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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


□■□■ 脅迫のジャックランタン ■□■□


「ハロウィンですか?それなら経験ありますけど」

 夜。
 学校――教師から連絡の電話が来るには少し不似合いな時間帯。夢崎夕子は音楽の教科担任である響カスミからの電話に答えながら、受話器のコードを軽く指に絡めていた。

「はい。それでは失礼します」

 会話が終わり、通話の切れる音が耳の奥で響く。つー、つー、つー……受話器を置いて、夕子は自分の顎に指を当てた。
 カスミの言うことには、次の授業はハロウィンパーティをすることになった、だから仮装道具や衣装を持ってくるように、との事だった。授業が突然パーティになること事態が何やらおかしいのではあるが、それ以上に、カスミが進んでハロウィンを祝おうとすること自体が妙である。怪現象が日常茶飯事的に起こる神聖都学園の教師であるにも拘らず、彼女のすさまじいまでの幽霊恐怖症っぷりは有名なのだから。だが、ハロウィンと言えば化け物の仮装――そう、カスミの大嫌いな化け物の。

「絶対何かあるわね。ふふ、それなら……」

 ニヤリ。
 笑った夕子は、うきうきと仮装の準備を始めた。

■□■□■

 四時間目、夕子のクラスは午前最後の授業が音楽だった。思い思いの衣装を抱えながら音楽室に向うクラスメートたちは、口々にカスミの態度のおかしさについてを話し合っている。まあ、当たり前だろう。涙声で電話が掛かってきて、ハロウィンパーティだなどと言われれば――どうやっても、おかしいと気付く。

「夕子は何になるの?」
「ん? ……まあ、ちょっと、本格的にね……」

 クラスメートの言葉に、夕子はふふッと意地の悪い笑いを漏らした。

 先頭を歩いていた男子生徒が音楽室のドアを開けると同時に、それは声を出した。

「Happy Halloween!!」

 ウォルトさんトコのなんとかランドもビックリの声を上げて、それ――巨大なジャックランタンは、生徒達を出迎えた。
 おかしいなあ目の錯覚かしらあのカボチャ浮いてるんですけれど新手のワイヤーアクションかしらそれにしちゃあ糸が見えないわこんな至近距離なのに、などと言うことをコンマ三秒ほど考えた所で、夕子はああ、と納得した。なるほど。はい、判った。万事了解。
 あれ、だ。

「ちょ、ちょっとちょっと、生徒を驚かしちゃ駄目ーッ!」

 絶叫が聞こえるがカボチャは知ったことではないと言いたげに生徒達を見回す。クレイアニメーションか何かのようにその表情を滑らかに歪めるカボチャは、ギザギザの口元に笑みを浮かべながらウィンクをしてみせる。流石に呆気に取られていた生徒達も、段々と我に返りだした。

「へいへいへいへい、なぁーにやってんだ少年少女達、さくさく着替えてレッツパーティだろーっ? 本日万聖節前日、嬉し恥ずかし楽しきハロウィーン! さあさあ化け物になっちまえ、町中に襲い掛かれ、合言葉は『trick or trick』だーッ!!」
「悪戯だけしてどうするのよ、正しくは『trick or treat』でしょう? 食料か死か選べ、そういう脅迫よ」
「おう、クールな姉ちゃんの突っ込みイカスねぇ! そんじゃま、とにかく着替えとけや野郎共ー!!」
「あれ? 夕子、どこ行くの?」
「お手洗いよ。ちょっと色々しなきゃならなくてね」

■□■□■

 夕子が再び音楽室のドアに手を掛けると、中には仮装行列の群れが出来上がっていた。クラスメートは様々なものに化けている。ドラキュラやフランケンシュタイン、はてはコスプレ紛い――まあ、カスミの電話がいきなりだったのだから仕方ないだろう。それほど本格的なものは居なかった――彼女以外には。

「ッきゃ」
「うをッ!?」
「わわわぁあっ!」

 上がるクラスメートの声に気付かれる前に、夕子は教卓で項垂れる教師に駆け寄る。オバケ嫌いの彼女にはこの状態が辛いだろう、ああ辛いだろう。だが、判っているからこそ苛めたい……いやいやいじりたい。ニヤリと笑みを浮かべ、ジャックランタンの後ろをすり抜け、彼女はしくしくと肩を震わせる教師の背中に圧し掛かる。

