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星が降る夜は・・・
1.
ちゅどーーーん!!!
その日の未明、あやかし荘付近ではそのような地響きを伴う轟音が聞かれたという。
「―-で、これはなんなんでしょう??」
あやかし荘管理人・因幡恵美はそう言って首をかしげた。
「い、隕石でしょうか・・・?」
ぺんぺん草の間住人・三下忠雄はおずおずとそう言った。
「しっかし、見事に刺さったものぢゃのう」
管理人室居候・嬉璃は呟く。
そう。このあやかし荘ぺんぺん草の間に未明に轟音とともに謎の物体が突き刺さった。
ゴツゴツとした、見るからに隕石かと思わせるようなその物体。
運悪くその部屋に戻ってきていた住人・三下にかろうじて怪我はさせなかったが、部屋には見事に星空を望めるほどの大きな穴を開けた。
「修繕、大変ですね」
「あの、僕はその間どこに住めば・・・?」
「鬼編集長にこき使われておれば、この部屋に戻ってこずとも幾日かは過ごせるじゃろ?」
と、そんな会話をしていた住人たちの前で、落ちてきた物体が光った。
そして、中から得体の知れない生き物が出てきたのだった・・・。
2.
たまたまその日、休日だったシュラインエマはあやかし荘の異変に気付き、驚愕した。
「夕べの轟音、ここだったのね」
そして、その驚愕はさらに続く。
そう。宇宙人を発見してしまったのだ。
「クラゲ?」
ぽにょぽにょと気持ちよさげな弾力のクラゲにつぶらな瞳がついたような姿・・・それがエマの見た宇宙人であった。
だが、居合わせた他の者はこう言った。
「タコのオバケじゃないの??」 と丈峯楓香(たけみねふうか)。
「ピンクのまん丸な獣耳ですよ」 ウンウンと頷いてシオン・レ・ハイはそう言った
だが、「金髪の美人? これが宇宙人??」と梅・成功(めい・ちぇんごん)は言う。
「なんか、人によって見えてる姿が違うみたいですね」
恵美がニコニコとそう言った。
だが、問題はそんなところではなくて・・・
「あの〜僕の・・・」
「こやつは我々の言うことがわからぬようぢゃ。ついでにこやつの言葉もわからぬ」
こっそりと主張しようとした三下をあっさりと威圧し、嬉璃はそう言った。
「☆■□△◎」
なにやら嬉璃の言葉に頷く様に言った宇宙人。
「さっぱりわかりませんねぇ。ここは1つ、『あの』挨拶をしてみるのがよいかもしれません・・・」
とシオンは何気に人差し指を宇宙人の前に出した。
宇宙人もそれに答え、有名な『あのシーン』が再現された!
「・・・何かが違うわね。せめて、知的生命体なら日常会話くらいは覚えて意思疎通を図りたいわね」
今度はエマがかがみ、宇宙人の前で「こんにちわ」と言った。
宇宙人はなにやら考え込み、「■□*¥>+#」と言う。
「これが『こんにちわ』でいいのかしらね? よろしくね」
宇宙人の手をとり、エマは友好的に握手を交わした。
新たな言葉・・・燃えるわ。
ふつふつとその内から未知の言語への探究心がわきあがる。
エマは嬉しさを隠し切れなかった・・・。
3.
