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<東京怪談・PCゲームノベル>


出現!天下無敵の田舎娘!

1.
見上げた看板に、琴子は息を呑んだ。
「めいどあいらんど・・・?」
「・・・まぁ、店名はともかくとして、あなたにはこの店と俺の自宅の家事などをしてもらうことになるから、そのつもりで」
にっこりと笑った彼の顔が、琴子には悪魔とも天使とも判断し得なかった・・・。

 ―――さかのぼる事、数時間前。
草間興信所の扉を叩いたものがいた。
「草間さん。ちょっと義母から言伝を・・・って、どうしたんです?」
訪れたのは長身・長髪の青年。 田中裕介(たなかゆうすけ)である。
「・・・おー、おまえか。ちょっとな、色々あるんだよ」
机に突っ伏していた草間がそう言った。
語尾が現在進行形なのに気付き、裕介は興味を持った。
興味を持ったが、まずは義母の言伝を伝えるのが先だった。
「これを預かってきました。どうぞ。で? 何が色々なんです?」
裕介の差し出した小さな紙を広げつつ、草間は答えた。
「俺んとこに家出娘が居ついてな。そいつが中々出て行かないんだよ」
「なるほど」
裕介は短くそういうと、少し考え込んだ。
その間、草間は裕介の義母からの言伝をジーッと食い入るように見つめる。
「・・・おまえのおふくろさんは、手加減てものを知らんのか? また厄介な事を俺に押し付けてきたぞ?」
「それだけ草間さんを頼りにしてるんですよ」
義母が何を書いたのかは知らないが、おそらく草間が生業としている探偵業に関わる何かなのだろう。
そして、それは草間の謙遜ではなく本当に厄介ごとなのだ。
「ち。これで当分家に帰れないな・・・」
草間がそう小さく呟くと、奥にいた零を呼んだ。
そして、興信所を留守にすることを伝えると、零はにっこりと笑い「わかりました」と気持ちのよい返事を返した。
だが、すぐに困った顔になった。
「琴子さんはどうしましょう?」
「・・・う〜・・・」
悩みこむ兄妹2人。
どうやら、琴子というのが問題の家で娘らしい。
そんな草間に、裕介は先ほど考えていたことを口に出した。
「何ならウチで預かりましょうか?」
草間の目が、キランと光った。
「預かる・・・? どうせなら追い返して欲しいところなんだが?」
「・・・わかりましたよ。やれるだけやってみましょう」
ニヤリと草間が笑った。
草間の策略にはめられた気もしないでもなかった。
だが、裕介はそれに気がつかぬフリをして、草間から事情を聞いた。
『お願いです! メイドさんでもなんでもやりますから!』 ・・と、琴子は草間に言っていたらしい。

では、メイドになってもらいましょうか。

優しげな微笑の中に、隠された鋭い刺が見え隠れしていた・・・。


2.
『めいどあいらんど』と掲げられた看板が、どうやら裕介の店らしい。
「うわぁ〜。田中さんのお店、一度来てみたかったんです」
ウキウキとしているのは固まる琴子の隣にいた草間零だ。
琴子を説得する話の都合で、なぜか零まで草間の留守中預かる事になってしまった。
「私、頑張りますね!」

零さんはやってもらわなくていいんだけど・・・。

すっかりやる気の零に、裕介は苦笑した。
「・・・わ、私も頑張ります!」
零に張り合うように、琴子もそう言った。

店の中に入ると、ずらりと並ぶは80パーセント以上を占めるメイド服。
まさに『名は体を現す』とはこの事だった。
真剣にメイド服を選ぶお客の間を縫って、裕介は従業員控え室へと零と琴子を案内した。
「朝9時から夕方4時まではここで働いてもらうことになります。制服ですが、日替わりで着てもらいます。清潔第一だから毎日同じものは着ないこと。それに、実際に着てる服ほど1番よい見本になるから、きちんと着てくださいね」
にっこりと笑い、裕介は次々とメイド服を並べだす。
草間の不在は1週間程度だと言っていたから、7日分。
ミニスカートのメイド服からノースリーブ、アンミラ系、果てはピンクのハート型エプロンまで。
「ほ、ホントにコレ着るんですか?」
琴子が今にも泣き出しそうな声を出した。
「もちろん」
裕介は間髪入れず、答えた。
琴子の顔が、引きつったのが裕介にもわかった。

裕介は次に、琴子と零を自宅へと案内した。
「店の方が終わったらすぐにこちらへ帰ってきてください。やることは山の様にありますから。あと、店からオーダー商品の手直しや注文書を運んでもらいます。それが終わったら洗濯や掃除・・・」
「えっと・・休憩時間は・・・?」
恐る恐ると琴子が口を開いた。

「ありません」

きっぱりと、裕介が言った。
そうして、琴子の辛く長い一週間が始まった・・・。


3.
朝、6時起床。
オーソドックスなメイド服に着替えると朝食を作り、摘み立ての花をテーブルに飾る。
裕介を起こし、朝食の給仕。
それが終わると、あと片付けと自分の朝食を同時進行。
洗濯物を干し、裕介の自宅から店に持っていく書類やオーダー商品を整理しダンボールに入れると店へと出勤。
店の中では丈の短いメイド服に着替え、在庫整理や庫内の整理整頓。
オーダー商品の荷受や搬送。
昼食はサンドイッチを書類整理しつつつまむ。
午後は午後で店がにぎわってきて、衣装オーダーしたバンドへの商品チェックや布の仕入れを手伝ったり・・・。
店が4時で交代となると急いで裕介の自宅へ。
洗濯物を取り入れ、全てを綺麗にたたみ所定位置への収納。
そして、夕食の用意、給仕、後片付け。
その他こまごまとした雑用をこなしつつ、裕介が呼べば即それに応えて裕介の元まで行って用事を受ける。
そして、いついかなる時でもメイド服の着こなしをチェックされており、少しでもヘッドドレスが傾いていたりすれば厳重注意。

