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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


ク・メル危機一髪!


○オープニング

 女心と秋の空などとはよく言いますが、そんなことは特に関係なく。今日も今日とて元気なスタジオ『ク・メル』のスタッフたち。
 さて、今日はどんな感じで騒いでいるのか、覗いて見ましょう♪

「この施設は我々が占拠した!要求はただ一つ、リオ・アサカワをここに出せ!」
 みんな一斉にホールドアップ。スタッフたちに突きつけられたのは幾多の銃口でしたとさ☆



『はい、現場です』
 街角にあるなんでもない展示用のテレビから、何か事件のニュースが流れていた。
「あらあら、何かしら何かしら〜?」
 買い物帰り、ちょっと興味をそそられた淺川・里緒がその画面を覗き込む。
『現場は都内にあるライブスタジオ『ク・メル』です。立てこもったのは軍隊風の服装をしたグループで…』
「ク・メル?あら…って、えぇぇぇ!?」
 さすがに自分の経営するスタジオだ、名前を聞き間違えるわけがない。その視線が画面へと釘付けになる。
『犯人グループは10人前後と見られ、ある人物を連れてくるように要求しています。犯人たちが要求しているのはリオ・アサカワという女性で…』
「ってあたしぃ!?」
 さらにビックリ、何故か自分が要求されているのだから。
「こ、これはどうしたらいいのかしらぁ…?」



 さぁ一体どうなるスタジオ『ク・メル』、このまま明日はないのか!?
「ちょっとまて、初登場であたしらいきなり人質かよ!?」
 文句は受け付けません。
「あの、いくらなんでも扱いが酷すぎる気がします…」
 知りません、ネタのために体を張ってください。
 ちなみに玲は…
「…………スピー…」
 寝てやがった。
「さてさてどうなっちゃうんかね〜?」





○恒例?

 さて、こうして人質となってしまったク・メルの一同なのだが、そこには何故か5人いた。分かりやすく言うと、Azureのメンバーの他にも二人いたのだ、その場に。
 一人は火宮ケンジ、たまたま今日という日に限って遊びに来ていた。そして、もう一人は藤崎飛鳥、彼女はク・メルの取材に来ていた。
「…ま、間抜けなやつのせいで人質が増えるっていうのはよくある話だよな」
「誰が間抜けだ誰が!」
 ロープでぐるぐる巻きのアスカが呟く。それを聞いたケンジが噛み付いた。
「まぁまぁいいじゃん、貴重な体験が出来たと思って♪」
「こんな貴重な体験はいりません…」
 明るく言う飛鳥に、唯奈がげんなりした顔で返す。いや、普通はそうは考えられないと思います飛鳥さん。
「ほら、大スクープのチャンスだし?なんか燃えるよね!」
「「「燃えない燃えない」」」
 楽しそうな飛鳥の声に、今度は三人の声が重なった。
 ちなみに玲は…
『……Zzzz……』
 まだ寝てた。

「…にしても、洪陽がいねぇよな?」
 アスカはホールを見渡してひそひそと。確かに、その場には5人しかいない。
「もしかしてこれは…洪陽さんが助けに来るパターン?」
「洪陽さんかぁ…あの人大丈夫か?」
 唯奈に、以前何度か会ったことのあるケンジが心配そうに返した。洪陽の性格を考えれば、その心配はごもっとも。一体洪陽は何処へ?





○どうする里緒!?

「う〜ん…ホントどうしようかしら…?」
 里緒は未だに街角のテレビの前で悩んでいた。まぁ悩まないほうがどうかと思うが。
「まずい、まずいわぁ…なんでク・メルがこんなことに…。あぁ私ってもしかして悲劇のヒロイン!?」
 などと言いながら妖しくポーズとったり。あんた何やってるんですか。
「あの…どうかしたんですか?」
 可愛い声が、後ろから聞こえた。里緒が横を向けば、そこには可愛いメイド服調の服を着た女の子が一人たっていた。里緒の顔色が優れないので声をかけてくれたらしい。
「あぁ…いやね、ちょ〜っとこのテレビに写ってる店なんだけどぉ」
 適当に里緒が説明すると、その女の子が驚いたように声を上げた。
「そ、それは大変ですねぇ…」
「全くよ。あ〜なんであんなやつらに呼ばれてるんだか私は…」
「とりあえず、お店に行ったほうがよくありません?」
「それもそうねぇ。んじゃさっさと戻りますか」
 女の子の言葉に、里緒は歩き出した。そして、女の子も里緒の後をついてきた。
「……? なんであなたがついてくるの?」
「え、だって大変じゃないですか、心配で」
 その言葉に、里緒の顔に笑顔が戻ってきた。
「…あはは、大丈夫大丈夫、どうせあんなやつらうちのにかかれば一発だから。でもま、ありがと。キミ、名前は?」
「あ、桜木愛華です」
「愛華クンね、私淺川里緒…って知ってるか。ま、ともかくよろしく〜♪」
 軽く自己紹介しあいながら、二人はまた歩き出した。どうでもいいが、里緒さん、あなたのところの人たちは捕まってるということを失念してます。…本当に大丈夫か?

 そして、そんな二人とは少し離れた別の街角のテレビで、一人の大柄な男がその画面を見つめていた。
「…どこにでも馬鹿はいるもんだ」
 やれやれと少し溜息をついて、男は歩き出した。目的地は、ク・メル。男は、元軍人だった。



 軍人まで参加…一体どうなるク・メル!?