「友好的だね・・・ってことは、侵略に来たわけじゃないのかな??」
楓香がなにやらブツブツと独り言を呟き、傍にいた恵美を捕まえた。
「ねぇねぇ。ここはやはりおもてなしの心が大事だと思うんだけど、恵美ちゃんとこにお菓子とかお茶とかある?」
「お茶・・お菓子ですか?」
唐突な申し出に恵美は少し戸惑っているようだ。
と、「待ってください!」と声が掛かった。
「私、こんなこともあろうかと今日は駄菓子屋さんへ行ってきたんです! ほら、こんなにいっぱいなのに500円も買っていないんですよ♪」
ガサガサと袋を持ち、キラキラとした希望に満ちた目でシオンはそう言った。
「・・・いや、あの、なんか間違ってない?」
成功が止めようとする。
エマは、シオンの言葉に本来来た目的を思い出した。
「あら。私も丁度パンプキンプディングと薩摩芋の大福を作ってきたから、それでお茶にしましょうか」
「うっわ〜! シュラインさんのお手製!? ラッキ〜!!」
エマの思わぬ言葉に飛び上がって喜ぶ楓香。
「じゃあ宇宙人も一緒に茶にしようかの」
嬉璃が率先し、宇宙人も一緒に管理人室へとお茶をしようと移動しつつある一同。
しかし、成功が突然叫んだ。
「違うだろ! お茶じゃなくて、こいつがまず何を考えているのか、そして、三下の部屋の片づけとか、宇宙への帰還とか考えなきゃいけないんじゃないのか!?」
「だから、そのために友好を結んで、意思疎通を図るためにお茶でおもてなしを・・・」
楓香が説明する言葉をさえぎり、成功は鏡を出した。
「俺のコレがあれば相手の心を読めるんだよ!」
「・・・そんないい物があるんなら、最初から出してよ」
冷たい視線が、成功の身に降り注ぐ。
それに耐えきれなくなったのか、成功はいそいそと行動に移した。
「と、とにかく、俺の鏡でコイツの心読むから」
ゴホンと仕切りなおしに咳払いをし、成功は鏡を宇宙人へと向けた。
そして、成功は静かに宇宙人に問う。
「おまえ、何をしに来た?」
少しの沈黙の後、成功はくるりと振り返った。
「・・・宇宙遊泳していたところを突発的に降ってきた隕石に当たって落ちてきたらしいよ?」
成功が淡々とそう言った。
その顔には『マジですか?』と半信半疑な心が術者でなくともわかるほどアリアリと書いてある。
「ってことは、宇宙船無しでどうやって帰るの?」
新たな問題が、あやかし荘に乗りかかってきた・・・。
4.
「私、この間見ました! UFOを呼ぶ儀式というのがあるのです! 屋根の上で輪になって踊るんです。きっとそれでお迎えが来ますよ!」
シオンが嬉々としてそう言った。
「ちょっと待って、シオンさん。UFOを呼ぶよりもまずは三下君の部屋を片付けるのが先決だと思うの。ほら、じゃないと今晩寝るところがなくなってしまうでしょう?」
エマは慌ててシオンを制止する。
落ちてきたものが宇宙船でない以上、修理は必要ないわ。
なら、手近な困っている人物を優先させるべきよね。
エマはそう思って言った。
と、どこからともなく啜り泣きが聞こえてきた。
「しゅ、シュラインさん・・・ありがとうございましゅ〜」
それは、既に誰からもそこにいることを忘れられていた三下の声だった。
「でもさ、俺らじゃはっきり言って全部修繕するのって不可能だと思うんだけど?」
成功がそういうと、恵美が横から口を挟んだ。
「先ほどお世話になっている大工さんに電話しておきましたので、2〜3日中に来てくださるそうですから」
「じゃあ、瓦礫を片付けてブルーシートかなにかで覆っておけばそれくらいは凌げるんじゃないかしら?」
エマが日が燦々と降り注ぐ三下の部屋を見回した。
「あたし、か弱い女の子だしお茶の用意して宇宙人さんと遊・・・いえ、待ってるね〜♪」
宇宙人の手を引き、成功たちが止める暇もなく楓香はそそくさと管理人室へと逃げ出した。
「ちょっと待てよ! おい!! ・・・ち。宇宙人に責任取らせようと思ったのに」
成功がそう言った後ろでは、シオンがなにやら三下に頼み込んでいるのが聞こえた。
「あの〜、これ手伝ったらご飯とか奢ってもらえますでしょうか? 私、先ほどの駄菓子で全財産使ってしまって・・・」
「あ、それなら俺もね。出来るなら美味い和食とかがいいな・・・って三下サンじゃ無理か・・・」
成功も便乗でそう言ったが半ば諦めにも似た呟きでもあった。
「私はブルーシートを探してくるから」
苦笑しつつエマは管理人室へと向かった。
「恵美ちゃん、ブルーシートあるかしら?」
中に入ると、楓香が出したと思われる謎の生物?がたくさん管理人室に徘徊していた。
「楓香ちゃん・・・これは?」
「あ、シュラインさん! 可愛らしい動物を見せて和んでもらおうかと思って♪」
ニコニコと笑った楓香だが、その意図とは反し宇宙人は明らかに怖がっている。
「シュライン、こやつ何とかならんか?」
ボソッと嬉璃が迷惑そうに言った『こやつ』が、楓香の事だと思うとエマはその返事に困惑したのであった・・・。
5.
