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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


□■□■ 狭間の社 ■□■□


「……しっかし、いつもながら悲惨な顔してるわねぇ三下くん」

 歯に衣着せぬストレートなシュライン・エマの言葉に、机に伏していた三下は更に身体を縮こまらせた。しくしくと聞こえる嗚咽の間に聞こえることには、どうせ僕は冴えませんだのついてない星の下に生まれただの、ダメダメ星人はダメダメ星に帰りますだのと言っている。大丈夫だろうか、成人しているのに。シュラインの溜息に、隣に立っていた幾島壮司がポリポリと頬を掻く。

「……なあ、こいつ大丈夫?」
「半分ぐらいは大丈夫……と、思いたい予感の気分ね。これでも麗香さんの下でやっていける程度のキャパ保持者なのよ、彼は」
「あら、それはひとえに、碇さまの裁量の問題だと思いますわ?」

 ほわ、とした声でにこにこと二人を見上げたのは、応接セットで茶菓子を摘まんでいた海原みそのだった。笑みを浮かべたままに指を立て、彼女は呟く。

「ほら、言いますでしょう? えぇと……馬鹿と鋏は高いところが好き、でしたかしら?」
「それを言うなら馬鹿と鋏は使いよう、ですね――て、そ、それは流石に失礼です、みそのさんっ!」

 向かいに腰掛けていた苑上蜜生の言葉に、あらあらそうでしたわ、と無邪気に微笑みながら手を合わせて見せたみそのに、壁に身体をもたせ掛けていたシオン・レ・ハイは乾いた笑いをその顔に貼り付けた。
 その隣では水上操が無表情に窓を眺めている。話が進まないことには興味が無い、という姿勢だった。まあこの中で明確な目的を持って訊ねてきたのは彼女だけなのだから、その態度も頷ける。

 最初にこの月刊アトラス編集部に足を運んだのはシオンだった。暇な時間に手持ち無沙汰だったので作っていたマスコット人形(三頭身・十分の一碇麗香&三下忠雄、フェルト製/製作時間は一体二時間)を届けにやって来ると、調査命令の書類を握り締めながら死を決意したような顔をしている三下を発見。詳しいことを話させてなんとか思い止まらせようとしていたところで、草間から碇を紹介してもらおうとやって来た壮司、その付き添いとしてシュラインがやって来た。更に遊びに来たみそのと、三下の遺失物(ちなみに財布。気付けよ)を届けに来た蜜生が加わり、更に碇から協力を要請された操が到着――

 現在、三下救済委員会がアトラス編集部にて開催されていた。
 ここで放り出したら確実に三下は遠くの世界へ飛ぶだろう。それは流石に寝覚めが悪いし、これから遊べる相手が減るのも困った。
 ずび、と鼻を鳴らした三下は、どうせ僕は馬鹿です煙です鋏ですとマリアナ海溝並に沈んでいる。駄目大人の典型みたいな人だなぁと半ば遠い目をしながら、壮司はサングラスを上げた。いかん、ここで引き摺り込まれてはこっちの世界に戻って来れない。このネガティブキャンペーンの持つ磁場はブラックホールの重力に匹敵する。

「取り敢えず、この――狭間の社、っての? それを調べれば言い訳なんだろ、さんしたさんとやら」
「三下ですよう……。はひ、断ったりしたら僕は多分退職金無しの不当解雇の挙句、はかなく世を去ることになると思いましゅ……」
「……シュラインさん。碇さんってのはそんな恐ろしいタイプなのか?」
「ま、自分にも他人にも厳しくはあるかしらね。でも自分の意見をしっかり持っていて、ちゃんと芯の通っている人間には敬意を持って接する……あ」

 それは三下には自分の意見が無く、芯などイカの背骨ほども通っていないと断言するようなものだった。しくしくしくしくと加湿器になっていく三下の様子に、蜜生がおろおろと行き場無く手を彷徨わせる。その様子を眺めていたみそのが、にっこりと笑って小首を傾げて見せた。

