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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


殺人者に死は訪れぬ
 Ver.虚無に至る狂気

■オープニング

 以下、ある日の『ゴーストネットOFF』にあった書き込み。

 件名:件の連続殺人について
 投稿者:常緑樹

 最近新宿界隈で起きている連続殺人の話は知っているか?
 妙な惨殺事件だな。
 被害者は無差別。滅茶苦茶に斬りつけられての失血と打撲のショックで、襲われた奴ァひとり残らず死んでる。
 だが信用に足る目撃者はやたら居るんだな。
 どうもその犯人は――標的とその連れ…つか至近距離に居た連中以外は殆ど無視するみたいでね。
 で、目撃情報を元に一課や所轄も動いてやがるが…ありゃあちょいとばっかり管轄が違うってのが俺の見解だ。
 あれは真っ当な警察組織で手が出せるモンじゃねえ。…ま、真っ当じゃなけりゃ知らねえが。
 地元ヤクザどころか…中国系の連中だってそっちは無視してやがるくらいだしな。
 さすがにあれだけ派手に暴れりゃ、黒社会だって普通は放っときゃしねえだろうによ。
 で、肝心の皆さんの生活を守る警察はっつや、神経質にぴりぴり張り詰めてやがる。
 …平和に騒いでるのは無責任なマスコミの連中だけだ。

 どうしてそんな事になっているのか、理由を教えてやろうか?
 犯人は、犯人じゃねえからだ。

 実は一度俺も見た。
 決定的な場面をな。
 その時は女だった。
 若いOLってところか。
 だがな。
 どう考えてもおかしかったな。
 気配が異様過ぎるんだ。
 その上にな。

 …日本刀振り回してやがったよ。

 それだけなら別におかしかァねえ。ちゃんと取り扱えるように訓練してりゃ出来るって事くらいはわかる。そもそも時代遡りゃ女だろうがガキだろうが手前の命守る為に段平振り回さざるを得ねえような時代だってあった訳だしな。
 日本の法律で駄目だろうって?
 んな事言ったって裏じゃ適当に出回ってるだろ? 最近は。
 青龍刀とか『そっち』の意味じゃなくてもよ。
 ほら、近頃の東京ってのァ、真っ当な筋だけじゃどうしようもねえ事も起き始めてるからな。
 …ここを見てるような連中は御馴染みのこったろうが。
 ってまぁ…とにかく、日本刀が出てくるってだけなら、特に驚く事でも無えんだ。
 そもそも資格さえ持ってりゃ法の下で持つ事だって出来る訳だしな。…ま、易々振り回す訳にも行かねえが。

 ただな。

 …俺の見たありゃあ、どう見ても剣の道にもド素人の姉ちゃんだった。

 不釣合い極まりなかったな。
 別に真っ当に剣の道に居なくたって、実際振るってりゃ、『ソイツが使ってる得物だ』って印象はある筈だろ? そもそも単純な技術だけの話なら、剣術やら何やらって細けぇ流派は『刀を適確に使う為の独自の方法を教えてる』に過ぎねえようなもんだ。流派なんぞ見えなくても真っ当に使ってる奴ァ幾らでもいる。

 でもそれとも違ってやがったんだよ。

 闇雲に棒振り回して叩いてるってのが正しかったかも知れねえな。斬るっつぅよりも。
 …ほら、イカレたガキが角材振り回して暴れてるような感じとでも言やあ良いのか? そんなんだ。
 乱暴なだけなんだよ。
 力任せで滅多打ちにしてやがった。
 被害者は死んでたな。
 後でニュースで見たさ。ま、この目で直に見た時点でありゃ死ぬなとは思っていたが。

 …助けようとは思わなかったのかって?
 申し訳無いが俺が出ても余分な死体がひとつ増えるだけだってなァすぐ判断付いたんでな。
 警察に連絡したって大して変わりゃしねえ。
 …更に死体が増えるだけでよ。
 だったら『どう見ても正気じゃねえ』犯人の背負う罪を少しくらいは軽くしてやるべきか、と思ったのさ。

 ちなみに承知の通りかと思うが。
 この一連の殺人、警察やマスコミの方じゃ、連続と見るべきかどうか困ってるところもあるんだな。
 目撃証言が違い過ぎるんでね。
 犯人がガタイの良い大男と言われる時もありゃ、ジジイ、女、リーマン、ガキ…滅茶苦茶だ。

 ただひとつ共通しているのが、血刀片手にぶら下げてる、って事くらいだ。

 こう書きゃァ予想は付くだろ。
 いったい『何が』本当の犯人か。
 俺が当然のように連続殺人だと書いたのはそれが理由だ。

 せめてここを見てる連中くらいは…標的にならねえよう、殺されないように気ィ付けろや?
 俺ァその為にここで書いてんだ。
 異様な気配を感じたら、そっちに目ェ向けんな。刀持ってると見たら目ェ合わせんな。…極力近付くな。極力離れろ。目立たねェように静かにゆっくり逃げろ。それが一番安全だ。

 ココが巨大掲示板だって利点、見せてくれや。

 …以上



「…気ィ付けろ、っつっても誰かわざわざ首突っ込むだろうがね」
 まぁ、それが目的なんだがな。
 紙煙草を銜えたまま男はぼそりと呟く。
 画面に向け呟いたその人物は、某ネットカフェの…PCの前からおもむろに席を立ち、ひとり、歩き去った。


■調査開始

 …壮年の男性。何やら癇気の強そうな神経質そうな顔立ちをしている。銜えている紙煙草には火が点いていないが改めて点ける気も無さそうな様子。よれよれの格好だが、目や身ごなしに何処か鋭いものも感じる。印象からして刑事かヤクザ――密かに『左眼』で解析すればどうやら暴力団対策課の刑事らしい。にしては何やら――らしくない行動にも思えるが。
 そう見えた相手が立ち上がりPC前から去ったのはつい今し方。サングラスを掛けた青年は静かに珈琲を飲んでいる。その青年は、今去ったその後ろ姿が店を出るまで見送ってから、珈琲のカップを置き今の刑事が居たPC前に向かった。
 青年――幾島壮司は今の刑事が呟いた言葉を聞いている。…気を付けろと言っても誰かわざわざ首を突っ込む。それが目的なんだがな。明らかに何かを書き込んでからの、その科白。
 壮司は以前この店でちょっとした良い思いをした事がある。だから時々ここには来る。今日もまたそんな理由。また何かあるかなと思って立ち寄っていた。
 そこで聞き耳を立てていたところに、これだ。…気になっても罰は当たるまい。
 PC画面を見れば新宿界隈で起きている殺人事件について書き込まれている。恐らく今の刑事がこの『常緑樹』と言うハンドルネームを使っている当人。この書き方ではどう考えても殺人をやらせているのは刀。…そう思ったからこそ、並の刑事では解決するのが面倒でこんな事している訳か? 人間じゃなければ逮捕は出来ない。
 まぁ、刀か。
 それも、相当の曰くがありそうな。
 壮司は書き込みを見ながら少し考える。
 物騒だが面白そうだな。
 …結局そう思い、壮司は敢えて今の刑事の思惑通りに首を突っ込んでみる事にした。



