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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


この異界における草間零とその他


 飛行機雲が、青空に線を描いていく。
 三年前にも、見られた風景だ。

 草間零は、ツギハギだらけのぬいぐるみを何時も背負ってる彼女は、
 夕食の、買い物を。魚屋さんへ、
「お、今日はいい鯵はいってるよー、十匹で150円、どうだい」
「小鯵でしたら、南蛮漬けとかでしょうか」
「あーそれだったら開きにしてやらぁ、ちょっと待ってな」
 草間零は、正確には、草間興信所は、随分と知られている。そして、笑顔でオマケしてくれる。一つは兄が居なくなったから、
 もう、一つは、
「……幸男」
 魚屋の主人が魚をさばいてる手を止めて、草間零の後ろを見てる。振り返る。
 そこには、
 日常が有りました。

 子供が、化け物に襲われる、日常です。

 肉が、飛び散ってる。空は青い、血は赤い。
 草間零は迅速――背に羽根を、手に剣を、全てを霊で作り出し、
 その悪魔のような悪魔に向かって、力を、(魚屋さんがおまけしてくれる理由)
 悲しいと思う、悲しさを教えた人は、今は何処に居るのだろうか。姿を思い浮かべながら、
 殺し合いを、今日も始める。

 飛行機雲が、青空に線を描いていく。
 三年前にも、見られた風景だ。


◇◆◇

【殺しを連れて異界で流浪し彷徨いながら一條美咲】

◇◆◇


「たった一回こっきりなんやでもう」
 、
「人生楽しまな損に決まっとる! ちゅう訳で、UFO墜落現場へGO!」
 、
「もう絶対地球侵略に決まってるんやもん! せやからはよ行くで!」
 、
「UFOの正体灰皿かいなんなベタなオチ、って滅茶苦茶でかいやん灰皿っ!?」
 、
「なぁ明日何するー?」
 、
 何をしよう。
 16歳までは好奇心で、一條美咲は生きてきた。
 多分、ライト兄弟の傍に居れば、その大空への夢に多大なる興味を持ち、かつ直ぐ飽きて離れ、ダーウィンの傍らに居れば、世界中を巡って突き詰めた進化論に耳を傾け、かつ直ぐ飽きて離れ、ミケランジェロの傍らに居れば、たった一人で描きあげた世界最強の壁画に心ときめかせ、かつ直ぐ飽きて離れ、のように。
 何時からだろう、
 彼女が全てに興味を無くしてしまったのは、
 あれからだ、
 あても無く、ゆうらりと、彷徨い始めたのは。ねぇ、
 そうだろう?
「……わや、くちゃ」
 、
「わやくちゃ」
 京都の言葉。
 大阪の言葉はもう忘れた、幼少時、彼女は京都の祖母に預けられて、だから古風な京言葉が本来で、つまり今の彼女の口調で。今の、あの日から三年後の、彼女。
 随分と、殺されたのだ。
 友達や、親しい人。
 殺しあう異界の特性によって、殺された。化け物とかじゃない単純な強盗とか、やっぱり、化け物とかで、なのに彼女は生き残る、生き残ってしまう、何故、どうして、
 どうして皆生きるのを止めて。嘆きの歌が奏でられて。
 そして彼女はこの異界を、理解してしまったのだ。そして彼女は、
彼女は、「わやくちゃわやくちゃわやくちゃわやくちゃわやくちゃわやくちゃわやくちゃわやくちゃわやくちゃわやくちゃわや」
 無茶苦茶だと。
 19歳、この異界は無茶苦茶だと知った時、一條美咲の流浪が。