「取り敢えず、わたくし達で分担して、そのお社を調べてみるというのはいかがでしょう? ともかく調べてみなければ始まりませんわ♪」
「そ、そうですね……ホームレスの失踪やら謎の動物などの噂に関してをフィールドで集めるグループと、その社に関しての純粋な情報を集めるグループとに分かれてみましょうか」
「それは、とても良い考えです」

 操の言葉に、シオンがほっとした様子で三下を見る。

「三下さんがリーダーなんですから、しっかりしてくださいねー?」

 はひ、と三下が頷いた。

■□■□■

 狭間の社の噂。
 オフィスビル街でビルの間に建てられている。
 昼間もその周囲は薄暗く、人は近付かない。
 夜中に人が食われる音がする。
 ホームレスが引き摺り込まれる様子が目撃されている。
 何か変な生物が一斉に散らばっていくのが目撃されている。

「人の食べられる音……ですか」

 現地調査は蜜生とみその、聞き込みはシオンと壮司、そして社に関する調査がシュラインと操、三下――割り振られた役割はそうだった。プリントされた資料を読みながら、うぅん、と蜜生が首を傾げてみせる。その横ではみそのが、ぱりぱりと煎餅を齧っていた。少なくともこんな音ではないだろうな、と思いながら、蜜生はみそのを見る。
 オフィスビル街の一角。和装の蜜生と、黒いスーツに着られているような状態のみそのは、件の社があるというビルの前に立っていた。

「お煎餅、美味しいですわね〜……蜜生さんのお店、後で寄らせていただきますわね。たぁくさん買い込んでみなさんで頂きますわ」
「は、はぁ、ありがとうございます……そころでみそのさん、どうしてまた黒スーツなんですか? 何だかちょっと大きいみたいですけれど」
「えぇ、ビル街と聞いたものですから、ばりばりのきゃりあうーまん風にしてみましたの♪ その方が気分も出ますし、そうなればわたくしも御方にお話する時に楽しくできますので」

 にこにこと笑いながらも、煎餅を食べる手は止まらない。飲み物もなしによく食べ進められるものだと蜜生は感心しながら生返事で返した。不思議系、否、その上を行く不可思議系の少女である。しかもスーツには一切食べカスを落としていないという神業付き。
 それにしても、と、みそのはビルの間の路地に顔を向けた。少し困ったような様子に、蜜生も気を引き締める。

「人間を食べる、と言うのは、随分空腹のご様子ですわね……噂が本当だとしたら、なのですが。何かお供えするものを持って来た方が良かったのでしょうか……でもお煎餅は、もう食べてしまいましたし」
「って、もう一袋食べちゃったんですか……。そう、そのことなんですけれど」
「やはり旬のものと言えば秋刀魚でしょうね〜、でも辺りにスーパーの気配もありませんし、困りましたわ」
「そうじゃなくて――みそのさん、人が食べられる音なんて聞いたことあります?」
「えぇ、たまに食べておりますので」
「……冗談ですよね?」
「もちろんですわ、きっと。普通の人は、ありませんわよね……ああなるほど、だから噂には信憑性が無い、ということですの?」
「はい。だって――何か食事をしているような音が聞こえたとしても、普通はそれを食人行為とは結び付けて考えたりしませんよね。多分怪談話に仕立て上げようとした、という気配があるように思います」
「悲鳴でも聞こえたのかもしれませんわね」

 さらりと怖いことを言うみその。
 蜜生は少し顔を蒼くした。
 冗談ですわよきっと、とみそのが笑い、足を路地に向けた。

「み、みそのさん?」
「まずはご挨拶に伺わなくてはなりませんもの――いらっしゃれば、ですけれど」

■□■□■

「三下くん……」

 シュラインは軽くこめかみを押さえながら、コピー用紙を散らばらせて盛大にコケた三下を見た。
 もはや怒るのは諦めている。と言うか、怒ったら確実に泣くだろうし、しかも改善はされない。彼のこのボケはもはや天性なのだと諦めなければ、とてもではないが付き合っていられない――彼女は椅子から立ち上がり、散らばった資料を集めた。印刷の際に割り振られたページ番号順にそれを並べ、軽く整える。操はそんな二人を気にした素振りもなく、淡々と資料を読み進めていた。集中しているのだろう、飛び散った紙ですら彼女を避ける。結界のようだ。
 飛んでしまった眼鏡を探す三下が、わたわたと床を貼っていた。存外に可愛い顔が泣きそうに歪んでいるのにプッと吹き出して、シュラインは三下に眼鏡を差し出す。