「…見て楽しい書き込みじゃないですね」
 薄暗い部屋、だがそんな部屋が似合う主がそこに居た。静かにPC画面を見つめていたその主――華奢な体型の、ちょっとはっとするくらい綺麗な顔の少年。だが、その印象がひどく暗いのは気のせいでは無いかもしれない。灰色に近い銀の髪がその理由か。否、それより暗紅色――血のような瞳の色の方がそんな印象を抱かせるのかもしれない。
 ともあれ、何処か闇に属する印象の、少年だった。
 少年――尾神七重は書棚からおもむろに地図を抜き出す。東京都、新宿区――特に歌舞伎町周辺。即ち、新宿駅を境とするなら西口方面では無く東口の側、更に言うならやや西武新宿駅寄りの方に――日本刀を使用した殺人事件が数件起きているとはニュースとして聞いている。少々うろ覚えながらその中の何件か記憶にある現場を地図上に点でポイントし、その場所の再確認と他のまだ確かめていない殺人現場を改めて探ろうと七重は再びPCに向かい操作を始めた――が。
 そこで、見計らったように小さなウインドウが開いた。こんなソフトは組み込んでいない。七重は訝るが、思う間にもそのウインドウの中に文字がタイプされた。
 ――突然申し訳ありません。貴方様がゴーストネットOFFにある件の書き込みから調査を開始しようとしている事を察知し、失礼とは思いましたがこの方が手っ取り早いと思いまして、こんな接触の方法を取らせて頂きました。驚かせてしまいましたでしょうか? わたくしは榊船亜真知と申します。もし宜しければ、共に調査したいと思い声を掛けました次第です。勿論貴方様がわたくしの事をお疑いになられるのは当然と思います。そこで、どうしたら信じて頂けるかと考えてみたのですが…わたくしはネットに直に潜れますもので、PCを通して直にわたくしの姿をお見せしたく存じますが、今から貴方様の元へお伺いしても宜しいでしょうか――。
「――」
 そんな文字列に七重は停止する。ハッキング――とは言え文面を信じるならば別に悪意は無いもので。それどころか共同戦線を張ろうと言う申し出だ。言葉遣いもひどく丁寧。…だが、ネットに直に潜れる存在、などと。
「…そんな事が本当に可能なんですか」
 七重はぽつりと呟く。
 本当に可能なら、実際に出て来て見せて欲しい。そうしたなら取り敢えずは信じたいと思いますが。…そう思いながらの七重の呟きに、反応したのか薄暗い部屋の中に唐突に光が満ちた。次の刹那、あろう事か振袖を纏った長い黒髪の、華やかな少女が、眩い光が消えたのと同時に部屋の中にいきなり現れている。
 もっと正確に言うなら、PCの前に、PCの前から――現れたような、タイミングで。
 その彼女は、何処か唖然とした様子の七重を見、にっこりと笑うと、優雅な仕草で深々と頭を下げた。
「改めまして、榊船亜真知と申します。初めまして」
「…初めまして。本当にいらっしゃるとは思いませんでした」
 七重はそう返しながらも、まぁ、そんな事もあるのだろうと、一応ながらこの亜真知の事を信用してみる事にした。目の前に現れられてしまえばさすがにネットに直に潜れる――と言う部分は疑い難い。
 それから、最前のメッセージに加え今面識を持った時点で…少なくともこの少女が――犯人だとはちょっと思えないから。ならばひとまず、共に調査するくらい、構わないだろう。
 何なら、後で他の誰かに確認しても良い。こんな存在なら、きっと誰かが何らかの形で知っている。
 …そうですね、後でゴーストネットの瀬名さんにでも訊いてみましょうか。
 七重の中でそこまで決まった事がわかったのか、亜真知は再びにっこりと微笑んだ。



 …電話が掛かってくる。相手はボクに『ピンキー・ファージ』をくれた『あのお方様』。…「使い手から刀を取り上げて可能ならば破壊せよ」。依頼が来るなんて嬉しい限り。『あのお方様』からの依頼は特に金になる。それに、場所はこの新宿。つまりはこのボクの根城での出来事。気にはなっていたけどタダで仕事するのもアレだし? と思っていたところでのこの依頼。益々もってラッキーだよねぇ☆
 そんな風に思い、何が楽しいのかクックックッ、と喉を鳴らしつつ…ひとりの男が自室の――新宿のワンルームマンション、ソファ代わりにベッドの上に座り込み何やら手の中で書き物を続けている。手の中には小さなペンとメモ。内容を見ればたった今『あのお方様』からあった依頼について、神経質なまでに一時一句漏らさぬように書いてある。それを確認して漸くペンを動かす手を止めると男は満足そうににやりと笑った。その唇はピンク色。更に言うなら癖っ毛――と言うより最早あらぬ方向にピンピンと撥ねて立っている黒髪にも同色のメッシュが入っている。服装は黒を基調としているが、それでもやっぱりはだけた胸元に見えるネックレスにまで、ピンク色がアクセントに入っている。
 満足そうににやりと笑ったその男の名は、御守殿黒酒。…彼は次にはひょいとベッドから立ち上がると、早速、玄関へと向かい厚底の黒い革靴を履き始めた。情報は外で掴んだ方が足は付き難い。ネットを使うにしろ裏の情報屋を使うにしろ、まずは外をぶらつくのがイイだろう。そんな考えで黒酒は夜の街へと向かう。コトがあれば『ピンキー・ファージ』を出せばいい。ボクの可愛い大食漢のデーモン。何でも食べちゃうボクの相棒♪
 ボクらはだぁれも逃がさないのサ。

 …そう、この『刀』だって同じ事♪



 妖気、と言うのが相応しいか。この近所に来る事は初めてでは無いが、どうも以前来た時より妙な気配が濃くなっている気がする。幾島壮司はそんな風に思いつつ過去の犯行現場のひとつに現れていた。新宿の――ひとまず駅近くで情報収集をした結果。確かに書き込みにあった通りに信用に足る目撃証言はやたらに多い。だが、あれは手を出す気になれるもんじゃねえよ直に見ちまったら凍るって、と大抵そんな言い分で纏められてもおり。目撃者の皆が皆そんな調子だから警察もまた動きが遅れているのかもしれない。…殆どの場合であの話し振りでは、一般市民の義務を心得た目撃者であっても、事件があってすぐに通報はしていないだろう。相当時間が経って始めて、我に返って通報していそうだ。
 …ひょっとするとそれもまた刀が持つ能力…と言う事もあるのか? 殺しをしている最中には、誰からも邪魔が入らないように周囲の行動を差し向ける。
 目撃者から感じた印象としては…身も蓋も無く言えば単に刀の妖気に当てられていただけとも取れるが、狙ってその効果が齎されているのならそれもまた『結界』と呼ぶべきものの形のひとつと言えるから。
 壮司は現場を『左眼』で解析しつつ、考える。この街に来て感じた妖気の濃さ、その異様さの原因――初めの、一番の大元は確かに件の刀のよう。だが、どうやらここまで濃く、重くなっているのは刀だけのせいでもなさそうだ。
「街の気に、人の気に…増幅されて、ここまでなってるって訳か…それで、『この場所』で?」
 今の時点までの事件現場は特定出来たが、地図上で見る限りは統一性はほぼ無い。だが直に出向いてみれば漠然とした共通点はある。それは――あまり開けてはいない空間、それでいて人通りが比較的多い場所。だからと言って押し合い圧し合いしながら歩かなければままならない程人が居る訳でも無い場所。言ってしまえば…それなりに刀が振り回し易そうな場所で、同時に、居合わせた人間が咄嗟に移動出来そうな範囲が、ある程度限定される――そして即座に把握も出来る場所、だろうか。
 残された血の痕。
 解析を続ける。血は被害者の物。この場では八人か。A型とO型がそれぞれ三人、B型二人。抵抗の痕は。あわよくば、犯人を誰か引っ掻いたりしては居ないか――そうしたら、ほんの僅かでも犯人の血が、体組織の痕跡が、衣類の繊維が一緒に落ちている可能性もある。そうでなくとも髪の毛等も充分有り得るか。それは勿論無関係の場合もある。だが、この場に落とされた時間が被害者の血とほぼ同じなら、事件と関係ある可能性は高い。それは導き出せる筈。
 と、そこまで探った途端。
 壮司は訝しげな顔をした。
 …『さっき見て来た現場の被害者の血と同じもの』がほんの僅かだがここにある。何故だ?
 壮司が先程見て来た現場、それは、今見ているこの現場で起きた事件よりも『後』に起きている事だと確認してある。即ち、先程見て来た現場の被害者が、この現場にも――それも事件の時に、居た事になる。
 それも、今この場の事件の時には、その被害者は生きていた。
 それでいて、こちらの現場での被害者と、ほぼ同じタイミングで路面に血が落ちている。
「…」
 聞き込みを始める前の時点。犯人の身元、それを確かめようとした時に壮司はおかしい事に気が付いていた。明らかに血刀を持つ犯人が複数居る――との目撃証言は多数あるのに、その犯人の方は――ひとり足りと見付かっていない。
 ――加害者が被害者になっている?
 そう考えるのは飛躍し過ぎか。
 けれどそう考えるなら、加害者側――刀の使い手が一切出て来ない理由もある程度納得が行く。直に見ているのは目撃者だけ、だからと言って調べる側とて被害者の姿――特に被害にあった後の――など易々そこらの目撃者に見せる訳も無し。被害に遭う前の写真なんか全然印象が違って当然な訳だしこれだけの妖気を放つ刀を使っていたともなれば更に印象は違うと容易く想像が付く。そして調べる側は加害者の姿など知らない。被害者の事は被害者としてだけ知っている。加害者と被害者がイコールで結ばれるなどと思わない――。
 案外、盲点じゃないか?
 ………………そこ重点的に、確認し直してみるか。