○現場では

「やれやれ、能力者関連の事件が少ないとはいえ、またつまらない現場に呼ばれてしまいましたねぇ。あ〜現状報告誰か」
 ク・メルの周りは、既に警察に包囲されていた。そのク・メルを見ながら、立花正義がつまらなさそうに呟く。
「全くとんだ貧乏籤を引かされたもんですねぇ」
 本来、特殊能力者関連を引き受けるはずの彼にとって、普通の事件などつまらないものである。
「…いや…中にはいるかもしれませんね、能力者」
 と、そこで彼は思考を切り替えた。その顔が、ニヤリと怪しげに歪む。
「あぁキミたち」
 そこまで考えて、彼は部下を呼んだ。
「はい、なんでしょうか?」
「とりあえずですね、適当に包囲してマニュアル通りに行動してください。人質が居る以上こちらは迂闊に動けませんから。私は少し野暮用で外します」
「は、はぁ…」
 それだけ言い残して、正義はその場を立ち去った。



 そのク・メルの裏口で、こそこそと動く影があった。小柄な女の子がそこにはいた。
『…なんや、えらい人だかりがおったからなんかあるんか思たら、こないなことになっとるとはなぁ…』
 少女の名は一條美咲、実はク・メルとはま〜ったく関係のなかったりする女の子である。彼女はただその人だかりが気になり、興味本位で裏口に潜入したのだ。よく警察の包囲などを抜けられたものである。
『…中、どないなっとるんやろ…?』
 こそこそ、こそこそ。なんとなく小動物っぽい動きが可愛い。
「さってぇ…どない…!?」
 そこで、彼女の言葉は途切れた。



 さて、現場を他に任せて立ち去った正義だが、何故か裏口にいた。その手に覆面を持って。
「ふふふ…さぁ行きますか」
 覆面をかぶり、ク・メルの中へと入っていく。何故か、裏口のほうには見張りがいなかった。
 一階、二階共に人気はない。どうやら地下ホールに集まっているようだ。正義は何の疑いもなくその階段を下りていった。

 ホールの中から何か聞こえてくる。どうやら集まって話し合っているようだ。そこで少し呼吸を整え、正義は堂々とその扉を開けた。
「誰だ!!」
 同時に一斉に向けられる銃口、さすがにこれには正義もホールドアップ。
「や、やぁ、オレオレ。オレですオレ。やっぱりオレも仲間に居れてくださいよ…」
 やや引き攣りながら、自分が味方であると必死にアピール!いや、オレオレ詐欺の常習犯ですかあんたは。
「…あぁ、お前か。ったく、紛らわしいことすんじゃねぇ」
「全くだ、驚かすんじゃねぇよ」
 騙されたよ!本当に大丈夫なのかこの犯人たち…。
 しかし、犯人の数は大体10人程度と報告がきている。見渡せば、ホールにいるのは人質、自分とあわせて16人。…全員じゃん!
「…なんでここに全員集まってるんですか、見張りは?」
 それに、リーダー格らしい男が答える。
「あぁ、ちっとばかし話し合ってただけだ。んじゃお前ら話したとおりに見張りにつけ!」
 男の指示で、他の男たちが一斉に動き出した。その動きには統制がとられている、プロであることには間違いないようだった。

 部屋に残ったのは、リーダー格の男とその他三人、そして正義。後は人質たちである。
「ねぇ」
 その人質の中から、声が上がった。飛鳥だった。
「なんでこんなところに押し入ったの?大体ここのオーナーさんと今回の事件、どんな関係があるの?」
「うるせぇ、黙ってろ」
 にべもなかった。
「そうはいかないだろ。俺たちは被害者なんだ、少しくらい話を聞かせてくれてもいいだろ?」
 今度はケンジが言った。
『…多分俺はこいつらとタイマンなら勝てるだろうけど、他はみんな女の子だしなぁ…さすがにそっちに被害がいくとやばいし』
 ケンジはそんなことを考えていた。しかし、一つ失念していることがある。彼らは『プロ』なのだ。そこら辺、ちょっと過小評価しすぎ?
「お前らには関係ねぇよ。まぁリオが出てきたらちゃんと解放してやっから安心してな」
 結局、帰ってきた返事は質問とは全く関係なかった。

「あぁそうそう…」
 正義が、リーダーの耳元で何やらぼそぼそ。
「…ん、頼んだ」
 何か提案があったようだ。正義もそのままホールの外に出て行く。


 ク・メルの玄関から、一人犯人(正義)が顔をだす。そして、ハンドマイクを持って何か言い始めた。
「えー…何時までもこちらの要求が聞き入れられないようなので、もう一度言いましょうか。私たちは、リオ・アサカワをここに連れてくることを要求します。よーくその耳かっぽじって聞いてください。あと一時間以内に連れてこなければ、この施設を爆破します。頭の悪い人でも分かりますね?もう一度言います、一時間以内にこなければ、爆破しますから」
 それだけ言って、正義は中に引っ込んだ。いや、あんた警察の人間なのにいいんですか。
「いいんですよ」
 全くよくないし!こうして、更に現場は混沌の度合いを増し始めた。



