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<東京怪談・PCゲームノベル>


出現!天下無敵の田舎娘!

1.
「・・・草間さん? いますか?」

こっそりと草間興信所のドアが開き、顔を出したのは宮小路皇騎(みやこうじこうき)であった。
皇騎はきょろきょろと周りを見回し、草間がソファにうだ〜と横たわっているのを確認するとすばやくその身を草間興信所の中へと滑り込ませた。
「誰か俺を呼んだか?」
のっそりと起きた草間が、皇騎の姿を確認した。
「どうしたんです? なんかやつれてますよ?」
小さな声でそういった皇騎に草間が怪訝な顔をした。
「何でそんな小さい声で話してるんだ?」
「・・・いや、いつぞやの子がまた来るんじゃないかと・・・」
キョロキョロと辺りを再確認し、皇騎はソファへと座った。
「アイツか。最近はあんまり来なくなったけどな。忘れた頃に来るからなぁ」
草間が笑いタバコに火をつけてさらに言葉を続けた。
「そろそろ来るかもな?」
「嫌なこと言いますね。それじゃ、さっさと退散したほうがいいかな」
ニヤリと笑った草間に、皇騎は微妙に顔を引きつらせた。
「まぁ、待てよ。あの暇人娘を撃退したおまえに是非頼みがあるんだ」
草間が手のひらを返したように、真面目な顔をした。
皇騎もその草間の様子に、嫌な予感を感じつつ話を聞くことにした。

「まぁ、ぶっちゃけた話。今ウチには家出娘がいるんでそいつを何とかして欲しいんだ」

「・・・前にもこんな事がありましたよね?」
皇騎が思わずそう言った。
「それは言わない約束だ」
草間は窓の外で吹く風を見て、ため息をついた。

皇騎が草間の頼みを断ることはなかった・・・。


2.
「探偵・・・ですか? 私が?」
問題の少女、水野琴子は皇騎の言葉に目を丸くした。
「えぇ。草間さんからのお達しです。草間興信所にいたいのなら絶対条件だそうです」
にっこりと笑い、皇騎は小さな紙を取り出した。
琴子に会う前に皇騎自らが書いてきた調査依頼メモである。
琴子はその紙を広げた。
「・・・1日尾行・・・ですか?」
琴子は心なしかがっかりしているようにも見える。
「浮気調査・・・の前調査といったところですよ。私の補助をお願いしたいんです」
皇騎がそう説明すると、琴子は少し考えていたが「わかりました!」と返事をした。
「じゃあ、サングラスとか、菓子パンとか紙パックコーヒーとか買ってくればいいんですね!?」
「・・・それ、テレビの見すぎ・・・」
皇騎がそう呟くと琴子が首をかしげ、しきりに悩んでいる。
田舎者ゆえか、それとも単に琴子が純粋培養なだけか・・・?
琴子の中にある東京のイメージが、この時皇騎にはわかった気がした・・・。

「服装は普通の格好。そう、琴子さんがいつも着ている様なものを。それから、サングラスは必要ないんです。どこに行くにもサングラスなんてかけている人は逆に怪しいですから」

皇騎が優しく説明すると、琴子は心底感心したようだった。
「すっごーい! なんだか、本格的ですね〜」

いくら真似事とはいっても、こんな調子で本当に大丈夫なんだろうか?

一抹の不安が、皇騎の胸の中をよぎっていった・・・。


3.
あらかじめ屋敷の使用人に頼んだ調査対象の男を尾行しつつ、街中を琴子と2人で皇騎は歩いた。
男はふらふらと街中を歩き、人ごみの中でショーウィンドウを眺めたり、時には店の中に入って品物を物色したり。
それは傍目にみて面白いものでも、特別な行動でもなく、一風景に溶け込む日常生活そのものの風景だ。
最初は緊張していた琴子だが、尾行相手がまったくこちらに見向きもしないのはもちろん、怪しげな相手との接触や怪しげなものの購入などもないことで不満げな顔をしていた。
「・・・どうしたの? 琴子さん」
皇騎がそう訊くと、琴子はハッとして首を振った。
「いえ、あの、面白くないなんて全然思ってませんから!」

思ってることが口に出るタイプか・・・。

苦笑して、皇騎は後ろを見た。
先ほどから気になる男たちがついてきていた。
サングラスに黒尽くめのスーツ、街に溶け込むには少々殺気がたち過ぎている。
いつ襲ってきてもおかしくない。
とはいえ、相手がこちらに仕掛けてくるには少々人目がありすぎる。
目を再び調査対象に移すと、彼は自宅に戻ろうとしているようで地下鉄の駅へと向かって歩いているようだ。

「琴子さん、今日の尾行はおしまいです」
「え? でもまだあの人家に帰って・・・」
琴子が反論したが、途中で皇騎の顔がいやに真剣なので「どうしたんですか?」と小声で訊いた。
「巻き込んですまないけど、ちょっと所用が出来たみたいなんだ。付き合ってもらえるかな?」
皇騎はそういいながら、そう遠くない大きな公園へと向かうことにした。
そこなら多少は暴れても大丈夫だろう。
それに、いざという時の隠れ家も近い。
琴子には少々申し訳ないが、探偵ならば少なからず人に恨まれてもしょうがない職業だと割り切ってもらうしかない。

さて、相手はどこのどなたかな?