 壮司は再び、先程話を聞いた複数の目撃者の元へ戻ってみる。特に視覚としての記憶が鮮明だった相手を選び、聞き忘れた事があって、と濁しつつ密かに透視。別の事件の被害者と加害者の姿で、同じ人物と取れる視覚としての記憶は無いか。何度か続け、壮司は確信する。…当たりだ。被害者と加害者にイコールで結べる人間がいる。それも、何人も。
 …ごく自然な態度でたった今話を聞いた相手を見つめ、壮司は再び『左眼』を発動。そこにストックされている力のひとつ、[GLM]で――自分の外見に関する記憶を消してからさりげなく離れ人込みに紛れる。
 が。
 …その行為に気付いた人間がひとり居た。近場のファーストフード店内。初めは特に気にしている風でも無かったが、窓の外、人込みの中に居たサングラスの男が奇妙な行動を取った、そう思ったところでそれとなく人物を確認。たった今、何らかの力が行使された。刀を持ってはいない。隠し持つのも不可能だろう――と言うより、妖気、とでも言うべき何処か危うい異様な気配は特に感じない。また、そのサングラスの男も何かを探っているような様子で。殺人事件について動いている御同類かもしれない。具体的にはわからないが、随分簡単な手段で他人から何かを確認出来る力を持っている。
 だったら――連絡を付けておくべきだろうか。
 思い、サングラスの男に気付いた少年――尾神七重は、す、とそのサングラスの男――幾島壮司を指差した。その途端、壮司は足を止める。そして何処か焦ったような表情をし、それでもさりげなく視線を周囲に巡らせた。そして、すぐにファーストフード店の中を見、間違う事無くピンポイントで七重を見つける。そこで七重は指を下ろした。壮司はそのままで暫し七重を見ていたかと思うと、七重の居るファーストフード店に入って来、当然のように七重の席まで歩いて来た。やや、怒ったような態度。…それも当然か。
「何のつもりだ?」
「御無礼申し訳ありません。ただ…貴方に手っ取り早く声を掛ける手段が他に見付からなかったもので」
 能力を見せれば、貴方の方から僕のところに来て下さるかと思ったまでです。
 言って七重は席から立つと、今度は礼儀正しく壮司にぺこりと頭を下げる。
 が、壮司の様子は変わらない。
「…店出て普通に声を掛ければいいだろうが」
「…ここから出て貴方の足に追い付けると思えませんでした。結構離れてましたし」
「…」
 その答えを受けた後、暫し壮司は七重を見下ろしたままでいた。やがて、小さく息が吐かれたかと思うと、壮司は七重の向かいの椅子にあっさり腰掛けた。
 その時には何やら――怒っていると言うより、苦虫を噛み潰したような顔になっている。
「尾神七重、ね。重力を操作出来るのか。…いきなり足が止められた時は何事かと思ったが。で、共同戦線のお誘いか」
「…随分確りと物事が見透かせるんですね。見るだけで――ですか」
「ああ。悪いな、結構視えちまった。恐らく…あんたが視られたくないところまでな。あんな声の掛け方しか出来なかった理由も確り視えた。…悪かった」
「いえ。先に無礼を働いたのは僕ですから。それより――」
 協力して事件を追う気はありませんか?
 そこまで口に出しては言わせず、壮司は頷く。
「俺の方も、センサー役が居た方が動き易い。それに、情報も腕っ節も…無いよりある方が良さそうだしな。ところで…今あんたとこの件に関して連絡が付いてる『その連中』とも、協力するって事でいいんだな? 振袖の――榊船亜真知って中学生くらいの子――って言うかとんでもない解析結果が出てるんだが信じていいのかこれは…」
「とんでもない解析結果、ですか」
「『超高位次元知的生命体』とか何とかって…手っ取り早く言うと『神』だとか…や、それは置いといて――とにかくその子と、その子の伝手からセレスティ・カーニンガム…って人のふたりと電話で連絡が付いてるんだろ」
「…ええ。そう思って頂いて構いません。榊船さんとは――僕を視たのならおわかりかもしれませんが、本当に直接連絡が取れますので、その内お会い出来るかと思います。カーニンガムさんの方とも話は付けておきますし。
 それにしても…『神』、ですか」
 榊船さんは。
「…俺の『左眼』を信用するならな。…もっとも、『左眼』での透視と解析が間違いを導き出した事は今までのところ一度も無い」
「『左眼』…」
「そう。『神の左眼』。あんたの事やその連絡取ってる相手が視えたのはこの眼の力だ。…ああ悪い、好き勝手見透かしておいて俺の方が名乗るのを忘れていたな」
 言いながら壮司はサングラスを取る。
 そこに表れたのは――黒色の双眸ではなく、左の瞳だけが金色の…オッドアイ。
「…俺は幾島壮司、『観定屋』だ」


■危険なゲーム

 ぴぽぴ、と手許から軽く微かな電子音が連続する。その源は携帯電話。それを持っている手は女子高生と思しき年頃の娘のもの。無造作に括られた軽快な黒髪に抜け目のなさそうな緑の瞳、特に左目の下、タトゥーででもあるのか、泣きぼくろのように瞳と同色の星が描いてあるのが特徴と言えるか。
 そんな彼女――南宮寺天音は携帯電話で何事かやっている。画面に映し出されているのはゴーストネットOFFのサイト。どうやら掲示板の記事を確認しているらしい。
 …そして件の連続殺人な血刀に関しての書き込みを見。
「ほー。物騒な話やなぁ…って、ん? これ…場所…ここらとちゃうか?」
 ふと気付いた天音は立ち止まり考える。で、改めてその書き込みを読み直していると…気のせいか、何やら自分を注視している視線を感じた。
 はて?
 誰か知り合いか…もしくは…ストーカー!? そんな考えを一瞬にして纏めると、天音は目を上げてみる。
 と。
 自分を見ていたのは虚ろな瞳の男。
 そこはかとなく…どころでなく思いっきり妖気漂う異様な姿。ヤク中か何かかいっ!? と一瞬焦るが――その片手に赤黒い長い棒――良く見ればその赤さは斑模様で、その赤さが無い部分は、時々青黒かったり白かったりする冴えた金属めいた煌く光が覗いている――って、か、刀!?
 血刀ぶら下げた男と言えば。
 つい今し方見たゴーストネットOFFの書き込み。
 その事件の犯人。
 …ついでに言うなら、その血刀ぶら下げた男は、天音を見たまま――ゆっくりとだが、歩を進めて来る。
「あかん、こっち来よる。…これは三十六計逃げるにしかずやなー…」
 更に書き込みを思い出す。
 ――『目ェ合わせんな』。
 初めっから合っとるっての!
 ――『目立たないようにゆっくり逃げろ』。
 んな、無理やちゅうねん。や、逃げろちゅうんはわかるが。目立たんようにも何も。
 初めっから自分目標になっとる場合はっ!?
 そこまで対処法書いとらんやろが! 片手落ちやで!!
 と、書き込みの注意書きにツッコミ入れつつ、天音のその足は既にすたこらさっさと逃げモード。天音が走り出したと見るなり、血刀の男はゆらりと足を速めた。
 が。
 途端、見計らったように男の目の前にがん、と落ちて来る看板。
 ふと男の足が止まる。
 その間にも天音はどんどん逃げる。
 彼女が逃げるのを確認すると、男はまるで何処ぞの未来から来た液体金属サイボーグのよう(?)に、天音を標的にしかと定めた。…彼女に対し追跡を開始する。



