! 俺が今まで会ってきた人間どもは、もっとぱっぱと願い事を口にして、誰も5つではすまなかったもんなんだぞ! それをおまえは、くだらねー事でひとつは台無しにするわ、挙句の果てに願い事は無いだなんて言うわ、いい加減にしやがれ!!!』
 と、やっぱりえらい勢いで言われた。
 しかし、そう言われても…
「ねーもんはねーんだもんよ。しょうがねーだろう?」
 と、【猿の手】に同意を求めるが、無視された。
 だが俺は実はまた疑問に想った事がある。
 こいつは先ほどたくさんの願い事を口にしたが、それはすべてこいつが出逢ってきた人間の願いであって、ではその願いにこいつが叶えたかった願いはあるのだろうか?
 ―――――と、言うか、じゃあ、こいつには願いはあるのであろうか?
「んじゃあさ、俺の二つ目の願いを言うんだけど、おまえには願って欲しい願いはあんのかよ? それを教えてくれよ。そしたら俺がそれを願ってやるよ。おまえが願って欲しい願いを教えて欲しい、それが俺の二つ目の願いだ」



 ――――――――――――――――――
【三つ目の願い】


『あー、やー、わー、えっと………あのな…』
 先ほどまでそれはもう俺にえらい勢いで願い事が無いなんておかしいって言っていた【猿の手】だが、いざ、俺におまえの願いは? と訊かれると、やっぱり自分も困ったようだ。
「なんだよ、自分だって、願いがねーんじゃねーか」
 ぼそりと俺が言ってやると…
『…………うるっせー』
 って、力無く【猿の手】は言った。
 そして、【猿の手】はあーでもない、こーでもないと何かを考え始めた。
 それで俺は公園のベンチに腰を下ろし、缶ジュースを飲みながら、
「なあ、まだ?」
 漫画を読みながら、
「おまえの願いって、まだ想い浮かばねーの?」
 ぼぉ〜っと遠くを見つめながら、
「えっと、マジで無いの、願い?」
 って、時間を置いては訊いた。
 【猿の手】が願いを想い浮かぶまで時間を潰していたのだが、半日経っても、全然【猿の手】は願いを思い浮かべる事もできないらしく、
 本気で【猿の手】は困っているようなので(確かに人の願いを叶える存在なのに、本気で自分の願いが無いのなら、俺の二つ目の願いは叶える事が出来ない訳で、それは己の存在価値に関わってくる事だから、大いに困るだろう。)、だから俺は………
「えっと、じゃあ、三つ目の願いな」
 【猿の手】に助け舟を出してやる事にした。
「三つ目の願いはこの話は無かった事に」



 ――――――――――――――――――
【ラスト】


 気付くと俺は、ひとりで公園のベンチに居た。
 何やら意味もなく偉そうにふんぞりかえっている変な【猿の手】は無い。
 この話は無かった事に……
 ――――つまり三つ目の願いで、俺と【猿の手】は出会わなかった事になったのだろう。
「今頃はまた、他の奴に何やら偉そうに言ってるのかな? 他人の願い事を叶えるばかりで、自分の願い事が無いくせに。だけどまあ、それでも人間の願いを叶えるのが、あいつの願いなのかな?」
 俺は溜息混じりに言って、ベンチから立ち上がった。
 そして夕暮れ空の下、家路についた。



 ― fin ―


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】



【3626 / 冷泉院・蓮生 / 男性 / 13歳 / 少年】



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■         ライター通信          ■
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こんにちは、はじめまして、冷泉院蓮生さま。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
ご依頼ありがとうございました。


や、いつも大抵の場合は依頼文を出しながら、それへの反応というか、PLさまのプレイングの内容は、
こういうのが来るのかな? と、想像できたりするのですが、蓮生さんのプレイングを読んだ時は、びっくりとしてしまいました。
完全に予想していなかった内容でしたので。
だからこそ本当にこのお仕事をやらせていただいていてよかったな、と思いました。^^
そうか、こういう考え方もあるのか! と。^^
とても新鮮で、目から鱗という感じで。



【猿の手】と蓮生さんの会話はどうでしたか?
こちらは書いていてすごく楽しかったです。^^
とくに逆に願って欲しい事を訊かれた【猿の手】はきっと僕以上にびっくりとした事でしょうね。^^
少しでもPLさまのイメージ通りのノベルの出来になっておりましたら、幸いでございます。


それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
ご依頼、本当にありがとうございました。
失礼します。