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<東京怪談・PCゲームノベル>


出現!天下無敵の田舎娘!

1.
「琴子さん! 困ります〜!」
「いえ、居候の私の仕事ですから!」

台所から零と問題の少女・水野琴子(みずのことこ)の揉める声が聞こえる。
「・・・あれが問題の琴子ちゃんね」
こっそりとその様子を伺うのは、草間の出動要請よって琴子追い出し作戦に応じた丈峯楓香(たけみねふうか)である。
「あぁ。朝からあの調子で零とやり合いっぱなしだ」
頭が痛いらしく、眉間を抑えつつしかめっ面でそう言った草間武彦。
よほどイライラしているのか、先ほどからタバコを吸っては消し、吸っては消しと繰り返している。
「ちゃんと説得したら、納得してくれるんじゃない? 学校を卒業してから、とかさ」
「・・・」
「今度は家出って形じゃなくて。それからここの財政難のこともちゃんと話して、自分で働いてお金を稼いで草間さんの所に家賃を払って生活するって約束させて、その上で本当に居たいって言うならそれでいいじゃん」
あっけらかんとそう言った楓香に草間はため息交じりで答えた。

「俺もそうは思うけどな。あいつの場合は思い込みが強すぎる。『今じゃなければダメだ』って思い込んでる。だから俺がどれだけ説得しても無駄なんだよ。それに、一応独身男の家だぞ? ここ」

「なるほど。狼が理性を抑えているうちに帰した方が確かにいいよね」
うんうんと納得顔で頷く楓香に草間が苦笑いしている。
「まぁ、そういうことなら引き受けてもいいんだけど〜・・・」
楓香は笑ってちらりと草間を流し見た。
「わかってる。なんか奢れってんだろ? で、今回はなにがいいんだ?」
「話が早いなぁ♪ この間高級ブランデー入りの美味しそーなケーキ見つけたんだけど〜、高くて・・・」
「いくらだよ?」

「1ホール、1万円♪」

楓香の言葉に、草間が一瞬にして顔色変えた。
「・・・おい。それはボッタクリ過ぎじゃ・・・」
「嫌なら、この話なかったことにしてもいいんだよ〜?」
ニコニコと屈託なく笑う楓香に、しばし言葉を失った草間。

結局いつもの様に草間が折れる形で、楓香は草間の依頼を受けたのであった・・・。


2.
「水野琴子ちゃん・・・でしょ?」
零との競り合いに負け、うなだれていた琴子に楓香は声をかけた。
「・・・誰?」
琴子が怪訝な顔で楓香を見たので、楓香は極力爽やかに挨拶をした。
「あたし、丈峯楓香っていうの。よろしくね♪ 草間さんに頼まれたの。東京案内してこいって」
「案内? ・・・観光? それともこの近辺の行きつけのお店のこと?」
「あ、観光観光。有名どころ、みたくない?」
ニコニコと笑う楓香に、琴子は考え込んだ。
「でも、居候の身としては少しでも家のお手伝いをしないと・・・」

意外と真面目だなぁ。それなら・・・。

楓香がキラリンと瞳を輝かせる。
「原宿とか、ラフォーレがあるよ〜? あたし、ジャヌーズ事務所の子達が出没するスポット知ってるんだけどなぁ・・・。そっかぁ。お手伝いあるなら仕方ないよね〜・・・」
残念、残念・・・と寂しげな表情で立ち去ろうとする楓香。

「あ、ちょ、ちょっと待って! 人の好意は無碍にしちゃいかんってママに言われとるし・・・やっぱり行くわ、私♪」

ジャヌーズ事務所、強し。
楓香の狙い通りに琴子はウキウキと外出準備をし始めた。

・・・ホントはあたし、そんなスポット知らないんだけどね〜・・・。

琴子の浮かれ具合を目の当たりにし、少し後ろめたいような申し訳ないような・・・。
楓香は内心、苦笑いした。


3.
原宿は相変わらず活気に満ちた街である。
その中でも竹下通は若者たちが溢れている。
楓香は定番のこの場所へと琴子を案内して来た。

「うっわ〜!! すごい人〜」
あっけにとられる琴子の隣で、楓香はすいすいと歩いていく。
「こっちこっち。あそこはね、テレビで紹介されたカリスマ美容師がいる美容院ね。で、あっちにいくと美味しいクレープのお店があるんだよ」
一生懸命人ごみを掻き分け楓香についていこうとする琴子だが、思うように進めない。

「ちょ、ちょっと待って〜・・・」

情けない琴子の声が聞こえたので、楓香は少し道を戻ると琴子の手を引いて脇道へとそれた。
「大丈夫?」
「う、うん。あんなに大勢の人見たの、初めてかも。ドびっくりした」
は〜っと大きく深呼吸をした琴子は、そう言った。

「『ドびっくり』??」

楓香は目を丸くした。
今まで聞いてきた言葉にこのような言葉はなかった。

『ド』って・・・なに?