 単純に考えたら大人の男――それもあそこまで正気でなさそうな、武器を持った相手と勝負してただの女子高生が敵う訳が無い。勝敗は目に見えている。…が、天音の場合はそうとも限らない。
 勝算はある。
 天音は何も考えずただ逃げている訳では無い!
 そう、つい今し方、邪魔するように男の目の前に落ちたデカい看板も――偶然ではない。
 彼女は『強運』の持ち主。
 …と言うか、運気自体を調整出来るのだ!
 それは乱用すれば揺り戻しで不幸に見舞われる事もある。が、今は緊急時。揺り戻しの不幸を心配するより目の前の危機の方が先。と言うよりこの危機そのもので充分元取れる。即ち現在、運気調整――ラック操作ラーの力をフルに使って逃走中なのだ。看板の多分その結果。集められるだけの運をかき集めれば転機はいずれ訪れる。逃走しながらも、天音は密かにそんな攻めに転じ、事態が良い方向に転び出すのを待っている。
 軽やかに走りながら、天音の口許が不敵に笑む。
「うちがやられるんが早いか、逃げ切れるンが早いか――勝負したろやないの」
 人生これ博打。
 それが、南宮寺天音のモットー。
 …根っからの勝負師の血が生死の縁で燃え滾る。
 と、そんな中でも。
 やっぱり血刀の男はまだ振り切れてない。そもそもリーチも体力も違かろう。それはわかる。普通なら追い付かれる。だがまだうちの運がある――思ったところで、弾丸のような何か――ずざっと止まったところを見たら和服を纏った若い女らしい――けれど何処かその動きに野性味のある細身の人物が何処からともなく横っ飛びに跳んで来た。天音の後方を守り、血刀の男に向かう形。何やあれと思ったらその手にも日本刀。…待ちィ、アンタ何モンや。思うがその間にも和服の女は男に向かい突進した。その姿は視認出来ない。と思ったら次の瞬間には男のすぐ前に居て斬り込んでいた。人間離れした速さ。ちょい待ちひょっとしてあれも何かヤバい刀やろかと天音は冷汗たらり。
 ただ、和服の女に速攻で斬られた――と思った男の方は、一度がくりと身体を傾がせるが、すぐに戻って――再び歩き出す。…不死身かい。天音が思ったところで次は――これまたいつの間にそこに居たのか、黒尽くめの少年が血刀の男、その背後からやはり刀を持って奇襲を掛けていた。この隙を待っていた…。少年の冷静な呟きが天音の耳にまで飛び込んで来る。黒尽くめの少年は身体ごと突っ込む形で肉薄し、血刀を持つ男の手首、そこを打つ事を狙う。が、弾かれるように思い切り腕は浮いたが――男は刀は手放さなかった。


■対決

 …黒尽くめの少年――作倉勝利と同刻、尾神七重は張っていた場所に現れた血刀と、それから逃げていると思しき女子高生――南宮寺天音を確認。ただ、あまりにも予測不可能な動きを取る日本刀を持った和服の女性らしき人物――流飛霧葉が、血刀とその使い手の元に飛び込み、一太刀浴びせた事も確認した。いつから血刀の男を見付けていたのか、背後から尾行し隙を窺っている風だった勝利がその直後に奇襲――する、と思ったその時には七重は予め連絡を取っている相手こと榊船亜真知、幾島壮司、セレスティ・カーニンガムの三人に伝えていた。とは言え亜真知と壮司はすぐにこちらへ急行してくれるだろうが、セレスティは調べている内容や――これも同じ件を調査していると言うシュライン・エマと言うお姉さんからの情報を元にし、特に怪しいと睨まれている刀の素性候補が確かめられそうだと言う事で今は自分の屋敷に居ると言う話らしい――視力や足が弱いと言うその身体からして、即座にこの場に来れるだろう相手では無いのでひとまずの連絡のみ。それをしながら七重はつい今し方まで周囲を見張る拠点にしていた――怪しいと思われる点は予め幾つかマークしておき、それらが見える店を梯子していたので――ファーストフード店から外へ出た。
 外に出れば戦闘状態になっている。悲鳴と怒号。人の波が完全に無い訳では無い場所。七重は改めて店内で確認した四名の位置関係を確認する。逃げていた女子高生、割って入った和服の女、黒尽くめの自分と同い年程度の少年、そして血刀の男。抵抗の手段が無いのは女子高生。殺させてはならない。血刀の男に奇襲を掛けた黒尽くめの少年。が、血刀の男の手から刀は離れない。
 七重はそれを見たところで血刀を持った男の手を――身体の動きを押さえ込もうと指を差して能力を行使。幾島壮司と出遭った時に呼び掛け代わりに使った力、重力操作。効くか効かないか――相手は物理法則に縛られる存在である事に変わりはない。ならばこの力は効く筈。その通り、血刀の男はふと動かなくなった。そこで再び勝利が斬りかかろうとするが――そこで唐突に周辺に神々しい気が満ちた。何事かと思えば現れた亜真知の力で結界が張られた――と言う事らしい。関りの無い、周囲に居ただけ――の悲鳴や怒号を上げていた人の気配が消える。遮られる。…直後、殆ど時差の無いところで七重のすぐ側に現れた彼女は、ひとまずあちらの三名様…と言うか、日本刀――二代目・五月雨黒炎の遺作と思しき刀の使い手様を合わせて四名様をお守りしましょうか、と、これまた優雅に舞うような仕草を見せるなり――特に何かした、と思わせないままに、関係者各位に個別に守護結界を張ってしまった。無論、確認はしなかったが目の前に居た七重に対しても。
 亜真知からさりげなく二代目・五月雨黒炎の名が出た事に七重は思わず何故、と問う。その名は刀の作者として有力視されていた現代の刀工。今、その作者当人を調べていると言っていたのはセレスティ。そこまで疑問に思っている事がわかったか、亜真知はにこりと微笑みネットで見ましたの。と種明かし。曰く、警察の情報にあった監視カメラの映像に当の刀が映っており、拵えも無いそのあまりにも「間に合わせ」な姿から、この刀は由来ある古い刀では無く新しい刀では無いかと推測、妖刀・魔剣の類で何か情報が流れていないか隅々まで調べた結果――つい最近死んだ、『妖刀しか打てない』と言う刀工が居るとアングラ系であっさり見付けたと言う。その刀工の名前が、五月雨黒炎の二代目。…確かに、その『名前』と、『作った刀』に関しましては良く見かけましたが――作者様御本人の素性に関する情報はネット内にも一切ありませんでしたわ、と亜真知は納得したように頷いた。ネット内に載っていないならば隅々まで探しても見つける事は出来まい。…と、なると、余程の人嫌いか、人の居るところに出て来ない人物なのか。セレスティが如何にしてそれを調べる気なのかは知らないが、ネットとは別の手段なのだろうと改めてわかる。