◇◆◇


 東京とは名ばかりの、随分と野原。そして、随分と荒れ果ててしまっている。草が焼けたり、木が倒れたり、大地に掘り返されたような爪跡が有り。ほんの三日前、化け物と幽霊の戦場だったのだ。人が関わってない事を含めて、街と違ってただの空き地、復興する必要は無いから、相変わらず荒れ果てた侭である。だけど、
 野原に一筋、線が有った。
 焼け爛れた草の野原なのだが、一部、というより一線として二メートルの太さで、草が緑に立ち上がっているのである。確かに草の魂は何処までも強い、時が経てるなら、この光景を承諾するだろうが、草は荒れてまだ三日であるから立ち上がるはずが無く。青い線以外は通常で、青い線は異常だ。
 その青い草の道を、踏みしめる者が一つ。野原の始まりから歩いてくる者一つ。
 草を踏む、草を踏む、隙間から咲いた小さな花も踏みしめる。けれど草は立ち上がろうとする、雑草、生命力のしつこさは、巷に跋扈する化け物どもと一緒か、
 或いは、自分程か。
「一條美咲」
 呟きながら、青い草の道を行く、辿って行く。
「三年前にゃ唯の女子高生だったが、幽霊や化け物、虚無の境界関係、そして、人間。そいつらに友人を殺される現場に度々居続けた結果、人格は崩壊の一途へ、か。……で、人格は崩壊を免れる為ある選択をしたっと」
 読み上げるように、実際、読んでいる。ある男が調べた情報がまとめられた報告書、全く、
 煙吸った脳味噌で、良くもここまでプライバシー侵せるもんだと、心中で呟きつつ、「別の人格を作り上げた」口では、語りつつ。
 歩みが停止する。緑の道、途切れる場所。
 腰掛ける程度の岩が有り、
 腰掛ける人有り。「あんたさん、」
 か細い声だった。微かな声が聞こえる、まるで死人が発するような。生きてながら躯になったやうな、
 実際、一條美咲は死亡してる。命は生きている、けど、人格の崩壊と言うとおり、美咲の意思はほぼ死んでしまってる。深層心理という海の深海だ深く海。明朗で快活なあの頃の面影は、身の奥に眠ってる、目覚めないように眠ってる。それゆえ、くるくると感情が表れた顔は、今は何色にも染まらぬ面。
 髪は、長い、黒く、長い、足元、まで、伸びて、いる。
 身に付けた黒の着物と一緒――彼女は想像してなかったろう、今の姿。性質は過去へと、姿は異質へと、現代の東京に生まれた不思議。
「誰、ですえ」
 一條美咲という名の怪異。けれど、
 そんな自分にも、興味を無くしてしまったのです。興味を持つのは他人である、超常能力者を追う、
「俺の事ぁどうでもいい、問題は、お前はお前がなんだか知ってるか?」
 、
「生きてちゃいけねぇ存在なんだよ」
 サングラス越しで、更に黒くなる一條美咲へ目を構える男は、国際退魔機関IO2所属、得物は直刀、黒いコート、
 鬼鮫、という名前。


◇◆◇


 時間、三年前、
 場所、アイスクリーム屋の前、
 行動、アイスクリームを食べてる時。
 三年前、虚無の境界による心霊テロによって、西欧の一国が消滅した事がニュースに流れたけど、その場にテレビはなかったから、一條美咲はラムレーズンを楽しみ、目の前の友達はキウィマンゴーを楽しんで、
 今の今まで東京に、こんな事は起こってなかったはずで。キウィマンゴーを食べてる友達、ちょっぴりクリームで汚れる口元から、
 血が、バケツのように。
 バケツの中身を満たすくらいに、吐血する。
 それは余りにも突然で、状況を理解する事は一條美咲は出来なかった。実に十秒もの間、友達を抱き起こす事も出来なかった。
 十一秒後、「いやあぁぁぁっぁぁっ!?」
 叫び、叫び、ようやく抱き起こす、血を吐いて倒れた友に声をかける、「なぁ、しっかりしぃ! なぁ! なぁッ!」
 涙ながらに彼女は、
 ――能力を使う

 半径2メートルの存在の、有機物の治癒能力を加速させる能力。
 生きる意志がある限り、出血は止まり、瘡蓋が形成され、剥がれて、元通りに、みたいな、
 だけど、生きる意志の無い物には、絶望を抱いた物には意味が無い、
 、
 ああ、
 もはや絶望する事すら、友達は出来ないのだ。
 死んでいる。

「いやあぁぁぁっぁぁっぁぁっぁぁっ!」
 突然血を吐いた友。
 それが透明の悪魔という遊び人の仕業で、ある筋で始末されたとアトラスの雑誌で詳細を知れたのは、随分後だった。
 まだこの段階では、彼女は異界を理解しておらず。理解したのは、悲しみにくれる暇も無く、悲しみが連鎖して、連鎖し、徐々に彼女の優しい心が摩耗されていって、やがて、それが、
 それが、