* * *

「〜〜〜!〜〜〜〜!!」
 声が出せない。誰かが、後ろからその小さな口を抑えているのだ。必死に暴れてみても、力が強くてびくともしない。
「し〜…とりあえず静かにしようや、見つかるぜ?」
 そんな美咲の耳に、小さな、でも何処か楽しそうな声が聞こえた。
 ゆっくりと、その男は美咲を解放した。長い青髪が揺れる。
「あ、あんた何すんがっ!?」
 いきなり口を抑えられ、怒り心頭の美咲は文句を言おうとして、また口を塞がれた。
「だ〜から静かにしろって言ってんべ?あいつらに見つかってもいいんかい?」
 男がにまっと笑った。そして手が外された。
「む〜…それはごめんやけど…あんた、誰?」
 その問いに、男はまたにまっと笑う。前髪が長すぎて、その下の目がどうなっているのかは全く見えない。
「俺っち?俺っち道上洪陽っての、Azureのベースだよん♪」
 男−洪陽はその大きな手を差し出した。
「でかいなぁ…あ、うちは一條美咲、よろしゅう」
「みさきちね、よろしゅー☆」
 その身長差、実に頭一つ分以上。まさに凸凹カップル。美咲が自己紹介を兼ねて手を握れば、勝手に渾名をつけて洪陽は手をブンブンと。
「み、みさきち言うな〜!!」
「なんで?えぇやんまぁ気にせんと」
 怒る美咲に、その頭をぽんぽんとして洪陽は歩き出した。っていうかなんで関西弁なんですか。
「…で、どないするん?」
「ん〜?」
 洪陽はやたらと頭をキョロキョロさせる。ちょこちょこと動き回って先に進んでは戻り、それを繰り返す。…実は何も考えてないんじゃないのか?
「…なぁ、あんたちゃんと考えてる?」
 その動きに、美咲は一抹の不安を感じる。
「うんにゃ、ぜ〜んぜん」
「やっぱりかい!」
 全力でツッコミを入れてしまう美咲だった。



* * *

「…見張りは…一人か」
 通風孔のダクトから、誰かが覗いていた。それはグラハルトだった。どうやら、通風孔を見つけてそこから侵入したらしい。行動力ありますなぁ…。
「さて、軍人の地位を地に落としたこいつらをどうしてやるか…」
 既に言ってることが物騒ですグラハルトさん。
 そのまま彼はしばらく考え、見張りがその背中を見せた瞬間行動を開始した。
 静かに、音のしないようにダクトを外す。そして、通風孔から体をぶら下げ、その両足で見張りの首を捕獲する!
「な……!?」
 見張りが気づいたときにはもう遅い。グラハルトが足に力を入れれば、そのまま首が絞まり、後はゴキリと嫌な音がして終わりだった。
「さてと…まぁ運がよけりゃ死んでないだろうさ」
 そのままグラハルトは歩き出した。いやあんた、運がよけりゃって。





○全員集合?

「うはぁ…なんか凄いことになってるねぇ…」
 里緒はその背中に、たら〜っと汗が流れていくのが分かった。
「ほ、ほんとですねぇ…」
 その光景に、さすがに愛華も唖然とする。
 ク・メルの周りは騒然としていた。警察、機動隊が出動し、その近辺を全て固めている。その周りを、野次馬が面白いもの見たさに集まり、もう何が何やらよく分からない状態になっていた。これでは全く動けそうにもない。
「う〜ん…入れるわけ…ないわよね?」
 そりゃそうです。

 そんな中、一人の少女がいた。一般人と違う、パンクロッカーなスタイル。それだけでかなり目立つのだが、その美貌とスタイル、そして奇行でさらに目立っていた。
 彼女は海原みその、ただ土産話がほしいがためにここにきた、ある意味筋金入りの野次馬さんである。そんな彼女は、里緒を探していた。里緒という女性を見たいがために。だから、彼女は里緒を探す。その場に来る人間全員に聞いて回る。
「あなたがリオ様ですか?」
「あぁん?」
 時には893のお兄さんに聞いてみたり。
「あなたがリオ様ですか?」
「うにゃ?」
 時には通りすがりの猫に聞いてみたり。
「あなたがリオ様ですか?」
「……」
 時にはそこを通る虫に…って、幾らなんでもそれは無理がありますみそのさん!
「…ダメ、ですか?」
 ダメだと思います、はい。
「……」
 と、そんな彼女は、一人の女性を感じ取った。美しい金髪と碧眼、そしてその美貌。目立つなというほうが無理がある。彼女こそが里緒だった。
「…あの…あなたが…あぅ…」
 その里緒に声をかけようとして、みそのは野次馬の波に飲まれてしまった。

「ん…あ、そうだ!」
 その場で考えること数分、里緒は何かを思い出したように手をたたく。
「里緒さん、どうかしたんですか?」
 その顔が、愛華を見ながらにんまりと笑った。
「実はね、ク・メルの地下に通じてる下水道があるのよ。んで、近くのマンホールからいけるわけよ、それが」
「じゃあそこから?」
「そういうこと♪」
 というわけで、二人は移動を開始した。…いや、軍人のいるところにそんな無防備に入っていっていいんですか、お二人さん?
「…どこかへ行かれますね…」
 そして、それを見つめるみその。どうやら戻ってこれたらしい。
「…行ってみましょう…」
 みそのも、こそこそとその後を追いかけるのだった。本当に大丈夫か?

「う〜…臭い〜…」
「あはは、すぐだから我慢しましょうよ」
 というか、この道選んだのはあんただ。
「あぅ…」
 その後ろでみそのがこける。
「はぅ…」
 またこけた、ある意味器用かも。
「「……」」
 そんなみそのを、二人が見ていた。
「え〜っと…誰?」
「さぁ…」
 当然彼女のことを知らない二人は首を傾げる。そんな二人の前に、立ち上がったみそのがやってきた。
「…リオ様ですか…?」
「え、あ、そうだけど…」
「よかった…わたくし、海原みそのと申します」
「あ、どうも」
 みその、深々とお辞儀。それにつられて里緒と愛華も同時に頭を下げた。
「えーっと…なんで私の名前を知ってるわけ?」
 その問いに、みそのは少し考えて答えた。
「テレビから嫌というほどお名前が…」
 まぁお昼に大々的に全国放送で流れたのだ、それもしょうがないだろう。里緒もただ苦笑するしかなかった。
「それで、面白そうですからつい…」
 いや、ついってあんた。
「はぁ…まぁいいんだけどね。愛華ちゃんもいるし。ここまできたら二人も三人も一緒かぁ」
 愛華もうんうんとそれに首を縦に振る。
「そうだよね、二度あることは三度あるっていうし」
 いや、それはむしろ不吉な言葉かとおぜうさん。っていうか全く意味違う。
 まぁそんなわけで、ここに里緒、愛華、みそのというなんとも不安なパーティが結成された。…本当に大丈夫ですか、この人たち?