・・・それが1週間、続くのである。
初日はそれでも頑張っていた琴子であったが、裕介のメイド服に対する思い入れの強さからくる厳しい注意がたびたび入り2日目、3日目と段々と不満げな言動が見られ始めた。
「琴子さん、ヘッドドレスが曲がっています。それに、その立ち方は非常に見苦しい。背筋を伸ばし手は前で軽く組む。あごは引いて、口も軽く結んで」
裕介がそう注意すると、琴子は眉根に皺を寄せた。
「・・・わかりました」
「そんな顔しているとお客さんが気を悪くされる。もっと笑顔で」
「わかりました!」
横でメイド服を着て同じように手伝っている零が、ハラハラしているのがわかる。
少し厳しい対応ではあったが、裕介の指導は店員としてもメイドとしても基本的なものばかりだ。
それが琴子にもわかっているのだろう。
言葉での反論は返ってこなかった・・・。


4.
嫌々ながらも、1週間。
琴子は裕介の下、真面目に働いた。
4日目には裕介の注意を受ける事が少なくなり、段々と仕事も速くなってきた。
「琴子さん、お上手になりましたね〜」
と、零が思わずため息をつくほどの家事の上達ぶりを見せ、店の方でもテキパキと庫内整理をしていった。

これは、ちょっと予想外か?

裕介はそう思った。
もし、琴子が望むなら正式な手順を踏んだ上で雇っても構わないだろう。
そう。琴子はれっきとした『家出少女』なのだ。
一応そう思って、義母の力を借り琴子の素性は調べてもらっていた。
琴子は、東海地方に住む4人家族の次女でどうやら姉と相当比べられて育ったらしい。
だが、その比較というのが『優劣』ではなく、『跡取りか、そうでないか』という比べられ方だったようだ。
今時跡取り問題は財閥などだけのものだと思っていたが、どうやら田舎ではそうもいかないらしい。

彼女も彼女なりに、悩んでの家出ということか。

裕介は1人、店の2階でそう考えていた。
と、階下から裕介を呼ぶ声が聞こえた。
その声に裕介が降りていくと、1週間ぶりの顔があった。

「悪かったな。零の面倒まで見てもらって」
草間がそういうと土産なのか、包装されて箱を裕介へと差し出した。
「いえいえ。零さんのメイド服姿もとてもお似合いで・・・」
裕介がそこまで言うと、草間のドスの聞いた声が裕介の声を掻き消した。
「手ぇ出してないだろうな?」
「・・・してませんよ。信用ないなぁ・・・」
そう言った裕介は、草間に尋ねた。
「それで、琴子さんどうしましょうか?」
「・・・まだいるのか? おまえの方で何とかしてくれよ」

嫌そうな顔の草間に裕介はこの場で決着をつけることにした・・・。


5.
「とりあえず約束の草間さんが帰るまで・・ということでしたけど、どうでした?」
琴子を目の前に、裕介はそう訊いた。
メイド姿の琴子と零、そして草間。
誰もが琴子の言葉を待っていた。

「・・・慣れました」

少しの間をおいて、琴子はそう言った。
だが・・・。
「慣れたけど、ここではもう働きたくないです。私、メイド服嫌いです。動きにくいし屈むと、ぱ・・パンツ見えそうだし・・・」
「パンツ?」
草間が琴子の言葉に怪訝な顔をして、裕介を見た。
裕介はただ苦笑するしかなかった。
「できれば、メイドさん以外で草間さんとこに雇ってもらえませんか!?」

「琴子さん、申し訳ないけどそれは出来ないんです」

草間が答えようとしたが、裕介がそれを遮った。
「どうして!?」
叫んだ琴子は、裕介を真正面から睨みつけた。
裕介は、それをしっかりと受け止めた。
「琴子さんには帰るべき場所がある。待っている家族がいる。どうしても、東京に居たいのならその人たちを説得するのが筋でしょう」
「でも、そんなの・・・」
『無理だ』と言葉を続けようとした琴子に、裕介は言った。

「俺が琴子さんのご両親に電話をかけたとき、とても心配していた。迎えに来るともいっていた。でも、それは待ってもらった。そうじゃなきゃ琴子さんが同じ事繰り返すと思ったからね」

その言葉に、段々と琴子の顔が泣きそうになっていく。
「・・・本当に? 私のこと、心配してた?」
「本当だよ。とても心配していた」
琴子が俯いて、しゃくりあげた。
零がそっと、琴子の肩を抱いた。

「・・・っ、また・・・来てもいいですか?」

「もちろん」
優しく裕介がそう言うと、琴子は思い切り泣き出した・・・。



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□■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■□

1098 / 田中・裕介 / 男 / 18 / 孤児院のお手伝い兼何でも屋


□■         ライター通信          ■□

田中・裕介様

初めまして、とーいと申します。
この度は『出現!天下無敵の田舎娘!』へのご参加ありがとうございます。
大変遅くなりまして、申し訳ありません。
メイド服屋さん(?)の裕介様。楽しい設定で、資料調べに熱がこもってしまいました。(笑)
依頼の方、大成功かな・・・と思います。
根本的なものが解決されない限り、琴子は何度でも家出していると思います。
義母さんの設定がよくわかりませんでしたので、こちらで色々書いてしまいましたがもしお気に召さなければリテイクかけてくださいね。
それでは、またお会いできる時を楽しみにしております。