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STOREY OF THE PARALLEL WORLD 〜メイド魔神でない田中裕介の一日〜
0.夜
夜中の路地裏、蠢く悪意。
かつて、世界を我がモノしようとした、異世界から来た妖魔と戦う二つの影。
「符術結界でバレないから思いっきりやってね」
「わかった、先輩」
女性の声に頷く長髪の青年。
特殊格闘技と、剣技で妖魔を魂まで“殺す”
「まだ中級以上がいる何てね。裕介、よく退魔行無しで“殺せた”ね。どうして?」
「別の道場通っているからだ……母を越えるために」
「あ、あの茜ちゃんの!」
「ちょっかい出したら怒るぞ、先輩」
と、少し相棒を睨んでいる、田中裕介。
「もう、裕介ったら〜」
苦笑いしている先輩、樟葉と言う。
符術師の名門にて裕介の先輩であり、恋人らしい。
暗く、影がある彼の心を理解しようと優しく接している唯一の女性だ。まあ、からかうときはからかうし、趣味じたい質が悪かった。
「でも、あの子に色々服を着せたらかわいいかな〜」
彼女は妄想に浸っている。
樟葉は洋服マニアでコスプレ趣味や、さらに極度のクラッシック・メイド趣味を持っているのだ。
現実では彼女は死亡している。そのとき、裕介はおもしろおかしい趣味の意志を受け継いだので、メイド魔神などと言われる様になる。
つまり、今回は、
『先輩が生きていたので、メイド魔神化しなかった田中裕介』
の話である。
1.朝
ドアが開く音。
ぱたぱたと足音。
そして、
「ゆうちゃーん。ゆうちゃーん」
ぽふぽふと、布団を叩く可愛い声。
よくある、コンクリートがむき出しになっている壁。生活感もなにもない虚空の空間。
退魔の仕事で戦って汚れた服を放りだして、パイプベッドに、携帯と家の電話を置いているだけの殺風景さ。そんな中に不釣り合いの声がする。
「あ、茜か?」
「おはよう」
「ああ、もう少し……あと2時間」
「2時間じゃ、お仕事!」
「ああ……そうだった先輩の手伝い」
と、のそのそと起きあがりかけるが、
「すまん、着替えるから……」
「もういいよ。見慣れているから! ハイ、新しい服! 全く裕ちゃんはほかんことだめなんだから!」
と、少女は困った口調で彼の着替えをまとめてベランダに干し始めた。
「いつもすまないな」
「いいの 好きでやっているし」
と、ポニーテールの少女は言う。
「ご飯まともに食ってないでしょ? おば様はお料理下手だもんね、作って置いたから」
「コンビニで済ますし、食わなくて良い」
「だーめー。朝食は一日の大事な栄養源です!」
洗濯物を干し終えた少女は裕介の額に指をこつんと当てる。
「わかったわかった」
少女の頭を撫でる。
少女はニコリと微笑んだ。
其れに釣られ、裕介に笑みがこぼれていた。
それが、田中裕介の朝であった。
2.お手伝い
茜、つまり裕介が養母を越えるために門を叩いた剣術道場にいる娘。正確にはその道場を貸している神社の巫女さんである。裕介は彼女を妹の様に可愛がっている。また、彼女は自分が一般生活面でダメダメなため色々世話をしてくれるので、頭が上がらないのだ。
しかし、樟葉との相棒として退魔などの生活から恋人同士になっている。茜はその事を承知で裕介の世話をしているので三角関係とは行かないが裕介は困っている。
「先輩の毒牙にかからなければいいが」
そっち方面で悩んでいるのだ。
樟葉は裕介を愛しているらしいが、まだ同棲など出来ないらしく、家事全般こなせるか疑問である。
先輩・樟葉はアンティークショップ・レンがある筋にブティックを開いている。裕介は渋々彼女の店お手伝いをするのだ。当然、レンの店から阿鼻叫喚の楽しいBGMを聴きながらの仕事である。
「まーた、面白い物を売ってるわねぇ、あそこ」
と、季節新作の服をチェックする樟葉。いつものことだから別段気にしなくなった。
「まったく、後始末がこっちに来なければいいんだが」
「其れは困るわね。妖魔を封印しているモノさえも平気で売っちゃうからね〜」
ニコニコと笑う先輩。
彼女のおしゃべりに苦笑して、自分の仕事を始める裕介。服を何処に置くかは既に先輩に指示を受けているのでそこに飾る。趣味だったことが実益になるのは素晴らしいことだが、今の裕介にそんな気持ちなど無い。過去の忌まわしい記憶が夢を無くしているのだろう。
開店してからは、レジにまわる。樟葉は、色々お客と会話して良い服を選ぶ事で忙しい。ぶっきらぼうな裕介に務まらない。裕介も此処で働いて半年以上は経っている。そのため先輩のもつ裁縫術の一部、と特殊収納術は出来る様になったのだ。
ただ、収納術を知るまでは、
「このクローゼットや鞄に何故、この量がはいるのだろう?」
と、首を傾げていたのだった。
比較的表の世界は平和な時間が過ぎていく。
3.えらいことだ!