* * *

「こ…これは!?」
 その頃、相変わらず騒がしいク・メルの前で、一人の大柄な男が驚いていた。
「久しぶりにきてみれば…!」
 かなりショックを受けているご様子。その顔が、何処となく劇画調になっているような…。
「あの、これは一体どういうことなのでしょうか!?」
 そのまますごい剣幕で情報を集め始めた。その迫力に、さすがの警察官ですらたじろぐほど。

「なるほど…つまり、犯人は里緒さんに何かしら恨みを持つ軍人…これは、きっと引き篭もりのストーカーに違いありません!」
 情報を集めた後、何処からかメガネを取り出しキュピーン☆
「これは私の出番ですね!引き篭もりのストーカーさんたち、覚悟しなさい!」
 勝手なプロファイリングのせいで、犯人たちは引き篭もりのストーカーということに。いや、一体何処からその結果が出てくるんですか。
「わくわくしますね!」
 いや、あの、一応人命がかかっているので…。
 男の名は、シオン・レ・ハイ。ク・メルとの関わりは、実は何度かバイトしたことがあるというだけのお茶目男である。
「私、ピアノが弾けるんです!」
 自己紹介ご苦労様です。

 シオンは早速行動を開始した。彼の中には、わくわくしながらク・メルのメンバーを助けたいという妙な使命感がある。そんな彼は、何故か近くのブティックに入っていった。
 そして数分後、出てきた彼は…何故か女装していた。手にはフリップを持っている。
「犯人たちの母親たちを演じれば、きっと彼らは後悔して出てくるはずです!名づけて、『ママは悲しい!大作戦!!』」
 …え〜っと、大丈夫、なんでしょうか?この行動には、周りに集まってきた人全員唖然。
「多少似ていなくても演技が上手ければ大丈夫なんです!」
 何処からその自信が出てくるんだ!と激しいツッコミが飛び交う中、そんなこと聞いちゃいないシオンはハンドマイクを手に取った。えっと、それ警察の備品です。
「え〜…テス、テス、マイクのテスト中」
 定番ナイスボケですシオンさん。
「こほん…アンドレ、聞こえるアンドレ!」
 そして、野太い声で建物の中の犯人たちを説得し始めた。おっさんの裏声、ちょっと怖いです…。
 ばっとフリップが建物に対して掲げられる、そこに描いてあるのは劇画調のおばさん、なんか妙にリアルで上手いし!っていうか何故に劇画調!?
「アンドレ、私あなたをそんな風に育てた覚えはないわよ、お願い出てきてアンドレ、今なら罪は軽く済むわ!」
 シオン、迫真の演技、涙なんかも流している。いや、怖いです。
「そんなの出てくるはずがないだろ!」
 周りの警察官たちもようやく動き始め、シオンを取り押さえる。そのツッコミは実に的確です。
「アンドレ、アンドレ、アーンドーレーーーー!!」
 でもシオンはやめないやめられない!ひたすらマイクを通して語りかける!っていうかアンドレっているんですか?
 そんな彼らの前に、ク・メルの中から一人男が出てきた。手には銃を持っている。犯人の一人だろう。
 その男が…銃を捨てた!
「ごめんよ母ちゃん、俺本当はこんなことしたくなかったんだー!!」
 男、大号泣。え、もしかしてアンドレ?
 そのアンドレ(?)に、シオンも涙を流しながら語りかける。
「いいのよ、もういいのよ、さぁ私の胸に飛び込んでおいで!」
「母ちゃーーん!!」
 シオンがその腕を広げれば、アンドレ(?)はその胸に飛びついた!あぁ涙の瞬間!!
「…………ぁ…か、確保ー!」
 こうして犯人二人目脱落!いいのかそれで!!



* * *

 ゴキャ。
「なんだ、外が騒がしいな…」
 そんなことを言いながら、いつの間にか見張りに出てた二人がグラハルトにやられていた。っていうか、その音本格的にやばそうなんですが。
「…あぁ…ボクもう疲れたよ…」
 なんか倒れた見張りからお迎えの言葉が出てるし!やばいよグラハルトさん!!きっとあの人犬の引く荷台に乗って天使と一緒に旅立っちゃうよ!?
「運が良けりゃ生きてるさ」
 そればっかりだなおい、一人にいたっては描写すらないし!ともかく、これで犯人残り六人(+正義)!