「あ、ありがとうございまふ……」
「コンタクトにした方が良いんじゃないの? 落とさなくて良いだろうし」
「し、した事はあるんですけれど、目が痛いのと外し忘れが多くて……」
「……ああ、そうそう、そんな感じね、君は……」

 苦笑して、彼女は資料に眼を通す。
 狭間の社――正式名称、貴式八幡宮。その由来は明らかになっていない。建設は江戸時代に遡る。あの場所にビルが林立するよりも前からあったのは確からしい。狭間に追いやられた形の神社――それでも、取り壊すわけには行かなかった。そこまでの理由があるにも関わらず、資料には一切記されている様子が無い。シュラインは軽く目を細め、口唇を撫でる。
 三下はそんな彼女の周りでわたわたと走り回り、コピーした資料を片っ端から彼女達の横に積んでいった。重複している情報を避けるという発想も彼には無いらしいが、今更の事なので突っ込みなど入れない。出版社の一室、たまに舞うコピー用紙の中で、二人は思考を働かせる。

 貴式。狭間の社。狭間。
 狭間――それは単純にビルとビルの間にあることから、なのだろうか。
 積み上げられた資料を探り、比較的古いものを取り出す。漢字が旧字のものが出て来て、彼女はそれに視線を走らせた。昭和初期。すでに、狭間の社という異名は――定着していた。

「操ちゃん」
「はい」
「単刀直入に聞くんだけれど、この件、麗香さんからの依頼で来たって言うのは嘘ね」
「はい」

 操は文献から顔も上げずに肯定した。
 シュラインも同様に、質問を続ける。

「あなたは神社で巫女業の傍ら退魔師をしているんだし。もしかしてこの社のことは前々から知っていて、アトラスが特集を組むと聞いたから、今日やって来た?」
「はい。あの社のことは、我が家の文献にもありましたから。昨今出ている奇妙な噂と合わせて、穏やかでない気配を感じこちらに脚を運んだのですが――丁度良く皆さんが集まっていましたので」
「混ざった、のね」
「そういうことです」
「あなたの家に伝わる文献には、これ以上の事が記されてあった」

 資料を放り出し、シュラインは操を見据える。操もまた顔を上げた。真っ直ぐにシュラインの眼を見返し、沈黙が数秒。操は軽く眼を閉じて――こくん、と頷いて見せた。
 シュラインは溜息を吐き、資料を運んできた三下にもう良いと告げる。こんな労力を掛けなくても、もっと確かな情報ソースが目の前にあったとは。

「目新しい資料を探してみたのですけれど、無いようですね」

 資料を一瞥し、操が呟く。

「じゃ、聞かせてくれるかしら。貴式神社のオハナシ」
「――はい」

■□■□■

「居なくなった奴、なぁ……この頃寒くなってるから、みんなばらけてるなぁ。公園とか、どこでも寒さが凌げるとこ探してふらふらしてっから」
「そうですか、ありがとうございました」
「うい、さんきゅー」

 辺りのホームレスに最近見掛けなくなった仲間はいないかと聞き込みをしていたシオンと壮司は、十五人目の答えを聞いた後でコンビニに寄っていた。自販機に硬貨を入れ、飲み物を選択する。まったく手掛かりは掴めない――はぁ、と息を吐く壮司に、シオンは苦笑を向けた。

「仕方ありませんよ、季節から考えたら。私だってこの頃は公園で過ごすのが辛くなっていますし――生身の人間さんでは、仕方ないでしょうね」
「そらそーだけどなー……誰か一人ぐらい、そういえばあいつが! とか言う奴はいないのかね」
「他人に構ってなどいられないものですよ、きっと」