「あ・・・あの、方言なの。私の住んでるとこの・・・」
琴子が消え入りそうな声でボソッとそう言った。
どうやら語らずとも顔に出ていたらしい。
「そ、そうなんだ。あはは・・・びっくりした〜」
笑って誤魔化そうとした楓香だったが、俯いた琴子はなにやら思いつめた様に言った。

「だから・・田舎なんて嫌なの」

その言葉の重みが、楓香にはよくわからなかった。
だが、草間の言っていた『今でなければダメだと思い込んでいる』という言葉が思い出された。
きっと、楓香にはわからないコンプレックスがあるのだろう・・・と。
だが、それでも家出はいけない事なのだ。

琴子の為にも帰った方がいいのだ・・・と楓香は心を鬼にした。


4.
場所は脇道で人通りはない。
力を使うには丁度いい。
頭の中のキャンバスに強く思い描くと、楓香は密かに力を使った。

「よぅよぅ。ねぇチャンたち、俺らと茶でも飲みに行かんか?」

後ろから掛けられた声。
「え?」
楓香と琴子は同時に振り向いた。

そこには、楓香の作った怖いお兄さんたちがいた。

「な、なんでこんな落書きみたいな人がいるの!?」
琴子のその言葉はごもっとも。
楓香の力によって作り出された怖いお兄さんたちは、そろいもそろって落書きのようにデッサンが狂った人々。
・・・いや、人というにもおこがましいほどの怪しさを大爆発させていた。
「わしらが落書きだとぉ!? おぅおぅ! 俺たちゃ、あの有名な関東ヤクザ界の期待の星・赤組だぞ!?」
「き、聞いたことないよ、そんな組・・・」
思わずもらした琴子のその言葉に逆上する怖いお兄さんたち。
そしてさらにそこに油を注ぐ琴子。
「聞いたことねぇだとぉおぉお!? ちくしょう! 飼い犬のベティちゃんにケツ噛ますぞ!?」
怒り頂点の怖いお兄さんたち。
なんと、黒い謎の塊(お兄さんたち曰く、飼い犬のようだ)が楓香と琴子に向かい「グルル」と低いうなり声を発している。
どうやらこの黒い塊は楓香たちに襲い掛かろうとしているようだ。

「こ、琴子ちゃん、逃げよう!」

楓香は琴子の手を引いて走り出した。
竹下通りの本道へと出て、ラフォーレ方面へと向かった。
だが、なおもしつこく追ってくる怖いお兄さんたち。
「またんかい、ごらぁ!!」
「いやぁああぁ! おまわりさーん!! 助けて〜!!」
半狂乱で泣き叫びながらも必死で走る琴子。
どうやらあまりに強く思い描きすぎたらしい。
周囲の人々に強烈なイメージを残しつつ、それでも消え去ろうとしない怖いお兄さんたち。

や・・・やりすぎたかも・・・。

走りながら楓香はちょっぴり反省した。
山手線に飛び乗って、ようやく怖いお兄さんたちを振り切った。
これで楓香から一定の距離遠ざかれば、あの怖いお兄さんたちも自然と消えるだろう。

今度からは少し手加減ってモノを考えよっと・・・。


5.
「私、家に帰ります」

その日の夜。
原宿で怪しげな落書きが少女2人を追い掛け回していたというニュースが流れるテレビを背に、琴子はそう言った。
「ほ、ホントか!?」
草間が喜びを隠しきれず、そう言った。
「はい。東京が・・・こんなに怖いとこだったなんて・・・思ってもみなくて・・・」
思い出してまた怖くなったのか、琴子はしゃくりあげた。
「そ、そか。うんうん。まぁ、ここも住めば都って言うんだけどなぁ」
ニヤニヤと嬉しそうな草間とは対照的に、沈んだ顔をした琴子は荷物を持った。
静かにお辞儀をし、「お世話になりました」と小さく言うと、来た時とは別人のように静かに草間興信所を後にした。
「・・・助かったぜ、丈峯。ふ〜! これでまた静かになる」
楓香はその草間の呼び掛けに答えず、琴子の後を走って追った。

「琴子ちゃん!」

薄暗くなった路上、琴子は振り向いた。
「楓香さん。どうしたんですか?」
「あ、あのね・・・今度は観光で遊びにおいでよ! そしたら、今度はちゃんと案内するから」
上がった息を整えて、楓香はそう明るく言った。
琴子の顔がほんの少し明るくなって、そして、ためらう様に言った。

「ありがとう。でも、多分もう来ないと思うから・・・」

琴子はもう一度「ありがとう」と言うと、駅の方へと消えていった。
冷たい風が、路上に立ちすくむ楓香の髪をなびかせた。

これで・・・本当によかったんだろうか?

そんな疑問が浮かんだが、すでにもう終わってしまっていること。
これでよかったんだ・・・と自分に言い聞かせ、楓香は踵を返し草間興信所へと戻って行った・・・。


□■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■□

 2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生


□■         ライター通信          ■□
丈峯・楓香様

こんにちわ。お久しぶりです。
この度は『出現! 天下無敵の田舎娘!』へのご参加ありがとうございます。
・・・最初に謝っておきます。とーいは原宿へ行ったことがございません。(きっぱり)
ですので、本当の原宿がどういった場所なのか知りませんし地形なども地図上でしか知りません。
間違い・思い込み等あるかもしれませんが、平にお許しください。
あと、ノベル内の『ジャヌーズ事務所』は誤字ではありません。
今回のお話、草間よりの依頼は見事達成となりましたが、少々後味の悪い終わり方となってしまいました。
ですが、楓香様の考えは間違っていないと思います。
それでは、またお会いできることを楽しみにしております。とーいでした。