* * *

「なーんか騒がしくねえっぺ?」
 きょろきょろちょこちょこぶんぶんぶん(?)。
「あ〜もうそんなに動かんときぃや、気になるねん!」
 洪陽の奇行に全力でツッコミを入れる美咲。どうやらその血のせいか、一々ツッコミをしないと気がすまないらしい…何処かおかしい洪陽が相手だと、凄く辛そうです。
「あっはっは〜まぁ気にしない気にしない〜♪ なぁブラザー?」
 そんな洪陽は誰かと肩を組んで陽気に笑う。…っていうか、誰と?
「HAHAHA、そうだなブラザー!」
 そのどなたさんかも、同じように肩をバンバン叩いて陽気に笑う。そして廊下に響く『HAHAHAHAHA!!』というアメリカナイズな笑い声。
「…なぁ、洪陽さんあんた誰と話てるん?」
 不思議そうな顔で、美咲が質問。うん、誰?
「誰って酷いよなぁブラザー」
「だよなぁブラザー!HAHAHA…って誰だお前らー!!」
 言うまでもなく、見張りに出た犯人の一人だった。っていうか、アメリカ人もノリツッコミできたんですね。
「HAHAHA、何言ってるんだジョナサン、ボクだよ、親友のディオじゃないか」
「いや、あんた自分で道上洪陽や言うてたやん」
「いやんバレテーラ♪」
 あくまで陽気な洪陽、そしてツッコむ美咲。この緊張感のなさはいいのか?
「ちっ…侵入者だ、誰かき…」
「あんたも一々大きな声ださんときぃや!」
 と、そこまでいってチーン☆という効果音がぴったりの攻撃を美咲が放った!
「…………ッッッッッッッッ!?」
 男、もんどりうって倒れた。その口からは泡なんかも吹いてたり。
「…みさきち、今何したん?」
「えと…なんか大声だすから思わず…確か格闘技で禁止されてるやつを。それとうちはみさきちやない言うてるやろ!」
 美咲さん、それは金的です、男の人は一発で逝ってしまいます。
「……」
 みさきちには逆らわないほうがいいかも、と一瞬考えてしまった洪陽だった。五人目脱落!!



* * *

 一方、下水道を進んでいた里緒たちは、下水道を抜けて地下の物置に出ていた。
「あ…外、見張りの人がいますよ」
 細く覗く鍵穴を覗きながら、愛華が呟いた。ちなみに、見張りの数は二人。
「それと…そちらの大きな部屋に何人かいますね…」
 そして、みそのも『流れ』を感じ取り呟く。それを聞いた里緒は考え込む。
「まず人質はホールの中だと考えて、まずこの状況どうしようかしら…?」
 目の前には、屈強な元軍人が二人。とても一般人では太刀打ちできそうにない。
 むーんと考える里緒に、愛華は少し考えて、手をポムと叩いた。何か思いついたらしい。
「里緒さん、愛華にいい考えがあるよ♪」
「「いい考え?」」
 小さく里緒とみそのの声がハモる。そんな二人の前で、愛華は何かを探し始めた。そして、奥から一つ、ファンシーなクマのヌイグルミを引っ張り出してきた。
「それじゃ、お願い…」
 愛華がヌイグルミにキスをする。すると、クマの人形の瞳に光が宿った。生物でないものに生命を与える、愛華の能力だ。さすがにこれには二人もびっくりである。
「クマさん、えっと、あの見張りさんたちを驚かしてくれないかな?」
 そんな愛華に、ヌイグルミはチッチッチときざに太い指を振る。
『嬢ちゃん…俺はクマさんじゃねぇ、アントニオだ。まぁ嬢ちゃんの頼みとありゃあ断るわけにはいかねぇな、任せときな』
 アントニオ、何でそんなにニヒルなんですか。
「あ、あはは…それじゃアントニオさん、お願いね」
 少し苦笑する愛華と唖然とする里緒たちを置いて、クマのアントニオはピョッコピョッコと扉から出て行った。
「…本当に大丈夫なんでしょうか…」

『ヘイボーイ』
 見張りの後ろから声がかかる。思わず振り向くが、誰もいない。
「どうした?」
「いや…気にせいだったらしい」
 もう一人の見張りにそう答え、また注意深く周りを監視し始める。
『ヘイボーイ、こっちだこっち』
 また声がかかった。振り向くが、やはり誰もいない。
「……?」
『こっちだと言っているだろう、下だ、下』
 声のかかるままに、男が下を見れば、その足元にはファンシーなクマのヌイグルミが。
「…なぁ、こんなヌイグルミあったか?」
「いや、さっきは見なかったが…」
 いぶかしむ男たち。そんな男たちの前で、ヌイグルミが動いた!
『ったく、さっきから声をかけてやってるのに気づけないたぁ…何とも悲しいねぇ』
 これには、屈強の軍人である彼らも心底度肝を抜かれた。
「じょじょじょじょジョーイ、お、俺夢でも見てんのか!?」
「お、おおお落ち着くんだニック、これは幻覚だ!?」
 いや、君も落ち着こう。
 そんな彼らの前で、アントニオはあくまでニヒルに語る。
『おいおい…こんなので度肝抜かれてちゃこの先生きていけないぜ?ったく、肝っ玉小せぇ野郎どもだぜ』
 ふ〜やれやれとその太い首を振る。そして更に大混乱。まぁ当然の反応である。
「や、やっぱり幻覚じゃないぜジョーイ!?」
「お、落ち着くんだニック、とりあえずこの国にヒューマンの文字を手のひらに書いて飲み込むっていうのが…あぁ文字が多すぎて手のひらに書けない!?」
 落ち着く方法がよりにもよってそれですか。アントニオも、これには呆れる。
『ちっとは落ち着け坊主ども!ったくよぉ、せっかくこのアントニオが喋りかけてやってんのに何だ?人に話しかけられたら返事を返す、これ最低限のマナーだろうが。もういい、お前らちょっとそこ座れ』
「「あ、はい…」」
 言われるままにアントニオの前に正座する二人。やたらと従順だ。始まったのは、説教だった。