 ふぅん、と壮司は生返事をして缶コーヒーに口を付けた。僅かな苦味と温度が体内に入ってくる感覚に、冷えた身体が温まるのを感じる。
 しかし貧乏籤だ。どうせ報酬も出ないだろうボランティアに手を貸す嵌めになるとは――しかも、噂は穏やかなものではないと来ている。割に合わないことはしたくない、ここは、適当な所でトンズラをするべきだろう。しかしどうやってコイツを振り切ったものか、と、壮司はシオンを見上げる。そんな彼の心情を読んだように、シオンは笑って見せた。

「良いこと教えてあげましょうか、壮司くん」
「修身の教科書みたいなこと以外を希望だな」
「しませんよそんなの。もしかしたら、ですが――お礼なら出るかもしれませんよ?」

 ぴく、と壮司の耳が動く。

「……まぢで?」
「ええ、三下さんも碇さんも、そういったことにはちゃんと誠意を見せて下さいますから」

 にこにこにこ。
 壮司は一気に飲み干したコーヒーの缶を、器用にダストシュートに放り込む。そしてさくさくと歩き出した。シオンはその後を追う。

「んじゃま、もーちょっと歩き回って情報収集といこうや。相手が嘘吐いてるかどうかぐらい、『解析』すりゃー判るしな――あんたは結構口が上手そうだし、それでちっと手伝ってくれ。と、携帯電話持ってるか?」
「ああ、シュラインさんにお借りしたものがあります」
「うっし、んじゃ番号はシュラインさんので良いな。単独行動にしよーや、そっちの方が情報量は増すだろうし、なんかあったら連絡してくれ。多分俺の番号は入ってるだろうからな」
「はい、それでは――」

 背を向けた壮司にシオンは――
 少し意地の悪い笑みを向けていた。

■□■□■

 夜、静謐のオフィス街。
 狭間の社――貴式神社の路地の前には、三下救済委員会もとい狭間の社調査陣が揃っていた。

「社の中には、誰もいらっしゃいませんでしたわ。蜜生さんの千里眼で覗いて頂きましたけれど、ご神体やそれに類するものはありませんでしたし、気配も気脈の集まりも感じませんでした」
「本当に、空っぽでした――でも、血痕が中にありました。床一面に広がっていて、少しですけれど、外にも鉄のニオイは漏れています。何か生き物が殺されているのは、確かのようでした」

「ホームレスを片っ端から当たっていったんだけど、中に逃げ出してきたって奴が何人かいてな。怯えてるとこをどーにか口割らせたんだが、なんでも寝てるところで変な動物に引き摺っていかれたらしい」
「サイズはネズミほどで群れを成し、全員の背中に人を乗せて運んでいくそうです――目を覚まして叫べば身体中に一気に噛み付かれ、激痛で失神しかける。意識を失えば、それまでということですね」

「……や、やっぱり帰りましゅ……」
「今更それは言いっこなしよ、三下くん」

 逃げ掛ける三下の背広の襟首を掴み、シュラインは耳を澄ました。
 かさかさと地を這う音が響く。群れだ。小さな動物の群れ――彼女は、目の前の操に目で合図をした。操はこくんと頷き、ブレスレットに手を当てる。擬態していたものが解き放たれ、彼女の手には二振りの剣が握られた。
 音が近付いてくる。まだ距離はあったが、静寂の中でその音は聴覚を妙に圧迫した。シュラインは息を呑み、道路の向こう側に視線を投じる。全員が緊迫した様子で、同じようにその方向を見ていた。

「貴式――キシキは鬼食、そして奇食。アナグラミングは神道にはよくあること――言葉遊びと言っては悪いけれど、それに近い。力があればそれは――言霊と、称されます」

 すぅ、と剣を掲げて操が呟く。

「社には言霊が掛けられていた、と言うことですか?」
「貴なるものに従い式となれ――でも、それは所詮言霊の信仰が生きていた時代のまじないです」
「現在には、通じない。今の人たちは確かに、音律の繋がりを他愛ないものとしますからね」
「ええ。貴方の時代とは少し違う」