 亜真知の結界が気になったか勝利は自身の刀――『子狐』の切っ先を一度止めたが、改めて攻撃を仕掛ける。具体的に何かはわからなかったが、自分を個別に守る結界のような物が張られたとは気付いた。何者かの助力と見、有難く頼る事にする。勝利は元々不死の身ではあるが、それでも傷付けば痛い事は痛いので。
 和服の女――と散々思われていたが、実はその動きの野生的な大胆さや帯の締め方通り男だったりする中性的な容貌に細身の体格の霧葉は、張られた結界に一旦訝しげな顔をする。が、特に気にせず再び血刀の男に向け疾る。勝利が先に行った事もわかったが、それもどうでもいい。霧葉はただ、戦う事しか考えていない。先程の攻撃は峰打ち――とは言えその身体を強か打ち据えた。骨くらい折れ兼ねない打ち方をした。刀と言う重みのあるものを使い、並の相手であるなら昏倒するだけの速さをこめた。これで相手が倒れないならば再度向かうだけ。街中での凶行を犯している殺人犯をとは言え人を殺せば何か言われるだろう。そう思い、初太刀はささやかながら遠慮していたのだが――次は実際に斬りに行く。そう決めた霧葉は今度こそ刃を返し足を踏み込んでいる。速過ぎて動きが見えない。見えないその斬撃が連続して血刀の男に降り注ぐ――が、男は無傷。霧葉が訝しげな顔をしてふと見直せば、先程自分を取り巻いた不思議な空気と同じ感触のモノが血刀の男の周囲も取り巻いている事に気付いた。これが邪魔をしている。ならばどうすればいい――思考しているところで勝利が血刀の男に体当たりを掛けた。よろめく血刀の男。勝利がその男の手許、刀を持つ手を狙っている事に気付いた。が、その刀が逃げるように不器用に振り被られ、逆に血刀の男から勝利へと――雑な、同時に何かでその動きが押さえ込まれてもいるような遅い斬撃が降ってくる。勝利はあっさり受け、弾こうとするが――それは勝利が刀の攻撃を避けるのには問題は無かったが、やはり男の手から刀は離れない。即ち、どうも狙っていただろう事は――ぎりぎりで、出来ていない。…体当たりなら通じる、斬撃は通じない――刀を落とせばいいのか。霧葉は勝利の狙っている行動を見て思い付く。
 この操られていると思しき男、それ程強い印象は皆無。だが――最低ラインは心得ていると見た。体勢が崩れても命綱である刀は絶対に落とさない。俺の速さには間に合わないようだが、動きからしてある程度の斬撃は受けられる。見たところ、持っている血刀は傷みが激しい。刃は恐らく使い物になっていない。それでも――その刀身は、霧葉の刀に匹敵――もしくは勝るくらい、粘り強い。だからと言ってこの血刀の男では俺に勝てはしないだろうが――その代わり、俺に簡単に負かされそうでもない相手。…やり難いかもしれない。けれどそれでこそやりがいもあると言うもの。霧葉は思い、再び刀を構え直し血刀の男に向け突進した。



 彼らから――七重や亜真知からもやや離れた位置に当たるその外側、血刀の男とその周辺が見渡せる目立たない位置を見付け、フル稼動で『神の左目』を酷使している幾島壮司が居た。七重からの連絡を受け来た訳だが――手が足りないなら戦闘にも加わろうと思ったのだが、血刀以外に刀を持つふたりを確認し、どうやらそちらの心配は無いと見て対象とその周囲の分析に専念している。事件の原因は刀。だがその刀が力を得ているのは『場の力』もあったよう。この賑々しい…煩雑とも言える街の路地。人のエネルギー、それ自体が刀の糧なのかも知れない。そうやって蓄えた力で、人を屠る。無差別。視界に入った者から――狙いを付けた者から。破滅への能動的な意志――人の死を望むどころか、『ありとあらゆるモノ』に対しての、『全否定』へのどうしようもない餓え。
 ――――――なんだ、これは。
 壮司は思わず緊急避難的に『左目』の稼動を止める。あの刀を視ていたら強烈な思念が来た。これを打ち上げた男は死んでいる――それもこの刀と、同じ形のもう一振りを打ち上げたところで、死んでいた。最期にこめられた魂。呑まれそうなくらい凄まじい精神。表面的な刀の妖気とは違う。街と人々の気を吸い、異様な『場』を作る――使い手を操る妖気とは違っていた。刀本体を深く探れば探る程、底知れない――純粋過ぎる悪意とでも言うべき何かが感じられてくる。…これは作者のもの? 名前は五月雨黒炎、その二代目とされる者。本名はわからない――俺の目で視えない以上、その名は既に魂から自力で消されているのかもしれない。そして五月雨黒炎と言うその名を、最早魂からの真名としている。そんな事がまともな人間に出来るのか? 思うが、それが為せた――と言うくらいしか、この左目で本名が見切れない可能性が思い付かない。
 聞いた事の無い刀工の名前。だが恐ろしいくらいに『本物』だとはわかった。とんでもない刀だ。
 ただ、今、亜真知の結界が張ってある事で、妖刀に乱され吸われた場の力は薄らいでいる。『神』と分析結果が出たあの娘の力となれば、浄化の作用でもついでに持っているのか。
 ともあれ、この結界内では――少なくとも場によって増幅された分の力は、抑えられるようだ。



 七重は男がぎこちなくながらも血刀を振るってしまった事で、自分の力が圧されている事に気付く。…この程度の加重では押し退けられてしまいますか、と重力を操作するその力を少し強めた。動きを押さえ込むとは言えある程度の加減は必要。加減無しで人間に対し加重をかけてしまったら――動きを押さえるどころか、圧死させてしまう。…それはよろしくない。
 更に動きが鈍る血刀の男。
 ただ。
 その瞬間から、直に相対している以上霧葉か勝利のどちらかになるか――とにかく誰かが何を為す前に。
 殆ど時差無く、長く白い裾を靡かせた、ばかでかい西洋剣を持った塊――人だ――が、だんっ、と凄まじい音を立ててすぐ側に着地していた。あまりに唐突な事。ただ、位置関係からして――近場のビルの屋上辺りから飛び降りて来たのでは無いかとしか思えない勢いと着地音と現れ方。衝撃を吸収する為膝を撓め沈み、跪いているが如き姿のままでその大柄な――派手な赤い羽飾りを付けた白いコートの男性は、静かに告げる。
「二対一――いや動きを押さえてるのが別の奴なら三対一か? とにかくそこまで手段を選ばないのは最後の最後――にすべきじゃないか? 一度でも説得はした訳か、Boy?」
 そこまで言って、顔を上げる。
「俺の名はリィン・セルフィス…」
 銀の髪に赤い瞳。鋭い眼光は戦いを常とする者故か。顔を上げるなり軽やかに立ち上がる。そして、相当の重さがあるだろう剣を軽々と片手で操り、その切っ先を刀を持つ三人に――否、血刀の男に向けた。
「…お前を止めてくれと依頼を受けてな…はるばるやって来た訳だが」
「…説得が通じる相手か?」
 リィンに対しぼそりと疑問を呈する勝利。
「…同感だ」
 同じくぼそりと言い捨て、霧葉は殆ど反射的にリィンへと攻撃対象を切り換えた。この刀と戦う為には今現れたこの男は邪魔者と見た。そして同時に――手応えのある強者であると。



