コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


目隠しの森〜獣達の啼く夜act2〜

オープニング

 七人の犠牲者が出て、事件は一瞬の静寂を迎えた。
 ―…八人目の犠牲者は出ない、はずだったのだが…。
 七人目の犠牲者が出てから一週間、八人目の犠牲者が出た―…。
「ぐっ…」
 現場に向かった刑事の一人が遺体を見て、吐き出す。どんなに刑事歴の長い人間でもこの悲惨な現場を見たら吐き出してしまうのも無理はないだろう。
「吐くのは勝手だけど、現場を汚さないでね」
 叶は冷たく男の刑事に言うと、遺体の方へと足を進めた。
 殺され方は今までと同じ獣に食いちぎられたような殺され方。
 こんな異常な犯罪は今までにないため、同一犯と考えてもおかしくはないだろう。
「…だけど―…」
 今までと違うのは被害者が殺された場所。
 今までは人目につくような場所で殺されていたのだが、今回はあまり人が通らない樹海。間違えれば遺体は誰にも発見されない可能性だってあるのだ。
「…なんで今回はこんな場所に…」
 今までと何か違うのだろうか、叶はそう思いながら現場を後にした。


視点⇒藤原・槻椰

「連続通り魔事件、か」
 槻椰は最近多発している連続通り魔事件の記事を見ながら呟く。
 連続通り魔事件の事が書いてある記事を大量に眺めながら大体の事件の筋を組み立ててみる事にした。
 素人なら状況証拠だけで分析するのは苦労するだろうが、軍人をしていた槻椰にとっては造作もないことだ。

 まず、八人の被害者の写真や経歴、家族構成などを調べてみる。八人に共通点と呼べるものは全く存在しない。
 被害者は老人から幼い子供までいる。それらに共通するものなどどれだけ探してみても見つからなかった。
 次に遺体の状況、どれもが獣に食い散らかされたような惨劇だったという。
「…ということは…個人への恨みではなく、生きるもの全てに対する怨恨かもしれないな」
 ここまで食い散らかすような惨状にするにはよっぽどの恨みがあるに違いない。ただの人間なら小さな恨みでここまでの惨劇は作れないだろうから。
「……人間、だったら…の話だがな…」
 槻椰は小さく呟く。
 そして…犯人像…。
 これは二つの予想が槻椰の頭に浮かんだ。
 一つは人間ではない獣、凶器となったものが不明になっているということはまだ人間が知らない武器、あるいは例えになっている獣が存在する事。
 そして、もう一つは子供だった。
 これほどの状況を作れるのは善悪の区別のつかない子供、ということも考えられる。
 いつの時代も子供というものは冷酷で残忍な生き物なのだから。
「…とにかく最後に事件が起きた場所に戻ってみるか…」
 犯人は現場に帰る、その言葉を信じるわけではないが槻椰のカンがそう言っている事に気がついた。


 午後八時、樹海というだけあって暗闇は一層深く感じる。
「…おじさん、誰?」
 突然、暗い樹海に不釣合いな高い声が響いてきた。
 声の方に視線を向けてみると、まだ幼い子供が木の上から楽しそうにこちらを見ている。
「…おじさん…?」
 その言葉に多少の疑問を覚えながらも「誰だ?」と問いかけてみる。
「人に名前を聞くときは自分から名乗るものでしょ?」
 子供はクスクスと笑いながら槻椰に言葉を返した。
「通り魔事件と関係があるのか?」
 だが、槻椰は子供の言葉を無視しながら次の疑問を投げかける。
「…さぁ?」
 子供ははぐらかすように言う。
「まぁ…あたり、かな」
 クスクスと穏やかな笑みを浮かべながら子供は木の上から降りてきた。
「何者だ、お前…」
「一応、十六夜・夜白って名前があるんだけどなぁ…」
 夜白は困ったように眉を下げながら笑む。
「なぜこんな事件を起こした?」
 槻椰は夜白の言葉など耳に入っていないように無視し、新たな問いかけをした。
「なんで…?じゃあ…僕も聞くけど『なんで』おじさんにそんな事言わなきゃいけないのさ」
「答え次第では貴様を殺す」
 槻椰の言葉に驚いたのか夜白は目を丸くして、次の瞬間にけらけらと笑い出した。
「…僕を、殺す……?…面白い…やれるもんならやってごらんよぉっ!」
 そう言って夜白はザクッと自身の爪で槻椰の頬を掠めた。
「人間ごときが僕を殺せるものか!」
 槻椰は一つ小さな溜め息をついて『零式』を手にした。
 そして、自分に向かってくる夜白を斬りつけた。
 槻椰に適うものなどいるはずもない。槻椰は運命を操る能力を持ち、零式を抜けば命のやり取りを楽しむ人間へと変貌してしまうからだ。
「急所はあえて避けた、先ほどの質問の続きだ。なぜあんな事件を起こした?」
 夜白は槻椰の問いに答える事はしなかったが、槻椰が夜白の足に零式を突き立てると小さな呻き声と共に言葉を発し始めた。
「…僕は…かつて『人間』に『人間』をやめさせられた。くだらない投薬実験で僕は人間であることを捨てさせられた!だから―…復讐をして何が悪い!」
「…だが、貴様が殺した人間達は無関係だろう?」
「人間という生き物だけで罪はある!人間の罪は遺伝するものなのだからな!」
 夜白の叫びに槻椰は「やれやれ」と呟いて足に刺していた零式を抜く。
「貴様はわかっていないんだな。そういう考えを持つこと自体がすでに人間なんかじゃないという事に」
 残念だよ、そう言って槻椰は零式を夜白に向けて振り降ろした。
 それからは何の声もしなく、いつも通りの静寂が樹海を包んでいる。

 確かに夜白という少年の過去には同情できる部分があるかもしれない。
 槻椰以外の人間ならば、くだらない感情に流されて見逃していたかもしれない。


 ―…だけど。


 槻椰は見逃さなかった。
 最初からそのつもりだったのだから。
 夜白の動機が下らないものだろうと、そうでなかろうと処分するつもりでいたのだ。
 そんな冷酷さを持たねば非合法異門組織の総司令官などやっていられないのだから。


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

4215/藤原・槻椰/男性/29歳/「待宵」総司令官

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

藤原・槻椰様>

初めまして、今回「目隠しの森」を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
「目隠しの森」はいかがだったでしょうか?
PCがクールでかっこいいキャラということで張り切って書かせていただいたのですが…
イメージとあっていれば幸いです。
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^


              −瀬皇緋澄