 え、と蜜生は操を見るが、彼女の視線は相変わらず道の向こうを見ている。

「――来るわ、もう近い。蜜生ちゃん、わかる?」
「あ、はい――」彼女は目を眇め、意識を集中させる。「交差点、二つぐらいです。早い。人が二人、背中に乗っています――男の人達、眠っているみたいに。あと一つ。左折してきます。――来ます!」

 蜜生の声と同時に、それは姿を現した。
 ネズミほどの大きさの黒い群れである。目が赤く光っているが、闇の中ではその容貌は掴めない。こちらに気付いてそれらは一瞬足を止め、その隙にシオンと壮司が運ばれてきた二人の男――おそらくはホームレス、彼らの晩餐を奪い取る。
 そのままに二人は跳躍するようにして社に至る辻、つまり全員がいる場所に戻った。食料を奪われた彼らは、先程よりも早く突進してくる。怒りと、荷物が無くなった所為だろう。車よりも早い――ひゃあ、と声がした。三下が失神する。ある意味こちらの方が早業だった。

「止まりなさい」

 みそのが凛とした声で命ずると、彼らが止まる。
 否、止められる。強力な風の壁で隔てられているのだ。流れを司る海の巫女は、優雅な様子で髪を靡かせる。そして、にこりと微笑んだ。

「大活躍ですわね、わたくし。御方が楽しんでくれそうですわ」
「それは良かったわね、お土産話には私達の活躍も入れてくれるかしら?」
「んー……わたくしが薄くならない程度でも良いですか?」
「ご自由にッ!」

 シュラインと蜜生は操の神社から運んだ神酒の樽を倒し、中身を道路に撒く。清められたそれは、闇なるものを溶かす――病み、なるものを溶かす。足を固定された群れはキィキィと気持ちの悪くなる声で泣き喚いた。ひゅ、と壮司が口笛を吹く。

「やるもんだねー」
「私達もですよ?」
「あ、そーだったか」

 夜だと言うのに掛けていたサングラスをずらし、彼は己の金色の左目を晒す。そこにシオンの姿を納め――その、能力を複写した。

「一回やってみたかったんだよな――ゴジラみてーにさ!」

 ゴゥッ、と壮司の口から火炎が吐かれる。イフリートとしてのシオンの能力だったが、シオン自身が使用すれば身体の負担が激しいために仮託せざるをえない。酒精に引火し、それは業火となって群れを焼いた。道路一面に炎が広がる。幸いビル街では延焼の恐れが無いので、壮司は豪快に炎を繰り出した。

 夜が切り裂かれる。光と闇が交錯する。
 操が、剣を翳した。

「人が信じなければ、いくら社などあったところで何も封じられない――それも、仮託。社に思いを寄せれば、それが真実になる。狭間に追いやられればそれは機能しない。現世と冥府の狭間を彷徨う、生身を求める歪んだ意識――それもまた、生食<キシキ>」

 ざ、く。

 裂かれたのは――空間。
 開かれたのは――狭間。

「鬼の時間はここまで――帰って裁きを受けなさい」

 炎が飲み込まれ、共に、群れが飲み込まれる。
 ひと、だった者達の畸形が飲み込まれる。
 鬼食、奇食、生食――キシキ。
 死の狭間にあった生にしがみ付く妄念は、断たれた。

■□■□■

 ぶつぶつと壮司が文句を呟くのは、パーラーの一角。
 御機嫌そうにパフェをつつく一同の報告に、碇はふむ、と頷いた。

「つまり、あの社は死んだことを自覚できずに漂う意識を収めていた、ということなのね」
「ええ、そういうことみたい――それもまた寄識、っていうのかしら。生きた身体を求める魂が群れを成して、転がっていた生身――ホームレスを連れ込んでいたのね。そしてその中に入り込もうと身体を開いたんだけど、どうにも入り込めないんで、スプラッタってことみたい」
「でも、それじゃあ一度始末した所で――人間が死に続ける限り、また溢れてくるってことじゃない?」
「それは抜かりありません。海原さんに手伝っていただいて、新たな封印をしておきました――依代になるものを置いていれば、今後暫くは平気です。今回の事は、施されていた封印が風化したことによるものですから」
「手伝ってもらって、って……みそのさん、何をされたんですか?」
「えぇ、気脈の流れを変えてあのお社に集まるようにしたのですわ。自然の封印、ということですの。パフェのお代わりいただけますか?」
「良いわよ、さんしたくんの給料からさっぴいておくから」
「はひゃあ! そ、そんなぁっ!」
「では遠慮なく♪」