 急に斬りかかって来た霧葉に対し、宣戦布告も無しとは無粋だな、依頼の刀は一振りでは無く二振りだったのか? とリィンはやや心外そうに霧葉の刀を剣で受けている。霧葉のその速さは脅威的、だがリィンの目では見切れない程でも無かった。霧葉は一度効かないと思ったらすぐに退き、再び体勢を立て直して別の角度から何度も素早く斬撃を繰り出している。その速さはさすがに受け切れず、リィンはひとまず捨てて構わないだろうと思ったところは避けるのを止めた。避け切れなかったところから切り裂かれ、血が噴く――かと思ったが、噴かない。どうやら、そうなる前に傷が塞がっている。服は切れているのに効いた風が無い。人外か。霧葉は思うがそれでも別に止める気はない。むしろ好都合――。
 そんな考えを知ってか知らずか、リィンは攻撃に転じようとする。が、その時点で改めて本物の血刀の方の使い手が纏う妖気を察し、戦闘停止。…やはりこちらは違う。そう判じたリィンの身体に容赦無く霧葉の刀が突き刺さるが、戯れは勘弁してくれ――とばかりにリィンは霧葉の項を鋭く短打した。ぐ、とくぐもった声。動きが速かろうと刀を突き刺し止まったそこで極められてしまえばそれは有効。そして普通なら隙を見て突いたこれは致命傷になっていておかしくない傷になる。…今、そんな反撃をされるなどとは思わない。傾ぐ霧葉の身体。血刀の男を見るリィン――見た、その時に。勝利はもう直に血刀の男の腕を掴んで、刀を持ったその手で血刀の男の手首を強か打ち付けていた。力が幾らか緩んだそこでもまだ手から刀が抜けない。…そこまではもう何度もした事。だから――勝利は今度は直に指を刀から解こうと試みた。触れた手は異様に冷たい。これは憑かれている故か。早く放せ。もどかしく指を剥がす。指の最後の一本が剥がれたその時――刀が地に落ちた。それを確認するなり勝利はもう男の方には目もくれず、落ちた刀、そこを狙って勝利は『子狐』の切っ先を垂直に立て逆手に持ち直し、一拍置いてから気合いと共にその刀を――割り砕いた。


■決着…?

 そのままの姿勢で、はぁ、と疲れたように溜息を吐く勝利。刀の破壊が成り気が抜けたか、動かない。
「長生きしていると、こういう事態には何度も遭遇するもんだ。…壊さぬ限りこの手の刀はいずれまた同様の凶行を為す」
「…俺の出番は無かった、って事かな?」
 気絶させた霧葉を抱き止め支えたまま、勝利を見、仕方無さそうに儚く笑い息を吐くリィン。受けた依頼としては――事件が止まるならそれでよし。事態の流れが少々残念ではあったが――まぁ、無差別の人殺しが横行しているよりはいいだろう。
「…あっさり壊れてしまいましたわね。今までの被害状況にしては」
 もう少し強烈な何かを秘めた刀かと思ってましたけど。
 と、そんな落ち着いたところで、そそと近付いて来る華やかな振り袖姿の少女。勝利の横まで来、割られた刀を覗き込む。
「わたくしが封印するまでもありませんでしたか」
「…貴方は?」
「申し遅れました。わたくしは榊船亜真知と申します。先程皆様に守護結界を張らせて頂いた者――と言えばわかって頂けますでしょうか? …えぇと、そちらのお兄様は…あの時点で外部からこの『場』に入って来られる方がいらっしゃるとは思いませんでしたので」
 …結界、間に合いませんでしたけど。
 と、リィンに向け申し訳無さそうに謝る亜真知。彼女の目にあるのはリィンの服に生々しく残された傷。それは顔を見るに殆ど効いていないようだとは言え――傷付かないで済むに越した事は無いので。
「ああ、この程度大した事は無い。気にするな」
「…はぁ」
 …普通なら、死んでる怪我であるのだが。
「本当に大丈夫ですか? 明らかにそちらの方の刀が、貴方の身体を貫いていましたが」
 リィンが支えている霧葉をそれとなく指し示しつつ、亜真知に次ぎ現れたのは、これまた勝利や亜真知と同年代風の――身体の弱そうな美少年、七重。
「ああ、そろそろ治ってる。特異体質みたいですぐ治るんだ。それに付けたのがこいつだしな?」
 と、リィンは霧葉を指して七重に返答。
 …今みたいな仕事中じゃなけりゃ真っ向本気の剣一本で戦り合いたかったからな、後で場を設けたい。
 刺された事も気にせずあっさりと言うリィン。
 自分を刺した事より戦うのに良さそうな相手だと言う方が重要なのか。
「ともあれ、これで一振りは――終わりましたね」
 静かに呟く七重。
 だが。
「違う、まだだ、その刀は――壊れてない!」
 やや離れた場所からサングラス姿の青年――壮司の鋭い声が飛んで来る。と、その声に呼応するように、勝利の『子狐』の太刀に砕かれたその破片が、ふ、と連続して消えた。目の前の事態に瞠目する勝利。今の破片は何処に。考えたそこで――再び、妖気が感じられた。意識の外に放り出されていた、使い手の――即ち、被害者でもあるだろう男。その手の中に先程欠けた筈の刀が再び戻っている。今度は反射的にリィンが動き、最前気絶させた霧葉を七重と亜真知に任せると、その大きな剣で刀を叩き落とそうと試みる。皆下がっていろ、次は俺の番だ――とばかりに前に出た。
 が。
 その途端、血刀を持つ男が立っているその地面が――たぷんと波打ち、硬さを無くした。



 …その影に当たる路地。
 クス、と笑うピンクの唇。その手許には小さなメモとペン。中身が書き込まれ真っ黒になったメモ帳。今はちょっと書き込む事が多過ぎた。次のメモ。めくってまた書き込み始める。
 その持ち主は黒を基調としピンクをアクセントに入れた派手な――とは言ってもこの場所柄を考えるとむしろ似合っているかもしれない奇抜な格好の優男。御守殿黒酒。『あのお方様』からの依頼を受け、その筋から仕入れた様々な情報を元に徘徊していたら、この場所を見付けた。女のコが殺人犯に追われて飛んで来た。そこに入って来た着物の女のコ――じゃなくって男のコみたいだね? とにかく彼らとまた別の男のコが割って入った。様子はココからひっそり見ていた。隙を探してずぅっとね。それなりにたくさんの人間がこの殺人犯を追っていた。刀が割られたところまでも見た。けれどそれで終わらない。…ならば漸くボクの出番だ♪ 今ならみィんな隙だらけ。
 殺人犯の立つその地面。今はそこに黒酒の使役するデーモン、『ピンキー・ファージ』が侵入させてある。『ピンキー・ファージ』の能力は物体との同化と同化したその物体の支配。単純だからこそ応用が効く☆ だからボクは何でも屋。そう、今は殺人犯が立つその地面はボクの思い通りに動く訳。
 見たトコ鞘も何も無い。刀は壊れても壊れない。壊れてもそれまでの使い手の手に戻る。だったらどうしたら良いのカナァ? 考え付くのは『ピンキー・ファージ』。こいつでまずは動きを止めて、そして刀に侵入すれば。出来れば刀はボクのもの。そうなればボクの意志抜きで暴れる事は無いよねぇ?
 だ・か・ら。



