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<東京怪談ノベル(シングル)>


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 自宅でひとり、手に持ったペンを紙に走らせるまさおがいた。彼女は何度もメモ帳を見ては真っ白い紙にそれを書き写している。どうやら清書をしているようだ。真剣な作業をしているわりに彼女はどうも落ちつかない様子で、ちょっと書くとはすぐ窓の方に振り返る。そんなことを繰り返しながらも、彼女の作業はゆっくりと進んでいく。


 まさおの作業はオリジナルアルバム「STILL IN LUV 1st」に収録する曲の歌詞を作ることだった。せっかちなリーダーから「歌詞はまだか〜、歌詞はまだか」としつこいくらいにメールが飛んでくる。彼女はそんな内容のメールを3回くらい確認したところで、首を振ってため息をつきながらケータイの電源を切った。きっと今ごろ、相手は大騒ぎしていることだろう。そのしつこさは人気マンガ家の編集者も顔負けだ。
 普段なら、まさおも多少は悪いと思って相手に電話して、適当にでも事情を説明するだろう。彼女はそれほど協調性のない娘ではない。しかし今回は状況が違った。実はこの曲、まさおがソロで歌う曲なのだ。いくらヴォーカルでパフォーマーのリーダーが催促しても、今回は彼女は蚊帳の外でも一向に構わない。だからこそ、さっさと電源を切ってしまったのだ。静かになった後は作業がいくらかはかどった。

 今回の曲は冬をイメージしたさわやかなものだ。アルバムに盛り込む曲のバランスを考えると、こういう曲があってもいいとまさおは判断した。ただクリスマスソングにしてしまうとあまり記憶に残らないかもしれないので、冬の、それも秋から冬へと移り変わるあたりをイメージしてそれを歌詞にしてみた。そして実はこの曲、ちゃんとモデルがいるのだ。だが、それはまさおだけの秘密である。秘め事を思い出してか、彼女はほんの少し微笑んだ。
 そして歌詞が書き上がった。これで脱稿だ。あとはみんなで曲を作れば、ワントラック完成となる。だが今ケータイの電源を入れると、壊れたオルゴールのようにメールの着信音がじゃんじゃか鳴り響くだろう。だからあえて家のファックスで作曲担当の娘に歌詞を送り、その最中になんとかケータイをやっつけようと彼女は考えた。しかしそのことを考えると、なぜか電話のプッシュボタンを強く押してしまう。デリケートな作業だったからか、柄になく落ちつきのないまさおであった。


 しばらくするとファックスが紙をわずかに飲みこみながら、その歌詞を相手に送り始めていた。
 その歌詞を見ていると、もう冬がそこまできているようだ……



 ■color white

  キミが待ってた白い雪 冬に呼ばれてやってきた
  街に木枯らし吹いた時 そっと願ってたんだよね
  白いAngel 小さい手に キラキラのたくさんの粒
  アクアブルーのかなたから キミのおでこに届けるよ

  color white ほほ染めて見てるよ
  ボクはじっとただ静かに…
  and ever white キミが見つけたよ
  季節ハズレの赤く染まったかえでを


  粉雪はすぐ街角を 白く包んで変えていく
  すべての景色輝かせ ネオンサインのできあがり
  ボクのAngel 外見つめて ピカピカの夜楽しんで
  マリンスカイの瞳にも 同じきらめき映ってる

  color white 震える肩抱いて
  ボクはじっとただ静かに…
  and ever white いつもここにいるよ
  この窓の前 ひとつの影が見つめてる


  color white ほほ染めて見てるよ
  ボクはじっとただ静かに…
  color white 震える肩抱いて
  ボクはじっとただ静かに…
  and ever white いつもここにいるよ
  ボクの心とボクの気持ちがすぐそばで



 鳴り止まぬケータイを落ちつかせ、催促のメールを全部削除する頃には、もう電話は返事の受信していた。まさおはまた恨めしそうな顔をしてケータイを見る。そして電話機から吐き出された似顔絵入りの返事を見て、ホッと息をついたのだった。

 『オッケーやで〜。』
 「ふぅ……オッケー。ぶいっ。」

 似顔絵のピースサインに向かって、まさおも同じポーズをしたのだった。