『いいか、お前らが何を考えて人質とってこんなところに篭ってるのかは知らん。でもな、ちょっとは考えてみろ、人質になったやつらにだって家族やなんかがあるんだ。もしお前らの家族が人質にとられたらどうする?悲しくないか?』
「えと、それは…確かに悲しいです…」
 素直に返すジョーイ。結構素直な青年なのかもしれない。
『だろう?ニックはどうなんだ』
「えと…そりゃ俺だって…」
 やはりこちらも素直に返す。それに満足したアントニオは言葉を続ける。
『分かってるじゃねぇか。ならなんでこんなことをした?このアントニオに、ちっと聞かせてくれねぇかい?なぁに、秘密は守るさ』

「…アントニオさん、何かお話してますね…」
 みそのが呟く。鍵穴から見える光景はかなりシュールだった。
「…なんとも言えない光景ね」
 小さなクマのヌイグルミの前に、大の大人が二人正座して説教を喰らう。一体何処の世界にそんな訳の分からない構図があるのか。
『おう姐さん』
 そのとき、アントニオが振り向いて里緒を呼んだ。
「へっ、私?」
『あぁ、もう話はついたから出てきていいぜ』
 どうやら、二人と一匹で話した結果、大丈夫になったらしい。半信半疑、言われるままに三人は物置の中から出てきた。
「…すいませんでした」
 ジョーイが頭を下げた。里緒たちは余計に訳が分からない。
『しかし姐さん、ちょっとこいつらが可哀想だぜ、あんたも罪な人だ』
「???」
「えっと…アントニオさん、どういうこと?」
 全く意味が分からないので、愛華が聞いた。そして、アントニオの口から真相が語られた。





○真相、そして…?

 で、すっかり忘れ去られた人質たちとリーダーたちなのだが、やはり彼らも外の異常に気づき始めていた。
 連絡が、ない。それが彼らを不安にさせる。どこかリーダーもイライラして落ち着きがない。
 静かに時間だけが流れていく。そんな中、飛鳥がケンジに小声で話しかけた。
『ねぇキミ』
『…ぁ、お、俺?』
 どうやらケンジ、少し寝ていたらしい。この状況で暢気なものだ。
『そ、キミ。ねぇ、どうにかして縄解けない?そろそろ動いたほうがいいと思うんだけど』
『あるにはあるけど…』
 解く方法、ケンジはそれに少し覚えがあった。しかし、彼は戸惑う。
『あるけど、何?』
 ケンジは、すぐ近くで縛られているアスカたちスタッフを見ながら呟く。
『いや…ほら、他にも人質いるからさ…しかも女の子ばっかりだし。俺だけならいいけど、さすがに危険だろ』
『へー…結構考えてるんだ。カッコいいねーキミ』
 茶化すように飛鳥が言えば、その顔は真っ赤に染まった。
『ば、馬鹿、茶化すな!』
『はは、ごめんごめん。とにかく、方法はあるんだね?ならボクが何とかするからさ、キミは縄を解いて』
『何とかって…』
 しかし、あまり考えている暇もなさそうだ。人質という何があるか分からない状況は、確実に人を疲弊させていく。
『分かったよ、そっちは頼むぜ』
『了解♪』

「あ〜お腹痛いートイレ行きたいー!!」
「な、なんだ?」
 ビクッと犯人たちが反応する。アスカが大声を上げてジタバタと暴れていた。
「我慢できないー!!」
 声はどんどん大きくなっていく。話を聞いていなかったアスカと唯奈も驚く。でも、玲は起きません。
 そのうち、このままではかなわないと犯人の一人が動いた。
「あ〜うるせぇ、連れて行ってやるから立てよ」
 すぐ目の前まで来た男に、飛鳥はクスリと笑った。同時に、少し念を込める。
「ごめんね、犯人さん♪」
「…ぎぃやぁぁぁぁ!?」
 立ち上がり、その耳元で囁けば、突然犯人が耳を抑えて苦しみ始めた。飛鳥が、対象の五感を鋭くさせる力を使ったのだ。
 五感を鋭くさせる。言葉だけならば、なんと他愛のないものだろう。しかし、敏感すぎる感覚は、人に悪影響を及ぼす。嗅覚が鋭くなれば、それだけ臭いに弱くなり、痛覚が鋭くなれば、ただ触れられただけでも激痛と化す。そして、今の犯人のように、聴覚が鋭くなれば、小声ですら耳元に大音量のスピーカーを当てられたような感じになる。…えぐい。
 これには男も悶絶。耳元への囁き一発でKOされた…合掌。

『よく分からないけど…よっしゃ、今のうち!』
 それを見て、ケンジは意識を集中させる。己が内、そこにある剣を想像する。
「…出て来い」
 呟けば、その手の内に剣の柄が。そして、刀身。犯人には見えない形で、ケンジの手の中に炎を纏う剣『炎龍』が生み出された。
 その炎が、ケンジを縛る縄を燃やし、断ち切っていく。
「…あっちぃ!?」
 まぁ、お約束。誰だって、燃え移った炎を触れば熱いものです。
「っつぅ…まぁこれで自由だ、他の人のやつもっと」
 言いながら、他のメンバーの結び目を切っていく。犯人たちが男の悲鳴で気づいた頃には、もう全員の縄が切られていた。
「へぇ、それが…やるじゃんキミ!」
「助かったぜケンジ!」
 ダブルアスカが同時にバーンと背中を叩く。
「いってー!!」
 犯人たち目の前に随分とのほほんした光景である。