 血刀を持った男の真下。硬さを無くした地面はドロドロの底無し沼。否、スライム状と言った方が良いかもしれない。『ピンキー・ファージ』によりそんな柔らかさにされ、主の意志のままそのスライム状のアスファルトはぶわりと浮き上がる。リィンは咄嗟に退いていたが、血刀を持つ男の方は呑まれた――『ピンキー・ファージ』の元々の目的がそちらだったよう。刀に操られている男の方には咄嗟に退けるような瞬発力はとても見出せない。スライムは男をじわじわと絡め取る。男はそれでも、逃れようと動くのがわかる。けれど踏ん張る場所が無い。力をこめ踏み込めば余計に深く呑まれるだけ。スライム状のアスファルトはその腕を絡め、手の先、握られている刀へと――アスファルトの中から『ピンキー・ファージ』は移動する。じわじわと何かが移動しているのがわかる。それと同時にスライム状だったアスファルトが、遠く離れた部分から固くなり始めているのにリィンは咄嗟に気付く。何が起きているのか説明せよと言われてもわからない。だが――目の前で起きている状況だけなら掴めた。何故か粘度の高い液体の如く柔らかくなっている地面、そこに血刀を持った男が絡められている、そしてその柔らかさが移動し、じわじわと固さが戻って来ている――となれば、今現在男に絡まっているところもいずれ元通り固まると予測できる、固まれば――この男は。
 気付いたところでリィンは低く跳躍し、その過程で男の身柄を軽々と引っ手繰るように取り上げて、何事も起きていないと思われる硬いままの元々の地面へと着地し、男の身柄を下ろした。男のその手にあった筈の刀はスライム状のアスファルト――否、『ピンキー・ファージ』の方か――と引っ張り合うような形になり、やがて持っていられなくなったか離されている。刀はとりもちに付けられたようなその形で固まり、やがて、スライム状のアスファルトがすべて泥のように落ち切り、元の硬度を取り戻したかと思うと――その後から、からんと刀が落ちた。壊れては――形を失ってはいない。
 リィンが咄嗟の判断で身柄を取り上げた男は放心したような状態でへたり込んでいる。動かない。先程、刀が砕かれた時と何も変わらない。そうなるとまだ刀に捕らわれているのか、もしくは――刀に使われている者はこうなってしまう運命なのだろうか。
 それに先程の――刀が手から離れ砕けたと思っても続きがあった――あの状況がある。まだ予断を許さない。
 だが。
「…どうやらお前とは、戦えない運命みたい、だな?」
 何だか柄じゃない気もするが、今は――人助けをする側にばかり回ってしまう役回りらしい。
 肩を竦め、地面に落ちた刀に向けてリィンは言う。
 刀は、動かない。



 後から現れたサングラス姿の青年――幾島壮司。勝利に砕かれた刀に、まだだと警告を発したのはこの男。
 一度は危険を感じ止めたが、壮司はそれでも離れた場所からずっと『左目』で周辺と血刀の解析を続けていた。彼曰く、今の刀は割って入った『とある力』に食われもう落ち着いていると言う。ただ――落ち着いている理由は、刀が使い物にならなくなった、と言う訳では無く。
 単に、今地面をスライム状にし操った力――『ピンキー・ファージ』と名付けられているデーモン…悪魔と言い替えても良いかもしれないその力。とにかく、『穢れに近い力の塊』。それの中に取り込まれた、それだけで刀はある意味満足し、甘んじて今の状況に居るだけのような様子だと言う。
 力や妖気自体は何も変わっていない。
 ただ、今は――少なくともこの場で、これ以上暴れる気はないらしい。
「…出て来いよ、そこの赤アッシュ斑の派手な頭」
 誰にともなくぼそ、と告げる壮司の声に、あーららっ、バレちゃってる? とふざけたような声がやや離れた位置から返って来た。刀の側、集まっている彼らから見て影になる場所。ひょいと出されたのは神経質そうな顔。頭の色は――壮司の言った通りと言えば通り。
 が。
「ピンクのメッシュ、ってもっと御洒落に言って欲しいなァ〜?」
 にや、と笑うその手許には、小さなペンとメモ用紙。
 そこに何やらまた書き込んでいる。
「紳士淑女の皆様初めまして☆ ボクは御守殿黒酒って言いまァ〜っす。どうぞヨロシク」
「今の話聞いてたろ。…あんたの仕業だよな、最後の」
「うん☆ ボクの可愛い『ピンキー・ファージ』が今の刀食べて同化しちゃったんだよぉ〜ん♪ 御忠告アリガトね。でも、キミの言い方だとボクの支配下――とは言い切れないみたいだけど、この刀、フツーに言うコト聞いてくれてるし、きっと大丈夫だァってば☆」
 そう告げながら、黒酒はくいくい、と呼ぶように指を数度折り曲げる。と、呼ぶ通りに刀は黒酒の手許に戻り、その上で膨れ、ピンク色の塊になったかと思うとそのままあっさり掻き消えた。
「ホラね?」
 ついでに言うなら、さっき『食わせた』直後――何処にも動くなってひとまず命令しといたんだよ〜ん☆ ホラ、その通りになってるでしょ?
 得意そうに告げた黒酒は、ねっ、言うコト聞くでしょ? 大丈夫でしょ? と壮司ににっこりと笑って見せる。
 そんな黒酒の顔をじっと見つつ、壮司は、はぁ、と溜息を吐く。確かにこの男の言う通り、命令に抗いはしないよう。…この刀、デーモンの支配に反する気なら反せるように壮司の『左目』による分析結果では見て取れる。なのにデーモンの支配に反しないのは、食われた当の刀こそが今の状態を快く思っているからか。それは、このデーモンもその持ち主も、それから、その刀自身も――根幹が同系統の性質であると言う事なのかも知れない。
「…刀にこめられたと見えた魂…作り手の精神、ただごとじゃ無かったんだがな」
 ただ、怨念と言うのとも何か違う。もっと空ろな、それでいて凄まじい――何か。
 取り越し苦労なら良いが。壮司は一応ながらそう黒酒に告げる。
 と。
「ん…」
 そこで、リィンから七重と亜真知に預けられていた霧葉の目が覚める。預けられていたとは言え体格的に無理があるので結局は様子を見ていただけだが、霧葉は目が覚めるといきなりむくりと起き上がり手許にあるべき自分の刀を探した。無い。
「もう、あの刀との決着は付きましたわよ?」
 亜真知のその科白で、改めて霧葉は亜真知を見てからきょろきょろと辺りを見回す。件の血刀が何処にも見当たらない事に気付き、今度は興味なさげに立ち上がった。
「………………帰る」
 端的に呟くと、辺りを見回した時に見付けた自分の刀を拾い上げ――すたすたと歩き去ろうとする。
 が。
「や〜、ねーさん凄かったわー、助かったわ〜、動きめっちゃ速いな〜初めねーさんの方も例の血刀なんかて思てしもたわ」
 と、去ろうとした霧葉が――いきなり何処から来たのか、初めに血刀の男に追われていた女子高生こと南宮寺天音に捕まる。が、霧葉の方は何の事だか良くわからない。…連続殺人の犯人と思しき血刀の使い手と戦いたかった、それだけなので…実は彼女を庇ったと言う意識は皆無。
 霧葉は天音からの突然のお礼に面食らっていた。が、その間にも天音は他の人を見ている。…早い。
「お、あんたいー男やな、強くていー男ってのはえーな、身形からして羽振りも良さそだし、後でお茶でもしばかへん? う〜ん、それにこんなちっちゃい子らまでようやってくれるなんてなー、そっちのグラサンのにーさんもまだだ、てなかなかかっこよかったでー」
 話し掛けるなりばんばんとリィンの背を叩いたり、七重や勝利の頭をぐりぐり撫でたり壮司の胸を肘で小突いたりと天音の行動は容赦無い。
「榊船はんも久々やなー、ほんまありがとなー。あー、もううちもこれで終いか思とったんやで。この大博打に勝てたんはあんさんらのおかげや〜。そこのピンキーなあんちゃんが危ない刀どっかやってくれたしな」
 うんうんと頷きつつ、天音は今度はぽんぽんと亜真知の頭やら黒酒の肩を気安く叩いている。嫌そうな顔をする――けれど天音の天然で陽気な押しっぷりに抵抗出来なくなっている黒酒はその事自体をまた細々とメモ書き。反面、亜真知の方は追われていたのが南宮寺様だったのはびっくりでしたけどね、と無邪気に微笑んで答えている。こちらは既知の相手のよう。
 ちっちゃい子って…俺はこう見えても一応子持ちだし貴方に比べると何倍生きている事になるんだろう…などと呟きつつ、天音に解放された後になってから遠い目になる勝利。
 そんな勝利に、あのお姉さんも悪気は無いんでしょうから…と特に宥めるようでも無い口調で告げる七重。そう告げたところで、七重の携帯電話の着信音が鳴り響いた。俄かに注目を浴びる。電話を開く。タイミングからしてこの事件関連の可能性が高い。相手は――セレスティ・カーニンガム。それを確認して七重はすぐに通話に出る。伝えられたのは件の刀について。作者について。そして――作者と交流のあった数少ない人物が、意外な程近くに存在すると言う話。七重はそれらを皆に話し出す。
「――…こちらの一振り以外の、もう一振りの刀も…止まったようです。これで、ひとまず日本刀による連続殺人事件は終わりになるでしょう。…ただ、この凶行の根本的な原因まで探るとなると、まだ済みそうにありません」
 どうやら、際限無く血を求める刀が何らかの偶然で表に出た、と言うより、わざわざ刀が街中に放された――その可能性が濃厚らしいです。また、この刀は古い曰くがあるものと言うより、現代に作られた新刀らしいとは――現時点でも御存知の方は御存知だと思いますが、その作者――五月雨黒炎の二代目は、この手の刀しか打てないような精神の方で、外の方とのお付き合いは殆ど無かった方…との事も改めてお伝えしておくべきでしょうか。そして今回事件に使われた二振りの刀は双子刀で――その方の遺作との認識で正しいそうです。
 ただ、そうなると問題が出てくるんだそうですよ。
 何故なら、こちらでは確認してませんが向こうで確認されたところでは――刀に、拵えをする為の目釘穴――柄を付ける為必要不可欠なものですね――それさえまだ開けられていなかったそうです。事件に使われたのは打ち上げられたばかりのその刀身のみで。握る部分には、幾重にもサラシが巻かれていただけ…。
 この作者は、人付き合いが殆ど無かったそうなんですよ。ネット上でも、名前や拵えてある刀だけならばそれなりに出ますが、正体は不明です。大多数の人は何処の何者か、まったく知らないようですよ。
 この刀は、そんな方の、目釘穴が無い――そんな状態の遺作なんです。
 と、なれば、作者を直接御存知の方しか、入手出来ないと思えますよね。街中に偶然何処からか出て来るような物じゃない…。そして――その作者を直接知る数少ない人が、今回の事件に興味を抱いていたらしいんですよ。
 …そう言えば、幾島さんによれば、場の力、人のエネルギー、それらが妖刀の力を増幅させているようだとも仰ってましたよね。そして増幅されたその力で、人を。…それが――街中に放された理由と言う可能性もあるんでしょうか。わかりませんが。
 で、作者を直接知ると言う方ですけれど。
 ひとりは水原新一さんと仰る神聖都学園の教師で。
 そしてもうひとりは――…。
「…――アンティークショップ・レンの店主、碧摩蓮さんらしいんですが」
「まぁ、それもそれだが、この男も、放っておかない方がいいとは思うが?」
 と、リィンが先程助けた血刀の元使い手――へたり込んでいる放心した男を指し示す。動く気配は無い。けれど――まともな状態とも思えない。