◇◆◇


 鬼鮫の事を少し語るなら、妻子を化け物に殺された復讐の為にIO2の為に身をおいて、だが、やがて超常現象者との戦闘に喜びを見出し、復讐の二文字は遠くへやってしまった男、である。
 元ヤクザの気性、我流の剣術は神業、そして、ジーンキャリア。(魔物の遺伝子の優勢だけ継いだ人間、トロールの細胞を身に宿した為、力持ちの不死人間へと変質)
 よって、獲物の対象として、一條美咲は絶好だった。
「草立たせて、良い野郎のつもりか?」
 癒すだけなら、良い存在だ。そんな流浪の身だったら、春風のように歓迎したい、が、
「だがな、お前の襲った奴らは全員死んでるって報告来てんだ」
 黒い着物の女、遠く音に聞くだけなら、近くで目によって見るだけなら、実害は無い。しかし、
 敵意があるなら別、と。半径2メートルが癒しの領域だとしても、
 それ以上が、殺戮世界になる、と。「治すだけじゃねぇ、殺し方、死ってんだろ」
 見せてみろ、と言って、鬼鮫は薄く笑った。どんな能力かはあの煙草狂いには聞いていない。その方が、楽しいから、
 戦闘狂が開始する。
「見せろっ!」
 そして鬼鮫は、消えた。
 いや、消えたのでは無い、トロールの細胞が生む類稀な筋力で、単純に上へ思いっきり飛んだ。そして直下、直刀を槍のように、的は黒い着物、さぁ、
 どう、反撃する? 霊を操るなら操ってみろ、華奢な体が不死身だったらコマ切れにしてやる、銃弾なら弾き返し、刃物だったらそれごと斬る、さぁ、
 さぁ――普通の人ならば、恐怖を抱かざるを得ない笑い方が降って来ても、
 一條美咲はちいとも動かない。動かない、動かない、
 直刀の切っ先が、長い黒髪に触れる、瞬間、

 鬼鮫は、一條美咲の前に居た。

「……な」
 何の《な》なのか? 何が起こった、《な》だろう。確かに鬼鮫は、一條美咲という物体を貫くはずであった、なのに今自分は美咲の前にただ立っているだけで、
 そして直刀は、彼女の手に握られている。
 ――時間を止めたというのか
 想像するだけで絶望的な超常能力、だが、それだったらまだ笑えた、笑えたのだ鬼鮫は、時間が止められるんだったら、その前に斬れば問題無い、斬れば、ああ、
 鬼鮫の真が発動する。
 その速さは一秒に満たない動作であろう、刀を奪いその侭力任せに斬る。二つの動作で全てが終わる、殺しの
 、
 鬼鮫は、美咲の力を勘違いしている。

 だからその場で突然、苦しみ始めた。

 自分が倒れてうずまくってる事、それすら理解する間も無く、
 激痛と嘔吐がやって来る。「うがはあぁぁっ!? うごっ! うおあ……ぐああぁ!」
 のた打ち回る、のた打ち回る! 青い草の上で、2メートルの太さの道で、「て、め、てめ何しや……いぐああぁぁ、うおぉ!?」
 頭が割れるように痛い、体中が悲鳴をあげている、これは、一体これは、
「あんたさんは、」
 、
「あんたさんの体、魔物の細胞、そして、」
 一條美咲の、もう一つの超常能力、は、
「薬」
 彼女は、
「あんたさん、うちには、かないしまへん」
 癒しの能力以外の事を、
 気付かなかったら、気付かなかったのに、一條美咲は、

 世界を理解してしまうのだ。


◇◆◇

 影絵があったとしよう、一條美咲はその影絵を瞬時に理解出来る。
 それは光と、写す膜と、絵の形にくりぬいた物と、そう構成を理解出来る。重力がそこにある事も理解出来る。森羅万象を知れる彼女、そして最も恐ろしい事に、
 彼女はパズルのように、それを組合す事が出来る、だから、だから、
 ――ジーンキャリアは細胞との拒絶反応を抑える為、周期的に薬を投与される
 鬼鮫の体から、薬効を、外した。

◇◆◇


 それは死ぬように苦しい衝撃。「こ、ろす、殺」そうのたうちながらも、男は這って来る、生きる執念の凄まじさ、でも、2メートルの中には来れないだろう。
 原子の領域まで認識してしまう自分の能力で、
 一條美咲はこの異界を、把握している。
 ……把握、しているだが、それは言葉には出来ない、知る、という事は必ずしも、説明出来る物ではない。宇宙の真理が語れないような物で。
 一條美咲は知る事が出来る、だが、それを語る術は無い、
 語る、のは、
「俺は、お前の殺し方を知ってるよ」
 それは、
 、
 唐突な声だった。一條美咲の知らぬ声だった。
 だが、鬼鮫は知ってる。「お、前、お前」
 彼の嫌悪する物、超常能力者、そして、そして、
 煙草、
 一條美咲は振り返る。