「さってと…」
「…お前ら、どうやって縄切りやがった。調べたとき、なんも持ってなかっただろ」
 ケンジと犯人のリーダーが対峙する。
「ま、持ってなくても持ってるのさ」
 ケンジは少し不適に笑った。『今ちょっと決まった?』とか心の中で考えていたりする。ここら辺、ちょっと三枚目である。
『でも…』
 状況自体は芳しくはなかった。
 幾ら自由になったとはいえ、相手が持っているのは飛び道具。しかも三人いるわけで。
 それに比べ、こちらにあるのはケンジの持つ『炎龍』一本、しかも他は全員女性である。…一人まだ寝てるし。
 状況としては…かなりヤバ目?
『ねぇキミ、どうする?』
『どうする、ったってなぁ…遠くから撃たれたらそれでお終いだよなぁ…』
 おそらく、さっきの男のことで、犯人たちは飛鳥も警戒しているだろう。事実、飛鳥に対しても油断なく銃口が向けられていた。
「さて、どうするか…」

 ガコン!!
 そのとき、ホールの扉がいきなり勢いよく開き、そしてそこから何かが猛烈なスピードで突進してきた!
「な、なんだ!?」
 扉の前にいた男が一瞬怯み、その男に対して影は突進する。
「よう」
 影は、ニヤリと笑った。そのままボディに一発!
「ぐへぇ!?」
 そのまま髪をつかみ、今度は顔に一発拳を入れる!
「ぎぁ…ちょ、まっ…!」
 男の言葉も聞かず、ひたすら殴る、殴る、殴る!!
「い、いた、ひげ、ギャピ!?」
 やりすぎだろうというくらいに殴る、殴る、殴る!!
「……」
 唖然とするリーダーたちの前で、男の顔は最早原形をとどめていないくらいにボコボコになった。
「…さて…」
 その顔だけが振り向いた。その顔を見たリーダーの顔が青ざめる。
「…ぐ、グラハルト…なんで…」
 男はグラハルト・シュナイダー、その人である。実は、超有名な元軍人だったりするのだ。世の中、誰がどんな人なのか分からないね!

『え〜っと…これは不味いですか、ね?』
 正義は内心冷や汗をかいていた。
 既に犯人は二人、自分を入れても三人まで減っている。となれば、全滅も時間の問題だ。
『こういうときは…逃げるに限ります…』
 こーっそり、こーっそり。差し足抜き足忍び足。
「何処に行かれるんですか?」
 声をかけられ、ビクゥ!?と反応する正義。振り向けば、小柄な少女がそこにいた。唯奈だ。
「いやぁ、あのぉ…その、ははは…」
 正義、から笑い。そんな彼に、唯奈はにっこりと、眩しい笑顔を向けた。
「逃げたらダメですよ、犯人さん?」
 その言葉の次の瞬間、正義の世界は周り、意識が途絶えた。

「お〜…また派手に投げたもんだな、唯奈」
 縄の後がくっきりとついた手首を振りながら、アスカが正義を見た。既に意識はないらしい。
「えぇ、逃がしたらダメですから♪」
 結構容赦ありませんねあなた。
「ふぁ…おはよう…」
 その二人の後ろで、ようやく玲も目を覚ました。寝すぎだろ。
「……?…アスカ…その手は…?」
 玲が、アスカの腕についた縄の後を不思議そうに見ている。
「あぁこれ?あいつらに縛られてな」
 苦笑混じりに、犯人を指差しながらことの経緯を説明する。すると、玲の顔色が見る見るうちに変わっていく。
「…アスカに…なんてことを…」
 玲はキレた。とってもキレた。もうこれでもかというくらいにキレた。
 アスカは玲にとってとても大切な存在なのだ。それを少しでも傷つけられた今、抑えが効かなかった。
 すっと、その長身が動いた。長い髪が翻る。
「お、おい玲、危ないって!」
 アスカの言葉も聞かず、そのまま残る二人の犯人へと突っ込んでいく。
「フッ!」
 何時もは見せない真剣な表情。次の瞬間、二人とも倒されていた。一瞬のことで、ほとんどが何が起こったか理解できなかった。
「…すげ」
「ほう」
 あまりの早業に、ケンジの口から思わず声が漏れる。グラハルトも感心したように呟いた。
『おー』
 そして、周りから拍手が起こった。



* * *

「さって、なんであんたたちこんなことしたんだ?」
 今度は犯人たちを縄で巻き、動けないようにしてからケンジが聞いた。
「だよねぇ…ボクも聞きたい」
「…うるせぇ」
 犯人たちは、意地でも話したくないようだった。

「あ〜じゃあそのニット帽外してみ?多分わかんべよ〜。なぁみさきち〜?」
「せやからみさきちちゃう言うてるやろ!」
 扉のほうからやたらと明るい声が響く。洪陽と美咲だった。
「帽子…?あ、洪陽お前どこ行ってたんだ?ったく、すぐどっかに消えるんだからよ」
 呆れながら、言われたとおりにそのニット帽を取った。そこには…。
「み、見るなー!!」
 立派なネコミミが生えていた。にゃーん。



* * *

「おや、里緒さん」
「あら、シオンクン?」
 物置の前で、ジョーイたちと話をしていた里緒たちの前に、シオンが現れた。どうやら裏口から入ってきたらしい。
「あ、こんにちは」
「こんにちは…」
『よう』
 愛華たちもご挨拶。ついでにアントニオもご挨拶。
「で、なんでこんなところに?」
「それは勿論、皆さんが心配になったからですね、助けに来たのですよ!」
 で、その行動がアンドレですかシオンさん。

 そのまま六人と一匹(?)でホールの扉の前までやってきた一行。扉は開いているのだが、不思議と静かなので少し緊張する。
「さ〜…ここまできたはいいけど、どうしようかしら…」
 そこでまた登場シオンさん。今度は何をやらかすのか。
「考えがあります」
 その顔は何時になく真剣だ。
「里緒さん、私の頭にネコミミを生やしてください!」
 ズルっと、愛華がこけた。