 ………………どうする?


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業
(■→『虚無に至る狂気』編に主に登場/□→『理性の条件』編に主に登場)

 ■3950/幾島・壮司(いくしま・そうし)
 男/21歳/浪人生兼観定屋

 ■2180/作倉・勝利(さくら・かつとし)
 男/757歳/浮浪者

 ■2557/尾神・七重(おがみ・ななえ)
 男/14歳/中学生

 □1883/セレスティ・カーニンガム
 男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い

 ■1593/榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)
 女/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?

 ■0596/御守殿・黒酒(ごしゅでん・くろき)
 男/18歳/デーモン使いの何でも屋(探査と暗殺)

 □1855/葉月・政人(はづき・まさと)
 男/25歳/警視庁超常現象対策班特殊強化服装着員

 □1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)
 女/23歳/都立図書館司書

 □3620/神納・水晶(かのう・みなあき)
 男/24歳/フリーター

 □2498/倉田・堅人(くらた・けんと)
 男/33歳/会社員

 ■3448/流飛・霧葉(りゅうひ・きりは)
 男/18歳/無職

 ■0576/南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
 女/16歳/ギャンブラー(高校生)

 □2349/帯刀・左京(たてわき・さきょう)
 男/398歳/付喪神

 ■4221/リィン・セルフィス
 男/27歳/ハンター

 □0086/シュライン・エマ
 女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

 □2109/朔夜・ラインフォード(さくや・-)
 男/19歳/大学生・雑誌モデル

 ※表記は発注の順番になってます

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 …以下、公式外の登場NPC

 ■常緑樹
 正体、常磐千歳(異界登録NPC)。結果としてあまりノベルには関係無かったですね。

 ■水原新一/異界登録NPC
 高等科生物専門の教師で神聖都学園の臨時教師。別の顔としてハッカー。今回は豹変バージョンが主。二代目黒炎とは友人であった模様。どんな関り方をしているのかは不明だが、事件についてある程度深く知っている。

 ■二代目・五月雨黒炎
 故人。狂気の刀匠で妖刀を打つ男として裏の世界でひっそり有名。今回の血刀(双子刀)は彼の遺作。ノベル内では何かと思わせ振りな書き方してありますが、オリジナル設定ですので御了承下さい。

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          ライター通信
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 まずは。
 はい。はっきりと遅れました。目一杯上乗せしてある上に初日に発注下さった方は確実に一日以上遅れてます。土曜の時点でお届け出来ているなら(月最終なので微妙)まだ一日で済みますが…状況によってはそれ以上に…(苦)
 大変申し訳御座いません。
 普段から納期ぎりぎりの遅さで稼動してたりするライターなのですが…特に今回初めましての方、初っ端からこの体たらくで…申し訳無い限りです。

 今回は、大雑把にふたつの流れ――『虚無に至る狂気』編と『理性の条件』編に分けてノベルをお届けしております。…とは言え、『理性の条件』編は詰め過ぎて長くなり過ぎた関係で(汗)分割する必要が出来…更にPC様ごとにある程度分けて納品していたりしますが…。
 それから、実はこのふたつの流れは、分けているとは言っても完全に分かれている訳ではなく、同じ時空、近い時系列の事として分かれておりまして、ふたつの流れのそれぞれで一部PC様がある程度ニアミスしている時があります。ので、登場人物欄には参加者様全員の名前を書いてみました。
 登場人物紹介欄で各PC様の頭に付けてある「■」か「□」のマークでどちらに主に登場しているか一応判別可にしてもあります。
 …にしても今回はややっこしい分け方と言うか書き方をしてあると自分でも思います。もし、これを募る際にちらっと書いておきました「アンティークショップ・レン:『殺人事件の犯人』(これが皆様にお渡し出来てからオープニングシナリオ申請しておきます)」にご参加下さる場合は…なるべくならどの状況のノベルも把握しておくとまた違った関り方が出来るかとも思ったりしているのですが…面倒ですね。すみません(汗)。いえ、続きのようなもの…とは言え調査依頼のタイトルからして違う物になっている訳で、このノベルを知らなくても、オープニングを見た状態でいきなり参加して問題無いようにはしておくつもりですが(汗)…の割にはこのノベルの終わり方からして続きものっぽかったりもするんですが(汗)

 ともあれ、こんな感じでノベルが長かったりするライターで御座います。
 …毎度のように。はい。

 プレイングの隙間で色々お言葉書いて頂いていたりするのでそのお返事や、色んな事情で(汗)個別でお伝えしておいたり謝ったりしておいた方が良いんじゃないかって事も多々あったりするんですが…今回、その辺を書くのは取り敢えず失礼させて頂きます…。何だか今、これ以上まともな文字が書ける気がしませんので…(滅)

 少なくとも対価分は満足して頂けていれば幸いです。
 ではまた、機会がありましたら…。

 深海残月 拝