 同時に、背後から鬼鮫の声が響いた。
「ディテクタアアァァァッァァッ!」
 ディテクターと呼ばれる、煙草をくゆらせる男が居た。

 口から煙を吐きながら、ディテクターと呼ばれる男は、コートを身に付け、グラサンをかけて、……どこか野暮ったそうな、そんな男は、
「殺し方を知ってる、一條美咲」
 だが、敵意は無いから、やすやすとディテクターは半径2メートルに到達した。「お前は知る事が出来るだろうが、俺は推理する事が出来る。違いが解るか?」
 そう言って、優しく笑った。なんだろう、この笑みは、
 自分と同じで、何かを捨てたような笑みだ。
「……どういう事、ですえ?」
「推理は順を追う。お前の能力を知れたのは、お前を襲った奴の成れの果てから順を追ってだ。被害者は全員、あるべき物がバラバラになって分解されていた。右手に銃を仕込んでいた男からは銃が外れていたように。……お前は、そんな風に語れないだろう? 推理の道順は色々あって、一つの真実に辿り着くが、お前は最初から真実を知ってしまう、だから、語れない」
 推理能力に特化された男は、次にこう語った。
「お前の殺し方は、お前が友を失って、自分を殺した事から順を追えば解る」
 そう言って、頭を撫でる。
「お前の中に眠ってるのは、優しい性格だ」


◇◆◇


 意識の奥に引っ込んでる物を、引っ張り出す方法は、敵意が無くても出来る。可愛そうな黒い着物の女を、可愛そうと思う青年のような、何も知らない他者を利用すれば尚更。
 戻ってからなら、無慈悲じゃないお前ならば殺す事が出来る、と、敵意の無い顔で言ってから、
 とりあえず、その男に薬を戻してやってくれと、言って、
 殺される事が怖かった訳でも無く、鬼鮫が可愛そうだった訳でも無い。もし言うのならなんとなくで、パズル、薬効を戻す美咲。
 戻った途端、彼女に襲い掛かってきた鬼鮫に銃を突きつけ、
 彼女は歯向かわない者には興味を無くす、と。語って、無理矢理、引っ張っていって。
 去り際に、
「可愛そうにな」
 、
「こんなふざけた世界、知ってしまって」
 だからこそ、だからこそ、だから、こそ、


◇◆◇


 立て続けに悲しみを経験して、つまりは、親しい者を殺されて行く内に、なんでなんでと唱えている内に、気付いてしまった、万物を認識し理解し解析し構築し分解、する能力。
 殺しあう異界、
 認識、する。
 だからこそ、狂気に取り付かれた。


◇◆◇


 だけど、この異界
 一條美咲、危険人物として世界中に、知ってしまった着物の女。
 それでも彼女は彷徨い続ける。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 4258/一條・美咲/16歳/女性/女子高生

◇◆ ライター通信 ◆◇
 ――方々のプレイングを見た結果、今回は基本的に全員個別で仕上げております。
 え、自分がデビュー作!?(驚き
ども、初めまして、ノベル初を担当させていただいたエイひとでございます、この依頼で新規の方が来るとは予想しておらず……。よ、よかったのでせうか;
 ととととりあえず存外に最強で無敵の能力だったので、それを念頭におかせていただきました!(必ずしも獅子がアメーバーに勝てる訳では無い、寧ろ、勝敗においては負けも時に意義があり、最強も最弱も普通である事もある意味素晴らしい的な事を含んだつもりですが、って長ぇ)推理との違いっちゅうのは、"能力で異界を理解した"ようでっけど、"異界PCはここが異界である事に気付いてない"とあったので、こういう事かなぁ、と; どういう意味かかなり悩んだんですが、こういう形にしました。なんや見当違いだったらすいませぬ。
 んでは参加おおきにでした、またよろしゅうお願いします。
[異界更新]
 異界の一條美咲、万物を理解する能力で世界を知る、が異界である事には気付いてない。流浪する超常能力者の為、IO2等各方面にマークされてる模様。