「せーんせっ、今日も可愛いですねっ?」
「え、えぐ……?」

 顔を上げて。
 夕子の姿を見止め。
 彼女は、絶叫した。

「いにゃあぁあぁぁあぁぁぁああ――――――――――ッ!!」

「ぎゃははははははッ! いよぅ嬢ちゃん、中々に気合入った格好してんじゃねぇか、良いねぇ良いねぇこれぞハロウィン、this is halloweenだなぁッ!」

 豪快に笑うジャックランタン。
 夕子の格好は――衣装こそ普段通り学園の制服ではあるが、その下にはぐるぐると無数の包帯を巻いていた。いわゆるマミー、ミイラというものである。その顔の殆どは露出され、そこには、ハリウッド上等とでも言うような見事なメイクが施されていた。腐った死体のイメージのそれは昼間に常人を驚かせることも出来るレベルであり、つまり、こういったものが苦手な人間を失神させるぐらいは容易い。そんなものが自分の肩に圧し掛かっていたら、流石に恥も外聞もなく叫んで失神してしまっても仕方ない。
 できるなら意識がなくなっているところでもう少し悪戯してやりたいのだが、流石にそれは良心と一般常識が咎めた。少し残念だが仕方あるまいと、夕子はジャックランタンに向き合う。

「それで、結局あなたは何者なのかしら? 先生を脅かしてこんなことして――まさかハロウィンパーティをやるのだけが目的、なんて言わないでしょうね?」
「おうおう、嬢ちゃん鋭いねぇ? だけどそいつぁthat's rightな考えなんだぜ? 俺はただ、ハロウィンをしたくてここに来たんだよ」
「……本当に?」
「オフコース、だなッ。見ろ見ろ、連中の姿を見ろよ嬢ちゃん」

 促されて夕子はクラスメート達に視線を向ける。用意されていたお菓子――クッキーやチョコレートを摘まみながら、衣装を褒めたりからかったりしている姿。置かれていた玩具でじゃれる姿。教室での彼らとは少し違う、どこかひどく無邪気に特化された様子。
 ただ単純にそれは、楽しそうだった。

「ハロウィン、万聖節前日、魔物が闊歩する日、お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃう――なんつーのが無くてもな、この日は楽しく楽しくいられりゃ良いんだよ。なんだけどこの国じゃーイマイチ、一部にしかポピュラーじゃねぇってのが現状だろ? だから取り敢えずガキのうちから洗脳しとこうってな」
「洗脳とはまた、穏やかじゃないことを言うのね」
「おいおい、嬢ちゃんの格好だって十分穏やかじゃねぇっての。まあアレだ、刷り込みってやつだ」

 ふわりとジャックランタンが浮かぶ。

「この日が楽しかったって思い出を作ってやりゃ、ハロウィンが浸透していくだろ? ハロウィンの国の親善大使として、それが俺の目論見っつーか企みっつーか計略なんだよ」

 ひひひひひっ。
 笑って身体全体を揺らしたジャックランタンは、クラスメート達に声を掛ける。

「おらぁ化け物のレディス&ジェントルメン! たぁのしくハロウィンイベント始めるぜぇ、ちゃーんと憶えとけよーッ!!」

 おー!
 乗りの良いクラスメート達の声に、夕子は苦笑を漏らす。
 まあ――それならそれで、良いだろう。
 楽しく楽しく過ごす一日だと言うのなら、万々歳で賛成だ。

「ハロウィンにゃー色んな言い伝えがあるもんだ。未来の結婚相手を知るだとか、パンプキンキングを見て泣き出さなきゃ願いを一つかなえてもらえるだとか。ひひひ、今の時代じゃーどれも廃れて、何もかも意味を失っちまったが――この界鏡都市ならきっと、俺達はまた生まれることが出来るだろう」

 ジャックランタンの言葉に、夕子は首を傾げる。

「どういう意味?」
「ひひッ意味なんざーないさ。無い。無くなっちまった、亡くなっちまった」
「…………」
「意味を剥ぎ取られたもんは全部滅びていく。ハロウィンの国も、残ってるのは俺ぐらいのもんさ」

 信じるからそれは生まれる。
 怪異も不思議も超常現象も、信じるものが居るからこそ生まれる。
 それが、居なくなれば?
 生まれたものは――消えていく。

 夕子は溜息を吐き、注に浮かぶジャックランタンの背中だか後頭部だか判らない裏側を軽く叩いた。ごん、と空っぽの音がする。何も入っていない音がする。
 だから、ウィンクしてみせた。

「じゃあ、とびっきりのパーティを開きましょう?」



 Trick or treat.
 Trick or treat.

 I want something good to eat.

 Trick or treat.
 Trick or treat.

 Give me something nice and sweet.
 Give me candy and an apple, too.
 And I won't play a trick on you!




■□■□■ 参加PC一覧 ■□■□■

3478 / 夢崎夕子 / 十八歳 / 女性 / 高校生

■□■□■ ライター戯言 ■□■□■

 こんにちは初めまして、ご依頼頂きありがとうございました。ライターの哉色と申しますっ。ハロウィンにお届けしようと思ったらば、今年のハロウィンは思いっきり土日で定休日となっており……一日遅れになっしてまい本当に申し訳ございません、あわわ; 年に一度のハロウィン、こんな感じのお話になりましたが、少しでもお楽しみ頂けていれば幸いと思います。それでは失礼致しますっ。