思い当たる節が多すぎて、皇騎はしばらく悩みながら公園へと向かうのだった・・・。


4.
公園に入り人の姿もまばらになってきた頃、相手が遂に行動に出た。
カチッと背後で音がした。
それが、ハンドガンの安全装置をはずした音だと皇騎は気付いた。
気付くと同時に皇騎は琴子をすばやく抱きかかえ、跳躍した。
「きゃっ!」と小さく悲鳴を上げた琴子だが、直後に激しい発砲音とともに土煙が上がりその顔は凍りついた。
「少し・・我慢してくださいよ」
皇騎は琴子を抱きかかえたまま、ちらりと発砲した人物を見た。
やはり、先ほどの黒尽くめの男たちだった。
彼らが胸元につけたピンバッチがきらりと光った。

それは、皇騎がいつか致命的欠陥を糾弾した某IT関連企業のバッチだった。

跳躍した皇騎に黒尽くめたちは敏速に照準を合わせてくる。
慣れた銃の扱いで、彼らがその道の素人ではないことを教えてくれる。
いくら北辰一刀流を極め体捌きに長けているとはいっても、琴子というハンデを背負っている以上不利なのは皇騎だ。
琴子を抱きかかえたままでは攻撃に出ることも出来ない。
かといって、このまま逃げるだけでは埒が明かないのだ。
掠めていく弾丸に、琴子がギュッと目をつぶっている。
上げる悲鳴すらない・・・といったところらしい。

一度・・・琴子さんを隠れ家に置いてきた方がいいかもしれない。

ジグザグと逃げながら、皇騎はそう思った。
いつの間にか、腕の中の琴子が気絶していた。

普通の女の子に、この状況が絶えられるはずもなかった・・・。


5.
隠れ家に着くと、皇騎は屋敷にいたメイドたちに琴子を介抱するようにと指示した。
そして、皇騎自身は先ほどの黒尽くめたちと交戦するべく、再び屋敷を出た。
琴子という足かせがなくなった以上、皇騎の敵ではない。

琴子さんを巻き込んでしまった罪、きっちり償っていただきましょうか。

皇騎の手には一本の木刀が握られていた。
銃と木刀では威力が違いすぎるが、皇騎にとってそれは人を殺さない為の丁度いいハンデだった。

 ――― しばらくして、琴子は目を覚ました。
琴子は自分の目を信じられなかった。
「ここ・・・どこ?」
煌びやかな部屋、シャンデリアが光を受けてキラキラと光っている。
「・・・私、天国来ちゃったのかな?」
そう呟いた琴子に「いいえ」と返事が返ってきた。
「ここは宮小路皇騎様所有のお屋敷でございます。琴子様は皇騎様にお連れになって来られました」
にっこりと笑ってメイド服を着た女性が傍らに立っていた。
そして、琴子は気がついた。
自分が天蓋つきお姫様ベッドに寝かされていたことを。
「あの・・宮小路さんは・・・?」
「皇騎様はただ今外出しておられます。お帰りは午後6時を予定しております」
時計を見ると、後数分で6時であった。

「ただいま」

皇騎の声が屋敷内に響いた。


6.
「申し訳なかったです。私のいざこざに巻き込んでしまって・・・」
皇騎がベッドの傍らに置いてあった椅子に座ってそう言った。
「あ・・・いえ・・・」
琴子は、そういうと俯いた。

「東京って・・・怖いですね」

「・・・こういったことは滅多にない・・・と言い切れないのが申し訳ないですね」
皇騎は苦笑いして、琴子に言った。
「東京は、もうお嫌いですか?」
「・・・私には、探偵のお仕事は向いてないみたいです・・・」
ため息をつき、琴子はそういうと言葉を続けた。
「でも、メイドさんのお仕事なら・・・」
「・・・え?」
皇騎の顔が、自分でも引きつったのがわかった。
キラキラと光る、琴子の目が皇騎へと哀願する。
嫌な予感が、皇騎の頭に重くのしかかってきた。

「私を、メイドさんとして雇ってもらえませんか!?」


暗雲立ち込める宮小路隠れ家。
さて、どのように断るかべきか・・・。
はたまた、受け入れるべきなのか?

朝の草間の心情が、今の皇騎には痛いほどよくわかったのだった・・・。


−−−−−

□■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■□

0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師)


□■         ライター通信          ■□

宮小路・皇騎様

お久しぶりです。
この度は『出現!天下無敵の田舎娘!』へのご参加、ありがとうございました。
大変お待たせいたしまして、申し訳ありませんでした。
依頼自体は成功かと思いますが・・・どうなんでしょう?
琴子はまだまだ東京に居座るつもりなのだと思われます。(^^;)
あと、今回北辰一刀流について少々調べたのですが、うまくいい資料にヒットしなかった為活劇シーンが少々描写不足となってしまいました。
また、殺人的なことは皇騎様的にしないかなと思いましたので真剣ではなく木刀を持っていただきました。
もしイメージと違うようでしたら、遠慮なくリテイク出してくださいね。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。