「では、UFOを呼ぶ儀式を始めます」
屋根の上、エマ・成功・楓香、そして宇宙人に円陣を組ませた真ん中で神妙な顔のシオンがそう呟いた。
これまでとは違い、シオンはいつにない真面目な顔をしていた。
「本当にこれでうまくいくのかしら?」
エマはサークルの一辺を担いながらも不安げに呟いた。
「もうやるしかないですよ。これ以外に方法がないんだから」
諦めの境地、悟りきった成功はそう言った。
「真剣にやろうよ。宇宙人さんのためなんだもん!」
楓香がそうたしなめたので、エマは儀式に集中した。
成功もその口を閉ざした。
その間にもシオンはテレビで見たという儀式を一人黙々と進める。
「うにゃたら〜かんたら〜・・・いでよUFO!!」
本当にそれでUFOがくるのか? と思わず言いたくなるようなその呪文をシオンは高らかに叫ぶ。
・・・何も起きない・・・。
「やっぱり、無理があったのかしら」
エマはため息をついた。
大体、今まで宇宙人の存在を確立できなかった人間にそのような儀式が出来るわけがないのだ。
「そんなぁ〜! もっと真剣にやったらきっときてくれる・・・と思うけど・・・」
楓香ががっくりと肩を落とす。
「地道に、宇宙船とか作った方がいいんじゃないの?」
成功もそう呟いた。
宇宙人は心なしか寂しげな表情で俯いた・・・その時。
ぱぁ!っとエマたちの周辺を強烈な光が照らした。
「UFOです! 皆さん!!」
シオンがにっこりと笑いながら振り返った。
エマたちの上空にはきらめく宇宙船の姿が雲の隙間から垣間見えたのだ。
誰もが、別れの時が来たことを察した。
宇宙人に誰からとなく、別れの挨拶を交わしていく。
「もっと色々教えてもらいたかったけど・・・あなたも帰りたいものね」
エマがそう宇宙人にいうと、にこりと宇宙人が微笑んで光の中に消えた。
『ありがとう』
そう、聞こえた気がした。
6.
次第に遠ざかっていった宇宙船。
それを見送り、エマは管理人室へと恵美に誘われた。
というか、それが本来の今日の目的でもあったのだ。
なぜか一緒に誘われた楓香と嬉璃と恵美とエマ。
女性が集まると何故だろう? こんなに騒がしくなるのは。
「シュラインさんのプリン、最高! 売ってるのより全然美味しい!」
「ホント? ありがとう」
だが、平和な時は突然の轟音でさえぎられた。
ちゅどーーーん!!!
「な、なに!?」
つい最近、同じような音を聞いた覚えがある。
エマ達は轟音の音源へと廊下を駆け抜ける。
・・・そこには見送ったはずの宇宙船が、再び三下の部屋に突き刺さっていた。
「これで、また言葉を覚える必要が出てきたわね」
嬉しいやら、困ったやら・・・エマは心中複雑ながら宇宙船の中の宇宙人を助け出そうとしていた・・・。
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■□ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) □■
3507 / 梅・成功 / 男 / 15 / 中学生
3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 42 / びんぼーにん(食住)+α
0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生
■□ ライター通信 □■
シュライン・エマ様
お久しぶりです。
この度は『星が降る夜は・・・』へのご参加ありがとうございました。
大変長くお待たせしまして、本当にすいません。
語学に長けるエマ様。まさか宇宙人語までマスターに意欲をみせていただけるとは。
前向きでかっこいいですね。(^^)
空に帰ったはずが落ちてきて、当分この宇宙人あやかし荘に滞在予定です。
是非この機会にマスターしてくださいね。(笑)
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。
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