 ネコミミを装備したシオン。もうどうにかしてくださいって言うくらいに似合ってなかった。
「…本当に大丈夫なのかなぁ…」
「…多分、心配はありません…」
「え?」
 愛華の呟きに、みそのはそっと返した。流れを感じているから、分かっているのだ。



「がお〜狼だぞ〜悪い子は食べちゃうぞ〜!」
 扉の向こうから現れたネコミミおっさん!シーン…と、ホールの中は静まり返る。
「…いや、狼やったらネコミミちゃうやろ」
 そんな中、美咲だけが冷静にツッコミを返した。



* * *

「んだよ、結局里緒が原因かよー」
「あはは、ごめんアスカー」
 結局は、全て里緒のせいだった。
 以前、里緒が海外を旅している際彼らと出会い、面白半分で耳を生やしそのまま放置。彼らは恥ずかしさのあまり軍隊を抜け、耳をけしてもらうために里緒を追い続けていたのだ…なんていうか、凄く哀れ。
 こうして、一騒動は終わった。

「あんたらもホント災難だったよな。ま、今度からはこういうことするなよ」
 そんなことを言いながら、アスカが一人一人手当てをしていく。
「…悪い…」
「もういいって。里緒が全部悪いんだしよ」
 口は悪くとも、心優しいアスカ。そんなアスカを、グラハルトは少し微笑みながら見ていた。

「…なぁ、結局俺たち、何のために人質になったんだ?」
「ボクに聞かないでよ〜…」
「…これで一件落着、なのかなぁ…?」
「…多分そうかと…」
「まぁ楽しかったからいいべ、なぁみさきち?」
「終わったからえぇかぁ…って、うちはみさきちちゃう言うてるやろ!」
「これで終わりですにゃ」
『だな、これで無事終了ってわけだ』
「「「く、クマが喋ったーーー!?」」」
 まぁ、無事一件落着という事で。



 ちなみに、正義はというと。
「…あれ、警部、どうしたんですか?」
「…いえ、なんでもありません…」
 いつの間にか逃げてた。全身打ち身という状態で。
「…まぁ、何人か能力者がいたようですし…」
 何時ものように笑っていた。いや、懲りましょうよ。



「お、俺実はずっとリオさんのことが!」
「えぇぇ私!?」
「ちょーっと待ったぁ!!」
 中ではニックの告白を皮切りにねるとん状態に突入していた。え、みんな惚れてたんですか?
「…ごめんなさい」
 勿論結果は全滅ということで。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1388/海原・みその(うなばら・みその)/女性/13歳/深淵の巫女】
【1668/藤崎・飛鳥(ふじさき・あすか)/女性/16歳/高校生】
【2155/桜木・愛華(さくらぎ・あいか)/女性/17歳/高校生・ウェイトレス】
【3356/シオン・レ・ハイ(しおん・れ・はい)/男性/42歳/びんぼーにん(食住)+α】
【3462/火宮・ケンジ(ひのみや・けんじ)/男性/20歳/大学生】
【3786/立花・正義(たちばな・せいぎ)/男性/25歳/警察庁特殊能力特別対策情報局局長】
【3913/グラハルト・シュナイダー(ぐらはると・しゅないだー)/男性/29歳/反逆者】
【4258/一條・美咲(いちじょう・みさき)/女性/16歳/女子高生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、へっぽこライターEEEです。
 というわけで、かなり長くなってしまいました…(どういうわけか)
 もうちょっと短くしないといけないかな、とも思うのですが、修行不足です…。
 今回も楽しいプレイングが多く、楽しめました私が(ヲイ)

・海原みその様
 どうしても天然系というところに目が行ってしまい…。
 個人的に、何もしなくてもこけるところ大好きです(笑)

・藤崎飛鳥様
 初めまして、ボクっ子大好きな私にとってかなり活力になりました(黙)
 今回は、ケンジさんと人質になるというところで重なったので一緒に行動してもらいました。

・桜木愛華様
 こちらのPCさんでは初めまして(笑)
 『人形なんかに命を吹き込んで〜』とのことだったので、あんな形にしてみました…コメディですいません。
 ちなみにアントニオはこの後持って帰られたというどうでもいいエピソードが…(笑)

・シオン・レ・ハイ様
 前回に引き続き参加ありがとうございました♪
 今回もプレイングが面白すぎて、見ながらニヤニヤしてしまいました(笑)
 こういうおじ様って本当にいいですねぇ…。

・火宮ケンジ様
 こちらのPCさんでは初めまして、何時もお世話になっています。
 どうしてもケンジさんは二枚目半なイメージが強くてあんな感じに…(ヲイ)

・立花正義様
 初めまして、今回唯一敵に寝返る(?)プレイングだったのであんな形になりました。
 ちなみに、唯奈にかけられたのは一本背負い…かな?(かなって)

・グラハルト・シュナイダー様
 初めまして、参加メンバー中唯一の軍人さんです(笑)
 あまりシリアスになりすぎないように気をつけましたが、あまり笑いが…(ヲイ)

・一條・美咲様
 初めまして、関西弁っていいですよね。いや、関西出身なだけですが。
 今回はお任せだったので洪陽と一緒に行動してもらいました。みさきちという渾名が大好きです(笑)
 しかし、やっぱりツッコミは宿命なんですね…。



 それでは、あとがきが長くなってきましたのでこの辺で失礼させていただきます。
 次回OPは多分すぐに出るかと…。機会があればまたよろしくお願いします。