 みそのさん、大食漢。

「――――つーか! 騙しただろあんたーッ!!」

 がばっ、と身体を起こした壮司はシオンを指差したが、シオンは何食わぬ顔でスプーンを運んでいるばかりだった。

「お礼は出るって、パフェじゃねーか! こんなんじゃ割に合わねぇよ、ぜってー合わねぇえー!!」
「良いじゃありませんか、ほらほらそう怒らずに血糖値上げて。美味しいですよー」
「人の金で食うもんは美味いけど!!」
「じゃあ良いじゃありませんか。これで碇さんにちゃーんと実績を示すことができたんですから……アイス溶けてますよー?」
「俺はぜってー騙されねぇえー!!」
「食べないのでしたらいただけます〜?」
「あんた四杯目だろーッ!!」


 その月の三下くんの給料がいくらだったのかは、碇麗香しか知らない。



■□■□■ 参加PC一覧 ■□■□■
4233 / 苑上蜜生     / 十九歳  / 女性 / 煎餅屋
1388 / 海原みその    / 十三歳  / 女性 / 深淵の巫女
0086 / シュライン・エマ / 二十六歳 / 女性 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
3950 / 幾島壮司     / 二十一歳 / 男性 / 浪人生兼観定屋
3356 / シオン・レ・ハイ / 四十二歳 / 男性 / びんぼーにん(食住)+α
3461 / 水上操      / 十八歳  / 女性 / 神社の巫女さん兼退魔師

■□■□■ ライター戯言 ■□■□■

 こんにちは、ライターの哉色戯琴です。今回は普段の三倍(シャア専用だ……)の人数を一気に描写してみたのですが、どんな感じだったでしょうか……慣れない大所帯だったので少し冷や汗が出て来います、あわわ。

【苑上さま】
 再びのご依頼ありがとうございますっ。前回に引き続き、千里眼の能力を活用させていただきました。今回はそこはかとなくコミカルなところが多くなってしまいましたが、如何だったでしょうか……式神設定がこれからどうやって開花していくかがこっそりと楽しみですっ。

【海原さま】
 天然=ボケの謎の等式により、そこはかとなくボケてもらう箇所が多くなりました(笑) 流れを司るとのことでしたので、風や気脈などを操ってもらいました。ほんのりと実戦にも……。御方の退屈しのぎのお話にでもなっていれば、と思います。

【シュラインさま】
 今回は頭脳労働? と、三下君のフォローに回って頂きました(えぇ) 何故だか三下君をちゃんと庇ってくれそうな人を思いつかず……それでもこっそり追い討ち掛けたりしてもらいましたが。今回はどちらかと言うとサポートをメインに頑張ってもらいましたっ。

【幾島さま】
 初めまして、ご依頼頂きありがとうございますっ。複写能力と調査のお仕事、とのことなので、今回は歩き回る部隊(何)に行って頂きました。オチでは激しく突っ込み三昧でちょっと壊れた感じになってしまいましたが……ま、またご依頼頂ければハードボイルド路線で、と!

【シオンさま】
 再びのご依頼ありがとうございます。今回は……オチのみで策士になってもらいました? マスコット人形制作の辺りにほのぼのしつつ……多分その後、キーホルダーなんかに付けて貰っているんじゃないかと(笑) 今回は優しさ控え目な感じですっ。

【水上さま】
 初めまして、ご依頼頂きありがとうございます。本業の退魔師さんでしたので、戦闘ではメインになって頂きました。クールと言うよりなんだかただ冷たいだけになってしまったような気がしておりますが; 剣達の関西弁を出せなかったのが心残りです、嗚呼。

 それでは、少しでもお楽しみ頂けていれば幸いです。失礼致しますっ。