「少し休憩しましょ。裕介君」
「はい、何か買ってくる」
「何でも良いからね……」
と、お金を渡すと同時に、裕介の軽く頬にキスをする樟葉
「はい……せ、先輩!? ここは!?」
と、赤面する裕介。
「くすくす、早くしないと休憩時間が♪」
「……っ! まったく、困った人だ」
渋々と買い物に出かける裕介。
それからすれ違いで茜が来た。
「ゆうちゃーん、樟葉さんこんにちは!」
「あら茜ちゃん!」
チャーンス! と、ばかり、樟葉は明るい声で茜を呼ぶ。
首を傾げる茜。
「あれ? 裕ちゃんは?」
「出かけているの、生地の発注の為に」
と、嘘を付いてうきうきしている初代メイド魔神。
「あう〜、折角お弁当用意したのに〜」
「アラ残念、学校は?」
「休みですよ? しかし」
茜は店を見渡す。綺麗な服が並んでいる
「凄いですねぇ〜いいぁ」
「ふふ、女の子だもんね。憧れるわよね。そうだ、二階でゆっくりしない?」
「え? でも、お仕事の……」
戸惑う茜。
店の看板を〈CLOSE〉にし、ニコリと笑って初代メイド魔神は、
「新作が出来たの、特別にあなたに着せてあげる」
「え? 本当ですか?」
「ええ」
――新作と言ってもメイド服だけどね、と隠している樟葉。
何も知らない茜はうきうきと彼女と二階に向かった。
裕介はジャンクフードを買って、一路ブティックに。
彼の額に、電波(?)が放たれる。
「……む、何か嫌な予感が……」
急いで駆け出す。
店は閉まっている。しかし、中に人の気配は十分にあった。
「この感じは、茜! 茜がある意味危ない!」
鍵は不用心にも閉まって無く(符術で警戒装置付けているのもあるが)、そのまま、入って二階に駆け上がる真面目裕介。
二階のドアの一つを力一杯開けた。
「げっ!」
「裕ちゃん!」
しまった! という樟葉の顔。手には人を隠せるほどの大きな布と、謎の黒い服。
可愛い洋服を着せて貰ってうきうきしている所、形相変えてやってきた裕介をみて驚く茜。
無言で、つかつかと裕介がやってきて、茜を庇い……
「先輩」
「な、なにかな?」
裕介は樟葉の耳を引っ張って、
「何してんだよ! あんたは!」
大声で叫んだ。
初代メイド魔神、耳鳴りでピヨりちゅう。
黒い物体が何か……それは……。
メイド服であった。
「なに? あまりみたことがない洋服……」
不思議がる茜。
「知らない方がいい」
裕介は一応、先輩のモノだから丁寧に“其れ”を持ち上げて、闇の世界に通じるクローゼットに葬った。
「あうー裕ちゃん〜」
「先輩がそう言うと寒気がする」
「ひどーい!」
「??……じゃ、わ、私はコレで……お弁当は置いてくから、仲良く!」
茜は、この場は退散と決め込んで服を着たまま遁走(自分の服も忘れずに)。
このあと、ブティックでは裕介の説教が続いていたとか。
ともあれ、真の魔の手の一歩手前を救えたのだ。問題は無かろう。
4.そして「闇の世界」に
ブティックをまた開けて暫くした後、電話から、
「二人とも、仕事ですよ」
裕介の養母から、退魔の仕事が舞い込む。
「新宿歌舞伎町で起こっている、謎の通り魔事件は妖魔残党の仕業と分かったの」
養母の情報はかなり正確らしく、既に計画も建てた。
「じゃ、行くか……先輩」
「そうね」
ブティックの仕事を早く片付け、二人は闇の世界に踏み込んだ。
今回は生け捕りが目的だったため、樟葉が封印し仕事が終わる。
帰宅した裕介の部屋にはちょこんと何かが置いていた。
「まったく、世話焼きなんだから」
荒んだ心の中に、一つ暖かさが。
妹と思い慕う少女の夜食が保温弁当箱に入っていたのだ。
「頂いて、寝るか……」
茜に感謝し、今日も一日“生きている”事を感じる日々。
彼は、食事を済ませてから、風呂で汗を流して、ベッドに突っ伏すとまどろみのなかに入って行った。
End
■登場人物
【1098 田中・裕介 18 男 孤児院手伝い・何でも屋】
【NPC 長谷・茜 18 女 神社の娘】
【Guest-NPC 樟葉 19 女 符術師・初代メイド魔神】
■よっしー達の感想。
よっしー「あり得ない! あり得ない!」(納得できない模様、卓袱台をバンと叩く)
茜「気持ちは分かるけど、“もしもの世界”だから〜落ち着こうよ」
(゚Д゚)〜 だうとー! だうとー!
エルハンド「たしか、著者も先入観を払拭するに苦労して、書くのに苦労したと」
滝照「はい、そうです」
よっしー「来た! ナマモノみたいに現れた」
(゚Д゚) いや、なんかかわうそ? と声同じとか〜
茜「それ(著者の苦労とか、かわうそ?のコメント)は置いておいて……原因が分かっただけでもみっけもの……ああ、危なかった〜(何が」
義明「意志を継いで行くのは良いけど……あの趣味まで貰うとはねぇ」
茜「まぁ仕方ないかと、今でも健在だし、その〜」
(゚Д゚)〜 と、散々言われてる。二代目メイド魔神、どうだったか?
(゚Д゚)〜 幸せ、掴む苦労すると思われ
(゚∀゚)ノシ
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